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アウェイな屑  作者: いば神円
一幕 始まりの音
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さよなら墓守棺桶へ

ゾンビが大好きなので、なんちゃってSFやら異世界やらダークファンタジーやら、でも近しい世界風味やら好きなモノの、ごった煮で書いていきます。良いとこどりです。能力、魔力、人外、獣人など出ます。百合要素、男色要素も。一応ダブルヒーロー風味していますが他のキャラ同士でも恋愛します。人間模様、群像劇、神様視点、脳内パズルな感じの文章でやっていきます。よろしくお願いします。


 

 夕陽が落ちて姿を現した双子の玉が欠けていた。普段、大きな金色の玉は半分の輪郭を残し内側が丸く暗く身を曲げている。同じく欠けた小さな輪郭。その姿は子を背に乗せて帰路を進むような穏やかさを連想させる。流れる雲の合間から龍の輝く瞳、光瞳こうひは今夜も美しい。

 墓守の男は腕に着けた電子機器で夕方の臨時放送を見聞きしながら、つまらなそうに欠伸を漏らした。

『一部機関で事故が連鎖で発生し現在巨大都市とされる龍尾街りゅうおがいの地区全体にて大規模な渋滞が……』

「隣の街か」

 欠伸の男に近寄って来た毛深い男は持っていた箒を軸にして浮かび上がった粒子の映像を覗き見る。映像には潰れた乗物の数々が映っており爆発したのか燃えているのか黒煙も流れ見えた。

「能力者が撮ってんのかね」

「最近のなら、飛行録画機じゃないですか。お外の取り入れか鳥の所の……」

「雉家か。彼処は斬新すぎて、どうも俺は好かん」

 毛男はドスリッと石畳の上に座り胡座をかき背筋を伸ばす。

「じゃあ丁度良いかもしれませんね」

「何がだ?」

「この街の車は、ほぼ雉家の製品ですから」

「ん~あ~? 製品が雉家でも運転した野郎の問題だろ」

「この街は、ほぼ自動運転機能展開中です」

「お?」

「今の所、掲示板で予測されているのは雉家の開発管理責任とか何々の機能の所為ではとかとか」

「そうか自動運転で交通事故が、ほぼ無くなったって話しだったのに展開中にヘマしたって事か」

「ですです」

「所で」

「はい」

「何か変な音しねえか」

「ん~?」

 男達が石畳の縁に歩を進め広がる膨大な数の墓の円に目を向けると一部から黒い靄が拡散しているように見えた。その靄は石畳の下から湧き上がりボコボコと石を押し上げ揺らしている。まるで沸騰をしかけているような様で二人は息を呑んだ。

「……何故だ」

 男は唖然としている。

「何故、今、神聖な龍神様の土地で瘴気が湧き上がるんだ……」

「前に龍器が盗まれましたよね」

「なっ半年も前の話だぞ!」

 毛男が眉をひそめる。

「他にありますか?」

「……あれは終わったはず……」

 毛男が冷や汗をかき背筋を丸めて頭を抱え、ピタリと止まる。

「まて」

 毛男が、のそりと身を伸ばし後の男に目を向けると彼は細い目から薄ら瞳を覗かせており口は笑っているが笑っておらず何処か蛇を連想させた。

「お前は相方の友人で臨時で来たと言っていたよな……」

「言いましたね」

 男は少し後退り訊ねる。

「……同業者か?」

「どうでしょう何がお好みですか?」

「……」

 毛男が持っていた箒を捻ると丸く身を包んでいた木の筒が外れ細長い銀色の刃が身を現す。それは夜空の光瞳に照らされて艶やかに輝いた。夜の闇の中で、それはそれは目立つ明るさに蛇男は口端を上げた。

「生き急いでますね」

「ッ……! 誰だっお前! アイツは、どうした!」

「彼は風邪で休養中で僕は同業者で理解者であり龍器の事も知っている」

 毛男が戸惑ったように瞳を動かし眼前下先の瘴気と蛇男とを交互に見る。

「……本当か?」

 焦りを含んだ声は何処か縋りたいものを感じさせた。

「はい。もちろん嘘です」

「……くそ! くそ! くそ! ふざけてんじゃねええええ!」

 顔を朱くし毛男が声を荒げ刃物を振りかざした瞬間爆ぜる音がした。

「……ぁ」

 カランと刃物が力を無くし下に落ちる。

「僕らはロストの血と共に繁栄してまいりましたが」

「うわっ、ぁ、あっ」

 脂汗を滲ませた毛男が尻餅を付き瞳から涙を滲ませ頭を振る。

「……ぉ、れの、ゆびッ」

「最近では重力や星といったモノにも注目が集まっているようです。僕としましては外も良いですが内をもっと探して、あっ」

 コホンッと一咳。

「失敬、仕事中は私でした。商人は商人らしく丁寧を基準とし相手を翻弄し一番の手で取引を持ちかける。でしたね」

 うんうんと頷いて蛇男は夜空を見上げる。

「命って尊いでしょうか? どう思います?」

 語りかけてくる蛇男に何とも言えない目を向けて毛男は声を上げる。

「……ゃ、やっぱり同業者なのか!? お前も、あれが欲しかったのか? 其れとも」

「簡潔に言いますと何処に、おやりになりましたか」

「……言ったら」

「助かります」

「オークションだ! 闇市の! 隣の都市で龍渡りの日の記念の目玉商品として競りに出したんだ!」

 蛇男は、それを聞き、はてっと片眉を上げた。

「……名前を変えました?」

「っ、わかるやつにはわかる! 高貴な茶器として出したんだ!」

「あれか……」

 一つ頷くと笑顔を見せる蛇男。

「貴方は僕より正直者そうだ。ありがとう」

 蛇男が片手を上げると毛男の声が途絶え、ズドンッと重い音が石畳に落ちる。

「神聖な場を汚してしまった」

 暗闇から静かに現れた眼帯をした女が肩を竦め転がった毛男の頭を踏みつける。

「拷問スレば良かったノニ」

「正直者には慈悲を与えなきゃいけないと思いまして」

「……坊ちゃんは優しイ。好き」

「ありがとう僕も君が好き。足上げて」

 坊ちゃんと呼ばれた蛇男は懐から取り出した布で血で汚れた眼帯女の靴の汚れを拭き取ると満足そうに頷く。

「それにしても代々続く墓守が入れ代わって長い間気付かないなんて不思議だよね」

 嬉しそうな表情をし頬を染めた眼帯女が呟く。

「……愛してル」

「ありがとう~僕もだよ~」

 軽率な重いやり取りを横目に数人の男達が姿を現し側の死体を片付け石畳を掃除していく。その中で近付いた一人の男が言った。

「坊、今から競り落としタ相手の所、行くカ?」

「ん~どうでしょう。龍器の場所が今更掴めた所で、もう事は始まってますし危ないですし」

「坊ちゃんが危険ナら守ルゾ!」

 眼帯女が嬉しそうに言う。

「ありがとう。君が側に居るかぎり心強いよ」

 坊は腕の電子機器の粒子映像を眺めながら、ふうっと息を吐く。それに合わせるように男は呟いた。

「鳥の暴落ダナァ」

 映像の乗物の塊の間から蠢く影。

「この都市ぐらい消してしまえば楽なんですけど」

 自分の股の間に挟んだ眼帯女の脚に頬を付けながら思案する。

「商人は合理的なので命を懸けてでも任務を達成すべきか迷うのが正直な所です」

「前金貰ったダロ」

 男が呆れたように呟き。

「これの分を差し引いてお返しするという手段もありますが信用を落とす行為も悩ましい……」

「こんナ鈍イ肉の塊余裕で潰してみせル」

 眼帯女が自信げに言う。

「ありがとう。君なら僕を生かしてくれるだろう」

 坊は唸り片付け袋に入れられ運ばれていく先程のモノに目を向ける。

「噛まれていない死体アレは確認で」

「了解」

 男が運ぶ者達に指示を出す。

大陸むこうは向き不向きはありますが浄化能力を持つ魔術士と似た聖龍者せいりゅうしゃが、この国にもいますから彼らの動向次第で変えますかね」

「先に把握スレバ確保したんダがナァ……」

「早朝から大陸の方々を呼び寄せても……元々、人気職ですからね……この国の聖龍者も、そうですが中々……あっ」

 パチリッと瞼を開ける。

「そう言えば……依頼人のお弟子さん、その方面強かった筈。今って龍尾街ですか?」

「……あの暇人の数日前の最終連絡ハ全店舗の龍舞子の豪遊終了と来たナ」

「なるほど」

 坊は腕の電子機器の粒子に指先をかざし通話の表示を出す。トルルルゥッとした初期音がしたかと思うと中断され留守電に繋がった。

『お仕事の要件はかけ直してきくにゃー! 今は、お楽しみ中だから駄目にゃー!』

 ピーッとした音の後に坊は呟く。

「生きてますか? 本来、魔物が出る下階での屍呪者アンデット化が、そちらの都市で始まったようです。出番ですよ猫君」

 簡潔に説明し電源を切ると坊は肩を竦めたのだった。



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