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第四章:敵の正体

襲撃されてから半年が経ち十二月になった。


ロンドンの冬は雪が降らない割に寒さが尋常ではなく酒の進みが速くなる。


襲撃があってから飛天は暗黒街の人脈を活かして貧民街の奴らを洗わせていた。


それで分かった事は身なりの良い若者が貧民街の者たちに仕事を与えると言って何処かへ連れて行ったらしい。


胡散臭いと思った連中はひっそりと身を潜めていたそうだ。


私はというと人脈も無く、暇な一日を過ごしていたかというとそうでもなかった。


現在、私はある女の行方を追っている。


依頼主は彼女の両親で熱心なカトリック信者だったが、娘はそれを嫌って一週間前に家を出て行ったらしい。


両親を見ていると娘が家を出たのも分からなくもないと思った。


カトリックはプロテスタントよりも頭が固く教えも厳しく他の宗教すべてを異端として見なしているからだ。


そんなガチガチのカトリック信者の両親の元で育った娘はどんなに辛かっただろう。


自由な時間を束縛され将来も決められていたに違いない。


そんな彼女も大学生になり恋をするようになったが両親は大反対して恋は叶わず絶望して家を出た、というのが私の推測だ。


断っても良かったが、気紛れで人助けをする事にした。


そして今は街中で娘の行方を探し回っていた。


すると直ぐに手掛かりを見つけた。


「写真の娘なら二日前に身なりの良い男に声を掛けられていたね」


男の容貌や風体も聞くと貧民街をうろついていた男と一致した。


私は何か裏があると思い聞き込みを続けた。


丸二日で分かった事を紙に書いてみた。


男は自分をキリスト教徒だと言って貧民街の者たちに仕事を与えると言って連れ出して無人島に建てられた建物で働かせている事。


家出娘も男に連れて行かれた事も分かった。


私は娘の事を両親に報告するかどうか考えた。


話しを聞かせれば娘を取り戻しに行って私の仕事は終わりだ。


だが、裏に何かあると思い報告は見送る事にした。


二日目の昼過ぎに事務所に帰ると飛天が玄関前で待っていた。


「・・・・帰って来たか」


飛天は吸い終えたセブンスターを床に捨てた。


その仕草からどこか苛立った様子が窺える。


「話がありそうね。先ずは中へ」


私は飛天を事務所の中に入れた。


「半年の間で調べた事を教える」


進められたソファーに座ると突拍子もなく飛天は話し始めた。


飛天の話では半年の間に貧民街の他に家出人なども行方不明になった事。


そのどれもが身なりの良くキリスト教徒だと言う若い男と接触している事。


そして男に連れて行かれた人間は無人島の建物に連れて行かれ人が変わったように敬虔的な性格になって平和を望むようになった事。


「気になって男の正体を調べてみた」


懐から封筒を取り出して私に差し出した。


私は封筒の中から資料を取り出して見てみる。


男は二十四歳の時に平和の為としてマフィアのボスを殺して刑務所に入って結婚していた妻から離婚を宣言されたがカトリックの為に離婚は成立しないと裁判を起こすが離婚は成立した。


しかし、男は刑務所から出所すると別れた妻と再婚相手をナイフでめった刺しにして殺して再び刑務所に入った。


二度目の刑務所でヴァチカンから破門を勧告されて刑務所の中でも差別や虐めにあって心身ともに疲れ切って等々イカレタらしい。


それからは平和の為と称して馬鹿騒ぎを起こしたり演説をしたりして警察の常連客となったらしい。


現在四十八歳になった彼は自分に浸透した者達が集めた金で無人島に巨大な施設を作って何やら怪しい行動をしている。


そして男によって殺された元妻の両親が飛天を訪ねて仇を討って欲しいと依頼してきたらしい。


「これが、俺の調べた結果だ」


飛天は話しを終えるとセブンスターを咥えながら足を組んだ。


「妄想に取り付かれた哀れな男だな」


まったく憐れみの念を感じない言葉を言いながら飛天は煙を吐いた。


「それでお前は?」


「私も似たようなものよ」


自分の調べた事と依頼も話した。


「・・・・なるほど」


飛天は何やら思案している顔だった。


暫く考えた後に飛天は唐突に言った。


「・・・・少し暴れるか」


最初は何を言っているのか分からなかったが、直ぐに理解した。


飛天は無人島に乗り込む気なのだ。


自分を殺そうとした報復と両親の依頼を果たす為に・・・・・・・・・


「その話に乗ったわ」


私は一にもなく言った。


売られた喧嘩は倍返しが私のモットーだし何より男自身が気に食わない。


「今から二時間後に無人島に乗り込む」


それだけ言うと飛天は事務所を出て行った。


私はそれを見送って準備に取り掛かった。


準備と言っても仰々しい物ではない。


ポルシェのトランクから三つに分解したトンプソンM1928A1と100発のドラムマガジンを取り出して慣れた手つきで組み立て始めた。


かなり古いが私はデザインが気に入っている。


トンプソンM1928A1を組み立て終えてフィリップモリスを蒸かして待つ事二時間、飛天が黒の1977年代のBMW・E23で迎えに来た。


「貴方の武器は?」


助士席に座って飛天に聞いた。


「モスバーグM590だ」


元傭兵である飛天らしい武器の選び方だと思った。


ショットガンは弾が飛び散るから下手な銃よりも協力だし出会い頭で威力を発揮する。


飛天の持ってきたモスバーグM590はアメリカ海兵隊を始めとした特殊部隊から警察も愛用しているポンプアクション式のショットガンだ。


口径は一般的な12ゲージで弾数は八発で多少は乱暴に扱っても壊れたりはしない。


「・・・お前は?」


エンジンを掛けながら聞いてくる飛天。


「私は貴方と違ってマシンガンよ」


コートの中からトンプソンM1928A1 ドラムマガジンを取り出した。


「・・・・随分と古い銃を使うな」


飛天は苦笑じみた瞳で私を見た。


「別に良いじゃない。私の好みなんだから」


軽く口喧嘩をしながら私と飛天は無人島へと向かった。


車から降りて飛天の部下が用意した船を見て私は唖然とした。


「魚雷艇って貴方・・・・・戦争でも起こす気?」


流石に魚雷艇は無いと思った。


「この写真を見たら巡洋艦でも引っ張り出したくなる」


目の前に突き出した写真には機関銃などで武装されていた島だ。


「一体どうやってここまで揃えたのかしら?」


「さぁな。もう潰れるのに関係ないがな」


「所でこの魚雷艇の名前は?」


「特攻艇、震洋だ」


「特攻?」


特攻って飛天の故郷がした無謀とも言える戦略じゃない。


一度だけの出撃で大切な戦略を失わせるなど愚略と言わないで何と言うのだ?


「まさかこれで敵陣に突っ込むの?」


「ほぉう。よく分かったな」


「まぁ、途中で乗り捨てて俺達は上陸するから安心しろ」


飛天はニヤリと笑った。


さっきまで飛天が本当に突っ込むと思っていた。


「さぁ乗るぞ」


飛天は私を誘って震洋に乗って島に向かった。


「・・・・取り合えず軽く作戦を立てるぞ」


セブンスターを吸いながら飛天は喋り出した。


「単純にこいつに着いているミサイル二本で機関銃を破壊してから、こいつで停船場に突っ込んで船を爆破する」


「帰りはどうするのよ」


「心配するな。部下が迎えに来る」


その言葉を聞いて私は安心してトンプソンにドラムマガジンを装着させた。


「それを聞いて心置きなく暴れられるわ」


「ふっ。頼もしい女だ」


飛天もニヤリと笑った。


私と飛天を乗せた震洋は暗い海を走り始めた。


港を発進してから三十分後に目的地の島へと着いた。


「それじゃ、行くぞ」


飛天はスピードをMAXにして付けていたミサイルを発射して機関銃を反撃の間も置かずに破壊した。


次の目的地である停船場には待ち伏せしていたサブマシンガンなどで武装した男たちが待ち構えていた。


「・・・・ぶつかると同時に行くぞ」


飛天は飛んでくる弾を避けながら言った。


「了解よ」


私もトンプソンを乱射しながら頷いた。


震洋は真っ直ぐ停船場に突っ込んだ。


その一足先に私と飛天は震洋から飛び降りて施設に侵入した。


濡れるのを嫌って、その時は魔術を使用してしまったが・・・・・・・・・・


「・・・お前は娘を探せ。俺は糞男を探す」


モスバーグを片手に飛天は私と反対側の左側に足を運び私は右側に向かった。


暫く歩いていると何人かの軍服を着た兵士が前から来て私に容赦なく発砲してきた。


「・・・・手荒い歓迎ね」


私は横の壁に隠れると小さく苦笑しながらトンプソンを乱射した。


兵士たちは肩や足に弾が命中したのに苦痛に顔を歪めたり悲鳴も上げずに発砲を続けていた。


「・・・・痛みが感じないなら脳天に撃ち込むしかなさそうね」


小さく嘆息して壁を飛び出て男たちに突っ込んだ。


男たちの脳天に弾を撃ち込むとやっと事切れた。


私は死体の前でしゃがみ目を見た。


瞳には力が無く空虚な瞳だった。


「・・・・誰かに操られていたって所かしら?」


麻薬漬けにすれば他人を操るなど簡単だが、ここまで操るとなると呪術か催眠術じゃないと無理だ。


「・・・・一体、何をしたのかしら?」


私は違和感を感じながら依頼主の娘を探した。


幾つもドアを蹴破って中を見たが写真の娘は居なかった。


どこに居るのかと悩んでいたが窓越しから見えた東側の施設に入ろうとする一組の男女が見えた。


私は東側の施設へ急いだ。


目的地に行くと三十代の男が嫌がる娘の腕を引いて変な機械に近づこうとしていた。


「これで君も悩まなくて済む」


「嫌!放して!!」


娘は必死に男から逃れようとしていた。


「ちょっと嫌がる女に何をしようとしているの?」


私は静かに部屋に入り言葉を放った。


「誰だ?貴様は?!」


男は乱入者の私を見て警戒心剥き出しで叫んだ。


「誰でも良いでしょ。それより娘を放しなさい」


トンプソンを向ける。


「ふんっ。そんな銃で私は死なん!!私は天使の加護が付いている!?」


余りのイカレッぷりに私は茫然とした。


私の見る限りイカレ男に天使どころか悪魔も憑依してなかった。


「どうだ?私が怖いか?」


「・・・・いいえ」


私は馬鹿らしくなりフィリップモリスを取り出した。


「君は見所があるね。よしっ。君にも私の理想を教えてやろう」


何を思ったのか男は私に演説を始めた。


「私は人類すべての脳から争いや欲を取り除き平和な楽園を作ろうとしているのだ」


それから男は自分の考えに共感した学者などが作った脳を改造する機械で貧民街から連れて来た人間をサンプルに実験をしていたらしい。


実験は成功した。


その第二段階で男は手始めに暗黒街の伯爵である飛天を血祭りに上げようと意のままに動く兵士を使い殺そうとした。


そして私が探していた娘を見初めて自分に相応しい妻にしようとしていたらしい。


「どうだい?君も解るだろ?世の中が平和になれば皆が幸せに暮らせるんだ」


男の問い掛けに私は飛び切りの笑顔でこう言ってやった。


「平和なんて糞くらえよ」


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