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舞台裏

 体育祭が無事終わり、雪代さんと俺は蓮池経由でクラスメイトたちが開くお疲れ様会に誘われた。

 集合場所は駅前のカラオケボックスだ。

 そういう集まりに誘われたことも参加したこともないから、どうしたものかと思ったけれど、雪代さんから「一緒に行きたいな」と言われてしまったし、クラスメイト達も「主役がこなくてどうするんだよ!」と騒ぐので、とりあえず顔は出すことにした。


 なんとなく流れで、カラオケまでは雪代さんとふたりで向かう感じになった。

 思えば女の子とふたりで行動するのも、花火以外では初めてだ。


「一ノ瀬くん、更衣室で着替えたら、教室に行けばいい?」

「うん。昇降口でもいいけど、あ、でもどうせ鞄を回収しないといけないか。じゃあ教室にしよう」


 自分たちの使った椅子を用具入れに運び終え、その脇でこの後の段取りを話していると、グラウンドに続く通路のほうからよく知った声が聞こえてきた。


「――こんなところに呼び出してなんなんですか?」

「ごめん、花火ちゃん。ちょっと今日、本調子じゃなかったみたいでさ」


 花火と桐ケ谷がこちらに向かって歩いてくる。

 二人の間に流れているのは、どことなく不穏な雰囲気だ。


 できれば花火と遭遇したくない。

 しかもタイミングが悪いことに、他のクラスメイト達はすでに撤収した後で、ここには雪代さんと俺しかいない。

 そのせいで、人だかりに紛れてやり過ごすという手段は取れなかった。


「雪代さん、こっち……!」


 そう思った俺は咄嗟に雪代さんの手を掴んで、木陰にしゃがみこんだ。


「……っ、一ノ瀬くん……?」

「ごめん。ちょっと顔あわせたくなくて」

「あ、そ、そうだよね。リレーで倒しちゃったあとだし、気まずいよね」


 どうやら雪代さんは俺が桐ケ谷に会いたくないのだと誤解したようだ。


「本当は花火ちゃんにもっといいところ見せたかったんだけど。ま、次はインターハイ予選があるし――」

「次ってなんですかぁ?」

「えっ」


 花火たちはよりによって俺たちが隠れている木陰の手前で、歩みを止めてしまった。

 これだともう二人が立ち去るまで隠れているしか術はない。


「どうして次のチャンスを与えてもらえるなんて思えるんです? その図々しさやばいですよ」

「は、花火ちゃん?」

「わあ。馴れ馴れしく呼ばないでください。『彼氏のフリ役』はもう終わりですよ」

「フリってなに!? 俺、君の彼氏だろ!?」

「はぁ? いつ誰が言いました?」

「だ、だって……毎朝俺と登下校したいって言ってくれたし、自分から腕にくっついてきただろ!?」

「ぷっ、あはは! それだけで勘違いしちゃったんですかぁ? どれだけ残念な脳みそしてるんですか。筋肉に栄養分全部持ってかれちゃってるんですね。それなのにあんな醜態さらしちゃって。あなたみたいに何の価値もない人が、私の彼氏になれるわけないじゃないですか。――私が生涯彼氏にしてあげる人はただ一人だけですし」

「え……ど、どういう意味」

「あなたには関係のない話です」

「と、とにかく俺、悪いところは直すから! 考え直してよ! 君のために彼女を振ったんだよ!? それに君が好きだっていう髪型にわざわざ変えたのに……!」

「出た~。頼んでもいないのに勝手にやったことを、恩着せがましく言ってくるパターンですね。役立たずなだけじゃなく、さらに醜態をさらしてくるとか勘弁してください」

「そんな……」

「当て馬にすらなれないなんて、本当に残念な人。それじゃあ、さようなら」

「……っ」


 地べたにへたりこんでしまった桐ケ谷を一人残して、俺たちがいるのとは逆の方向に花火が去っていく。

 桐ケ谷はしばらくその場に座り込んでいたが、やがてフラフラと立ち上がると、魂が抜けたような表情で帰っていった。


「痴情のもつれだね……」


 必死に言葉を探した感じで、雪代さんが言う。

 痴情のもつれという表現が面白すぎて、俺はちょっと笑ってしまった。


「たしかに、高校生であの修羅場はすごいね」

「それに比べて私の高校生活は普通だなあ」

「そっちのほうがいいよ」

「かな……。健全に生きて健全な恋をするの」

「健全さ大事」

「大事大事」


 雪代さんと俺はそんな会話を交わしながら、二人でふふっと笑い合った。

 花火と桐ケ谷が残していったどす暗い暗澹たる空気を追いやるように――。

私が読みたい幼馴染ざまぁを書いてみました

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