02 前世の終わり
「柚葉先輩って、母子家庭なんですか?」
そんなことを陸上部の後輩に尋ねられた。
チェーン店のカフェで買ったアイスコーヒーのストローを加えながら「んーそだよ」と生返事。
「えへへ。私もなんです。先輩すごくかっこいいから、なんだか同じってわかってうれしいです」
突然がっちり手のひらを握られ、ずいっと上目遣いで近づいてきた後輩ちゃん。
「あ、ずるぅい。私も先輩とおちかづきになりた~い」
女子高に進学して、ただ何となく陸上部に入部した。
女子高だから、当たり前だけど在籍しているのは女子部員だけ。
そんな状況なのに何故か、凄くモテてる。
私、モテ期だ。
相手は女の子だけどね。ま、後輩はかわいいけど。
「あはは。もう、ケンカしないの」
片手しか空いていない私の手を奪い合う二人。
それを微笑ましく思いながら、自然と笑みがこぼれる。
「……え?」
さっきまで満面の笑みで騒いでいた後輩の一人が、ぴたりと止まる。
私も彼女の視線の先に目をやると、大橋の手すりの奥側にぼーっと突っ立っている女生徒がいた。
あれって、ウチの制服だ。しかも、あの子って。
私たちが今歩いているこの大橋は……自殺の名所。
いやな予感しかしなかった。
茜色に染まった少女の体が、徐々に傾いていく。
キャーっと絶叫する後輩の声を背に、私は駆け出していた。
スクールバッグを投げ捨て、一目散に少女のもとへ。
走れ。走れ。
もっと、はやく。
ピューピューと、風を切る音が耳に鳴る。
いったい何のために今まで走ってきた。
いやこんな状況に陥るなんて1ミリも考えたことなかったけど!
間に合うとは思わなかった。
けれども、飛んだ。
橋の手すりを飛び越えて、一目散に少女のもとへ。
間に合え。
手を伸ばせば、届く。
どうしてだろうか。
私の性格なのだろうか。
理由なんてない。けれども、私は無性に。
……誰かを助けずには、いられなかった。
【あなたは正義――英雄魔法(闇)を与えます】