表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/40

5.切り取られた空4


来たわよ!

誰かが叫んで、一斉に店内の人間が一点を見つめる。

人々の熱気にほだされ、オリビエも味わったことのない高揚感を感じていた。

通りの向こうから歓声を引き連れて整った列が進んでくる。先頭は国王の衛兵たちだ。馬に乗り四列を乱さずに進む彼らは表情を厳しくしたままゆっくりと進んでくる。大司教や国王、王妃。煌びやかな貴族たちの一団。その中にエリーとマルソーの姿を見つけた。

「あ、マルソーだ」

そういったオリビエの声も、周囲の声にかき消されている。

大勢の騎士の中にあって、エリーもマルソーも目立っていた。立派な近衛連隊のブルーの衣装に金の房飾り。白い羽が帽子に揺れる。何故だか嬉しくなって盛んに声を張り上げたが、気付くはずもなかった。

「王妃さま、素敵ね」アンナ夫人がオリビエの袖を引きため息をつく。

オリビエは王妃にはあまり興味がなく、言われて初めてソチラを見つめる。高く結い上げた白い髪、華やかなドレス、羽飾りの扇子。孔雀の羽をあしらった貴婦人も見える。それはどうも、オリビエの感覚からは「素敵」ではなかった。

「あ、侯爵様よ」

貴族の列の中にロスレアン公とリツァルト侯爵を見つけ、アンナ夫人は無邪気に手を振った。ロスレアン公は民衆に人気がある。一際声援が高くなるからそれがすぐに分かる。婦人の声が届いたわけではないだろうが、侯爵がこちらを見たような気がした。

「…、あ」

オリビエは昨夜の恐ろしい侯爵の表情を思い出した。

ぞくりと寒気が走る。

医師に反対されながらも出かけてきたことが知れたらまた、なにか言われるだろうか。

「オリビエさま、お顔の色が冴えませんよ」ビクトールが感づいたかのように肩に手を置いた。

「あ、いや。大丈夫」

本当に気分が重くなってきた。一気に興奮が冷め、代わりに悪寒が襲ってきた。

そのとき。通りに詰めかけた民衆とそれを押さえようとする警備の兵。そこから少し距離をおき、興味がなさそうに歩く少女がいた。

黒い髪。白い肌。小柄で、華奢な少女。


「ビクトール、ごめん、ちょっと」

オリビエは慌てて店を飛び出した。

「オリビエ様!」

「オリビエ!?」

青年が何かを見つけたそのあたりに目をやり、ビクトールは表情を厳しくした。



アネリアだ、きっと、あれは。

アネリア。


オリビエはすれ違う人が迷惑そうな声を上げるのもかまわず、階段を一気に駆け下りると、通りを見回した。

確か、あの建物の角辺り。

パレードに夢中の人々の背中をくぐるようにオリビエは走った。


水色のよろい戸の窓の下。

目指す姿。


その少女は建物の陰に隠れるようにひっそりと立っていた。


「アネリア!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この小説は下記のブログで連載しております… ブログ「聞いて聞いて、聞いて」
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ