表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アウェイな屑  作者: いば神円
二幕 クレイジーホームセンター
17/45

8 一夜明け

 

 約三十二名。そう予測される数字は下からの手動扉空間からの数と開拓広場ホームセンター、一階に元々居た屍呪者アンデットと現形をとどめない者を予測して出された数だ。

 元、聖龍者である畑颯はたけそうは祈りを捧げた。朝日が昇った今でも外では呻き声が聞こえ、それも全て祈るべき対象ではあるが今は目の前の者達へ。

 籠城を決めた空間で宗派によっての葬式を選ぶわけには行かない。宗派での葬り方は埋葬だったり火葬だったり、もっと違ったものもある。だが現在は腐敗によって起こりうる感染症などを避けるのと今後の為に、まとめて簡易の葬りをする事にした。

 直ぐに自衛団や十三審が、この状況を解決出来るとも思えない。もしかしたら護兵と共に改善を目指すかもしれないが今、龍尾街は死の街と化している。

 現在、他の街の情報も曖昧な為、もしも国全体で起きている問題ならばと思う。龍日国は大陸とは遮断された鎖国に近い国だ。他国からは雲隠れの国とも言われている。そんな謎めいた海に浮かぶ島国で悪夢が起ころうと他国は干渉してこない。そもそも何が起こっているのか気付いてすらいない可能性が高い。それに大陸は妙に血気盛んな国もある。場合によっては、トドメを刺してくるかもしれないのだ。

 予測するに国の中枢である十三審や自衛団は今後の対応に頭を悩ませている事だろう。また生神である龍神王や聖龍者達も存在価値は高くとも権限は低いが対策に追われている筈だ。起こってしまった厄災を前に畑颯は静かに祈りを捧げたのだった。



 *


 生き残った一部の面々の動きと、おそうじクンによってホームセンター内はある程度綺麗になってゆき簡易葬式を行なう為に死体の一部だけが並べられた。それは目に見えないように折られた手の平程の紙の間に一つ一つ挟まれて小さなカゴに入れられ花屋の花に埋まるように入っている。

 それを主にしたのは古来学の者達で教育者となる畑颯が指示し鬼宮が動き芯も智盛も黙って従った。団子兄弟は変わらず制御室で辺りの状況を調べたりして移動する際の閉鎖しているが無理やり開けてはいけない場所とうの危険を教えている。

 そこに男女が加わる。護衛とお嬢が軽口を叩きながらも手伝い小さな獣人犬の三兄弟も死体拾いは鬼宮が止めて花屋での花選びを畑が助けた花屋の店員の女とし、ホームセンターの支配人は、まだ母性型に見守られながら寝ている。三つ子が産まれた母親も就寝中だ。その他、生き残りに関しては彼らの行動を遠巻きに眺めているといった状況だった。

 一つ一つの紙に書かれた聖龍者の文字が光沢を帯び浄めの呪文だろうか、それは屋上駐車場の石畳の上で柔らかい火を放ち燃えていく。その間、畑は祈り続け暫くしてカゴや花ごと灰になったソレは朝焼けの風に乗って空に舞い上がっていった。

 簡易葬式の終わりだ。後の大きな死体部分は個別で片付けている最中である。

「確定では無いですが今後の事を考えると店内にある栽培機や肥料を使って売っている種から野菜類を今から作った方が良いと思うんですよね」

「うむ…」

 芯の言葉に畑は少し悩んで頷く。

「ああ、だからですか」

 近くでお嬢と話しを聞いていた護衛の男が感心したように笑った。

「彼らの処理方法、始末出来るとしても外に捨てれば良いだけなのに浄化してから肥料製造機に態々集めて入れるの大変だなって思ってたんですよ」

「え、じゃあ…使うの…?」

 お嬢が不安そうに護衛を見上げて呟く。

「僕は普段の任務上そこまで気になりませんけど…うーん。このまま本気で暮らすとなるかは未定だとしても覚悟する日は、くるかもしれませんね」

「……うう」

 お嬢が両手で胸元を押さえ深呼吸する。二、三度調えて言う。

「そうね…うん。生きる為だものね…」

「お嬢の肝っ玉の良さ、僕好きですよ」

「…ふんっ」

 お嬢が護衛から顔を逸らした先で遠目で成り行きを見守っていた他の生き残りと目が合い、その中の中年の男は、ぐわっと目を見開いたかと思うとズカズカと近づき声を上げた。

「おい!あんたら!これから、どうする気なんだ。説明をしろ!」

 中年の鋭い視線はお嬢に向いて叫んでおり、スッと護衛が動く。

「おっと」

 お嬢の前に立つ護衛。護衛が立つと中年は目を逸らし今度は奥側にいる静かな女と三つ子の獣人犬に視線が向いた。

「勝手に、なんか始めて、普通は先に事情の説明をするべきだろう!」

 畑と鬼宮が視線の前に立ち。

「すみません。死骸を早めに片付けないと数日で感染病の問題が出てくる可能性がありましたので…」

 鬼宮が謝り。畑が、中年を少し見つめて何かを考えている。

「謝って許されると思うなよ。大体、こうなった責任者は誰だ!」

「ふは!責任者とか」

 護衛が思わずっといった風に吹いて笑う。中年の視線が、ガッと向く。

「何笑ってんだ!」

「そうよ笑い事じゃないのよ」

 別の場所で佇んでいた婦人も少し近づき嫌そうに地上で蠢く方を睨みながら呟いた。その中間部分では疲れた風の青年が車に背を預け地面に座り込んで黙って俯いている。

「はい。すみません。でも責任者を、この厄災に求めるのは勝手にすれば良いと思いますけど、それより生き残りの方が最優先だと思いませんか」

 護衛は笑顔で言った。

「はあ?そんな事は、わかっとる!だからこそ責任者を出せと言ってるんだ!」

「だからこそですか。意味が分からないですね」

「それは、お前が馬鹿だからだろう!これだから最近の若造は…」

 中年の言葉に護衛は笑顔のまま言う。

「なる程、僕は馬鹿だから…なる程。お嬢に言われるなら最高だけれど汚えおっさんに言われると虫唾が走るな…」

「え、ちょ…」

 お嬢が護衛の腕を慌てて持って止める。

「はあ?なんだ、この馬鹿ガキは!おい!コイツを摘まみ出せ!」

 辺りに対して言うが、それに応えたのは護衛の彼だけだ。

「何、強気じゃん。やる?おっさん」

 護衛が手を揉んで首を鳴らす。

「…は、おい…くそっ、いや…とにかく!俺は責任を取らせるからな!」

「はいはい。僕が責任を持って今すぐアンタを此処から突き落としてあげても、良いんですけどね~」

「なっ」

 お嬢は、護衛の服を、ギュッと握りしめて小声で言う。

「もう!相手は一般人よ、ヒビ、めっよ!お口チャック!」

「めっ…可愛いっ…はい、お口チャック」

 お嬢に怒られると、ニコニコ微笑んでヒビが口を閉じる。

「…いかれが…くそっ…女なんかに尻を敷かれるクズが…調子のりやがって…」

 中年が、ボソボソ言うとヒビの鋭い眼光が向き中年は完全に視線を逸らして、あらぬ方向を眺めた。無言でヒビがお嬢を見て中年に嫌そうに指を指すが、お嬢は困った顔で黙って顔を横に振った。ヒビが仕方なさそうに苦笑した、その時だ。

 駆け抜けてくる音が下からした。音に気付いたヒビが腰元に隠していた魔法道具型の銃を抜き、それに驚いた婦人が悲鳴を上げる。中年もヒビの銃を見て後退った。

 他面々も音のする方を見れば四つ足の獣が屋上に向かって下の閉鎖された出入口の上から駆け上がって来ているように見えた。驚く面々。一番近い側に居た三つ子の耳と尻尾が、ピンッと上がり慌てて庇いに前に出た鬼宮を押しのけて彼らは閉鎖された地上駐車場に続く下側斜めの道に向かって走り出した。

「チョコ!ミルク!マーブル!」

「パパだ!」

「パパー!」

「やったぁ!」

 周りの防具がボロボロで身体中、何とも言えない汚れた獣人に子供達は飛び付き、それを見てヒビは銃を下ろした。

「そいつ!銃を持っているわ!犯罪者よ!」

「そうだ!捕まえろ!」

 中年と婦人が叫び視線がヒビに向く。ヒビが苦笑いを浮かべ。

「一般人からしたら、そうですよねーまあ護衛の為には必要なんです」

 ヒビは、あっけらかんと言う。

「護衛。お嬢さんのですか」

 畑に、そう言われ背筋を伸ばして穏やかに微笑み真っ直ぐな瞳で、ヒビは言葉を発した。

「はい。鼠家(ねずみけ)当主孫娘、アカルお嬢様の一番の護衛は、このヒビで御座います」

「鼠家…」

「……」

 婦人は顔を青くし後退り。中年も顔を青くし汗をダラリと流して口を閉じ、その場を後ず去って行く。屋上出入口に向かうようだ。

「鼠家の方だったとは…どうりで見たことがあったんですね」

 黙っていた芯が満足そうに頷いた。

「あ…!」

 お嬢アカルは、ハッとして芯の顔を見て背筋を伸ばした。

「貴方っ前に雉家主催の披露会で紹介され…あっ、ん!」

 驚きで発言してアカルは口を慌てて自分の両手で塞ぐ。そして申し訳なさそうな顔をした。芯が頷く。

「良いんですよ。この中で責任者を出すなら僕が一番だ。ここは雉家の子会社ですからね。ええ勿論。賠償請求されるなら厄災が解決でもした後に伺いましょう」

 芯が何でも無い事のように笑顔で言い。向こうに行こうとしていた中年が振り返るが、ヒビやアカルを気にしてか黙っている。婦人も何か言いたそうだったが黙り込む。

「何なら契約書を記入したって良い。後でお話しがありましたら個別で伺いましょう。所で、ここでは何ですし親子の再会も含めて軽い朝食にしませんか?昨日の夜から何も食べてなくて、お腹がペコペコなんです僕」

 芯は自分のお腹をさすると爽やかに微笑んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ