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第一章:私立探偵事務所

イギリスの首都ロンドン北部に位置するイズリントンの外れにある少し古びた建物が事務所兼住み家だ。


ここには二、三年前から人間界に降りてひっそりと住み始めている。


何処でも良かったのだが、ヨーロッパなら交通面でも色々と便利であると何となく思っただけだ。


何で天使の私が人間界に居ると何時も昔馴染みの仲間から聞かれると私の答えは何時も同じだ。


『スリルを味わいたいから』


天界などという偽善者の集まる糞溜めのような場所より欲望が渦巻く人間界でスリルを味わいながら生きたかった。


そう思って仕事を放棄して人間界に降りて魔術を使わずに自分の腕だけを頼りに裏世界で生きる事に決めた。


私が使っている拳銃はコルト・パイソン357マグナムというリボルバーだ。


357マグナムという強力な弾を発射する六連発式の拳銃を頼りに私は一匹狼を貫き裏世界で生き続けた。


そして私の活躍を見たマフィアやギャングといった人間でいうなら悪党の輩が私に仕事を頼みに来た。


私が待ち望んでいた危険で欲望が渦巻く仕事だ。


スリルが好きな私には断る必要もないから二つ返事で直ぐにOKを出した。


最初の依頼は大した事ではなかったが、少しずつ大きな仕事を任されるようになった。


そして、運命的とも言える仕事を頼まれる日が来た。


敵対する組織を潰せという事だった。


直ぐに行動を開始して組織を潰しに掛ったが、そこで思わぬ人物と再会する事となった。


・・・・・飛天だ。


かつて私が人間から悪魔にした男である飛天。


彼が私の潰す組織にいたのだ。


私は驚いたが彼は顔色ひとつ変えずに攻撃してきた。


対抗して私も撃ち双方ともに銃弾を食らう事になった。


私は飛天の7.63mmモーゼル弾を飛天は私の357マグナム弾を受けて重傷を負い結局は警察の手も出て来たので痛み分けという事で最初の依頼は不完全ながら終わった。


仕事を終えて傷を癒すと直ぐに飛天を探し出した。


飛天はイギリスではなくフランスのマルセイユにある港街の近くに建てた一軒家に一人で暮らしていた。


私が来るのを飛天は予想していたのか平然として丸い氷が入ったロック・グラスにスコッチを注いで煽っていた。


そして私にも酒を進めてきた。


断る理由など何処にも無いから私は頷いてグラスを片手に飛天とスコッチを飲みながら話し合った。


飛天は悪魔になってから敵対していた同族を皆殺しにして魔界での地位を確立させたがそこからは暇でしょうがなかったらしい。


そして二、三年前に魔界を出て人間界で裏世界の人脈を活かして用心棒や殺し屋として暮らして後は稀に人間界で過剰なほど暴れている同族を殺しているらしい。


同族殺しは禁じられているが皇帝であるベルゼブルが直々に命令したから問題ないらしいと聞いた。


今度は飛天が聞いてきたが私も同じようなものだと答えると少し皮肉気に笑われた。


どういう経緯かは忘れたけどその日の夜、初めて飛天とベッドを共にした。


酒の勢いか私に銃弾を撃ち込んだ男への意趣返しか分からなかった。


しかし、そんな事を考える暇もなく私はベッドで鳴き続ける事になった。


飛天の荒々しいキスで力を抜かれて荒々しい剣で身体を貫かれてからは快楽の如く鳴き続けて貪られた。


こんな事は初めてだったが、やはり私が見込んだだけの男であると歓喜が湧いた。


行為が終わりベッドで煙草を蒸かす飛天に私は提案した。


『私と手を組まない?』


彼となら今まで以上にスリルを味わえるだろう。


しかし、飛天の答えはNOだった。


『他人と手は組まない』


そう言われた時には少なからず落胆した。


『だが、依頼なら受けてやる』


つまり依頼をすれば飛天と仕事が出来るという事だった。


この言葉には一にもなく了承して一時的だが飛天とコンビを組む事になった。


そして現在、私は事務所で時間が過ぎるのをただソファーで寝そべって煙草を蒸かしながら待っている。


私の事務所に客が来るのは極めて異例と言える。


マフィアと絡んでいる事も理由の一つだが、私自身が下らない依頼は引き受けないからも含まれている。


いま吸っている煙草の銘柄はフィリップモリス。


初めて人間界に降りた時に立ち寄ったバーに置いてあったのを吸い始めてから愛用するようになった。


仕事が無い時はいつもソファーで煙草を吸いながら時間が過ぎるのを待っていた。


天界でも同じで恐らく飛天も私と同じような気持ちだったのだろう。


そんな下らない事を考えながらフィリップモリスを銜えたまま煙を吐き出して白のペンキを塗られた天井を見上げた。


煙草の煙で白かったのが、少し汚く黄色っぽかったが、そっちの方が私は気に入っている。


飛天に依頼をして仕事を済ませてから一週間。


その間が何も仕事が無くて暇だった。


これが会社経営の探偵事務所なら依頼は沢山あるだろう。


浮気調査、ペット捜索、ストーカー対策、盗聴対策などとスリルの欠片も無い退屈な仕事ばかりでそんな仕事だったら事務所で煙草を蒸かしていた方が何倍もマシだった。


「飛天は何をしているのかしら?」


彼は人脈が広くマフィア同士の喧嘩の仲介や武器密売などを手広くやっているから私より暇ではない。


何だか無性に知りたくなって飛天の携帯に電話を掛けたが留守電だったので電話をくれるように伝言をした。


携帯をテーブルに置いた時にドアを叩く音が聞こえた。


「・・・・・・」


私は音を立てずに左脇に吊るしていた革製のホルスターからパイソン357マグナムを取り出して静かにドアに近づいた。


バンッ


勢いよくドアを開けてマグナムを向けた。


「・・・・いきなり物騒な出迎えね」


呆れた声でパイソンの銃口を向けられながら口にするのは女の口調は冷静だった。


茶色の長髪に瞳は髪の色よりも濃い色の鳶色で服装は質素な白いブラウスと薄紫のロングスカートを履いていて少し肩が露出した首から金色のロザリオが見えた。


「・・・・貴方だったの。ラファエル」


パイソンの銃口を下ろし名前を呼んだ。


私と同じ天使で慈愛を司り悪霊退治を生業とする大天使ラファエル。


真面目で優しい彼女は私と真逆の性格だ。


「何か用?」


私はパイソンをホルスターの中に仕舞うとラファエルを事務所の中に入れた。


どうせ、聞かなくても内容は分かっているが・・・・・・・・・・


「・・・・分かってるでしょ?」


ラファエルは困った口調で進められたソファーに座った。


「・・・・分からないわね」


敢えて誤魔化そうとした。


「・・・・天界に帰りましょう」


真剣な眼差しを送るラファエル。


毎度の事だがいい加減にして欲しい。


彼女がここに来るのは何時も同じだ。


私を天界に帰らせるようにする為の説得だ。


天界を去ってから直ぐに居場所を突き止めると月に一度か若しくは半年に一回の回数で私の説得に来る。


「貴方が天界を出て行って仕事が私にも回って来て大変なのよ」


「そう。それは大変ね」


感情を込めずに返事をしてセーラムを出して火を点けた。


「・・・・貴方が天界を去って貴方の部下達が大変なのよ」


「それで?」


「・・・・・・・・」


これにはラファエルも閉口した。


私は気にせずフィリップモリスを肺に入れて少し煙を出した。


すると携帯の着信音が鳴った。


ラファエルの了解を得ずに電話に出た。


「・・・・はい?」


「・・・・何か用か?」


飛天だった。


何て悪い時に電話を掛けて来たのよ。


私は心の中で愚痴ったが飛天は知る由もない。


「・・・・どうした?」


少し大きな声で喋る飛天。


「・・・いいえ。何でもないわ」


ラファエルが居る傍ら落ち着いた口調で喋る。


彼女に相手が飛天だと知られたら厄介だからだ。


「なら良い。それで何か用か?」


「うん。これから会わない?」


「・・・・分かった」


「それじゃ、今から一時間後に前のバーで」


要件だけを伝えると電話を一方的に切った。


「という訳で私は出かけるから」


「ちょ、ラファエル!!」


私は急いでコートを羽織るとラファエルを置いて事務所の直ぐ隣に立っている車庫に止めてある紺色に塗ったフォード エスコート・ガブリオレに乗って事務所から走らせた。


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