蠢く
――ぷくぷくぷく
私は人生の疲れからか酒を飲み干した。神は人を平等に作ってはいるかもしれないが、その後の人生に関しては平等ということはないだろう。何故なら、私のような愚かで運の“う”の字もない男がいるからだ。
神に愛されなかったのだろう。私はそう思う。私は平等に作られたが神には愛されず、見放されてしまった生まれながらの孤独人であるのだろう。
毎日が変わらない日々。何処かで働き、解雇され、そして酒に明け暮れる。そんな人生を送り私は日々貯蓄を失っていった。金の節約としてはこの酒を飲むという行為をやめれば金はその分浮くのだろうが到底私には無理だ。――二、三度挑戦したがどれも多くて2日で終わった――だから私はただ日雇いの職場を探し、途中で追い出され一日を終える。なんて空虚な人生なんだろう。
その日私はあまりにも疲れていたため、すぐに床に就くことにした。こうして家で安心して寝れるのもそろそろ終わりと考えると虚しくて仕方なかった。暖かい羽毛布団が全身を覆う。二、三分もすればすぐに温まり吸い込まれるようにして暗い闇に意識が落ちて行った。
翌日、私は目を醒ますと途轍もない痒みに襲われた。全身が痒いのだ。血管の中に何かいるかのように走り回ってくる。痒い、痒い、痒い。
私は瞬時に原因を把握した。それは最近話題になっている――唯一の富のある友人から聞いた話だが――寄生虫と云われるものだ。我が国日本には如何やら外からやってきた人体を蝕む寄生虫とやらいるそうだ。私は瞬時に其れだと思い、医者へと足を向けた。だが、何故金がない。診察や今後のことも考えると到底私の貯蓄では賄えない。却説、如何したものか。私は寝台の上で頭を掻きまわした。つんっと針を刺すような痛みが走る。指先を見てみると暗い赤の血がついていた。頭の痛みを契機に全身の痒みがさらに増した。私は耐え切れず全身を掻きまわした。腕を掻いた。顔を掻いた。足を掻いた。背中を掻いた。掻いても掻いても痒みは増す一方でもう掻くことをやめることは出来なかった。永遠に掻き続ける。途轍もない快感を覚える。痒みを排除することで快感を得る。さらに痒みが増す。あの快感は忘れられない。もういいや、掻いてしまおう。
私はただひたすらに、何も考えずに快感を得るために掻きまわした。寝台はやがて真っ赤になった。私の血だ。痒みが引き、理性を取り戻し周囲を見て衝撃を感じずにはいられなかった。同時に、今まで掻いたものの痛みが今一斉にやってきた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
私は部屋で叫んだ。大声で。口から血が吐かれる程。壁や寝台を叩き殴り、部屋を走り回る。やがて痛みは治まった。私はその場で茫然と立ち尽くした。全身の皮膚が剥げ、血が垂れる。吐き気を催した。胃の中でまるで何かが蠢くかのような感触がした。全身の毛穴が開く。
――じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ
黒い幼虫のような奴らが全身の穴という穴から出てくる。大きな毛むくじゃらの虫が口から出てきた。目が潤う。あまりの気持ち悪さ故の涙だ。涙に乗って黒い虫が現れる。視界が黒くなってくる。いやだ。いやだ。いやだ。嫌だ。
私は全身黒くなった。虫が内臓を、皮膚を、すべてを蝕んで私を殺した。死体を食らいつくした。
部屋には虫が残って以外、誰もいなくなった。