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1.音、恋、空 7


「似ているな。かのラストン・ファンテルの息子なんだってね」

「あ、はい」

オリビエは構えた。父の名を知る貴族は十中八九、生前の父親と比較し、まだ若いとけなすのだ。人生の何たるかを知らずして名曲は奏でられないと、一時間も話されたこともあった。

父親を超えられないのはオリビエも分かっている。

しかし他人にわかったようなことを言われるのはどうにも忍耐が必要だった。

だから自然と父親の話題は心を固くさせた。


「私はホスタリア・ロントーニ。幾度か君の演奏は拝聴しているよ。しかし、今日のは良かった。普段の君の演奏とは違うね。あれはなんと言う曲なのだ」

「ロントーニ男爵、お名前はお聞きしております。お恥かしいことに、即興の曲です。譜面もございません」

「ふん。では題名くらいはあるのではないか」

「いえ、それも」

「何を想って弾いていたのだ。メイドは聞いて涙した。私も切ない思いを感じたが。何を想ったのだ」

オリビエは黙った。

背の高い男爵は青年を見下ろしていた。

その黒い瞳は穏やかに笑っているが、さらけ出せといわれているようでオリビエは小さく眉をひそめた。

「ふん、そう睨むな。無礼な奴だな。では、私がつけてやろうか」

親しげに肩に腕を回してくる。怪訝な表情を隠しもせず、オリビエは低く応えた。

「…お好きに」

「そうか、ではその曲は私がもらっていいのだな」

「え?」

オリビエが改めて男の顔を仰ぎ見たとき、背後から大きな咳払いが響いた。

「これはこれは、ロントーニ男爵。何か重要なお話があるということでしたな、客間でお待ち申しておりましたが一向においでにならないので、探しましたよ」

「ああ、それは失礼。侯爵、ご相談の前に、もう一度確かめたいと思いましてね」

相変わらず肩に手を置かれているオリビエは、侯爵に朝の挨拶をしたいのに男爵の手を振りほどいていいものか迷っていた。

「ロントーニ男爵、オリビエは私の楽士。オリビエの曲はすべて私のものだ。勝手に題名などつけられても困りますよ」

隣で男爵が肩をすくめた。

「私も優秀な楽士を探していましてね」

「オリビエは譲らん」

オリビエが二人の顔を交互に見たときすでに、男爵の相談事には結論が下された。追い討ちをかけるように侯爵は念を押した。

「私はオリビエの音楽が好きだ。一曲たりとも他人に聞かせたくないと思うほどだ。よいかオリビエ、お前もそこを心しておくのだ。お前の手が奏でる全てが私のものだ」

は、とため息と共に男爵は肩をすくめた。


もったいない、小さくそう呟いたのがオリビエの耳に残った。



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