3 おそうじクン
薄暗い廊下。客層に見せる店舗側ではなく内側では、それぞれの店舗の要求に応える為に、自立型機械おそうじクンは伝達された情報を元に荷物を移動させたり何処かへ運んで行ったり忙しなく動いている。
街全体に各々存在する彼らは掃除が得意だが迷子の案内も得意だし頼まれれば出来る限りの事は支援してくれる。ただ権限や規制も存在するが。
その中で倉庫から箱を持ってきたそれぞれが喋る存在に指示を求めて待っている。箱の中身を確認した彼は使い方を彼らに説明し言う。
「合図したら各地でコレを使ってほしい」
『了解です』
おそうじクンが目元の表示を光らせて承認し、また他の面々の、おそうじクンも従う。
「その後、お客さん達の避難誘導もお願いしたい」
『了解です』
「店の中から、どうしても残りたい人以外の生命反応を出したら、その後は段々と閉鎖していく」
『了解です』
おそうじクンが各々動き出しバラバラに移動していく。
『マスターは避難されますか』
「僕はしない」
『休憩中の支配人は、どうされますか』
「今から確認しにいく」
『了解です』
耐熱性の手袋を着けて手の平に納まる細長い棒を手にしている彼はボンヤリと窓から外の街並みを眺め歩く。夜の街は渋滞でか混雑が増し何時もよりも人工的に明るい。
「…人の生命反応が無くなったモノが凶暴化したら掃除して欲しい」
『処理中、処理中。生命反応が無くなったモノが凶暴化とは?無くなる、消える、そういったモノは総じて動かなくなる筈です。凶暴化とは生命反応があるモノに起こりうる現象、または我々の海賊版、誤作動と予測します。しかし人となると情報にありません。強盗の類いと認識すれば良いでしょうか』
「そうだね…一度体験しなきゃだ。後で実戦するから、その時に覚えてほしい」
『了解です。最高のものをマスターへ』
「ありがとう」
その時、彼の携帯が鳴り画面には智盛という名前が表示される。彼は電話に出た。電話からは『芯』と呼ぶ声がする。
「はい、チモ」
隣に、おそうじクンが箱やモノが入ったバケツを持って平行して付いてくる。芯は電話をしながら廊下を歩く。
「美味しかったか。それは良かったね」
チラリと見れば奥に頑丈な扉が見えた。
「僕も屋上に向かう所だよ」
扉に近づく前に足を止め隣の外が見える扉に手をかざすと、スウっと開いていく。昼間の暑さとは違い涼しい風が廊下に入り込んだ。
「僕も屋上に向かう所だよ」
下眼前に広がる駐車場を眺める。肉眼で見れば小さいが道路に出る為に何台かの車が立ち往生している状態だ。大渋滞で亀の如く進んでは家に帰ろうとしているのだろう。
「そうそう今年からねー。総本部の会計研修、前に始まったって言ったのの関係……そうだね休日は棚卸しの手伝いする事になりそうだよ……うん。……えっ、持ち帰りしてくれたの?それは嬉しいなあー!」
嬉々とした声を出して隣の、おそうじクンに目を向ける。おそうじクンはバケツを地面に下ろし少し後退した。
「わー!ゴマ団子もかー。実は…お腹減っちゃって…」
おそうじクンが用意したモノにしゃがみ込むと細長い棒の突起を押した。先っぽに、パッと小さな火が点く。
「うんうん、わかるよ。団子兄弟の所の餅が一番だけど他も美味しいし食べたいよね。……二人のもさー」
彼が指で合図を送ると、おそうじクンの目元が光りホームセンター内にいる同じ型の、おそうじクンに合図が流れ込む。
「そうそう。毎年作ってくれるカキ氷、あれね。特大の今年も楽しみ。夏は目の前だよ」
バケツの中でバチバチと火が膨れ上がり煙を出していく。
「あ、でも。僕、餡蜜派だから餡蜜作ってほしいな」
身を溶かす物質を眺めながら芯は声を低くした。
「ん……?……いや、ちょっと……変な臭いがするんだ」
電話の向こうの智盛が言葉を止める。
「あれって…少し調べてみるよ」
彼は適当に廊下で靴音を立て。
「……煙」
電話向こうで何かを察した雰囲気が漂う。
「先が…よく見えないけれど…あれは…明るい…」
彼は大きな声を上げた。
「大変だっ!!!」
電話の向こうから少し焦った声が聞こえる。それに対し静かに応えた。
「火だ…燃えてる…ああ…」
電話の向こうの確認に肯定を向ける。
「見間違える筈もない……火事だ」
目の前で、バチバチと飛び散る火花、燃え生まれる煙。そして同じ事柄が各々で起こっている。彼の側にいた、おそうじクンもまた別の窓を開けて発煙筒を箱から取り出し身体から出した手でソレを捻ると煙を出した。
黙々と空に上がっていく煙。一気に煙が至る所を埋め尽くす。それはホームセンター内、各々から生まれ辺りは騒然としたのだった。
*
各種で少々性能名が違うが巨大都市とされる龍尾街に一番多くいるのが自立型生活補助機械、通称おそうじクン。彼らは龍尾街の日々の衛生管理や生活面を影ながら支えている。それの製作会社の親会社である鳥、雉家の跡取り息子、雉羽芯は正常な既製品であれば、おそうじクンの総支配鍵を持っている。
その鍵とは彼の声だ。
「ここで眠っている子達は、あとどれぐらい?」
『修理中を含めなければ五十七台です。含めると六十三台です』
少し甲高い機械音で喋り、おそうじクンは芯に従う。芯は少し考え。
「他に近くにいる?地下には?」
『範囲を隣接する建物のみに絞りますと他百七台前後が眠っております』
「稼働中を足すと?」
『自立型の移動率を考えて処理した結果、隣接内にいる同じ型は千二百台から千三百台になります。主に地下での動きが活発です』
「なるほど。もし壊れたら安全な限り、お互い直してあげてね」
『了解です、マスター』
「さっき見た僕の知人は認識してる?」
『申木智盛、団子キビ、団子モチ、畑颯、鬼宮薬姫この五名でお間違えありませんか』
「鬼宮さんの名前、姫が付くんだ知らなかった…」
『はい。娘として産まれてくる予定で早鷹で出された届出の名残です』
おそうじクンの声を聴きながら目元に流れた名前の文字列を歩きながら見て芯は頷く。
「鬼家も色々ありそうだ」
そうこうしている内に制御装置室に辿り着くと中から扉が開き。内側では一人眠る男と、おそうじクン達がいた。
「知人の団子兄弟を後で此処に案内してあげて彼らは、こういった操作が得意だから」
『了解です』
「他、知人も困っていたら支援お願い」
『了解です』
芯が軽い動作で制御装置室の緊急措置を押すとホームセンター内に激しい警報が響き渡る。
「ああ…そうだ。モールも支配権繋がるよね?」
『モールは最大規模のこちらで宜しかったですか』
おそうじクンが制御装置室の画面一つの情報を変えて映像を観せた。中に流れるはモール各地に付けられた防犯録画機。
「合ってる。そこに僕の知人の女性がいるんだ。桃島杏華どう?見つかる?」
『処理中、処理中。名前以外に該当欄がありません』
「…今から正式にID管理される事になっていた筈……条件を変えよう。今日、街外から来訪し古来学で学力試験を受けモールに来た黒髪、淡い灰色の瞳の女性…僕と同い年位の子はモール、または街内にいる?」
『検索条件に一名。こちらの方が桃島杏華で宜しいでしょうか』
画面には生物広場で犬用の餌や玩具を吟味する少女の姿があった。芯の碧眼が揺れる。
「合ってる」
『支援致しますか』
「うん。危険を察知したら全力で支援してあげて脱離してホームセンターまでは無理そうだろうから安全圏内に入れてあげて」
『桃島杏華認知、了解です』
「彼女の生命反応が最優先事項で」
『巨大集合店舗内にて同じ型、認識を統一、最優先事項、桃島杏華の生命反応、生命管理。最高のものをマスターへ』
「ありがとう」
芯は近くの、おそうじクンの頭を撫でると鳴っていた携帯の電話に出た。
「あ、畑先生ですか。……はい、そうです。……ええ。今、制御装置室に来て緊急措置を鳴らしました。……いえ、僕に出来る事は、これぐらいですから……はい。ああ、それなんですけど団子兄弟に任せようと思って……ええ。二人なら出来ると思います。……はい。近くのおそうじクンに話しかけてください場所を教えてくれます。……はい。流石畑先生、避難誘導…わかりました。おそうじクンに支援させます。……はい。どうかお互い無事に」
電話を切ると芯は幾つか人が居なくなった店舗のシャッターを閉め使えそうな道具類を販売している店舗から、近場のおそうじクンが数をそれぞれ持ち運び支援合流に向かう。それを画面越しに眺めて芯は制御装置室で母性型おそうじクンの膝枕で眠る男に目を向けた。
「彼は、どうやって眠らせた?」
『安全子守り坊や安眠の霧を母性型が。普段から過剰労働気味なので漸く眠ったと母性型は安堵しております』
「じゃあ安全な場所に寝床を調えて眠らせてあげて…少なくとも朝まで、ゆっくりと」
『了解です。母性型、指示が出た良かったな』
『はい。感謝します。マスター』
最新の母性型は沢山いる、おそうじクンの寸胴見た目の機械では無く、人の女性によく似ており眠る男性を横抱きにすると別室に向かっていった。




