時の狭間の交差点
本作は「第3回『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』大賞」応募作品です。
目が覚めると、白の世界が広がっていた。見渡す限り白。まぶしくもなく暗くもない。前も後ろも左も右もない。
小学校の帰り道にある公園で、白くてもやもやしたものが立ち上っていた。それに近づいた瞬間、僕のまわりを白が包み込んで、意識が消えた。
ここはどこなんだろう。鼻の奥がツンとしてきて、涙が出てきた。家に帰れるんだろうか。僕は、急に寂しくなって、声を上げて泣いた。
「君、どうしたの?」
遠くの方から声が聞こえた。あちこちを見回すと、おぼろげに大人の人が近づいて来ていた。
その人は僕に近づくと「案内人」と名乗った。
案内人さんが言うには、僕は、時の裂け目に迷い込んでしまったらしい。時間は早く進んだり遅く進んだりすることがあるけれど、その変わり目で、ひびが入るように裂け目ができることがあるんだって。
「僕、帰れるの?」
「連れて行ってあげるよ。君はいつのどこから来たの?」
僕は、公園の場所とだいたいの時刻と日付を答えた。案内人さんは少し考える素振りを見せた後、僕の手を握って歩き始めた。
この場所にはあちこちに交差点があり、あらゆる時間や場所に繋がっている、と案内人さんは教えてくれた。よく目をこらすと、うっすらと道を隔てる影が見える。
「あそこを曲がると白亜紀に行けるよ」
案内人さんは、交差点を通過するたびに過去の話をしてくれる。でも、未来のことは話そうとはしなかった。
「コロナがなくなった時代には行ける?」
僕は案内人さんに尋ねる。
「行けるよ。次の交差点を右に曲がれば、コロナも戦争もない時代に行ける。行きたいかい?」
「行きたいけど……。やっぱりいいや。学校とか、ややこしくなりそうだし」
「良かった。違う時代に行きたいという人もいるけれど、たいていは馴染めずに寂しい一生を終えることになるからね」
そうこうしているうちに、僕が迷い込んだ場所へ繋がる交差点に辿り着いた。
「ここをまっすぐ行けば、元の場所に帰れるよ」
そう言うと、案内人さんは僕から手を離した。僕は、早く家に帰りたくて駆けだす。
けれど、気になったことがあって、足を止めて振り返った。
「ねぇ、案内人さんは、いつの時代の人なの?」
「未来がもうない、最後の時代だよ。私達は、どこの交差点を間違えたんだろうね」
案内人さんは、寂しげに微笑みながら、手を振った。