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アリスファイトクラブ  作者: BPM839
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ホームルーム(1)

  有栖川(ありすがわ) 有太朗(ゆうたろう)は頬杖をついてため息を吐く。それは決して憂鬱だからとか恋わずらいなんかではなく、単純に学校の授業が退屈で吐き出したものだった。眠くて眠くてしかたがないのである。9月中旬とはいえ日中はまだまだ蒸し暑く、ザンショハキビシイ……。昼食後の授業はまさに己との戦いだ。俺VS俺。勝つのは俺である。……アホか。


 午後の授業って、何でこんなに退屈で眠いんだろう。どんなに興味がありそうな授業……特に歴史、古代エジプト文明について、“ヒエログリフ”の解読なんていう、如何にも俺の心をくすぐりそうなロマン溢れる授業でも、午後の授業だと好奇心など関係なく眠くなってしまう。ホルス神にでも魂を抜かれているのか? まあ、俺みたいな一介の高校生が現実で「ホルス神にでも魂を抜かれているのか?」なんて中二病全開なこと言わないけどね、知的ぶりたい年頃……オエーッ、きんもーッ。

 

 気を抜くとすぐに妄想にふけってしまいそうになるので、そこはグッと堪えて授業に集中する。学生は勉学に励まなければいけないのだ。学業こそが子供にとっての仕事なのだ。


 ……だが眠いものは眠いのである。


 しかし、授業ならまだ退屈の言い訳が出ても仕方がないと思うが、いま俺が受けている授業というのは、先生が教壇に立ってヒエログリフの解説をしているわけでもなく、「これはペンですか? いいえ、リンゴです」などという全くもって意味不明の文章を和訳させられる英語の授業でもない。学級委員長主導のもと、10月初頭に控えた学園祭の出し物をクラスで話し合っていた。いわゆるホームルームってやつ。


 黒板には【メイド喫茶】やら【ロミジュリ】、【射的】やら【地域の郷土研究発表】、はたまた【()()()()()】なんてものまで、定番な出し物からどう頑張っても普通の高校生には不可能な演目なんかもあり、やいのやいのと盛り上がっていた。


 しかし、俺にとって、そんなクラスの出し物などどうでも良い。今はただただ眠い。何せこの手のイベントで盛り上がるのは基本的に学園生活において必ず存在するヒエラルキー、スクールカーストの上位グループだけなのだ。なんだロミジュリって……。

 ちなみに俺は残念なことに最下層のCグループだから関係ない。眠いから関係ないというのではなく、うまく関係できないのだ。なんせ俺は地味な男だから。イケイケグループとやいのやいのと騒ぐにはちょっと勇気がいる。吹けば飛ぶような俺の勇気など関係なく、イケイケなAグループの男女たちがワイワイ盛り上がっている。


「ちょ、田中お前、中国雑技団とか(笑)」と言ってやたら大きな声で突っ込むのは生え際が黒く茶がかったロン毛にYシャツのボタンを全開にした如何にもチャラそうな鈴村(すずむら)


「え? 皿回しとか空中ブランコとか面白そうじゃね?」とお調子者なマルコメ坊主の田中(たなか)が女子の視線をチラチラ気にしながら話す。


「つーか、田中バカだし。教室でどうやって空中ブランコなんてやんの? マヂウケる(笑)」と、茶髪ギャルの浦野(うらの)さん。


「しかも誰が雑技団すんの?」

「俺らに決まってんじゃん」

「無理に決まってんじゃん(笑)」

「じゃあ、鈴村は何か面白い案あんのかよ?」

「クラスの女子らで耳かき喫茶なんてどうよ(笑)」

「鈴村キモッ!!!!!」

「マジドン引き……」

「死ね」

「鈴村キモヲタじゃん」

 ……などなど、Aグループ女子たちから非難の声が上がる。


「鈴村マジで引くわ~」「サイテ~」など、女子たちから引き気味の声が漏れるが、本気で引いているわけではなく、面白がってイジっているといった感じだ。これが、俺たちCグループがやろうものなら、ドン引きどころの騒ぎじゃない。クラスの女子には、駅やコンビニのゴミ箱を漁る特殊な人を見るような侮蔑の眼差しを向けられ、他の男子たちにもイジられネタにされ、それどころかなぜか全校に広まって辱めを受けるはめになるだろう。キャラやポジションってすっごく大事なのな。


「つーか、これじゃあ埒が明かねえよ。全然決まんねーじゃん! もう面倒だから委員長意見まとめて決めちゃってよ!」と田中がぶーたれる。飽きたらしい。


 結局、田中たちがひとしきり騒いだ後、委員長にキャッチボールは返されるのだが、うちのクラスの委員長は、まあなんというか……、優等生を絵に描いたようなキャラではなく、簡単に言えば――、うーん、簡単でもないか……。まあ、ありていに言えば、正義感の強いお嬢様といった感じだろうか。もちろんお嬢様といっても、見た目は金髪碧眼縦ロールとか、文学少女的眼鏡っ娘などではもちろんなく、他の女子とそんなに変わらない。黒髪ロングストレート……。いや、それだけでも絵に描いているか。でも、優等生だからスカートは膝丈だよね! そんな委員長は今日もスクールカーストAグループのやつらに物怖じひとつなく返す。


「ああ、そうね……、そろそろあなたたちのキャッキャウフフな雑談鑑賞にも飽きてきたし、まとめにはいりましょうか。もう意見は出ないかしら?」


冷たッ! 委員長・鍵山(かぎやま) 亜莉子(ありこ)恐るべし……。


「鍵山さんその言い方ひどくね~?」

「お高く止まっちゃって~、でもそういうの嫌いじゃないわ~」

「何? 田中、鍵山さんに気があるの?」

「バカお前! 冗談言うなよ!!」

「何? 田中くん私に興味があるの?(笑)」

「ちょッ! 委員長まで冗談きついわ~」


 そう言いながらも田中は若干顔を赤らめてキョドっている。正直、男が頬を赤らめているのを見るとキモいよね……。

 まあ、俺はそんなAグループとは対照的な日陰グループだから、こういう時は黙ってみんなの話を聞いたり寝たふりをしてやり過ごすんだけど。それでも少しAグループが眩しくて羨ましく思う時がある……。


 俺、意外とリア充志望なのだ。


 そうは言ってもAグループのやつらは自分たちが好きなだけ騒いだ挙句、結局まとめは鍵山さんに丸投げするあたり自分勝手だよなあ。まあ、俺には関係ないからいいけど……。


「皆さん、いくつか案も出たことだし、そろそろこの中から多数決で出し物を決めようと思うのだけれど良いかしら?」

 鍵山さんがまとめに入ろうとみんなに聞いたところでさっそく鈴村がチャチャを入れる。


「つーか、他の奴らはなんか意見ねーの?」


 いきなり何言い出してんだこいつ。


「たしかに! 俺らばっか意見出してて、他のやつら黙って見てるだけじゃん?」

と田中。お前まで乗っかってなに煽ってんだ。


「あーしら意見出したし、この際一人一個案出ししね? じゃなきゃ不公平じゃん」

不公平って何が? というか勝手に決めるな。浦野さん、あなたそう言うけど案出してませんやん!


「それも良いわね、思いがけない案とか出そうで面白いかも」

と鍵山さんが続ける。おいおいふざけるな。意見が出ないんじゃなくてみんな面倒で早く終わらせたいから出してないだけだ。空気を読んでくれ。空気を。大事空気読むこと。あっ、余談だけど、俺らCグループは空気を読むことに関しては超ベテランのエキスパートだからね? 日頃基本がボッチなもんだから寝た振りとか、班分けの時とかもうみんなに感謝されるべきなぐらい空気読むよね! 全日本空気読み選手権なんかあったら確実に上位狙えるよ……悲しーッ!!


 俺がうんざりしていると、

野々村(ののむら)君はどう? 何か意見はある?」と俺の前に座る野々村君が鍵山さんのご指名を受ける。


「えっ⁉ い、いきなり言われても………。じ、じゃあ、あっ、ア、アニメ鑑賞会……とかなんて、ど、どうかな……?」


とかってなんだ。とかって、他に何かあるんかいな。


「…………」


「は?」

「え?」

「ふっ」

「何それ」

「ぶぶぶーッ!(ゲラゲラ)」

「……」


 クラスに沈黙と戸惑いと唖然と軽蔑と嘲笑の声がひと交じりに走る。


 可哀想な野々村君……。でも、これがCグループの現実である……が、意外にもフォローを入れたのは鈴村だった。


「おいおい野々村君、趣味を出し物にしちゃいけないよ。みんなが楽しめるものにしないと。これだから2次元くんは(笑)。こういうのはキョウチョウセイが大事なんだよキョウチョウセイが」

「おお~、鈴村なんかかっけー」

「そうだそうだー」

「おい、キョウチョウセーってなんだキョウチョウセーって」

「野々村君キョウチョウセイだよキョウチョウセイ!」などと各々声が上がる。


 フォローになってねーし。フォローどころかイジメじゃん……。クラスの奴らも自分が犠牲になりたくないからって野々村君を生贄にして最悪だな。こんな奴らと一緒にはなりたくないな。多分みんなこうはなりたくないって、どっちの意味でも同じこと思ってるだろうけど。野々村君だって相当勇気を振り絞って発言しただろうに。可哀想だなあ。俺もアニメ鑑賞会はどうかと思うけど……。


 野々村君は背中を丸めて顔を伏せてしまう。

 それを見た田中が、

「みんなあんまり野々村君をイジメるなよな~、ちゃんと意見言ったんだし案は案だろ」とか。

おぉ~!? まさかの田中が野々村くんを庇うとは!!

「まぁ、俺の中国雑技団には及ばないけどな!」


それが言いたいだけか!!


この度は数ある作品の中から本作品をご覧くださりありがとうございます。

小説初心者です。書き続けられるように頑張ります。

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