その3
さて、あれからの結果の話をいたしましょう。
独り言を聞かれてしまい、メンタルブレイクした前田私。そんな前田私を見つけたのは、黒髪黒目の前世の私と同い年ぐらいの、一人の青年でした。
彼の名前は、アルス様。前世の名前は、城嶋 圭吾さん。そう、前世です。
彼の前世は、私同様日本人らしいのです。
いやはや、人生とは運命的で不思議なものですな〜。
「今川私。それは、何目線ですか?」
人生を終えた私目線ですよ。
「そうですか…。もう一つ聞いても?」
何ですか?
「本当に運命なんて物を信じているのですか?」
ふむ…。これは、あれですかね?
「ええ。」
メンタルブレイクの際に、一心同体だと思っていた前田私と―
「今川私の意識が別にあるという疑念は深まりましたね。」
はい。五感、意識の共有は行なう事はできても、そこから生じる思考は別だと考えるべきでしょう。
「前田私は、前田私ですし。」
今川私は今川私である。
正直、共有を切ることになった結果、思考が別れたと考えるべきでしょうけどね…。
「仕方ありませんよ。それはそうとして、今川私。」
何です?前田私。
「アルスに見つかった後は、そちらはどうなったのですか?」
そうですね。こちらは、アルス様に発見され、アルス様のお付きに前田私が連れて行かれた後からでいいですかね?
「ええ。今川私との感覚共有がこの部屋を出た段階で切れましたので。」
前田私もそうでしたか。
では、軽く説明しましょうかね。
アルス様は、先程言った通り、私達同様の転生者です。
しかしながら、転生の仕方が異なります。
「転生の仕方ですか?」
はい。私達は、異世界転生協定・特例事項第1条というもので、転生してきました。
「そうでしたね。」
それに対してアルス様は、異世界転生協定・特例事項第2条で転生されたらしいのです。
「第2条ですか。内容は?」
神からは条件は教えてもらえず、ただ力を与えるから長く生きてくれと言われたらしいです。
「ふむ。どう見ますか?」
どう見るか…。状況を整理してみましょうか。
「はい。」
まず、私達は神に、生前の善行により記憶を持ったまま転生を提案されました。
「はい。」
そして、願いを一つ叶えるとも。
「結果は、今川私のダンジョンコアという今の姿を与えられましたね。」
ええ。そして、前田私という理解者もです。
「ありがとうございます。それは良いとして、神の狙いは何だと思いますか?」
さぁ?いくつか想像はできますが、それは、結局仮定の話。真実ではありません。
さて、話の脱線はこれくらいにして、続きを話しましょう。
アルス様が神からもらった力は、選択ができなかったらしく、更にその力の一つは私と会うまでその力の使い方も分からなかったらしいです。
「力の一つ?」
はい。アルス様は神から合計二つの力を与えられたらしいです。
一つ目は、スキル【契約魔法】。
二つ目は、スキル【城主】。
「スキル?それは、一体何ですか?」
所謂、ゲームにおいて、プレイヤーができる事みたいな認識で良いかと。
「つまり、剣をある程度使えるなら【剣士】スキルみたいな物があると?」
恐らく。
確認は取れてませんので、明確に断言はできませんがスキルとは生まれた段階であるものらしいです。
「ある?」
失礼。人々は神から与えられると言うそうです。
それが事実かどうかは置いといて、生まれたスキルによって、その後の人生は決まると言っても過言ではありません。
「何とも、判断に困る…。」
まぁ、先程は割と話を盛りましたけどね。
実際に、アルス様はその二つのスキルで、ご両親亡き後、宿屋を切り盛りする予定だったらしいですよ?
「【契約魔法】でしたっけ?聞いた感じでは、契約書を作る魔法という考えで良いですか?」
その通りですね。アルス様の前では、口約束だろうと正規の契約になり、守らなければ、アルス様の定めた罰が降りかかるとのことです。
「恐ろしいですね。」
ええ。しかし、重ね掛けができないといった欠点もあるらしいです。
「ふむ。そうは言っても、幅広く使える上に重宝されそうなスキルですね。」
そうですね。ご両親が亡くなる前までは、アルス様は国の文官として働いてらしいですし。
「公務員ですか」
ええ。
ですが、ご両親の殺意事件を機に、『国に仇為す事をしない』と言う契約をして、引退されたとのことです。
「殺人事件に契約ですか…。一気にキナ臭くなりましたね。」
“現王の治世”では無く、“国”ですしね…。
「国の見方は、人それぞれですからね。この場合の契約は、アルスが破ったと判断したらなのですか?」
いいえ。魔法そのものが、判断するらしいです。
「魔法そのもの…。」
興味深いですよね。
「ええ。実に。」
「ところで、今川私。」
なんです、前田私?
「先程から気になっていたのですが、何故様付けなのですか?」
これは、アルス様のもう一つのスキルである【城主】スキルを説明した方が早いでしょうか。
「お願いします。」
アルス様の持つ【城主】というスキルの効果は、自分又は部下が支配した建物を理解し、把握する能力です。
「何とも、評価に困る能力ですね。」
アルス様は、宿屋を相続されたと同時に、❝宿屋内に何が在り、何が行われているか❞を把握したらしいです。ただし、私達がいた元食料庫を除いてですが…。
「つまり、自分の支配領域に関して、セ○ムということですか?」
いえ、それよりもっと防犯に力を入れ、領域内の人間のプライバシーを無視できる能力ですね。
「なるほど。領域内であれば、全てを把握できるということですか。」
はい。
オンオフの切り替えもできるそうなので、見たくないものは見る必要が無いそうですが…。
「それで?アルスのスキルは分かりましたが、何故様付なんです?」
前田私はダンジョンマスターというものを知っていますか?
「元は一緒なので、知ってます。所謂、ゲームでのダンジョンの主ですよね?」
はい。ゲームによっては、ダンジョンを限られたポイントを使って、拡張や罠や魔物を設置したりしますね。
「まるで、今川私みたいですね。」
そうですね。今川私には意思があるので、ダンジョンマスターが居なくても、同じことができます。
「なるほど。アルスをダンジョンマスターとして受け入れたのですね?」
そうです。そうすることで、アルス様の支配領域もダンジョンの一部と見ることができるようになりました。
更に、アルス様の宿屋を基点に、今までできなかったダンジョン領域の拡張もできるようになったのです。
「メンタルブレイク前は、願いの範囲の外でしたので拡張に魔力を使えませんでしたしね。」
そうです。アルス様の宿屋がダンジョンの領域になったことで、宿泊する客から魔力という外貨も得られるようになったので、その辺にも回せるようになりました!
いやー、嬉しい限りですね。しみじみ…。
「それで?どうして前田私が、アルスの妻になることになっているのですか?」
交換条件ですね。
「交換条件…。どういう契約をしたのですか?」
ダンジョンマスターになってくれたら、前田私の全てと和食も含め衣食を提供できると。
「逃す事はできないとはいえ、思い切りましたね。」
アルス様を逃せば、私の願いは叶うことはできず、死ぬことになりますからね…。仕方無かったのです。
それに、好みは一緒ですよね?
続きは明日です。




