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アウェイな屑  作者: いば神円
二幕 クレイジーホームセンター
11/45

2 火事



 地下食道通りには飲食店が建ち並ぶ。行き交う人々に合わせてすれ違う機械、自立型おそうじクンは落ちているゴミを積極的に拾っては自分の腹の中に入れて燃料にしていく。または頑固な汚れは各地にある掃除道具や設置してある水圧熱で取ったりと忙しない。そんな、おそうじクンと、すれ違いざまに缶や瓶のゴミを渡す人もチラホラ見られ地下は清潔を保っている。

 地下食道通りを通った奥階先には地下を走る箱車があり、それは地区を行き来する便利な交通機関である。王様の道楽前で合流した面々は旨味深い香りがする店の中に入って行った。

 中に入れば独特な詰め襟の肩から腕が出た服と頭に布を巻き付けた店員が大きな声で、いらっしゃいと挨拶してくれる。早速、全員量の多い定食セットを頼む事にした。この店定番の太縮れ麺、海鮮豚骨塩麺ラーメンと炒飯、餃子のセットだ。料金追加で大盛と唐揚げを足すことが出来たので畑以外は皆、追加した。育ち盛りである。

「芯、親の関係で呼ばれたってさ」

「そうか…ここの系列も彼の所の傘下だったか」

「あの機械が多い所は大抵、そうじゃね?」

智盛が、チラリと懸命に動く、おそうじクンを眺める。先に置かれた水挿しからコップに水を足して、ゴクゴク。

「まあ後で合流って事で、あ、麻婆豆腐とエビチリ頼んで良い?」

「残さないなら良いぞ」

「残さないから、春雨とレバニラと白飯大盛と替え玉も欲しい」

「食え食え。他のも残さないなら頼んで良いからな」

「畑、良い奴!」

「先生をつけなさい」

「畑先生ありがと」

「よし」

「モモマンたべたーい!」

「ソフトクリームたべたーい!」

「それは食後な」

「私も後で杏仁豆腐…良いでしょうか…」

「おお。食べなさい。替え玉でも他でも遠慮せずにな」

 鬼宮も少し恥ずかしそうに言えば身体を揺らして笑う畑。

 そうこうしている間にセットが彼らの前に並べられていく。智盛の腹が大きく鳴った。それぞれが手を合わせて言葉を放つ。

「頂戴致します」

 鬼宮が、ゆったりと言い。

「我が敬愛する祖国たる龍日の恵に感謝し心身の血肉を万物の源とし終わりし時、共にとお誓いする」

 畑が何やら首に下げた数珠と共に祈り。

「いただきまーす!」

 智盛が元気よく言い。

「胃袋幸せにしまーす!」

 栗毛団子が軽く言い。

「愛情込めて食べまーす」

 金髪団子が嬉しそうに言った。

 男子生徒達はガツガツと食べ始め畑は祈りが終わると先程の追加注文に、さらに注文を店員にした。

「すみません。追加で炒飯大盛と…餃子、唐揚げを二人前、包んで頂けますか」

「りょりょ!持ち帰りあざーす!」



 *

 

 夜の街は何時にも増して喧噪に包まれていた。酷く耳鳴りがする警報器が鳴り響いている。夜空に浮かぶ内側が丸く欠けた光瞳に情緒など感じる暇はなく。赤くチラつく炎と目に痛い程の煙が人々を焦らせ、けたたましい警報が、またその不安を煽っていた。

「火事だー!」

「押すな!危ないだろ!」

「いや!痛い!」

「邪魔だっ」

 乱れる人々を駐車場に避難させるのは、迷子案内や店内掃除、駐車場混雑等を助ける自立型機械おそうじクン。その、おそうじクンと共に古来学学館の畑と鬼宮は正義感で後押しされてホームセンター内から避難誘導の手伝いをしていた。

 今宵はあいにく異常な程の渋滞で自動運転専用道路は比較的マシな方だが、それでも動く人が多すぎて先ず専用道路に入るまでの順番待ちで、ごった返し手動の方の道路もまた酷く人々は行き場のない苛立ちを感じていた。

 だが目に痛い煙に埋もれたホームセンターに入るわけにはいかない。命がかかっているのだ。幾人かは地下を通る箱車に乗ったり自動歩行を使い歩いて帰る事を選び緊急事態で車を放置するのも見受けられた。


 カシャッ。パシャ。


 写真音がする。戸惑いや逃げや怒りが辺りに立ちこめていたが、その中でも駐車場の安全圏内、中間地点で行き場無く暇を持て余した人々は携帯のカメラを傾けて現状の写真を撮り掲示板等に書き込んでいく。不安、不満や怒り興奮材料、面白おかしく並んでいく情報。そうやって時間を潰していた人々だったが、ふと何か違和感を感じ始める。

 火事の為に起きていた喧騒。ホームセンターを見れば煙は一部だけ残り下は頑丈な扉が閉まり厚い銀扉シャッターも下りている。屋上に向かう為の車の通行部分も放置された車は、そのままに手前側から入口が塞がれ。ホームセンター自体は火事で終わりゆく静寂さを漂わせ。外から地下に向かう道は開いているがホームセンター側からの道は扉が閉まっている。

 そう、火事を広がらせない。煙を塞き止める。人が入り込まない。その手段は間違っていないような気がした。しかし何か。何か違和感が。

「謝れ!」

「…や、ゃっ、ひ」

 焦る客達が、どこぞかの店員エプロンを着けた女性を捕まえて怒鳴りつけている。男達は、お前が悪い、お前の所為だと責め立てて一部は、それを録画におさめ一部は白けたように眺めている。関わり合いになりたくない。又は誰かが責任を断罪を受けるべきという雰囲気が、その場には出来上がっていた。

「泣けば許されると思うなよ!このクソアマが!」

「お前が注意しないから、こうなったんだ!」

「責任をとらすからな!」

 老人が女の髪を無造作に掴み、中年男が拳を握り振り上げる。震える腕で顔を隠し嗚咽を漏らして涙を流す女が瞼を瞑り言葉無く拳を受ける瞬間。

「何をしているんだ!」

 そこに髪の無い男性、畑が止めに入った。手の平が中年の拳を掴み腕をひねり上げると地面に放り投げ。

「ぎゃっ!」

 次に老人の耳を掴み上げる。

「いっ!いでぇ!やめっ!やめろっ!」

 慌てて女の髪から手を離して、バタバタと暴れ畑に、ボコボコと手を振りかざす。が、畑は老人も耳ごと地面に放り投げる。すると近くで同じく怒鳴っていた別の老男は畑に睨まれると後退りして舌打ちの後、人混みに逃げていった。

 畑は、ぱっと表情を変えると涙を流し放心状態の女性店員に寄り添い自分の上着を彼女の肩にかけ声をかける。

「怖かったね」

 女が畑を唖然と見上げ鼻水や涙をポロポロ流しながら静かに頷いた。

「失礼」

 言葉が出ない女を横抱きにすると畑は、ざわめく人をかき分けて歩き始める。

「逃げる気か!」

「謝罪しろ!」

「訴えてやるからな!」

「自衛団を呼ぶぞ!」

 後ろで息を吹き返した老人と中年が怒りを露わにして声を上げるので畑は振り返ると言った。

「…録画も大いにされているようですし、どうぞ罪に問われてみては、いかがですかね?」

「は…」

「あ…」

 シャッター音、録画。傍観者達は幾人は気まずそうに畑や女性店員から目を逸らし。幾人は面白そうに撮って、その場で掲示板に書き込みをしている。

「や、やめろ!」

「消せ!」

 慌てて周りに牽制する男達を後目に畑は駐車場から足を進ませた。そのまま火の手が治まりつつあるホームセンターの駐車場に上がる側の道に向かう。

「火の手は鎮火したと報告がありました。店内に残っている煙も、だいぶ落ち着いたので怖いでしょうが…緊急事態です。屋上に向かいます。ここの混沌とした駐車場広場よりは幾分か貴女を害する者は減りますので…」

 畑が音声機で何か連絡を取ると道の閉鎖が開き。通ると後ろで閉じる。淡々と女を横抱きにしたまま屋上駐車場まで行くと乗り捨てられたトラックの扉を開けて、彼女を寝かせた。

「タオルはこれを使ってください今、水を持ってきますので」

 そう言うと屋上にある店内出入口に走り内側自販機から水を買ってくる畑。彼女は泣き腫らした顔を拭き水を飲むと震えながら視線を向け。トラックの扉を開けて外側で視線を低くし心配そうな表情をする畑を認識し呟いた。

「ぁ、あり、がと…ごっぅえ…うっ」

 嗚咽を漏らす女の頭を無言で撫で彼女の気が落ち着くまで畑は残りを他に任し側にいる事にしたのだった。



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