その2
来ませんね。
「来ませんね~。」
転生してから約三日。
未だに、私の王子様は現れません。
「そもそも、今川私。」
なんです、前田私?
「王子様とはなんです?」
王子様は、王子様ですが…。そうですね、簡単に言えば。
「簡単に言うと?」
この部屋の元の持ち主ですね。
私が生まれたあの牢屋みたいな部屋は、元から牢屋みたいな部屋だったのです。
今貴族様とかが住みそうな豪華な一室、という風にはなっていません。
牢屋みたいな部屋は、何という事でしょう。
「匠の技が光りましたね。」
前世の私が暮らしていた1LDKのマンションに様変わりしてしまいました。いや~いい仕事しましたね、私。
「そうですね。因みに、貴族が住みそうな部屋にしなかった理由は?」
分かっているくせに。
「そうですね。一応です。一応。」
ふむ。しょうがないです娘ですね、前田私は。
「ムカつく言い方ですね、今川私。」
ではズバリ。根っからの庶民たる前田私は、一人にしては無駄に広い部屋で落ち着きましたか!!
「いいえ。実際に落ち着きませんでしたしね。」
そうです!この三日間、私は遊んでいたという訳ではありません。
「実際は遊んでましたよね?」
遊んでたわけではありません!あれは、実験。そう実験なのです。
「物は言い様ですね。」
あれは、前田私が、産まれた所まで遡ります。
「無駄な回想に入らないでください。」
ケチですね。だからモテ無いんですよ?
「盛大なブーメランですね。」
ふっ。その程度の罵倒で屈する私ではありませんよ!
「今川私?」
なんです、前田私?
「私達は?」
一心同体です。
「つまり?」
…。
止めましょう。
「そうですね。」
争いは、何も産みません。
「いいえ。争いは――。」
止めましょう。
「…。」
さて、前田私が言ったように、今川私の能力によって牢屋みたいな部屋を改造することで、今川私ができる事の把握をしていたのです。
「物は言いようとは良く言ったものです。」
うるさいですよ、前田私。
「それでは黙りましょう。」
うむ、よろしい。
「なにかムカつきますね。」
黙るって言ったじゃないですか!!
「すみません、つい。ムカついたので。」
そういうとこですよ。そういう所が可愛くないって言われる所ですよ!
「別に球体に言われても…。」
ぐはっ!!今川私の心に四千のダメージ!!
「今川私はメンタルブレイクで、前田私の勝利です。」
ふっふっふぅ~。
「な、何がおかしいのですか?」
気付きませんか?
「何を?はっ!!まさか?!」
そう!!今川私が、メンタルブレイクした時、私はこのカードを使ったのです。
「それは、ま、まさか…。くっ!この局面で、デスティニードロー…、流石ですね。」
ふっ。これが持つべき者って奴ですよ。
さぁ、発動しなさい。『一心同体痛み分け』。このカードは、今川私と相手が元は一つの人格である時に発動できるカードです。その効果は、いたってシンプル。
私のメンタルブレイクは、相手のメンタルブレイクになるのです!!
喰らいなさい!滅びのバ〇ーストスト〇リーム!!
「いけません!実にいけません!!」
ふははは。あなたにこれを防げる手段はありません。さぁ諦めるのです。
「ふっ。これだから素人は。」
な、なんと!!この局面で、まだ余裕を見せるのですか?
「ええ。まだ気づきませんか?」
な、何を言いやがりますか?『一心同体痛み分け』が発動した時点で、あなたもただでは済まないはず。
「ええ。普通はそうでしょう。」
ならば!!
「思い出してください。あなたをメンタルブレイクさせた一撃を!!」
今川私をメンタルブレイクした一撃…。はっ!!
「気付きましたか?」
『別に球体に言われても…。』でしたね…。
「そう!!それは、今川私をメンタルブレイクまで持っていく一撃でも、前田私にとっては0ダメージなんですよ!!」
くっ!!ここまでと言うのですか!!私には大事な唯一の肉親である妹がいるのに!!
「そうです。あなたは、次回予告から負けることが決まっていたのですよ!!」
あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
「滑稽ですね!!庶民である馬の骨が、悔しさで転げまわる姿は!!」
くっくっくっ。くはは。くっはははは!!!
「見事な三段笑い…。はっ!!」
気付きましたか!!でも遅いのです。これであなたも、メンタルブレイクです!!
「そ、そんな…どうしてこのタイミングで!!」
前田私。今川私は言いました。今川私の声は、前田私以外に聞こえないと。さらに付け加えると、私達の会話は、傍から見たら前田私の独り言だと!!
つまり、傍から見た前田私は―。
「え-と…、どちら様でしょうか?ここは、僕の家の食糧庫のはずだったんだけど?」
変人扱いだと!!
続きは明日です。




