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アウェイな屑  作者: いば神円
二幕 クレイジーホームセンター
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16 君の精霊

 

 自販機の氷菓子アイスを押して購入する。あれから六日が経った。地下一階攻略は思ったよりも早く終わり今は束の間の休息だ。冷蔵庫に入っていた肉は腐っている物もあったが使えるのが多かった。しかし放っておけば難しそうなモノは早々に冷凍庫に詰めて、こちら側にも売っている冷凍庫などを起動し移動させる。キトが忙しそうだ。

 電気や水の問題も人間の指導者が居なくなろうと機械が上手く動いているようで実際おそうじクンは常々働き続けている。もしも厄災で人が居なくなった場合でも彼らは誰も居ない街を綺麗にし続けるのだろうか。

 ふと、そんな事を思いながらアイスの周りの包装を、おそうじクンの腹に入れる。彼らの燃料だ。電気でも補えるらしいがゴミを清掃するにあたって作られた機械だからか何かしらのモノを入れた方が彼らの燃料になる。仕組みは全く分からない。ただ、そうだと言われている。

 長椅子にドカリと座った。隣には芯と視線の先の空間には何かしら騒ぐ団子兄弟がいる。

 ある程度の食糧問題が解決した今、気になるのは杏華の事だ。しかし、この状況だ。何処をどう探せば良いのか分からない。街外に暮らしているとの事なら、この騒動に巻き込まれていないかもしれない。それだけが僅かな希望だ。しんみりとアイスの最後の一口を食べ終われば芯が、ポツリと呟いた。

「個人的に次は手動扉を通った先の空間で箱車の周りと箱車内も掃除したいと思ってるんだよね」

「んぁ?別に良いけど掃除して如何するんだ」

「宝島さんの任務ってお嬢さん迎えにくるだけじゃなく、もう一人迎えにきたみたいでさ」

「ふーん」

 芯が椅子に両手をつけて天井を仰ぐ。金髪の毛がサラサラと揺れた。

「その子はモールに居るって分かってるんだよね」

「モールか」

 確かに箱車を使って集合店舗モールに行ければ移動は楽かもしれない。しかし。向こうのモール下も同じ状況なのではないだろうか。

「何か考えがあんのか?」

「過去の路線を使おうと思って」

「過去の…」

「途中、下りて閉じた線路の物を退ける作業があるけど蔓延る中枢に止めるよりは良いかなって思う」

「その行き着いた路線はモールが近いのか?」

「近いよ埋め立てられてるけど過去の手動扉は健在している筈」

「へえ…」

 モール。食糧は今の所、問題は無い。だが宝島の大砲があるなら大軍は、ある程度は楽に消せる可能性はある。

「…俺は構わねえけど芯はなんでだ?」

「生存者が居るって分かってるからね」

 芯が微笑み指先で遊んでいた氷菓子のゴミを、おそうじクンに渡す。

「そういうもんか?」

「鼠家当主の御友人の老師さんの孫娘って響きが気になってね」

「老師の孫娘……老師…の…」

 眉をひそめ考える。確かに、この響き昔、何処かで聞いた事がある気がする。

「昔さあ」

「お?」

「杏華ちゃん、心臓が悪かったよね」

「……ああ。大きくなる迄に生きれないとか…ん?」

 ふと頭が、じんわりと膜でもかかっているような気がした。何故、今の今まで忘れていたのだろうか。そうだ。杏華は大人になれないと言われていなかったか。

「あれ…?あいつ、この前会った時…」

 何か焦燥感が胸の奥でざわりざわりと蠢く。なんだこれは。

「…子供の頃の事だもんね。僕も、この前まで、すっかり忘れていたんだよ不思議だよね。あんなに必死だったのに」

「必死…?あ、ああ…そうだな。確かに知ってから俺達は……まてよ。そうだ、杏華の爺さんって各地の迷宮潜っては心臓に効く薬探してたよな…?」

「うん。僕らも会った事がある」

「…カネの奴が呼んで」

「うん呼んでた」

「老師…」



 *


 昔、智盛に角があった頃、あまり姿を現さないがカネという男が監視謙、護衛役として影にいた。彼は黒服と黒眼鏡サングラスをして、ふと現れては智盛に何かがあった時、仲裁をし軽口を叩いては消えていく。智盛に角が無くなってからは街外に脱出しようと騒動を起こさない限りは出てこなくなり今は任を解かれているのだと予想される。

「…え、じゃあ老師って杏華の爺さんて可能性があるのか」

 智盛がハッとして言う。

「うん。まあ杏華ちゃんなんだけどね孫娘って」

「はぁ!?」

 智盛が大声を出して立ち上がった。それを芯が見上げ。

「宝島さんに名前を聞いたら普通に答えてくれたよ」

「……なるほど、あ、じゃあ、モールに」

「いる」

「…なんでそう遠回しに」

 智盛が長椅子に座り直し。芯が肩を竦める。

「僕も名前を聞いて、ふと思い出したからさ、チモも思い出すかと思って」

「…え、ああ…確かに…なんだこれ…」

「杏華ちゃんもさあ。忘れてるぽかったし」

 学館で出会った時の事柄を智盛は思い出し呟く。

「…へ?あ、あれって…」

「実はね、あの後チモの謝罪をしに行ったんだけど」

「え?」

 智盛は、きょとんとした顔を向けた。

「チモが友達じゃないとか言ってぬか喜びさせてヘコんでるっぽかったから正門で待って声かけてた」

「…そう、か」

 少し暗い顔をして落ち込む智盛。

「僕の事も全く覚えてないみたいでさ」

「……」

「泣きたくなっちゃったよ」

「マジか」

 ちょっと驚いて芯を見た。

「もう子供じゃないのに過去の焦燥感みたいなものが湧き出して急に色々思い出すんだ」

 芯は身を前に出すと自分の手の指先を、ぼんやりと眺めながら言う。

「少しさ変なんだ」

「変って…」

「僕は、アズカちゃんに再開する、あの日まで大切なモノを忘れていたんだ」

「大切なモノ…」

「絶対に忘れる筈がないのに」

 芯の何とも言えない表情が気になって智盛は焦りが混ざった声で訊いた。

「何を忘れたんだよ」

 芯が笑う。

「ほら、チモも言ったじゃん。久々に使ったなってさ」

「魔術の事か…?」

 智盛は自分の口元を押さえ瞳をキョロリと動かす。何かを考えているようだ。

「アズカちゃんの犬の事は覚えてた?」

「え?あぁ、それは…夢に偶に観るから…」

 智盛は頷き。

「名前は?」

「名前…ボーイだったか…」

 スルリと出た名前に言葉が詰まる。

「どうなったかも思い出せる?」

「…トラックに引かれて」

 少し智盛の息が乱れ。

「何故引かれたかは?」

「…何故?そりゃあ運転手が暴走して…いや、あれは無人だったか…」

 智盛は思い出そうと瞳をキョロリキョロリとさせている。

「あの暴走車がおかしかった事は?」

「おかしかった…そうだ、あれって…何故か避けた先で戻って…杏華は引かれ…?え…?」

 両手で、じんわりと汗が滲む頭を抱えた。妙に脳が揺らいでいる。

「あの時、ボーイが助けたんだ車椅子が何故か止まってしまったアズカちゃんを必死に庇って」

「…ああ、そうか…あの時、走ってて」

 智盛は両手から顔を上げ。

「そう走ってた。僕らはアズカちゃんが危ないと知ってて走ってたんだ」

「…じゃあっ!」

 唐突に込み上げてくる怒りに智盛は歯ぎしりをした。

「でも、その理由が思い出せない」

 芯は顔を左右に振った。

「……」

 しかし疑問が、それに膜を張る。

「だけど見当が付く。僕は呪いをかけていた筈なんだ」

「呪い?」

 智盛が訊けば芯はコクリと頷いて言う。

「アズカちゃんを狙った強い魔術士に僕は自分が魔術を使わない限り、そいつも魔術が使えなくなる呪いを」

「…だから!」

 智盛の身が震えた。この震えが何の震えなのかわからない。しかし何か。

「でも、あの日まで僕は何故か魔術が使えた事も忘れていたし。それにね、チモ」

 顔を向ければ芯の視線と合う。芯の碧眼が揺らめいている。

「僕は親にも話していない秘密を君達二人に話していただろう?」

「…秘密を」

「僕が魔術を使えたのは技術を勉強したからだ。だけれど魔術を勉強したのには理由があった」

 スッと智盛の震えが止まった。背筋を伸ばし芯を見据え。

「…芯、お前」

 智盛は目を見開き呟いた。

「…精霊は…どうしたんだ…?」


『始まりの音』『クレイジーホームセンター』場面の、キャラの紹介。


* 桃島杏華ももじまあずか

最強の護兵、老師の孫。幼い頃の記憶が曖昧。愛犬ボーイが常に側におり周りには見えない。他人の能力が分かるスキル持ちが現れて杏華のボーイが精霊なのでは?と、言われ監視下に置かれる事になった。


* 申木智盛さるきちも

申家、龍神王の子息。角が無いので継承権利が無い。運命の伴侶は杏華。


* 雉羽芯きじばねしん

十三審=龍日国の貴族みたいな存在、雉家の者。おそうじクンのマスターキーを持っている。杏華、智盛とは幼馴染。


* 団子キビ

短髪栗毛、背は低め、ハーフエルフの血族。

魔法道具作りをする。言動は自由。


* 団子モチ

金髪、サングラス。背が高い。エルフの血族

魔法道具作りをする。言動は自由。


* 鬼宮薬姫おにみややひ

古来学の生徒会長。学生の中では年上。鬼の血族。回復魔術を持ち。畑から浄化も学んでいる。


* 畑颯はたけそう

古来学の教育者。破門された元聖龍者。浄化の能力にたけている。


* アルシア

猫の雄獣人。有能な魔術士。


* マーシャ

雌の魚人。アルシアの嫁。


* 宝島たからじま

鼠家、護衛取締番。親方優先で護衛を任される。又はアカルの護衛をする。


* 鷹匠日たかじょうひび

鼠家、護衛。鼠一愛果瑠ねずいちあかる一番の護衛と語る。アカル以外護衛したくない。アカルお嬢が大好き。息をするように、アカルに、ちょっかいをかけては怒られて喜びを感じている。


* 鼠一愛果瑠ねずいちあかる

古来学の生徒。鼠家の者。年若い恋に恋するお年頃。お家の事は理解している。ヒビとは良い腐れ縁。厄災にてヒビの印象が少し変わってきている。軽口叩くが仲は良い。


* キト

毒親の息子。アレを殺しホームセンターに掃除道具を買いに来たが火事だったので自殺しようとした結果生き残った。


* フェル

雄の狼獣人。ハイテンションな性格。せっかち気味だが優しく家族思い。一途。護兵としては、とても有能。


* シュガー

雌の犬獣人。フェルを夫に持つ。子供が六人いる。


*ミルク、チョコ、マーブル

フェルが大陸の甘いモノの名前を付けた。愛情表現。三つ子は息子。


* 旬李シュンリ

花屋の店員。火事の際、客に暴行を行われ畑に救出されてからも、さらに二度襲われる。幼い頃のトラウマを畑で克服できるかもしれない。


* 水樹みずき

地下の食品販売店の最初の段階で発見された少女。


* 支配人

ホームセンターの支配人。無自覚で母性型とイチャイチャしている。


* 中年の男性

火事の時に暴行を起こし写真を撮られそうになり人の目に触れない為に鎮火した店内に逃げた所、生き残った。その際に眼鏡が割れて面の皮厚く文句を言っていたが混乱に乗じて欲望を押さえなかった為に去勢させられホームセンター組を呪って逃げ出した。


* 婦人

自分こそは真面な人間と思い回りが全て我儘に見え暴言を吐く人。


* 坊ちゃん

蛇家の者。商人。笑顔が独特。二枚舌。


* ルネス

眼帯の女性。半分の毛は短く、なんだかとても強そうな雰囲気。坊ちゃんと大抵、イチャイチャしてる。


* カネ

黒服、黒眼鏡サングラス。チモの幼い頃の監視兼、護衛をしていた影。

唐突に現れる。



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