12 攻防戦
作戦一日目が始まった。
防具、それぞれの武器を用意した面々が一階、空間広場に集まる配置は以下の通りだ。
先ず昨日の内に螺線道の一階先っぽを団子兄弟が作った爆薬で壊し容易に屍呪者が入れない高さを補強した防壁の裏側に場所を作りアカルが魔法道具型の銃を持って待機。遠隔射撃を行うようだ。
一階空間広場、後方にて新たに作った簡易防壁の裏で防具、手作りの槍や刃物を持った鬼宮が回復役として立ち。少し前に、そんな鬼宮の守りと攻撃に入るヒビが立つ。
彼は防具と共に昨日一日かけて作った、お手製の弓矢を腰に下げ。長い棍棒のような物を簡易防壁に二本立てかけて、後は鉈を防具の腹元に二本持っている。多少動きが鈍ろうが片方使えなくなって武器が無くなるのを避けたようだ。
中間地点には畑颯と芯が立ち防具や武器も持つが個々で術を使うようだ。二台おそうじクンも側にいる。
前線では智盛と狼獣人のフェルが立っている。智盛は芯や団子兄弟、フェルと話し合い魔術補強し肌を隠した防具と手や足に着けた籠手で身軽に戦うようだ。もしもの時は芯が用意した武器を受け取り戦う。
フェルは戦い慣れした護兵であるだけあって個人の武器も持っていた。籠手もあるし生物の脂や骨で使い物にならなく、なりやすい刃物も魔法道具型で持っている。それとアンデットとも戦う事はあるようで厄災の呪いに関しては分からないが本来のアンデットなら耐性があるようだった。
もし噛まれても予想の範囲だが聖龍者の浄めがあればアンデット化は防げる筈だと語られた。そもそも聖龍者の元々の役割は伝記になっている厄災の呪い時の浄化から始まっていると言う。そうなると畑颯、また彼に術の一部を教えられている鬼宮が入ればいざという時どうにかなるかもしれない。しかし、確証はないので実際に相手をしないまでは分からない。
それぞれが配置につくと全員の片耳に着けてある音声機から団子兄弟と手伝う事になった支配人の声が聞こえる。どうやら、それぞれが防犯映像から調べたアンデットの行動を逐一教えるようだ。
『約、五十程、細道で間を開けながら、おそうじクンの誘導の元、向かっています』
支配人が言い。
「了解」
フェルがトントンっと数歩、踏み出した。身のこなしの軽さと場慣れの雰囲気を感じる。
『はたけっち、もう直ぐ入ってくるよ』
団子兄弟の片方が言えば畑颯は呪文を唱えだした。各所に貼り付けられた札が蒼白く光る。
『ガチはたけっち、かっけー!』
ヒューヒュー!と団子兄弟の口笛が響く。その耳に聴こえてくる緊張感の無さに後ろで控えるヒビは苦笑しアカルお嬢を見上げる。緊張したアカルの顔が見え視線が合ったので投げキッスを送ると壁切されるような動作をされた。ヒビは、ご機嫌になった。
アンデットが空間広場に入ってきた。空気が変わる。蒼白く光る札の文字がアンデットに当たると彼らは苦しみだし数歩、歩いただけで膝をつく者もいた。大抵は動きが鈍くなるだけだったが前線の二人は、それで充分だった。
フェルは軽く飛び上がると口を開けているアンデットの顔に足裏をめり込ませ倒れる中で身を回して、片足に着けた魔法道具型刃で、もう一匹の首を蹴り裂く。そのまま地面に着いた片足裏はアンデットの頭部を潰した。骨は硬く刃にも成り得るが魔術強化をしている身は容易にアンデット達を壊していく。
「やっぱ、魔術強化できる仲間が一人いると違うね!」
うぉん!っとフェルは吠えて嬉しそうに牙を向き出して前に走る。走った先で手に持った厚めの刃を横に薙ぎ払うと、ボシュリッと音がして一匹の頭部が地面に落ちた。
「聖龍者が居るのも良い!アンデットだってのに鈍いネボルを相手にしてるみたいだよ!」
うぉん!うぉん!興奮気味に語りながら身体を動かすフェル。
「遠隔支援、回復役もいる!助かるねえ!助かるねえ!」
フェルは、お喋りな所を除いては非常に優秀な戦闘力と言えた。
『フェルフェルすごくない!?』
『これが護兵!ぱねぇ!』
団子兄弟が喜んでいる。
「へへっ!そう?そうかな?遠隔指示も良いね!普段の迷宮巡りじゃ無い安心感があるよっ!」
尻尾を振って喜びを表現するフェルに団子兄弟も、きゃぴきゃぴ答え。現状は血生臭いが穏やかな雰囲気が漂っていた。
その様子を一瞥し智盛は走った先でアンデットに飛び蹴りをし身体を真っ二つにすると半分になって暴れるソレを踏みつぶした。
「……使えるなコレ」
付けた武具の性能を調べているようで何匹か捕まえては繰り返し感触を確かめていた。
「チモ、長期戦になる可能性を考えて定期的に再度補強をかけれる時にかけるから、その時は武器忘れず持ってね」
おそうじクンが捕まえたアンデットの頭を小斧で割りながら芯が声をかけ。
「へーい」
智盛が応える。
「わぁ…僕、いるかなコレ…」
ちょっと引き気味にヒビは呟いて背筋を伸ばし片眼に付けた望遠眼鏡で距離を合わせ弓を射る。彼らから漏れて進むアンデットの濁った目玉に銀色の矢が食い込んだ。
「…この距離で、あの動きなら外での魔物狩りより楽か…」
ヒビは、もう一本銀色の矢を手にする。一応、作れるだけ作ったが休眠は必要だったので満足の行く数ではなかった。しかし、この調子なら後で再利用が出来る矢を考えて今後、上手く行きそうだと思った。
「お嬢は…」
アカルを見ればヒビと同じように漏れ出たアンデットを魔法道具型の銃で真剣に撃ち抜いている。顔は青いが行動はしっかりしているので大丈夫そうだ。
そのまま彼らは淡々と事を進め。途中、鬼宮が汚れた面々に念の為、浄化をかけながらオヤツの時間頃。最初の戦いが終わった。辺りは乱雑としたアンデットの亡骸だらけであり赤を越した黒い血の色で染まっている。
「どう?今閉鎖されている空間の下の方は」
『見える範囲で三匹残っていますね。おそうじクンの誘導も素直にきかないタイプみたいです』
「はは。分かった。じゃあ僕とチモとフェルさんで一度下に降りるから誘導してくれる?」
『了解です』
芯と支配人との会話を聴いていた智盛とフェルは肉の塊の中を歩き手動通路の方へ歩いて行く。途中、騒ぎを聞いてか補強された出入口のアンデットが身を当てて二重に閉められた扉を叩いている音がした。血の足跡を床につけながら進み。フェルの指示の元、下に向かう。
扉の前に待ち構えるように一匹居たのでフェルが刃を振り上げて顎から脳天へ差し込み足をかけて引き抜く。そのアンデットが倒れる音で近くの店から二匹がふらりと現れて飛び出した智盛が首を掴みへし折る。もう一匹も蹴り飛ばし嫌な音を立てて道の壁にぶつかって、そこを芯が小斧を振り下げて頭をかち割ったのだった。
*
すぐ下の階の鉄扉で閉鎖された、その空間には手動階段を間に左右に店舗があった。二店舗中、一店は調味料類が主で乾燥系の乾物や保存の効く麺類と小さな冷蔵の箱には日付が迫った。柔焼菓子と生餃子や肉まんが箱で幾つも置いてある。
「よっしゃ!食いもん!よしっ!」
噛みしめるように喜ぶ智盛。
「匂いは大丈夫そう。冷やされたままだから腐ってないよ」
フェルが鼻をひくつかせてパンケーキを指さす。
「あんたの子供らが欲しいなら譲るぜ甘いもん好きそうな名前だし」
智盛が言う。
「え!良いの?その通りなんだよ!嬉しいねえ!嬉しいねえ!」
お互い笑って背中を叩き合う中を尻目に芯は、もう一店舗を除いた。どうやら駄菓子屋のようだ。古き良きお菓子を題材に菓子類が並んでいる。
『あ、そのペロちゃん飴ほしい!』
『鬼伝説餅ある?じゃがじゃが棒も!』
「うん。探して持って行くよ」
芯がカゴを手にして音声機の言葉を聞きながら入れていく。ある程度入れて他は、おそうじクンに運ぶよう芯は指示した。店の裏手も調べてみる。扉を開けると小さな倉庫の棚が倒れており中から、か細い悲鳴が聞こえた。
「いや!いや!来るな!来るなあっ!」
芯は投げられたお菓子の束を手で受け取ると血でいたる所汚れた繋長服を着た女の子を見る。どうやら倉庫に隠れていたらしい。
「フェルさん!チモ!生存者だ!」
やってきた面々を見て女の子は目を丸くし。言う。
「バケモノは…?」
「近くの怖い化け物は僕らが倒したよ。一緒に来る?」
しゃがんで目を合わせて訊ねた芯に、女の子はコクリと頷いた。
「フェルさん、頼んで良い?
「もちろんさ!」
フェルは女の子を背負うと、その場を後にする。倉庫は少し時間の経った尿の臭いがしたので芯は二人が居なくなってから、おそうじクンに掃除の指示を出した。




