その4
最後です。
アルス様の宿屋は、珍しい和食も提供できる宿ということで、前世が日本人の方が長期滞在する宿となりました。
現在三部屋、六人の方が滞在しています。
「爺、こら起きろ!!」
「ぬわーーーー。メルがぐれたー!!」
「ぬっ!ぐ、ぐれてなんかないですよ、お爺ちゃん。」
こちら、101号室に滞在中の、龍族のメルちゃん(雌)とドワーフのジロスさん。
それぞれの前世のお名前は、斉藤由貴さん、村田充さんだそうです。
メルちゃんの前世の名前が斉藤さんです。さらに補足すると、斉藤さんは、アルス様の前世である城嶋圭吾さんの親友だったらしいです。
前世の記憶を思い出すのにも、個人差があるようで、アルス様のように物心ついた頃から前世の記憶がある方もいれば、さ…、メルちゃんの様に五十年経って思い出す場合もあるようです。
五十年を長いと捉えるかどうかは、人それぞれでしょう。長命種と呼ばれる龍族のメルちゃんにとっては、微妙なラインだったみたいですね。
メルちゃんと言う意識が、と言うか自我と言った方が良いでしょうか?メルちゃんの自我が確立した後に、斉藤さんの記憶が流れてきたみたいですね。
龍族換算で、当時まだ幼かったメルちゃんは狂ったように暴れたそうです。結果、両親に捨てられる様に谷底へポーイ。メルちゃんは、川をどんぶらこと流されて、岸に打ち上げられました。そんなメルちゃんを拾ったのがジロスさん。
「たすけて。」
これがジロスさんが、メルちゃんから聞いた最初の声でした。
メルちゃんの自我は亡くなった訳では無く、親から捨てられた事により閉じこもってしまったようです。
斉藤さんは、そんなメルちゃんの代わりにメルちゃんを演じているそうです。いつか、メルちゃんが笑って暮らせるように…。
さて、次の組み合わせは、エロフ、おっと失礼。エルフのケツヌリヤス・ドメル・ワリナールドと、猪頭族のクロッカス君です。
この二人に関して、私が言えることは…。
…。
あー、エロフは斉藤さんの元カノだったらしいですよ?エロフ曰く、小さかったらしいです。
くたばれ、エロフ。
あ、そうです、そうです。この世界において、魔物という存在はいません。この世界は魔法やらクロッカス君の様な猪頭族、この後説明する小鬼族も含め、色々な種族の方同士が言葉を交わしています。
そんな世界なので、クロッカス君や、エロフの様な異種族恋愛も珍しくありません。
だからと言って毎晩ハッスルするのはどうかと思います。いくら私達の宿が防音性能がバッチリと言っても、私には聞くことができるのです。つまり、アルス様が早朝に起きれないのは、仕方がないのです。
…。さ、昨夜はお楽しみでしたね?
「クー君。大丈夫?」
「え、え?な、何が?」
「寝不足みたいだから…?」
「そ、そんなことないよ!げ、元気だよ!」
「そう?あ、ホントだ。」
そう言うのは、お部屋でやれ、このエロ婦が!!ここは、ラブ○テルじゃあねぇよ!!
えー、ゴホンゴホン。
最後に、小鬼族のべべさんと鬼族のリリカさん。因みに、べべさんが男性でリリカさんは女性です。
「姫、好き嫌いはいけません。」
「うるせぇな、べべ。こんなん食わなくても、問題ねぇんだよ!」
確かに、リリカさんは身長も胸部装甲も大きですからね。問題ありませんね!
「いけません。」
「ちっ。」
因みに、嫌そうに料理に手を付け直しましたが、リリカさん一瞬嬉しそうな顔をしましたね。乙女の顔をしていましたね。私の目は誤魔化せませんよ!
そんなお二人は、落人狩りのプロとして、教会に所属している方達です。
落人とは、なんと言ったらいいでしょうか?理性を失くした“モノ”と言えばいいのでしょうか。
落“人”と言ってますが、獣もエルフ等の亜人、あと猪頭族なんかも理性を失うと、これに該当します。
落人の特徴は、赤い瞳と額に赤い宝石みたいな物があるそうです。
さて、前田私を思い出しましょう。赤い瞳に黒い髪、それと横にある今川私と言う赤い球体。
ツーアウトでした。それは初対面で警戒されますよ。
しかしながら、スリーアウトを免れましたので、今はアルス様の腕の中で寝ている事でしょう。
昔のえ〇い人は言いました。『恋は理屈じゃない。感情が罹る病』だと。前田私はそれを体現してますね、しみじみ。
それは置いといて、そろそろ起きてきませんかね?こちらは一人で寂しく食糧庫暮らしだと言うのに…。
一応完結と言う形をとります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




