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アウェイな屑  作者: いば神円
三幕 モール派閥
27/45

1 避難

 

集合店舗モールとは沢山の商品店や飲食店などが入り人々の欲求を満たすべく生まれた凄い大きな集合体のお店である!』

 そんな言葉が書かれた店内情報地図パンフレットを眺めながら桃島杏華ももじまあずかは白いモフモフの犬、ボーイと共にお店の中を彷徨っていた。とても広くて店内用の荷物運びの可愛い車がある位だ。専用の道と専用の機械の運転手がおり荷物も乗せたり置いたり駐車場まで運んでくれたりもする。

 自動歩道に乗りながら杏華は、ぼーっとそれを眺めて、ボーイの、わんっ!という声にハッとする。どうやら生物広場ペットショップに着いたようだ。自動歩道から下りて店舗に入って行く。大きく広い。硝子の冷蔵庫に動物専用の人のご飯に似た見た目のモノが売っていたりして杏華は息を飲んだ。携帯を出して電子数字ポイント清算が出来るか店員に聞いてみる。

「はい!こちらは初めてですか?ここのモールは全てにおいてポイント清算が可能となっております」

「そうなんですね!ありがとうございます!」

 杏華はウキウキしながら中を見回り。玩具やボーイのご飯を選びついでに可愛い動物を眺めて爬虫類とか奥に行ったら生け簀に入った鯉とか見つめて結局、人間風なオヤツを持てるだけ買うと杏華は、お店を後にする事にした。

「一度、ロッカーに入れた方が良いかなあ…」

 祖父に頼まれた野営用の新商品を見に行くのを思い出し三階まで自動歩道で来て女子手洗いに向かった。手洗い前には必ず大きな荷物入ロッカーがあるとパンフレットに書いてあったからだ。開けて全部入れる。

「食べるのは、お家に帰ってからね」

 そわそわするボーイを撫でながら言って、三階の遊戯場ゲーセン隣の『野営の英雄クールガイ』というお店に向かう。杏華が街に行くという事で祖父の達筆な文字が書かれた紙を見つめて探す。渋い感じの店員に達筆紙を見せれば半分は注文制だったので、その内に芯と街で遊ぶ約束を思い出し注文し。残りは、その場で購入した。

「まさか、これが売れる日が来ようとは…」

「え、まずかったですか…?」

 おそるおそる杏華が聞けば店員は顔を横に振った。

「いや珍しい御飾りになっていたからな。助かるぜ」


「あの車に頼んだ方が良いかなあ…」

 おそうじクンと呼ばれる機械が別のお客の荷物を乗せている最中だ。

「買いすぎた気がする…」

 荷物によろつきながら祖父が滅多に使うことが無いからと家にある魔物素材を換金して沢山作ってくれたポイントを眺めつつ、ふと正面先の喫茶店が目に付いた。『わんわん喫茶』と書いてある。近付けば犬の顔をした商品名メニューが沢山あり店内を覗けば犬っぽい雰囲気の装飾だ。店員も犬耳を付けている。

「一名様で宜しいですか」

「あ…は、はい!」

 杏華は席に付き骨付き肉玉定食ハーンバーグセットとわんわん甘味パフェを選んで注文した。骨付きの骨はジャガイモをバターやミルクで混ぜ固めて味付けしたものらしい。ハーンバーグは魔物の牛ターンの家畜された肉らしい。あのデカい戦うのが厄介な牛ターンを思い出す。あれは美味しいが少し硬かったなと思う。

 来たのは杏華の両手ほどあるハンバーグ。

「いただきます…」

 手を合わせつつ。思ったより大きかったと少し遠い目をしながら食べて途中でボーイにも一部を手伝ってもらい完食という形にした。肉は家畜用だからか脂肪が多く非常に柔らかかった。

 パフェは別腹なので頑張ったが最後にはお腹が痛くなり杏華は会計を済ませると、わたわたと、お手洗いに急いだ。陽気な音楽が流れて一息ついて手を洗っていれば隣に髪を二つ結びにした少女がやってきて台に上って手を洗おうとしている。

 が、石鹸の泡を出す所が遠いらしい。杏華が近付けてあげると、パッと少女の瞳が向いた。杏華は微笑む。

「ありがと!」

 少女は手を洗い終えると空気熱を出す場所に手をかざすが台が無くて反応が悪い。杏華はハンカチを少女に渡した。

「どうぞ」

「ありがとうございます!」

 少女は元気よく言って拭き終わると、パタパタとお手洗いの出入口に向かった。杏華はロッカーを思い出し携帯を出してポイント清算をしようと突起ボタンを押す。後ろ側では先程の少女の声が聞こえ身内に何やら興奮して話している。

「優秀な隊員さんだ!えらいえらい」

「わーい!」

 どうやら手洗いが出来た事で褒められているらしい。

「おい…何して…」

「早く閉めろ!」

「こっちは閉めたぞ!」

「早く早く!」

 可愛い声を、かき消す喧騒が後ろから聞こえ振り返る。


 ガチャンッ。


 見れば何故だか分からないが非常用の扉を動かして廊下に大きな壁が出来ていた。

「え?」



 *


 今日は学館の学力試験が午前中までで終わったので家族と待ち合わせをしてモールに行く事になった。古来学前から出る回送車に乗り揺られてモールに向かう。少し部活場の片付けをしてから来たので一番の混み具合は過ぎたらしい。程々座れる。機嫌が良い笑顔の同じ学館の先輩らしい人の隣に座らせてもらい回送車は進む。

 何がそんなに嬉しいのかチラリと見れば白い犬の見た目をした携帯の画面に青い芝生や大樹が映っている。学館の中庭だ。

「…?」

 景色を撮ったのだろうか。何故、そんなに嬉しそうなのか分からないが何か良いことがあったのだろう。それ以降は回送車がモールに着くまで席を共にした。

 モールに着けば両親と妹がおり、わんわん喫茶で食事を済ます。何となく先程の少女の犬の携帯を思い出した。

「にーちゃ!」

「はーい?」

 妹が、お子様定食を食べながら刺さった犬の旗を嬉しそうに見せてくる。

「ん?持って帰るの?」

「うんっ!」

 口拭きの紙に挟んで自分の服袋ポケットに入れた。そろそろ小さな缶々の中は一杯だ。新しく菓子折で余った缶とかを用意したい所だ。妹が気に入りそうな可愛いのはあったかと考える。食べ終わって妹が観たがっていた映像絵画アニメを全員で映像館で観た。妹と豆爆発ポップコーンを半分こして炭酸を流し込む。親はよく食べるなあと笑っていた。成長期なので仕方がない。

 終わって、あれは時間軸の概念なのか見た目は可愛いのに大人が震えるとか両親は感想を軽く言い合いながら遊戯場に入る。妹が気に入っている先程のアニメの生物の何かを取る気らしい。ユー執念棒キャッチャーにポイント清算で流し込んでいる。きゃっきゃっと終始喜ぶ妹が氷菓子アイスを食べたがったので自販機で買って食べさせれば腹痛をもようした。

 親に一声かけて手洗いに連れて行く。多目的に入ろうとしたが一人で行けると言うので見送り自分も手洗いを済ます。手洗い前の頑丈椅子ソファーで同じように人を待っている男性と並んで待っていれば妹が戻ってきた。手洗いが上手く出来たと大喜びだ。

 ふと妹の背後先にロッカーがあり既視感ある後ろ姿があった。先程と違って髪の毛を結んでいるが茸柄鞄と制服の着方が同じに見えた。携帯は白犬だ。何だか特別、どうとかではないが顔が見たい気がした。心の中で振り向くかなっと期待していれば振り向き、その顔で胸が少し、ドキッとした。特に意味は無いのだけれど挨拶位したって良いかもしれない。

「にーちゃ…」

 妹が制服の裾を引っ張るので現実に戻り不安そうな顔を見る。

「んー?どうしたかな?」

 妹が背後を指さす。ふと目の前の少女も自分の背後を不思議そうに見ているのに気が付いた。振り向く。振り向けば何故だか分からないが広い廊下に壁が出来ていた。男性陣が何やら騒がしい。

「あの…すみません…」

「くそ!シャッター用のは、これか!?」

「ああ…あ、開けないで!」

 ガラガラと壁のような扉の前側に銀扉シャッターが下がり落ちる。意味が分からなかった。思わず叫ぶ。

「まって!親がゲーセンに…」

 出たいので言えば、シャッターを下ろした男が蒼白な顔を向けて朱く染まった目を見開き震えながら威嚇するように叫んだ。

「ゲ、ゲーセン?じゃあ死んでんよ!」

「はぁ?」

 意味が分からない。



 *


 仕事先で恋愛していた彼女と別れて何故か元カノの妹から連絡があり、どうも仕事の相棒を探しているとの事で話がしたいらしかった。会ってみれば元カノの面影を残しつつ可愛さを増やしたパッチリ猫目の女の子がいた。流石は元カノの妹、激可愛だった。

 仕事の相棒は二言目には承諾して仲良く行動する。その内に良い雰囲気になれるかなっと思っていたが完全に相棒意識らしい。それに彼女は女が好きという感じでは無い。ぱっと見、自分の見た目は優男なので、まあまあモテはするので元カノのように一時の夢でも見てくれたらと思う。

 今日はお互い休日なので遊びに出かけた。まあ自分的には、愛友デートだ。仕事時の格好良さとは、また違って日常の服装が彼女は可愛い。とても可愛い。何時ものように甘い言葉を囁くがなびいてくれない。残念だ。

 服や下着を選んで雑貨店で小物を買い豆菓子屋で茶の粉や、お茶菓子を買う。食事を済ませ音楽屋に行ってれば、お手洗いに行きたくなったので二人で向かう。買い物して彼女は機嫌が良さそうだ。手洗いをするにあたって買いすぎた荷物があったので一度荷物入ロッカーに入れる。手洗いをして出てくれば少女がロッカーを開けようとしている最中で自分も開けようと携帯を出していたら喧騒に顔を上げた。

 何やら男性陣が廊下の壁を塞いでいるではないか。防災の時にする扉だ。何事かと近づき扉に手を触れれば男性に慌てて止められた。

「外に化け物がいるんだ…」

 掴んできた手は震えていて目は真剣で汗まで滲んでいる。嘘偽りなさそうな表情。ドッキリかもしれない。とりあえず頷いて手洗いに戻り中で化粧直しをしていた彼女を呼びに行った。



 *


 今日は友達同士でモールの中にある串揚げ屋で酒を飲むことになっていた。普段使う大型の二輪車を置いて回送車に揺られてモールにやって来た。

 約束の夕方まで時間があるので野営の英雄に行って良い野営道具や釣り道具を探す。店には珍しく学館の制服を着た女の子がいて、お使いらしい注文をしていた。中々、エグい注文内容を店員が読み上げ半分程は買って帰るらしい。重そうだ。頼んだ相手は、ちょっと無謀な事を押し付けてないかと少しハラハラした。

 時間を潰すが中々、友達がやって来ない。どうも自分の時は比較的大丈夫だったが今日は大渋滞らしい。道が混みすぎて来れないとの事。どうするか。少なくとも二刻分は待ちそうなので映像館で何か観て粘るか悩む。

 映像館を眺めていれば肉挟みパンが目に入った。腹が減っていたので注文し瞬時に食べて落ち着く。一度煙草を吸おうと映画館前の喫煙所に戻り新しいのを買って火を点ける。久々に吸った煙に胸がじんわりとした感覚になりながら、ぼんやりと喫煙所内から、遊戯場の方を見ていれば人が倒れた。

 あれっと思い煙草を吸うのを止める。

 喫煙所から出て眺めれば赤い色が飛んだ。

 飛んだ。

 パタパタと意味が分からないが人の悲鳴で我に返った。何人かが何故か人を噛み食べているように見えた。

「逃げろ!」

 誰かが叫んだ。助けたい気持ちもあったが直ぐ近くの昇降機に目が向いた。そちらの扉が開き。悲鳴。中が真っ赤で何かの塊と、それを貪り食べる何かが居た。

 何だろうか。後ろ側にいた自分は走り、訳も分からず手洗い側に逃げた。あちら側なら階段があると思ったからだ。

 しかし逃げれば奥側で非常口を閉める男。眼鏡をかけた彼は今、入ってきた側の廊下も閉めるよう促してきた。ハッとして振り向けば違う男が蒼白な表情で閉め始めている。身体だけが動き全力で閉め。外側からは悲鳴が聞こえる。

 扉を触った細身の背の高い女性を慌てて止めて化け物がいると話せば頷いて手洗いに向かった。

 自分も一度手洗いに行って顔でも洗ってこよう。



 *


 初めて出来た初カノ。アニメ声の、プリプリした服装を着る可愛い子だ。最高に好みなので、デレデレで。遊戯場でウサネロという人形が欲しいとの事でポイント清算で必死にキャッチャーを動かす。近くで同じキャラの小物を取ろうとしている夫婦がいて妙な好敵手ライバル意識が浮かんだ。

 集中。集中。

 絶対取って喜んでもらって夜は、お泊まりを成功させるのだ。


 ドサッ。


 ようやく取れたデカいウサネロを抱えて後ろを振り向く。振り向けば彼女の後ろ姿。しかし知らない男が彼女に抱き付いている。

「何してんだ!」

 人形を落とし彼女を退かして男を殴り飛ばせば赤い色が広がった。

「?」

 勢いが良すぎて鼻血が出たのだろうか。手がヌメッとする。唖然と男の顔を見て肉の欠片のようなモノが見える。どこからか悲鳴。

 ふと彼女を見た。床にへたり込んでいる彼女は定まっていない瞳を揺らしてウサネロに、ふらりと倒れた。

「え、うそ、うそだろ…え?は?な、んで」

 何故かは分からない。分からないが彼女の喉から、ぴゅーっと水が入った袋に穴が空いたみたいに赤い液体が勢い良く飛び出して温かいそれが自分の下半身を濡らした。何だか漏らしたような温かさで彼女を起き上がらそうと手を伸ばして、それより先に足を捕まれた。先程の殴った男だ。

 見れば口を咀嚼させながら這いずってくる。無性に腹が立ち男を蹴った。腕を踏み潰し頭を蹴り上げる。繰り返し繰り返し。

 そうして男は、ゴロンと転がった。仰向けに転がった男の腹は抉れており中の骨や臓器が見えた。目が覚めるような赤だ。

 ふらふらとして数歩下がり尻餅をついた。顔を上げて騒がしい方を見れば人が倒れていて身体の一部が無い人間が何故か人間に噛みついている。意味が分からない。

 彼女に目を向ける白い肌には赤が飛び散り喉から今は緩やかに血が流れている。喉の中身が無かった。抉れていた。

「……」

 初めて、その瞬間。彼女が食べられたのだと気が付いた。どうみても、もう息をしていない。ウサネロは彼女の血で真っ赤だった。

 その後、どう遊戯場を抜け出したか逃げた先で非常口を閉めようとする姿を見て瞬時に真似をした。叫びながら急かして扉を閉める。扉だけでは開けれそうで二重のシャッターも下ろす。銀色が視界に埋まってようやく息をした。

 心臓が、ドクドクと煩い。

 少年に遊戯場の事を聞かれ怒りが湧いて怒鳴った。意味が分からないのだ。何故なんだ。

 ズボンが冷たく感じ下を見る。まるで最初から赤いズボンだったかのようだ。背中を壁に付けてズリズリと床に座り込み頭を抱えた。夢だと思いたかった。

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