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6.エスファンテの青年衛兵8


「オリビエ」

ズレンの声に腕を緩め、一度捕らえた柔らかな少女をオリビエはあっけなく手放した。


「あんまり怒るから。からかってみた」

「も、もうっ!」

キシュは足元で座っていたランドンを強引に抱き上げるとそのまま後ろに下がる。

「私、帰る」

ランドンが宙に浮いた足をばたばたさせるのもお構いなしで、キシュはさよならも言わずに飛び出して行った。

「ごめん、驚かせたみたいだ。ズレン、送っていけよ」

真顔の衛兵は真っ直ぐオリビエを見ていた。少しだけ背の高いズレンに見下ろされ、オリビエは目をそらした。

「キシュ一人じゃ、危ないだろう?このところ、浮浪民や山賊の噂もあるし」

「オリビエ、追いかけなくていいのか?」


少女が開け放したままの引き戸から、夜風が入りこんだ。それはゆらりと絹のカーテンを揺らし、ランプの炎を弱らせる。

ズレンの意図が分からず、オリビエは眉をひそめた。

「なに言ってる。僕が送っていってどうするんだよ。ズレンが行くべきだろ」


年上の衛兵は肩をすくめ、オリビエの願いも空しくソファーにどかっと座り込んだ。

「ズレン?」

「オリビエ、何か誤解しているよな。俺はキシュとは幼馴染だけど、それだけだ。大体、俺は年上好みなんだ。六つも年下のキシュは子どもにしか見えない。それに。お前のほうがよほど惚れ込んでるじゃないか」

「それこそ、誤解だよ!僕はあんな口の悪い娘は願い下げだよ。色気もないし、第一僕を犬扱いするんだから」

「飼われてやれば?キシュならいいご主人様になるさ」

「ズレン!」

向きになるオリビエに、ズレンは高らかに笑った。

「ほら、お前がこんなに感情的になるのは珍しいから。分かりやすいよ」

「分からないね」

「自分の気持ちがか?」

「いい加減にしろって!本気で一人で帰らせるつもりなのか?」

「俺は平気だね。大体、勝手に来るものをどうしてそこまでして送らなきゃならない?俺はお前の護衛としてここにいるのに」

「!」

「心配ならお前が行け、オリビエ」

「お断りよ!」



オリビエがつかみかかろうとし、それを笑いながら受け流そうとしていたズレン。

二人は、戸口に立って真っ赤な顔で睨む少女を見た。

その腕から、ずるっと犬が滑り落ちた。

わぶ。


情けない声をだし、頭を振りながら犬は居心地のいいソファーへと向かおうとする。

「ズレンはか弱い女性を一人きりで帰らせようとするし。オリビエは来てくれても役に立たないでしょ、私以上にか弱くて。しかも、送っていく勇気もない。本当、最低よね。二人とも」

キシュはランドンをまた後ろから抱きとめ、迷惑そうに体をよじる護衛をしっかり抱きしめる。

「ランドンのほうがよほど頼りになるわ!じゃあね、本当に今度こそ、帰るんだから」

「送るよ!」

立ち上がるオリビエ。

「嫌よ。今迄だってそんなことしなかったくせに」

今までは、キシュが嫌がったのだ。いや、今も嫌がっていると言うかもしれないが。

「オリビエが行くなら、俺も警護につきあうかな」

「何、それ、オリビエのためなの?何か違わない?」

キシュの不満はそこだ。

「どうせオリビエだけじゃ不安なんだろ」

「ズレン、随分な言い方だな」

「それは納得だけど」

幾分複雑な面持ちのオリビエとキシュを尻目に、ズレンだけは面白そうににんまりと笑う。二十四の青年衛兵は軍人らしい迫力と余裕を見せる。



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