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アウェイな屑  作者: いば神円
二幕 クレイジーホームセンター
14/45

5 クレイジーな夜 前編


 人々の混乱とは逆方向に進んでいれば、おそうじクンが声をかけてきた。

『こちらへ』

 智盛は片眉を上げ従う。従業員用の通路で渡されたのは音声機、呼吸器マスク保護眼鏡ゴーグル、手袋、運動スポーツ用品店の防具だ。

『耐熱材です』

 手袋をはめると、そう説明がなされる。智盛は芯のとの電話を切った後、友のいるだろう方向に進んで行った。特に何か考えがあった訳ではない。ただ心配で姿が見たかっただけだ。

 智盛の他に団子兄弟と鬼宮、畑もいたが彼らは置いてきた。何となくホームセンターから出て避難するのでは?そんな認識が頭の片隅にある。しかし。この感じからして彼らにも同じモノを渡しているのだろう。

「これ着けるのは良いけど、どうすんだ?」

 おそうじクンに呟くと耳に着けた音声機から声がする。

『やあ、チモ』

「芯か。なあ、これって…」

『緊急事態だからね。私情で申し訳ないけれど手伝ってほしいんだ』

「…わかった」

 よくよく考えれば、ここは芯の子会社である。否、芯の雉家の鳥という会社のか。火事が起これば避難誘導をしなければだろう。智盛は基本的に面倒な事はしないが友の頼みとあれば心境は違う。素直に従う事にした。

『その内、細かい部分は制御装置室に団子兄弟が来たら指示してくれると思う』

「え、つーかお前らは避難しないのかよ」

『先ずはお客さまを避難させなきゃね』

「大丈夫か?俺は頑丈だけどさ…」

『大丈夫。制御装置室近くは安全だから』

「ふーん。まあ、お前が言うなら、そうか。で、俺は何をすれば?」

『おそうじクンと一緒に内側の階の避難誘導をしてほしいんだ。火はある程度消火してるんだけどね、この煙だろう?』

 周りは確かに煙だらけだ。消火しつつも霧がかかった一面では前後もわからない混乱が聞こえる。智盛も目は少し染みていたがゴーグルをした事で楽になった。マスクで息も楽だ。

『下の階に行ける位置で、おそうじクンの指示に従って下りてください。押さないで、走らないで、足下にも注意してとか、そう大声で言ってくれれば良いんだ。おそうじクンもライトを照らして目元の表示も出すし混乱で耳に入らない中でもチモの声は響きやすいからね』

 それは暗に龍神の血を示しているのだろう。この血の者の言動は民衆に良くも悪くも響きやすい。

「わかった。お前は?」

『僕は下の階で呼びかけするよ』

 一度、智盛の声で認識した者が下の階に下りてきたら要領がわかっているので素直に従う事だろう。智盛は早速、下の階に向かう付近で呼びかけし混乱に道を与えた。ある程度おさまってくると霧も段々と落ち着いてきたように感じる。

『鎮火したみたい』

「そうか」

 辺りを見て周りながら智盛が頷く。物が倒れていたりゴミが多く乱雑した雰囲気だ。

「チモ」

 螺線のような長い下から続き動く歩道が付いた廊下の道から、のんびりした様子で芯が消火器を手にし上ってきた。

「下は良いのか?」

「うん、殆ど出たみたい」

「そーか」

 智盛はホームセンター内を見渡した。螺線の長い道は真ん中の広い空間を残して天上まで続いている。それが先程まで蟻の大群のような長蛇の列で今では通抜けの下を見ても虫の列は見えない。

「明日の朝刊に載るか、こりゃ」

 智盛が下を眺めながら溜息混じりに言えば芯が肩をすくめ。

「僕の仕事先は少し減った方が良いくらいさ」

 そう言って笑った。

「今日は大渋滞だっけか?」

「そう。タイミングが悪いよね」

 そこまで興味があるのか無いのか智盛は頷いて芯の手元を見る。二本消火器を持っていた。

「どっか消しに行くのか」

「全部消火したみたいだけど一応ね。チモも持って」

「おう」

 一本受け取ると芯が歩きだし付いて行く。どうやら上の階を見に行くようだ。

「上から安全を確認していかないと」

「わかった」

 屋上に出ると涼しい風が彼らの頬を撫でた。

「あれ、畑か」

 智盛が何気なく自分達が乗ってきたトラックに目を向ければ畑が車の扉を開いてしゃがみ込み中を眺めている。音声機から声が響いた。

「今、ハタケっち恋のランデブー中だからー」

「影ながら見守ってあげてー」

「え、マジ?」

 ちょっとニヤつく智盛。

「野暮な事はせずに僕らは屋上を、ちょっと見回ってみよう」

「へーい」

 畑の恋愛模様に、ちょっと気になりを見せた智盛だったが頷いて屋上駐車場を見渡す。ぱっと見人の姿は確認出来なかったが見えにくい車の中までは完全にはわからない。ただ火は鎮火したようだし居ようが特に問題は無い気がした。寧ろ屋上から下を見れば地上駐車場の車の渋滞や混雑している人々の姿。あちらの方が微妙な気がする。

 火事で避難しても渋滞で帰れない者が大多数なのだ。もちろん自動歩道や地下の箱車を使って帰った者も多いだろうし。車を置いたまま地下や別の店舗に流れて渋滞が落ち着くまで待っている者もいるだろう。ただ動かない者もいるわけで疲れそうな人混みに智盛は顔をしかめた。

「ねえ、チモ!」

 芯が焦った声を上げたので、智盛は反対側から地上を見ていた彼に駆け寄った。芯の声に畑も気付いたらしく近付いてくる。

「これ見てみて」

「おう」

 渡された魔法道具の双眼鏡。芯が指さす先を、それで覗き込む。

「……」

 智盛が黙り込んだ。畑が隣に来て言う。

「どうかしたのか?」

 芯が畑を見て言った。

「一応、渋滞の様子を調べたくて双眼鏡を持ってきたのですが…」

 智盛が眉をひそめながら畑に双眼鏡を渡した。畑は言われた通りの場所を見て何度か確認し黙り込む。その後、幾つかの周りを見て顔を上げた。

「どうやら…今日の渋滞の理由はこれか…」

 苦虫を噛み潰したような顔をして場所を反対側に移動して下を見る。下は地上駐車場。見て見回し畑は重い息を吐いた。そしてハッとして言う。

「鬼宮君は一緒に外で避難誘導をしていたが…」

『オニニは今二階で奇跡に立ち会ってるよー』

『命の誕生!』

『録画もバッチリ!』

『後でみる?』

 音声機から聞こえた言葉に三人は一度黙り込み畑が言う。

「とりあえず、そちらは鬼宮君に任せておこう…」

『途中で気付いてオイラ扉全部閉めちゃった』

『籠城するしかないよねー』

「……そう、か」

 畑は難しい顔をして頷く。

「まあ、ここも一度燃えていますし耐久性は、どうか不安な部分はありますね…」

 芯が申し訳なさそうに言う。畑は顔を横に振った。

「いや、この厄災は…我々では止められず、そのまま終わる所だっただろう…」

 首元の数珠を握り締め唸る畑。

「せめても…祈ろう…」

 瞼を閉じ祈りを捧げ始めた畑を一瞥し智盛はフラフラと歩き始める。

「チモ?どこ行くの」

 芯が聞けば智盛が呟く。

「もし入ってたら鬼宮手が離せねえだろうし二階の確認しにいく」

「ふは、いいね。僕も行こう」

「ん、生徒だけで…」

「畑は女護れよ」

 智盛が苦々しく言う。畑が少し戸惑った表情をし芯が苦く笑った。

「アズカちゃんが心配なんだね」

「……」

 智盛は黙って店内へ進んで行った。



 *


 スポーツ用品店から運動棍棒バットを手にして太い腰止ベルトに小斧を着けて進む。智盛は二階を一度点検するらしい。自分の所の子会社内の部品類に所有権は無いが後で買取を願われたら喜んで支払おうと思う。まあ、そんな機会があるかは不明だが。おそうじクンに二階に上がる為の道を塞がせる。照明に当たり霧の中の埃がパラパラと輝いていた。

『煙で若干、見えにくいけど箱車地下から上がってきてるねー』

『どうも閉めた扉じゃなく手動の非常口こじ開けたみたい』

「へえ」

『おそうじクンで再度閉鎖したけど、ホームセンター内に、まあまあいるよ』

「推定」

『二十ぐらいかな』

『一部、一階まできたよ』

『生きてる男女も一緒に』

「なるほど、ありがとう」

 ぼんやりと螺線道に上がる出入口で待っていれば走る音が聞こえた。背の高い男が何故か女を赤ちゃん紐のように前側に縛って抱えて掃除道具の棒を持って駆けている。

「私は子供じゃないのに!」

「落ち着いてお嬢!」

「戦えるわ!」

「ダメですって!」

 背の高い男と視線が合う。男はハッとして芯と、おそうじクンを見て叫ぶ。

「後ろにバケモノいるから気を付けてー!」

 そのまま通り過ぎていく男に芯は言う。

「二階に行って休んでてください。後でお話しを…っ」

 芯がバットを振り上げた。下から上へゴスッと音がして、目の前に揺れながらやって来た一匹が顎を上げて仰け反り倒れた。そのまま一歩踏み出すと横に振り下げて頭を潰す。元々、腕がおかしな方向に曲がって、ほぼ千切れていたソレは頭もベコリとバットの楕円型で潰れ首もガクリと曲がって動かなくなった。

「二階ね!了解!」

 男は、おそうじクンに手伝われて簡易の防壁を跨ぎ抜けると螺線の道を、タンタン上がっていく。揺られる女は顔をまっ朱にして憤慨している。

「もう歩ける!もう自分でできるから!」

「ダメですっ」

 芯は目の前の薄い霧を見ながら隣の、おそうじクンに話しかける。

「生命反応が無くても動くのは分かった?」

『認知しました』

「目の前のアレの動きを一匹止めてみて」

『了解です』

 おそうじクンが前に向かい一匹の脚を掴み動きを止める。芯は助走をつけると肩と腹を食われ腸が垂れるソレにバットを叩き込んだ。正面の顔がひしゃげ鼻と歯から血肉が飛び散った。しかしフラフラとまだ動くので芯は言う。

「同じ要領で首から上を狙ってみて。首の骨を折るでも良い」

『了解です』

 おそうじクンが腕をシュルシュルと伸ばし中途半端に折れたソレの頭を掴むと捻り、蓋を回すようにクルクルさせる。


 ビキッ。バキッ。ブチッ。


 骨のズレる音と肉が引きちぎれる音がした。身体は重い音を立てて倒れ頭だけが、おそうじクンの手に掴まれて浮かんでいる。芯は満足そうに頷いて褒めた。

「良くできました。じゃあ同じ要領で、もう一度してみようか」

『はい、マスター』

 心なしか嬉しそうに、おそうじクンは目元を光らせて次に芯に近づいてきた一匹を捕まえる。頬の肉が取れ顔の内側が出ているそれは歯に別の肉片を残していて何処かで何かを食べてきたとうかがえた。おそうじクンは首を持つとベキリっと音を立てて後ろに下げ捻って、また頭と胴体を外す。外した頭は地面に先程のと揃えて置かれた。

「よしよし良い子だ」

 芯は次に三匹現れた一匹の脚をバットで振るい上げ転ばせ、おそうじクンに任せると次に、もう一匹に背中から引き抜いた小斧を振りかざし頭に叩き込む。目玉を潰し耳後ろまで刃が通り足で蹴ってソレから引き抜く。次に後ろに迫っていた一匹に横からバットを叩き込み横に揺らめいた所で首と顎下の間から小斧を振り上げる。


 ド…ッ!ドスンッ。


 今度は上手く胴体と首が外れ芯は小さく息を吐いた。

「慣れるかな…」

 ふと、音が大きくなり奥側を見れば残り十以上のソレが芯に向かって歩いて来ている。芯は静かに息を吸った。


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