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【書籍化】幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった  作者: 斧名田マニマニ


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7/30

注目を浴びたらクラスメイトに助けを求められた

 その日のホームルームで、男女両方を合わせたリレーの順番が発表されると、教室内は授業の時以上の大騒ぎになった。


「一ノ瀬くん、イケメンなだけじゃなくて足まで速かったの……!?」

「運動部でもないのにすごすぎない!?」

「あれ? でも一年の体育祭では別に注目されてなかったよね。なんで?」

「そんなことより、一ノ瀬くん、かっこよすぎない? スポーツ万能のイケメンって……好きになっちゃいそう……っ」


 女子たちがざわつきながら、俺のことをチラチラ見ている。

 これはかなり気まずい。

 足が速いだけで好きになるって、原始的な感性で恋愛する子もいるんだな……。


 ◇◇◇


「一ノ瀬くん、また注目されてるね」


 ホームルームが終わった後、帰り支度をしながら雪代さんがそう声をかけてきた。


「雪代さん……。まあ、今回も一過性のものだよ。将来的に運動選手を目指すわけじゃないなら、足の速さなんて役に立つポイント少ないし」

「そうかな。学校の中ではヒーローだよ? 私も一ノ瀬くんみたいに運動神経がよかったらなぁ……」


 雪代さんがはぁっと重い溜息をつく。


「スポーツ、苦手なの?」

「うん……。とくに走るのが……。だからリレーってすごく憂鬱なんだ。――ね、一ノ瀬くん。コツってないかな」

「どうだろ。あるのかもしれないけど、俺はわかんないな」

「そっか……。足の速い人に走り方を教えてもらったら、少しはマシになるんじゃないかなって思ったんだけど……」


 それは一理あると思う。

 でも、俺なんかじゃなくて、走りに詳しいやつを頼らないとだめだろうけれど。


 雪代さんはしょんぼりとして、机の上に突っ伏してしまった。

 ふわふわした髪が窓から入り込む風で揺れている。


 ……なんか床にぺたんと寝ているシーズーみたいでかわいいな。

 女子は絶対喜ばないであろう比喩だけど、ついついそんなことを考えてしまう。


「……体育祭、休みたい……」

「そんなに嫌なの?」

「そんなに嫌なの」


 オウム返しをしてきた雪代さんが、少しだけ頭をあげて、いたずらっぽく笑う。


 うーむ。

 何か力になれればよかったんだけどな……。


「なあ、一ノ瀬。ちょっといいか?」


 突然、話しかけられ、雪代さんと二人で声の主を振り返る。

 俺たちの机の前に立っていたのは、蓮池千秋というクラスメイトだ。

 身長が一八〇センチを超える長身で、鋭い奥二重が印象的な強面タイプの男である。

 部活は陸上部で、今朝のタイム計測ではクラスで二位の記録を出し、リレーのトップバッターに選ばれていた。


 そんな蓮池が俺に何の用だというのだろう。

 軽く首をひねりながら、次の言葉を待つ。


「――聞きたいことがある。おまえ、どれぐらい本気でリレーに挑むつもりでいる?」

「本気って……?」

「死ぬ気で勝ちに行く気があるのかと聞いている」

「いや、死ぬ気はないよ」


 俺が即答すると、蓮池は眉間の皺を深くさせた。


「……それでは困る」


 なんとも要領を得ない会話だ。


「言いたいことがあるんだよね? 遠慮せず言って」

「……わかった。俺は、今回のリレーで何があってもアンカーになるつもりでトレーニングしてきた。だが、一ノ瀬にあっさり記録を抜かれてしまった」

「ああ、アンカーの座を譲ってほしいって話? それなら別に――」

「違う。俺はおまえに負けた身だ。それは認める。だから俺の代わりに、命がけで二組のアンカーを打ち負かして欲しいんだ……!」


 俺と雪代さんは思わず顔を見合わせた。

 さっきから『死ぬ気』だの『命がけ』だの選ぶ単語がやけに仰々しい。


「二組に何か負けられない理由でもあるの?」

「二組じゃない。二組のアンカーに選ばれている桐ケ谷太一、あいつをなんとしても打ち殺してやりたい……っ」


 だから単語の選び方……!


 って待てよ。


「桐ケ谷太一って陸上部の?」

「ああ」

「甘ったるい顔したイケメンだよね?」

「いかにも女たらしっぽいだらしのない顔をした男だ!」


 そ、そういう言い方もあるか。


 でも、どうやら俺の思い描いているヤツと蓮池の言っている男は、同一人物のようだ。

 俺が今朝も駅のホームで見た同級生、つまり花火の相手がその桐ケ谷だった。


「なんで桐ケ谷をそんなに負かしたいんだ? 同じ陸上部同士だから、ライバル関係にあるとか?」

「あいつは! 俺の彼女をッ! 寝取ったんだ……っ!!」

「寝取ったって……」


 とんでもない単語が飛び出し、俺は慌てて雪代さんを振り返った。

 彼女はかすかに頬を染めて、眼鏡の下の瞳を揺らしている。

 そりゃあ動揺もするよな。

 真昼間の教室で話すような内容じゃない。


 でも怒りに我を忘れているのか、蓮池は俺と雪代さんから向けられる戸惑いの眼差しにも気づかず、悔しそうに歯を噛みしめている。


 あれ、でも妙だな。

 蓮池の彼女を奪ったらしい桐ケ谷は、数日前から花火と一緒に登校している。

 花火が桐ケ谷の腕にくっついたりしていたから、ただのお友達同士というわけではないだろう。

 じゃあ蓮池の彼女はどうなったんだ……?


 俺が疑問を抱いていると、蓮池は絞り出すような声で説明を続けた。


「……寝取られたことを恨んでるんじゃない。それは俺が不甲斐なかったから悪いんだ。俺から奪ったって、大事にしてくれたんならよかったんだ。俺だって潔く身を引いたさ! でもあの野郎は、そうやって奪った俺の元カノをあっさり捨てて、一年生の女子に乗り換えやがったんだ! 俺はあいつがどうしても許せない……!」


 あー……そういうことか……。


「……あんたも大変なんだね」


 他に言葉が出てこず、そう言って励ますと、俺の机にバンッと手をついた蓮池がグワッと身を乗り出してきた。


 ち、近いな……。


「一ノ瀬……! おまえの実力を見込んで、頼みたい! 俺の代わりにあの調子に乗ったクズ男を懲らしめてやってくれ……!」

「うーん……」


 桐ケ谷の新しい相手が花火だということはどうでもいいが、蓮池に対してはちょっと同情心を抱いた。

 男女間のいざこざの結果、苦労している人間だから、シンパシーのようなものを感じてしまったのかもしれない。


「具体的に何をすればいいの?」

「俺が走り方を教える。そうすればおまえは今より確実にタイムを伸ばせるはずだ。そして万全な状態でリレーに挑んで欲しい!」


 待てよ。

 そうか。

 こいつは陸上部だから、走り方に詳しいのか。


「わかった。協力してもいい。でも一個条件がある」

「なんだ。なんでも言ってくれ」

「走り方、俺だけじゃなくて彼女にも教えてあげてくれる? そうしてくれるなら手を貸すよ」


 そう言って雪代さんのほうを見ると、彼女は「えっ」と声を上げ、大きな目を丸くさせた。


「さっき走り方を教わりたいって言ってたから、どうかなって思ったんだけど」

「でも、私なんかのために……」

「遠慮しないで。彼女を取られちゃった蓮池に同情したのもほんとだから」

「……俺、彼女を取られちゃったんだよな……」


 やり取りを聞いていた蓮池がガクッと肩を落とす。


「さっき自分でも言ってたじゃないか」

「人に言われるとますます実感させられるんだよ……」


 そういうものなのか?


「で、二人はそれでいい?」


 俺が問いかけると、雪代さんと蓮池は同時に頷いた。


「私はお願いできるなら、すごく助かる……!」

「俺も異存はない。二人ともよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 こうして俺は、雪代さんのコーチ役を依頼する代わりに、花火の彼氏を全力で負かしに行くことになったのだった。

私が読みたい幼馴染ざまぁを書いてみました

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