9 始動
開拓広場内、運動用品店に用意されている野営用の携帯食糧から栄養価の高い雑穀ご飯類を幾つも取り出した。水を入れて保存包装ごと鍋で温めると中のご飯が温まり食べれる仕組みだが最初から中を取り出し幾つも一つの鍋に入れて水でふやかして温める。ある程度水分が馴染んだら昨日の夜、芯の為に持ち帰りで買っていた炒飯を入れてザクザク混ぜ合わせた。冷えた唐揚げと餃子は別途で温めて紙皿に盛ったご飯の上に一つずつ乗せて保存容器の水と共に配っていく。筋肉をつける為に注目されているとの事で包装された魚の練り物が飲物と一緒に硝子の冷蔵庫に入っていたので、それも一人一本ずつ渡された。
現在ホームセンター内で生存を確認している人数は二十一名だ。内、子供は乳児含め六名、女性は四名、残り十一名は男性となっている。子供の母親は、この場に現在おらず。スポーツ用品店で椅子を並べている面々とは別の部屋で休養している。子供六名は全て彼女の子だ。
「ありがとう。ボク達は妻のシュガーちゃんが心配なので側で食べてきます。話しはその後で」
ペコリと狼獣人が周りに挨拶を軽くして子供と共に去って行く。
「足りねえ…芯、腕相撲しようぜ」
挨拶の間で食べ終わった智盛が嘆いた。
「それ絶対チモが勝つやつじゃん嫌だよ」
「はあ…これはやべえな…」
「ここにきて我らの智盛氏の落ち込み!」
「体力自慢の智盛氏、死闘を繰り広げ活躍したが燃費の悪さに気付くの巻~」
団子兄弟が大きな身振り手振りで喋っていると女のか細い声がして黙った。
「あの…」
畑とアカルお嬢の間に座っていた花屋の店員の女性が智盛に声をかける。黒縁眼鏡越しの瞳は視線を合わせないが、練り物が差し出された。手が震えている。
「わ、私、食べきれないと思うので…良かったら…どうぞ…」
「良いのか?やった、ありがと」
智盛がニコニコ顔で受け取る。袋を開けて智盛の口に掃除機のように飲み込まれていく練り物。それを見てアカルお嬢が自分の分の練り物を手に持った。
「…助けられたし私のも…あ、でも芯さんのは」
「あはは、僕は標準なので大丈夫です。お気持ちだけ受け取っておきます」
芯の言葉にアカルお嬢は頷き。アカルが差し出した練り物も貰い瞬時に食べていく智盛。飲み物のようだ。見ていた護衛のヒビも智盛に自分の分の餃子を箸で取り軽く投げる。パクっと智盛は口で餃子を取り嬉しそうに口を動かした。ヒビは、にっと口端を上げて、唐揚げも箸で掴むと軽く投げた。智盛は口で唐揚げを受け取り、また嬉しそうな顔をした。
「肉うめー!」
「ふは!凄いね君。一応、僕もお礼。芯君には個人的に何か頼まれたら付き合うんで言ってください」
「助かります」
「あんたら良い奴らだなー!アレでヤバくなったら呼べよ俺が、どうにかするから」
「こんな事で有能な君を使っても?」
「おう!」
和気あいあいといった雰囲気で食べ進めていれば婦人が溜息を吐いて言う。
「…食事中に喋るなんて…下品な人達ね」
ご飯を一口食べて眉をひそめ包装された練り物は鞄に入れると婦人は立ち上がる。
「こんなの栄養価が偏ったの気持ち悪いし不味くて食べられない。失礼するわ」
「じゃあ俺がもらう」
中年がパッと皿を取り。婦人は嫌そうに一瞥したが何も言わず出ていった。俯き気味の青年は、そんな周りの動きに反応せず静かに黙々と食べている。
「頂きます、マスター」
「うん。後で話しをしに行くから、宜しく」
「伝えておきます」
一台歩いて来た母性型が芯に挨拶をして残しておいた皿と水と練り物をお盆に乗せて持って行く。
「最新の母性型もいるんですねー」
ヒビが眺めて呟く。
「え、今の子、機械なの?」
驚くアカルお嬢に花屋が微笑んで頷いた。
「凄いですよね。今の技術」
「ですよね。あ、でも誰に持って行ったのかしら…」
「もう一人の生存者です。今頃、目を覚ます頃じゃないかと」
「そうなんですね…」
頷くアカルお嬢。
「ところで!契約書の話しは本当なんだろうな」
中年が、ものを食べながら苛々した様子で言葉を割り込ませてきた。花屋は、そっと俯きアカルは、チラリと中年を見る。少し脂が浮かんだ顔をした男性で肌は日焼けしており私服の胸元には割れた眼鏡が覗いていた。屋上時と違ってアカルから目を逸らしながら言葉を続ける。
「ええ。食事の後にでも個人的に伺いますので大丈夫です」
「ふん…まあ良いだろう…」
「何が良いんだか」
「ヒビ、しっ!」
ヒビが呟けば、アカルが腕を持ち顔を横に振る。穏便に済ませようとしている彼女を見てヒビは、お口、閉のモノマネをして笑顔で食事の続きをし。中年は舌打ちだけした。
*
芯は子供用の椅子や厚手敷物、滑り台がある場所で印刷された地図を広げる。
「今、下の食品販売店は荒れています。扉は、それぞれ地下食道通りから箱車近く物売り場まで閉鎖されていて、そちらに比べたら数は少ないです。しかし密閉された中での人数はきわめて脅威です」
周りに居るのは畑、鬼宮、智盛、団子兄弟、ヒビ、アカルお嬢、狼獣人護兵のフェル。フェル夫婦は元、古来学の卒業生らしい。大陸出身でもあり戦争が激しかった地域から幼少期、渡ってきた人種で、古来の血を持っていた為、古来学に避難が可能だったようだ。
「お嬢は、女の子同士で、きゃぴきゃぴしててください。目の保養になるんで」
「嫌よ」
「お嬢は確かにお稽古はされていますが昨夜、怖がってたじゃないですか」
「もう慣れたわ。私も戦う」
「お嬢が怪我したら、どうするんですか。泣きますよ僕は」
「怪我ぐらい誰だってするわ。それに人数が少ないのだし戦える者は戦うべきよ。未来の自分の為にね」
「ダメですて…」
「ダメかは私が決める」
言い合いしている二人を余所に団子兄弟は持ってきた電子機器を開いて浮かび上がる立体の映像を見せた。
「いきなり全部を探索するのは無謀だと思うので、おそうじクンの誘導で下げれた扉毎に閉鎖された空間から少しずつ出そうと思うよ」
短髪栗毛の団子キビが地図の一点を、トントンと叩く。それはヒビがアカルと通ってきた手動の通り道だ。
「細道で一体ずつってのも良いけど肉が詰まると通り道が大きな所しか無くなっちゃうから少しずつ、ここの空間広場一階に誘導」
金髪、薄茶色眼鏡の団子モチが言う。
「で、俺らが全力で叩いて数を減らしていくと…」
智盛が歯を見せ口端を上げ。護兵のフェルが顔を上げて団子兄弟に訊いた。
「推定どれくらいか分かるかな?」
「殆どが食堂通りや箱車の方に行ったから四百はいないと思う」
「間で扉下ろすから、もっと分担される予定」
団子兄弟が言い。フェルは頷く。
「一日、五十ずつぐらいに出来るかな?」
「最初の場所のは丁度それぐらいかなー」
「五十?もっといけね?」
智盛が言う。
「掃除があるからね。処理が追いつかないよチモ」
芯が言うと智盛は頷いた。
「毎日、五十程、相手をして掃除をするって事ですか…」
鬼宮が青い顔をして言うと畑が頷いた。
「そうなるが無理そうなら、良いんだ。鬼宮はシュガーさんの検査や治療もあるし」
「…最初は怖じ気づく可能性がありますが…治療や浄化、掃除は出来ます…それでも良いでしょうか」
「もちろん治療があるか無いかで格段に生存率が上がるし、ありがたいよ鬼宮さん」
芯が微笑み頷いた。ホッと鬼宮が息をつき、それを見ていたアカルが言った。
「…ヒビ。銃を貸して」
「えっ」
「一階の防壁内で撃つから、それなら良いでしょ?」
「なるほど…お嬢、魔術は限定的ですけど魔力保持は高いですもんね…分かりました」
ヒビがアカルに銃を渡した。どうやら鬼宮の素直さに妥協点を考え発言し上手く納得を引き出せたようだ。
「それじゃあ、これは明日の朝から。それまでに防具類の用意、武器の製作としましょう」
芯が、そう言うと面々は頷き。動き出したのだった。




