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アウェイな屑  作者: いば神円
三幕 モール派閥
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16 共有

三幕は、これで終了です。

 

 付け焼き刃だが訓練は終えた。装備した武器を持ち指定の場所へと向かう。基本的に杏華の側にいるボーイが視察し数日間で気付いた事だが、おそうじクンが屍呪者アンデットを誘導してくれている。その為、あまり煩くしなければ指定の場所まで殆どアンデットと対面せずに進む事が出来た。

 業務用の昇降機が辿り着いた地下で最初に声を発したのは制服を着た少年だった。

「こんにちは」

 地下では、おそうじクン達が忙しなく塊の処理をしており、その側を通り過ぎる時に訊ねて来た彼らの一部は少し顔が青くなった。扉を少し開けたまま出入口で太陽とヒロが武器を所持して待機する。中に入れば黒髪の青年が椅子に座り俯いていた。顔を上げる。

「え、イチ?」

「君かあ…」

 リサとヒカルが武器となる銃器を構えながら部屋に入り声を上げた。

「リサ…」

 黒髪は立ち上がると他を無視し、フラフラとリサに近付いて両手を伸ばした。ヒカルの銃口が黒髪の肩に向けられたが止まらない。リサもまた銃口を向けたが本気では無いらしい。溜息を吐いて下ろすと黒髪の抱擁に従った。

「リサ…リサ…」

 黒髪がリサを抱き締めると、グスグス泣きながらリサの名前を何度も呼んだ。

「…バカな子」

 リサが返事として背中を軽く叩き返す。それを見てヒカルも銃口を下げた。

「嫌になるなあ」

 ヒカルが愚痴る。

「これは…本田も落ち込むかも」

 完全に開けて見ていた出入口から太陽がポソリと言い。ヒロが肩をすくめる。

「まあ先は、分かんないじゃん」


「男共とリサが同じ空間で暮らしていた事は遺憾であるが生きながらえた事には感謝しよう」

「年下?」

「うん。親の縁でよく面倒見てたら、こうなっちゃったの…」

 ヒロに聞かれ頷くリサの隣には黒髪のイチがおり机の上のリサの片手を両手で握り締めながら真面目そうに語る姿。一時も離れたくないようだ。

「男と話さないでくれ、リサ…」

「束縛系かあ」

「イチ。前から何度も言ってるけど仲間や友達とも話さないとか無理だから」

「…消し炭にしたくなる」

「ダメよ」

 リサが片指先でイチの頭を突く。

「うん…」

 イチが頬を染めて頷いた。

「わーイチの意外な姿が暴露されていく」

「部屋狭くね?自分冷蔵庫の上に座ってんだけど」

「それ言ったら僕もシャワー室開けてるけど」

「ここ、シャワー室あるの良いよな」

 イチ含めて男五人と少年。狭くて一人は出入口に立って太陽と何やら連絡の交換をしている。ヒロは出入口から身を前のめりにし、リサや他の面々と話している。

 その上で用意された椅子に座っているのはイチとリサと杏華と最初の少年だ。杏華の後ろでヒカルが銃器を手にかけて待機している。

「顔は一部、見たことあるけど君らの事は詳しく無いからね」

 銃を気にした視線にヒカルは、そう微笑んでから隙間無く、ずっとそうだ。少し怒りも感じる。女好きと有名なヒカルの事だ。狙っているリサの状況に腹が立っているのだろうと一部は分かったが一部は単純に怖いなっという雰囲気だった。静かに眺めていた杏華が呟いた。

「それで共闘をとは何を想定して、でしょうか」

 黒髪のイチの目が向いた。

「あんたらは知っているか。光の国を」

「光の国…」

「食品販売店を陣取っている者達の集まりです」

 少年が携帯の写真を見せてきた。

「…ここが」

「そんな大層な名前付けてたの」

「わー…何度見てもエグい」

「死体処理してようが、これにはマジでドン引き」

「死んだ仲間とか倒したのとか逐一飾ってるみたいだしなあ」

「葬式って概念があるのかも謎だよね」

「半分は…」

「見たろ。そこの処理中の肉の塊。あれだ」

「…なるほど」

 杏華は頷いてイチの瞳を見る。黒い精悍な目は真っ直ぐだ。

「私達は正直な所、光の国と荒事をする気は今の所ありません」

「…お嬢さん。あれは、ほっておくと、その内、周りを巻き込むぞ。事実、今、俺達の知り合いが三人程、光の国に捕らわれている救出は容易ではない」

「…そうですね。この見た印象は今の所、良い場所とは思えないです。…全て鵜呑みにする訳ではありませんが光の国について教えて頂けますか」

「情報も一つの取引内容となるが?」

 イチが目を細めると杏華は頷いた。

「内容によっては銃器をお貸しします」

「…へえ」

「もちろん全てではなく。皆さんの実行部隊一人ずつ分のみですが」

「十分だ。よし。いいね、話そう」

 イチがチラリと少年を見れば彼は店内情報地図パンフレットを開いた。

「大まかな説明をします。此処から、ここまでが現在の光の国の領地」

 色筆ペンで囲まれる面積。

「で、籠城している前側には常々アレの壁を増やしていっている」

 イチも呟き少年は違う色で線を引いた。

「この三カ所が段差を組まれて出来上がっている彼らの道です」

 三つの道は一つの出入口に繋がっており、そこが光の国の門という事だろう。少年が携帯の写真を見せる。

「彼らは交代で少なくない人数を見張りに立たせています。しかし使っているのは手作りの弓や槍、投石といったもので近付かなければ、そこまで脅威では無いと感じます」

「中の情報だが」

 イチが後ろで立っていた青年に目を向けた。

「俺さーここに誘われて、まあ、その流れで、この前遊びに行ったのよ」

「遊びに…」

「そう。彼らがお国として顔を向けるなら他国の王として交流してみようかなって花束と手作りドーナツもってさー。あ、俺カキミヤ。宜しくね」

 カキミヤが手を差し出してきたので杏華は握手に応えた。

「でね。中だけど」



 *


 正々堂々と正面に立ち。拡声器を使い大きな声で魔術士に謁見を願いたいと言うカキミヤに戸惑う門番達。その煩さに他のアンデットが近づいてきたらたまらない。とりあえずは入れて黙らせる事を選び。魔術士の従者と名乗る男が眉をひそめて姿を現した。

「俺は生者の国の王です。魔術士様に会いに来ました」

「生者の国だと?馬鹿らしい…」

 鼻で笑う男にカキミヤはにこやかに微笑む。

「生者カキミヤです。宜しく」

 そして片手を出して握手を求めた。従者はそれを拒否し顔を横に振る。

「何を勘違いしているのか」

「魔術士様は、いらっしゃいますか!」

 カキミヤは拡声器を点けて声を上げた。

「ばっ!」

 従者が声を上げて怒鳴ろうとした所、一体の母性型が現れた。男の姿をした高性能の見た目をした母性型である。

『カキミヤ様。どうぞ、こちらへ。可愛い娘が会うと言っています』

「なっ!勝手に決めるな!」

 従者が叫んだが母性型は顔を横に振った。

『決めるのは本人でしょう』

「…っ」

「そうか。お嬢様だったんですね。これは楽しみだ。あ、これ持参品です」

『頂戴します』

 二人がトコトコと奥に向かうので従者は苦虫を噛み潰した表情で後を追った。

「いやー凄いですね。宝庫に溢れていて素晴らしい」

 カキミヤが褒める。

『そうでしょうそうでしょう』

 母性型が嬉しそうに応える。

「……」

 従者は嫌そうだ。

「前に、こちらの兵に入居を勧められまして」

『なんと』

「しかし我が国が心配な為、辞退させていただいたんです」

『それはそれは…』

「我が国…はっ」

 馬鹿にしたような声が背後から聴こえるがカキミヤは全く気にしない。それに対し従者の苛立ちは増えていく一方だった。



 *


 制御装置室には机と頑丈椅子ソファーが用意されていた。その上には菓子類。案内されたカキミヤが胸に手を当てて片膝をつき魔術士に礼をする。

「なんて、お美しい方だ。謁見のお許し感謝します。姫様」

「まあ…!ううん。良いのです。暇を持て余し部屋の模様替えをしていただけですので…」

『娘や。お花を貰ったよ、どこに飾ろうか』

「そうね。ここなら、そこが良いわ」

 制御装置室はモノで囲まれ集合店舗モール敷地内を監視する機能が動いていない。確実に役に立つ機能は写真掛けや小物置きとなっていた。花もまた造花が抜き取られた花瓶に入れられて部屋に置かれる。

「嬉しいわ」

「姫様。俺は生者カキミヤと申します。貴女の、お名前は?」

「わたくし?わたくしは……」

 キョトンとして魔術士は背後に立つ女型の母性型に顔を向け言う。

「ママは、わたくしの名前、覚えてらして?」

『可愛い娘や。モーシュだよ』

「モーシュ…モーシュ。そうね!わたくしは、モーシュよね!」

「モーシュ。可愛らしい、お名前ですね。大変、心が踊ります」

「あら!うふふ。嬉しいわ。わたくし、こんな風に…こんな…あら…」

 顔色が変わっていくモーシュの片手を取るとカキミヤは、その手の甲に口付けを落とした。

「へ…っ」

 瞬時に、モーシュの頬が朱く染まった。

「こんなにも美しく可愛い姫が、この世に居たとは…!俺の目は節穴でした…」

「へ?え?あ…あのっ」

「魔術士様になんて無礼な!おい!コイツを叩き出せ!」

 従者が叫ぶが後ろに控えていた若い兵達は動かない。

「おい!働け!」

 兵が困った顔で言った。

「ほ、他国の王です…!」

「そ、そうですよ。カキミヤ様に手を出すなど…」

「何を言って…」

「わたくしカキミヤ様とお話しを、ゆっくりとしたいわ。従者も兵も出て行って頂戴」

「なっ!魔術士様!?そいつは王ではない偽者です!騙されてはいけません!」

「え…?正直者のあなたが言うなら、そうなのかしら…」

 モーシュが戸惑いを浮かべるとカキミヤは笑顔で言う。

「新王ですからね。お恥ずかしい話、知名度が無いのです。そこの従者が知らないのも仕方が無い事でしょう」

「まあ…こちらこそ疑うような事を言って申し訳ありません…もう!恥をかかせないで!早く出て行って!」

 モーシュが怒ると母性型二台が従者の腕を掴み出入口へと追い出した。

「な!な!馬鹿者!何故私を追い出す!出すのは…」

 ぺいっと廊下に捨てられて従者は唖然とした顔をした。見下げる母性型の四つの瞳は無機質である。これ以上は母性型から反応は望めないと目を逸らし、その奥を見れば頬を染める魔術士と笑顔で手を振るカキミヤが居た。


──……やられた…!あんな若造に!ふざけるな!殺してやる!


 扉が完全に閉まると制御装置室は酷く頑丈で開かない。後ろで眺めていた兵に向き直ると従者は怒鳴り散らした。

「何故動かなかった!あんな偽者に好き勝手させよって!お前らは屍になりたいのか!」

 震える面々は顔を横に振り一人が一歩踏み出して従者を見上げた。この若い兵の中でも一番若く中性的で美しい少年だ。

「…お言葉ですが従者様。カキミヤ様をご存知ないのですか」

「…は?まさか本当の王とでも言う気じゃないだろうな」

「それは分かりません。しかし魔術士様程でなくとも、とても強い御方ですよ」

「何を…」

「連続総合格闘技優勝者です」

「そうですよ!無傷の連勝。カキミヤに勝てる人間なしと言われて連日騒がれてたじゃないですか」

 美少年の言葉に他の面々も息を吹き返して喋り出す。

「男なら憧れる人ですよ!」

「筋肉も凄かった…」

「あれは、ヤバいよね」

「ぶら下がってみたい」

「わかる!」

「なんだそれは…」

「放送でも新回覧紙でも凄かったから一度は見てませんか」

 最初の美少年が淡々と答えた。

古来ロストは法律上一般と直接戦いあってはいけないけど、オレ、カキミヤ様との試合観たかったなあ」

「わかる!ロストぐらいしか、カキミヤ様を倒せないって言われて、カキミヤ様なら、ロストもいける派と喧嘩になってさ」

「掲示板めちゃくちゃ埋まってたよな」

「オレ後で署名サイン服に書いてもらおっかな!」

 若い少年達で統一させた従者の兵は楽しげに会話している。従者には三年程の俗世の知識が無い。その間に丁度カキミヤが活躍していたと言うなら、そうなのだろう。まさかの著名人となると実際、小規模でも権力を持つ事に成功し本人曰く王として振る舞うようになったのかもしれない。何せ、こんな状況だ。名乗りを上げれば、それを照明するのは生きている人間のみになる。

「…厄介な」

 従者はイライラとした。此処に来たとして、アレは一体何をする気なのか。予想するに食糧の援助だとは思うが。向こうの戦力は。一度調べるべきだろう。

「…アレが王であろうと著名人であろうと魔術士様に相応しい相手かは話が別だ」

 従者が歩き始める。

「今すぐ人を集めろ。アレに探りを入れるぞ」

 本来ならば制御装置室が使えれば一番良い。しかし魔術士は宝を無駄にし画面も点けずに放置している。その上、模様替えと称して小物を置く始末だ。従順ではあるが戦力以外は本当に使えない。戦力が無ければ、ただの無能な小娘と言えるだろう。

 従者は苛つきながらも次の一手を打つべく思考を巡らすのであった。



『モール派閥』場面の、キャラの紹介。


* 桃島杏華ももじまあずか 一人称:私

十六で趣味は祖父の手伝いと愛犬のボーイと遊ぶ事。最強の護兵、老師の孫。幼い頃の記憶が曖昧。愛犬ボーイが常に側におり周りには見えない。他人の能力が分かるスキル持ちが現れて杏華のボーイが精霊なのでは?と、言われ監視下に置かれる事になった。街外に暮らして魔獣を討伐して食べている経験がある。


* 上ノ川雪じょうのがわゆき ボク

十四歳。少年。両親は遊戯場ゲーセンにて行方不明。


* 上ノ川春じょうのがわはる ハル

四歳。幼女。雪の妹。


* ヒロ オレ

眼鏡青年。倫理観が崩れてからが本番。


* 鈴木現事すずきげんじ 私

四六。男。武器商人。


* 山口太陽やまぐちたいよう 俺

二十六。釣りが好き。


* 荒井光あらいひかる 私

女性が好きな好青年風な女性。死体化粧の係。


* リサ アタシ

パッチリ猫目の美人。ツンツン風。死体化粧の係。モテる。


* 本田ホンダ 俺

彼女が目の前で食べられて悲しい。


* 太男 わし

生物広場ペットショップ側派閥にて聖龍者の能力で権力を握る。好き放題。自滅気味。むむむが口癖。案外素早い。十三人愛人がいる。金払いが良い。


* ホムラ 僕

蒼白の少年、坊ちゃん。半分屍になった。浄化の代わりに口で太男の処理をさせられた。一度は生きる事を諦めたが結局は生きる道を選んだ。


* 死体処理係

自衛団傘下の死体処理の者達三名。元から倫理観は薄い方。他人を無下にする訳ではない。

 イチ 俺

愛するリサの為に生きている。一応、アンデットは倒そう人も救おうとはついでに思ってはいる。

 テリー 自分

厄災の日、共に駆り出された仲間。


 加藤カトウ 俺

同じく厄災の日、共に駆り出された仲間。ミカゲを気に入っている。

 

* 柿三谷カキミヤ 俺

運動受講スポーツジムの元従業員。厄災にて倫理観が顕わになった。元総合格闘技連続優勝者。一般人だと、とても強い。体力はあるが独特な人間味の感性を持つ。臨機応変に適当に生者の国の王様になった。顔や身体は良い感じ。スケベ。


* 生物広場ペットショップの元従業員。

ワタリ オレ

 頑張り屋さん。身体が硬い。

愛夢アイム 僕

 臆病。知り合いが死ぬのは基本的に嫌。切れ気味だけど優しい。やる時はやる。


* ミカゲ

飲食店の女。新たな生贄にされた。若干心が壊れ気味。身体を取引にネギ君を探す。


* ネギ君

ミカゲの恋人。行方不明になる。光の国にて料理人として軟禁状態。


* 女アーチと男リーチ

十八と十三。姉弟。太男の愛人。厄災の日、モールで買い物三昧させてもらってからスライム使って三人で楽しむ予定だった。


* 魔術士様

気がふれたナイスバディ美人。母性型二体を、ママ、パパと呼ぶ。


* 従者

魔術士を使って自分の望む世界を求めている。



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