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アウェイな屑  作者: いば神円
三幕 モール派閥
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10 善意論者

 

 完全予約制の高級会員、運動受講スポーツジムの若き講師を務める奥様に大人気な元、総合格闘技優勝者、柿三谷カキミヤ。彼は同僚二人と共に大渋滞で帰れなくなった若奥様三人と店を閉めた後に、お茶をしていた。六人で軽いお楽しみ会だ。

 大渋滞を理由に泊まって行こうかと奥様二人は話し、同僚含め、もしかしての展開に内緒で自販機の避妊具買って内心準備万端だ。個人用の奥の部屋や更衣室なら監視録画も無い。何か言われても大渋滞での仕方ない状況を言い訳に逃げ切る所存だ。

 カキミヤの、お気に入りは胸がデカくて尻もデカくてくびれがあるが自分を、ぽっちゃりと思っている若奥様だ。一年目までは旦那が構って、ひっきりなしだったが三年目の今では一切してないらしい。彼女の、お友達、今いる二人に聞いた。二人とは何度か隠れて楽しんだ中で今日は多分、新人の同僚二人を食べたいのだろう。同僚も期待しているので良い感じだ。二人に引きずられるようにして入会した香蓮カレンちゃんの手を取り手相などを適当に見たりする。

 とても楽しい時間だ。二重に閉めている扉の外は何だか騒がしいが、それどころではない。人妻。若奥様。なんで、その響きだけでこんなスケベな気分になるのだろう。人間の神秘だ。

 閉店時間前に業務連絡の定型文に諸事情加えて送信。後は監視録画の無い部屋に行き。あらかじめ個人部屋に用意しておいた厚手敷物マットに寝かせて特別講師だよから甘い空気に、お互い言い逃れ出来ない姿になって夜を明かした。

 朝に店内に設置してある水圧如雨露シャワーホースを使って身を清め。使い捨ての歯毛棒ハブラシ渡して二人は手慣れて身支度を整え一人は未だ部屋から出てこれず眠っている。ついやり過ぎてしまった。あまりにも好みで最高だったからだ。流石に、このまま帰すのは申し訳ないので二人にお別れして、ツヤツヤ顔で送っていくという同僚に任せ送り出す。扉を確り閉めて、さあ再挑戦。そう思った時だ。ふと通路を歩きながら硝子先の下を見ると様子がおかしかった。

「んん?」

 集合店舗モール本体から一歩隣にある、この場所は先程、四人を見送った自動階段に繋がっている。下から送り出す事も出来たが、こちら側の方が駐車場や箱車にすんなり行ける為、殆どの場合下を開ける事は無い。二階建て通路下。何だかうごめく人々。


 ドンッ!ドンドンドンッ!


「うわっ」

 先程閉めた扉を叩く音。

「開けて!先輩!開けてください!」

「お、何々」

 慌てて二重扉を開ける。開ければ血だらけの奥様を背中に背負った後輩が一人、そこには立っていた。



 *


「え、医療機関に…」

 通路に入り込むと後輩は叫んだ。

「閉めてください!」

「へ?うん」

 言われて手動扉を手早く閉める。

「もう一つも!早く!」

「おう」

 慌てて銀扉シャッターも閉めると、その場に寝かせられた奥様を見た。

「な、なに…え…足…は?」

 ガタガタと震える後輩は彼女の名前を呼んで泣いている。何故か分からないが、彼女の両足は獣か何かに左右から食いちぎられたような痕があり骨が一部むき出していた。慌てて店内に行くと医療箱と布を手にし通路へ戻る。

「ほらタオル!止血して!」

「は、はい!」

 二人で急いで止血を試みるが、これは軽い怪我じゃ無い。骨が見えるなんて、どう考えたって異常だ。今は意識が無いが目覚めた時、痛みで冷静でいられるだろうか。

「とりあえず医療機関に電話しよう」

「はい…」

「あんまり動かさない方がいいかな…マット持ってくるよ。かいほうクン呼べたら良いんだけど…」

 走って携帯を着替えの上着から取り出して医療機関に電話しながら店の受話器を鳴らす。しかし、どちらも全然出ない。朝早いからだろうか。上着を着ると厚手敷物マットと偶の泊まり用の枕、今日も使ったのを敷いて寝かす。

「全然繋がらないし、かいほうクン直接連れてくるよ。まってろな」

「だ、駄目です!」

「え?いやいや」

「扉を開けないでください」

「不安なのはわかるけどさ。早く、かいほうクン連れてこなきゃ死ぬかもじゃん」

「外には化け物が沢山いるんです…」

「ん?」

「こ、此処からも見えます。ほら…」

「へ…」

 よく見れば一階の下には動きが変な人々。開店前の朝なのに妙に多い人々は、どこか見た目も変だ。

 二人して下を眺めて言い合う。

「……腕無いな」

「あそこのは完全に下半身ないですね…」

「あれは顔が…」

「あっちのは背中とお尻かな…」

「おっ腹から腸下げてるな…」

「…あれらが襲って来たんです」

「まじか…」

「出たら死にます」

「でも…」

 チラリと眠る奥様を見る。

「こっちも…」

「……っぅ、う…っ」

 後輩は俯いて静かに泣き始めた。背中を撫でてやる。


――……多分、童貞もらってもらえて惚れて…命懸けで背負ってきたのか…やるな…!


 感動したので提案を出してみる。

「ちょっと、どうにか出来ないか情報探してみよう」

「…っ…は、い」

 二人して携帯を弄って情報を探せば息を引き取った後に屍呪者アンデットになるとの事。その際は、頭を潰すことが有効なのではないかと言われている事。何故だか分からないが頭部が弱点らしい。

「……これは」

「いやだ…」

 奥様から血は垂れなくなったが、それは終わりが近いという事なのではないかと思う。

「…あ、そーいえば二人は?」

「…目の前で食べられて…キョウコさんも引きずられて、なんとか引っ張りあげて自動階段、駆け上って…」

「そうか…立派じゃん」

 後輩の頭を撫でる。グリグリ撫でて。どうするか悩む。確実に眠るキョウコはアンデットやらになる事だろう。しかし頭を潰すなど、どう考えたってキツい。あと寝ているカレンちゃんに、なんて説明をすれば良いのやら。

「…とりあえず、カレンちゃん連れて来てお別れの挨拶させるわ」

「…はい」

 カレンちゃんを起こして事情を説明し混乱する彼女を個人部屋に戻して考えうる荷物を持って通路に戻る。

「息は?」

「…止まりました」

「ううーん…頭を刺すのは?」

「嫌です」

「…うーん。じゃあ…歯噛マウスピースさせよ」

「え」

「今の内にさ…えーと接着剤とかで付けてみる?」

「それ、は…」

「手は紐とか腰止ベルトで…足は…立てて太股と合わせとけば安心かな?どう?」

「…や、やってみます」

 丁寧に脚を立たせて止め。腕は後ろで止め。

「はい握鋏ペンチ

「歯を…ですか…」

「無理なら白い、マウスピース接着は止めて口の中に何か詰めてベルトで固定しよう」

「……抜いてみます」

「おう。頭押さえとくわ」

「す、すみません…」

 あまり上手いとは言えない抜き方で奥歯以外は抜いて血を拭き取り弾力のあるマウスピースを乾いたそこに着けて暫し待つ。呻き声と共に動き出した。もぞもぞと腕に抱える後輩に口を向ける。後輩は名前を呼ぶが応える事は無い。正直、ホッとした。これで生きてたら取り返しがつかない。


――……良かった良かった…


 後輩がキョウコに口付けをし舌まで入れる強者っぷりを見せて驚いたが案外大丈夫なようだ。

「一応、死体があるからって、カレンちゃんに言って此処には来させないようにするから、その子、移動させないようにしてな」

「あ…は、はい」

「よしよし。じゃあ、腹減ったら来るんだぞ。俺はカレンちゃんと話してくるからな」

「はい…あの、先輩」

「おう?」

 立ち去ろうとしたら見上げられて言われた。

「ありがとうございます」

「良いんだ。俺も、お前の心意気に感動したからな。持ちつ持たれつってやつだよ」

 頭を撫でて、その場を後にして、その後は悲しみで落ち込むカレンちゃんを身体で慰めて過ごした。



 *


 四日目、カレンちゃんに、キョウコと後輩の状況がバレて修羅場になった。でも死しても愛してる相手と離して頭を潰すとか、そっちの方が酷いのでは?そんな話し合いの末、二日かけて納得をしてもらえた。

「でも良かったよ。あんな通路に置きっぱなしにしておくのは心が痛むからさ」

 健康的な豆茶を全員分入れて差し出す。キョウコの分は後輩が口移しで飲ます。どうも唾液を混ぜると摂取するらしい。少し良いなっと思った。青い顔をしたカレンちゃんはキョウコを、あまり見ないようにしている。

「ここは一通り生活出来る環境だから運が良かったなあって思うな」

 お茶をしながら話しかける。

「そ、う…ですね…」

「あの二人もなあ。早くに気付いていれば出さずに六人で過ごしたのに…本当に残念だ…」

「…ぅ、うぅ…」

 最近、カレンちゃんは、よく泣く。心を痛めているらしい。食欲もなくて細くなってきている。しかし女体は凄いな。減るとしても彼女の素晴らしい乳房と、お尻は健在だ。飽きない。

「お菓子なら食べれる?これ、女の子が好きって噂の焼き菓子。前に内緒で買って、その内出そうと思ってたんだよね」

「え、先輩何時の間に…というか最初に出してくださいよ」

「いやーカレンちゃんと二人っきりの時に出したくて黙ってたわ」

「はーそういう所ありますよねー!」

「悪い悪い、ほら食べて良いぞ」

「もーでも有り難く頂きます。キョウコさん、ちょっと待っててね」

 半分程かじり口の中で咀嚼すると、それを口付けで渡していく後輩。鳥の親子みたいだね、なんて、カレンちゃんに話しかけるが青い顔をして沈黙している。お菓子は食べないようだ。一体何なら食べてくれるだろうか。少し心配になってきた。


 七日目の朝。腕の中にカレンちゃんが居ないと思って探せば机には書置きが一つ。

「えっ」

『家に帰ります。さようなら』

「ちょっ、まって、まって、ええ?嘘だろー?ええ~!」

 後輩がキョウコを横抱きにして歩いてきて不思議そうに訊く。

「どうしたんですか先輩」

「いやさ。これって、カレンちゃんの字だよね…」

「え、あっ、は?外に出たって事ですか!?ええ…何で…」

「ここら辺の数は少し減った気はするけど危険な事には変わらないのにね…」

 服を着ながら呟く。

「え、先輩まさか…」

「ちょっと連れ戻してくるよ」

「でも…外は…」

「なんかさ」

「はい」

「俺、あの動きなら倒せそうな気がするんだよね」

「ええ…あ、そっか!元、総合格闘技の優勝者ですもんね…!」

「まあロストに比べたら一般部門だし微妙だとは思うけど」

「いやいや、この暮らしになっても鍛える事に抜かりない先輩は憧れっす!」

「ほんとー?照れるなあ。まあ、どうしても見つからなかったら食料だけ適当に探して持って帰ってくるわ」

「無理はしないでくださいね…」

「おうよ」

 服装調えて、カレンちゃんが出たであろう一階から外に出る。

「鐘五回鳴らした時だけ開けるんだぞ」

「そんな…子供じゃないんですから…」

「まあまあ。可愛い後輩なのには変わらねーよ!じゃ!行ってくる」

「はい!行ってらっしゃい!」

 外に出れば近くに一匹いて蹴り飛ばす。頭を掴んで回して折って、その上で回転を加える。首を切り落とすや骨を折るも情報にあったから試してみたが上手くいった。順々に倒しては時折隠れながら進み。カレンちゃんを探す。探せば店内の一階のゴミ箱に身を預けて座り込んでいるカレンちゃんの後ろ姿を発見する。

「カレンちゃん!」

 駆けよれば、カレンちゃんが振り向いた。

「……」

 カレンちゃんの顔半分から鎖骨から下腹部は抉られて中身が失われていた。

「あーあ…」

 カレンちゃんの頭を持つと捻り折る。心の底から残念だった。ここまで好みの子は、いなかったのに。しかも抉られてちゃあ後輩みたいに可愛がる事も出来ない。

 悲しい。折角見つけたのに。

「ほんっと!勿体無さすぎだろ!あ~!もう!どうするかなあ。どっかに良い女いねえかなあ…」

 取れた頭を見つめて綺麗な側に口付けを落すと、ゴミ箱に捨てて店内を探索する。こう抱き心地良さそうな女は居ないものか。見た目がアリなら屍呪者アンデットでも良い。

「あ、この菓子。はあ…カレンちゃん…」

 カレンちゃんを落とす為に買ったとも言える菓子が売っていてカゴを持ち中に、ポイポイ入れた。ついでに見た目気になるのも入れて会計の場所に行き携帯を出して勝手に電子数字ポイント清算する。買った歯紙ガムを噛みながら店舗を出ようとすれば数人の男達と出会った。

「偉い!貴方は、ちゃんと購入しているんですね!」

「この破滅的な世界で、なんという善良さ!」

「すばらしい!」

 笑顔の男達に突然拍手される。驚いたが悪い気がしなかったので肩を竦めて笑った。

「あ、でもカゴ事、持って帰ろうとしてたんだよね…」

「それは仕方ありません」

「袋に入れている間に食われても困りますし」

「ところで」

「はい?」

「我らの所に来ませんか」

「え、どこ」

「はい!」

「魔術士様が作りたもうた光の国です!」

「へ?」

「あ、魔術士様というのはですね」

「尊いお方なのです」

「へー因みに、そこって、おっぱい大きくてお尻が大きいくびれの子いる?」

「ん!」

「性欲は仕方のない事ですよ」

「しかし…」

「いる?いたら行くけど」

「んん!」

「残念ですが…」

「それは…」

「そうなんだ。じゃあ仕方ないね。はい、これ。記念にあげる」

 菓子箱一つ手渡して店舗を後にする。

「勿体無い事をしましたかね…」

「しかし、あの条件は…」

「そうですね…仕方のない事です…」

 落ち込む三人を置いて戻り、鐘を五回押す。出てきた後輩にカゴを渡すと、もう一度出かける事にした。

「次は菓子以外と、ちょっと見たいもんが出来てさ。また終わったら来るよ」

「お気をつけて」

「おう」

 後輩の頭を撫でて光の国とやらを覗きに行くのだった。



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