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アウェイな屑  作者: いば神円
三幕 モール派閥
35/45

9 食物連鎖


 たったの半日でも空腹は感情にうったえてくるものがある。それでも確実に満たすモノがあればズレを生じる事は無いだろう。満たすモノが、あるとするならば。


 泊まりように常備していた非常食と生物用の餌を口にして今日も昨日と変わらず飼育する。客が来る事は無いので何時もより人数が少ないのに全体に手が回ったのは皮肉めいていた。毛を梳いて撫でて掘り返ししないように庭に板を置いて時間毎に遊ばせて可愛らしい様子を眺める。これだけ見れば穏やかな日常のようだ。

「倉庫見て来た」

「…ああ」

「数が多いから、かなり節約しても、もって六ノ月までかな。種類によっては持たないかも」

「……」

「僕達が食べる分も考えると、どうだろ…もっと早いかな…」

 じゃれ合う姿を見て眉をひそめる。

「五日は待とう。もしかしたら奇跡が起きて混乱は無くなるかもしれない」

「五日?六ノ月なら三十日は…」

「選べば生き残れる子も出来てくる」

「……」

「僕らだって食べなきゃ死ぬんだよ。食べられる餌にだって限度があるし」

「…そんなの、好きで始めた仕事だろ!」

 立ち上がり怒鳴る。

「僕だって…僕だって望んで言ってるわけじゃない!この子達が大好きだから泊まりでも何でもして改善だってして!でもね!僕らが生きなきゃ、どの道、この子達も全員死ぬんだよ!」

「な、そんなの…わかんないだろ…」

「じゃあ何?生きる望みをかけて馬鹿みたいに外に放ってみる?そんでアイツらに全員食われて、ああ良かったなあ!って?」

「んんな事、言ってねえだろ!」

「じゃあ、他に方法あるの!?教えてよ!教えてくれたらするからさ!」

「……っ」

 泣いて叫ぶ同僚の言葉にオレは返す言葉が見つからない。何か無いのか。何か。何か方法は。



 *


 三日が経った。服を厚く着込み。肌の露出を最大限減らし、オレは刃物や箒を持つ。

「本気で言ってるの?」

「本気だ」

「無理に決まってるじゃん」

「無理じゃない」

 出入口の前で両手を広げて通さないようにする同僚を退けようとするが退かない。

「オレ達が食う分だけでも取ってくれば、この子達の寿命が延びるんだ」

「そうかも、しれないけれど成功しないよ」

「やってみなきゃ分からない」

「嫌だ」

「我儘言うな!」

「我儘はどっちだ!」

 また泣きながら叫ぶ同僚にたじろぐ。

「…だけど、だけどな…実際、何時かは出なくちゃならない時が来るんだ。だったら命が助けられる内に行動しなきゃ…」

「して?それで?死ぬの?」

「なんで直ぐ殺す!」

「死のうとしてるからだろ!」

 苛々と同僚は顔を両手で抱えると深くため息を吐いた。

「…わかった」

「…ああ」

「僕も行く」

「はあ?駄目に決まってるだろ!」

「方法があればするって言ったろ!僕は有限実行する子なの!」

「泣きながら言ってんじゃねーよ!」

「仕方ないだろ!怖いんだから!」

「じゃあ、するなよ!」

「君が死んじゃう方がもっと怖いんだよ!!」

「……」

 ドンっと、オレの肩を荒く押して同僚は準備をしに奥へ入る。

「先に行くとかするなよ!」

 そっと出ようと銀扉シャッターに手を伸ばす。

「出たら皆、野に放ってやる!」

 手を止めた。静かに同僚を待つ。

「行こう」

 頭巾と透明眼鏡ゴーグルを見て瞼を瞬く。

「あ、専門医のか」

「はい。君の分。血が飛び散って目が開けられなくて死にましたとか笑えないからさ」

「おう…」

「頭巾もかぶって」

「ええ…」

 速攻で作られた不格好な頭巾を頭に着けて紐を顎下で結んだ。

「…雨降りの時の白坊主じゃないか」

「そうだよ。可愛いし首も簡単には噛まれない」

「なるほど…可愛くはないけどな」

 納得して慎重に手動扉を開けた。叩く音は初日以外は少なく今なら行けるかもと思い覗いてみた。視界先に、後ろ姿の揺れる不格好なアレがいる。今なら簡単に後ろから攻撃できそうだ。片足を引きずるそれに飛び出して頭を箒で叩いた。倒れた所に震えながらも、なんとか刃物を刺し込む。

「…よ、よし!出来たぞ!」

 振り向けばアレが真後ろにいて目を見開く。

「全く左右確認してから出なよね。基本でしょ?出来れば下も頭上もね」

 同僚が、ソレの頭から鋏を抜き取り溜息を吐いて言った。固まっていたオレは黙って頷いた。アレに見つからないように慎重に太い柱やゴミ箱の後ろに入り移動する、おそうじクンに平行して隠れたりしながら食品がありそうな店を探した。

 持ち帰りの穴空焼菓子ドーナツ屋を見つけて覗き込む。小さなその中は閑散としていて客に見える側の硝子の先には時間の経ったドーナツが並んでいる。二人して内側に入り込むと、その場で軽く挟み道具で取ってかじってみた。

「あ、甘い…」

「三日ぶりの甘未だ…」

 時間が経って乾燥してて、パサパサなそれは驚くほど美味く感じた。舌が痛くなるほど身体は甘みを求めていたようだ。冷蔵庫の中には飾り付け用の乾燥果物やら甘い素材が入っており寝かされた生地に関しては今、この場で揚げるわけにもいかないので断念した。鞄に食べれそうなものを詰めて次を探す。隣は飲み物屋で多分、果物の飲み物などがあるだろうと予想され重くなるので帰り道に取って帰ろうという話になった。

「あ、バーガー屋、あそこ好きなんだよね」

 見えた餡包バーガー屋まで行き中を覗き一匹を倒し中を物色する。

「美味いよな出来立ては…」

「うん…」

 作る途中で放置され時間が経ったバーガーには虫が数匹舞っていて生ゴミの臭いがした。しかし冷蔵庫や冷凍庫を確認すると、だいぶ食料が入っており冷蔵庫の中身も三日程度ならば、どれも使えそうな感じがした。

「流石、新鮮が売りなお店だね」

「これを全部持って帰れたら四、五日は持ちそうだな。あの子達の寿命も伸ばせる。野菜が食べれる子には一部混ぜてあげるか」

「…毎回、こんなに上手く見つかるなら良いけどね」

「そういう事言うなよ」

「…うん。そうだね。今のは僕が悪いや」

「…上手く行くって」

「…うん」

 途中で拝借した服屋のカゴに詰めて、そそくさと、その場を後にする。途中、飲み物屋に寄ってミルク野菜飲物やさいジュースなど拝借した。

「それにしても思ったよりいなかったね」

「そうだなあ…」

 少し疑問を感じつつも自分達の店舗の扉を開けた。

「えっ」

「は?」

 中には数人の人間が居たのだった。



 *


「何て事をするんだ!」

 同僚が顔を真っ朱にして男達を怒鳴りつけた。

「何って…飯のこと?」

「だろ」

「あー片付いてるし弱ってないし何か人が居る気はしたんだよなあ…」

「むむ?お主ら何だ良いものを持ってるじゃないか」

 太男がカゴの中の食材を見て近づいてくる。

「おっさん寄るな」

「むむむ?わしに逆らうのか?」

「あ~変に刺激しない方が良いよ。それ見た目と違って素早いから」

「な。見た目詐欺」

「油断した、お前らが悪い」

「聖龍者って皆、こんなんなのかな?」

「知らね」

「こんなんだ」

「知ってんの!?」

「…あんたら。そんな話より、先ずは言う事はないのか」

「え、何?」

「多分だけど食べてるコレの事を謝れって事じゃない?」

「魚じゃん」

「骨が多くて食べにくいよなコレ」

「ふ、ふざけんな!ふざけんな!食うなら感謝して食え!その子は尾ひれが最高に可愛い子だったんだぞ!そっちの子は、ほっぺが面白くて皆大好きで、その子だって…」

「お前達だって、どっかの店舗から盗んで食べるのに、まるで被害者みたいに語るんだな」

 同僚が固まって言葉を止めた。

「…ここの子達は生き物だ」

 オレも怒りで震える身体を何とか止めて呟く。

「知ってるよーだから入ったんじゃん」

「新鮮なの食べたかったからなあ」

「これだけあれば当分は食ってけるな」

「うむ。最良の判断といえるだろう」

「な、何言って…僕らが、どんな思いで外に出て、この子達の寿命を延ばそうと…」

「お前こそ何言ってんだ」

 椅子に勝手に座って魚を食べている男が目を細めて言う。

「遅かれ早かれ、どうせ食うのに善人ぶって寒いんだよ」

「は…?」

「どうどう」

「切れない切れない。食事は楽しく行こうじゃんな?」

「……」

 同僚がカゴを下ろし息を吐いた。

「…そうさ。そうだね…五日経っても自衛団から助けが無ければ命の選択をして弱ってる子や年老いた子を選んで…生き残れる子を出来るだけ伸ばして…選んでしまった子達は感謝して、心から感謝して食べる筈だったんだ…でも、でもさ、こんな、こんな知りもしない奴らに僕らの子達を勝手に食べられる筋合いはないよ!」

 同僚が泣きながら叫べば男は大きく笑った。

「は!あはははは!なんだそれ!感謝?感謝すれば良いって?知ってれば大切にしてれば?じゃあお前の手に持ってるもんはなんだよ!どこぞかの、その肉の事をお前は知ってるのか!え?産まれた時から、ばぶばぶ可愛いでちゅねー美味しくいただきまちゅねー!てか!」

「い、意味合いが違うだろ!」

 オレが思わず叫べば男の鋭い視線が向いた。

「そう思ってるのは、お前!お前ら!自分達の固定概念押しつけてんじゃねーぞ!いいか?俺らは、お前らを殺して、そのカゴ奪って、ここで連日連夜焼肉したって良いんだよ!分かるか?この意味が、今、お前らは俺らの慈悲で生きてんの!その盗んだ荷物のように俺らも此処を奪う。そういう状況なんだよ!」

「…酷すぎる」

 同僚が青い顔をして膝を床につく。

「お前が俺らの優しさをわかんねーだけだよ」

 男の吐き捨てられた言葉の後には静かな咀嚼音だけが辺りに響いたのだった。



 *


 人工庭に掘った穴に骨を入れて眺める。

「案外、綺麗に食べるんだね彼ら…」

「…身は残してないな」

 一本を手にし、しゃぶられた骨を眺める。

「ごちそうさま言ってたのは意外だった」

「わかる」

「なんなんだろうね…一階の…アンデットだっけ?少ないのって彼らの力もあるっぽいし」

「恰好も、オレらみたいな白坊主じゃなかったな」

「そう…可愛くない…」

「白坊主も可愛くないけどな?」

「…八つ当たりしたのかな僕」

「いや、まあ、オレもキレてたし、あの状況出くわしたら怒るってそりゃ」

 骨を戻すと土をかけ始める。

「はあ…でも生きる確率が上がった」

「確かに」

「色々言われたけど…オーリ、ぎょふく、うろきー、ありがとね。次は素敵な生を送ってね」

「何時の間に名前を…」

「心の中で何時も呼んでた」

「別れる時、悲しくなるじゃん」

「バラすつもりは無かったし僕の勝手だろ」

「はー…パスタ、福太郎、虹。何時も、ありがとな。愛してるぞ」

「うわっ付けてんじゃん」

「オレの勝手だろ」

 少し肩を揺らして笑いあうと背筋を伸ばし店内に戻って行く。

愛夢アイム

「ん?なーにワタリ

「生きるぞ」

「あたりまえじゃん!」

 背中を、バンっとアイムに叩かれてワタリは、よろつき。

「おまっ力加減考えろよな!」

「君は、もう少し柔軟体操した方が良いよ!身体硬すぎ!」

「はー?」

 そんな二人を眺めて新しく同じ店舗で暮らし始めた男三人組は視線を交差し肩を竦め。太男は手に入った野菜飲物ヤサイジュースを一人ご満悦で飲んでいるのだった。



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