表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

時の狭間の交差点

作者: 田池 多季

本作は「第3回『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』大賞」応募作品です。


目が覚めると、白の世界が広がっていた。見渡す限り白。まぶしくもなく暗くもない。前も後ろも左も右もない。


小学校の帰り道にある公園で、白くてもやもやしたものが立ち上っていた。それに近づいた瞬間、僕のまわりを白が包み込んで、意識が消えた。


ここはどこなんだろう。鼻の奥がツンとしてきて、涙が出てきた。家に帰れるんだろうか。僕は、急に寂しくなって、声を上げて泣いた。


「君、どうしたの?」


遠くの方から声が聞こえた。あちこちを見回すと、おぼろげに大人の人が近づいて来ていた。


その人は僕に近づくと「案内人」と名乗った。


案内人さんが言うには、僕は、時の裂け目に迷い込んでしまったらしい。時間は早く進んだり遅く進んだりすることがあるけれど、その変わり目で、ひびが入るように裂け目ができることがあるんだって。


「僕、帰れるの?」


「連れて行ってあげるよ。君はいつのどこから来たの?」


僕は、公園の場所とだいたいの時刻と日付を答えた。案内人さんは少し考える素振りを見せた後、僕の手を握って歩き始めた。


この場所にはあちこちに交差点があり、あらゆる時間や場所に繋がっている、と案内人さんは教えてくれた。よく目をこらすと、うっすらと道を隔てる影が見える。


「あそこを曲がると白亜紀に行けるよ」


案内人さんは、交差点を通過するたびに過去の話をしてくれる。でも、未来のことは話そうとはしなかった。


「コロナがなくなった時代には行ける?」


僕は案内人さんに尋ねる。


「行けるよ。次の交差点を右に曲がれば、コロナも戦争もない時代に行ける。行きたいかい?」


「行きたいけど……。やっぱりいいや。学校とか、ややこしくなりそうだし」


「良かった。違う時代に行きたいという人もいるけれど、たいていは馴染めずに寂しい一生を終えることになるからね」


そうこうしているうちに、僕が迷い込んだ場所へ繋がる交差点に辿り着いた。


「ここをまっすぐ行けば、元の場所に帰れるよ」


そう言うと、案内人さんは僕から手を離した。僕は、早く家に帰りたくて駆けだす。


けれど、気になったことがあって、足を止めて振り返った。


「ねぇ、案内人さんは、いつの時代の人なの?」


「未来がもうない、最後の時代だよ。私達は、どこの交差点を間違えたんだろうね」


案内人さんは、寂しげに微笑みながら、手を振った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] SFなのに、不思議なリアリティのある作品でした。 最後の案内人さんの言葉が切ないですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ