もう遅い
俺はある日、神からのお告げで自身が伝説の勇者である事を知った。そこから俺は自分の住んでいる町の隣にある大きい町に行くことにした。その町は昔から商人や旅人が来るため豊かなのだ。そしてこれから俺の快進撃が始まる…はずだった。
俺の勇者としての威厳を物の見事にへし折ったのは、とある生意気な冒険者だった。その冒険者は町の中で話しかけてきた。
「おいおい、なんだその子供みたいな装備は。そんな装備じゃ虫一匹も殺せねえなあ。勇者様。」
明らかに俺の事を見下した目、相手を煽る様なその口調。すべてが気に入らなかった。そう思った俺は口より先に手が出ていた。
結果は惨敗だった。俺は町の中心で多くの人々に醜態を晒しながら確かこんな事を言った。
「…っくそ!顔は覚えたからな!次戦う時は覚えてろよ!」
旗から見たら只の負け犬の遠吠えだろう。今になってそう思う。しかしそれを実現すれば俺はまた勇者としての威厳を取り戻せるのだ。
そして、今俺はこの森で修行している。一番最初にいた町の近くにある大きな森、そこで完璧に鍛えまくってあいつ、いやそこにいた全員に後悔させてやる。『あんなに強かっただなんて』と、もてはやされたとしても俺は決してそれに流されない。俺を馬鹿にした奴が俺と仲良くしようとしてももう遅いんだ。
俺はそこで数年にも渡る修行を重ね、とうとう最強になった。俺はステータス表を開く。すべての数値が9で埋め尽くされている。もう、いいだろう。幸い周りのモンスターもレベルが上がるごとに強くなっていったから、予想していた程の時間は変わらなかった。俺は颯爽と森を出て、あいつが居るであろうあの町へと向かった。
おかしい、町の様子が変だ。前とは違い、かなり廃れている。焦げた家に半壊した商店。木屑で彩られた道を真っ直ぐに歩くとあの冒険者が現れた。戦いを挑もうと思ったが、それをする前に強く握った握りこぶしで俺は殴られた。反撃しようとしたが胸ぐらを捕まれ、耳が痛くなるほどの声量でこう言った。
「馬鹿野郎!」
その言葉には恨みや怒りなどの表情が確認出来た。そしてその声に怯んでいる俺に向かって、さらに冒険者はこのような事を言った。
「お前はこの世界を救う勇者なんだろ…なんでその勇者がこの世界をほったらかしにしてんだよ!いいか、誰かが邪悪なあの魔王の力を抑えないと魔物は強くなる一方なんだ!…そうなったら、分かるだろう…あんなに栄えてたあの町もこの有り様さ…酷いだろう。お前がやったんだ。お前のせいでこの世界は滅びるんだ。今更最強になろうが、すべての力を手にいれようが、もう遅いんだよ…」
俺は荒廃したこの世界を、ただ茫然と見つめていた。