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5.切り取られた空2


「大丈夫ですか、オリビエ様」

ビクトールが寝室まで案内し、部屋の明かりをつけてくれた。三つのろうそくを立てた小さなシャンデリアが二つ天井から下がっている。

ベッドの脇のテーブルにも一つランプが置かれた。

壁の片側にあるクローゼットには、アンナ夫人が揃えさせた色とりどりの衣装が並ぶ。真っ赤な上着の一揃えが目立つように壁のフックにかけられていた。明日、王宮へ行くためのものだろう。

「アンナさまは、歪んだ形でしか、愛情を表現できない方です。不器用な女性です」

衣装の袖を持ち上げてしげしげと眺める青年にビクトールが声をかける。

「…それでも、僕は」

「侯爵様は、もう何年もアンナ様と床と共になされていません。奥様は、お淋しいのですよ」

それは、相手をしてやれということか。

貴族のそういった部分は乱れきっていた。国王すら寵姫を正式に囲う時代だ。貴族たちの間でもそれは当然のことだ。アンナ夫人は退屈しのぎに若いオリビエを誘惑する。雇われ人であるオリビエがそれに従うのも仕事のうち。そう、考えるものがいるのも確かだ。


「だからって…僕はあの人の言いなりには、なれないよ。侯爵を裏切るのは、嫌だ」

「オリビエ様。アンナ様にはお子さんがおられません。その寂しさもあるのです。どうか、奥様に優しいお言葉をかけてやってください」

「ビクトール!お前だってアネリアを娘のように可愛がっていただろう!そのアネリアを追い出したんだぞ!それでも夫人の味方をするのか?」

「仕方ないのです。アネリアは、夫人にあなた様とのことを聞かされ、逆上した。夫人に手を挙げたのです。それは、してはならないことだった。追い出される前に、あの子は自分で飛び出していった。私が止めても、あの子はもう聞かなかった」

オリビエは深くため息をつく。

「もう、いいよ。何が本当なのかも、僕には分からない」

ベッドに腰を下ろした青年に、ビクトールは一礼し、部屋を出て行った。

夫人に忠誠を尽くしビクトールはあんなことを言うが、今頃夫人は大好きな晩餐会で大勢の男に色香を振りまいているのだ。


オリビエは襟元のリボンを解くと、新鮮な空気を吸いたくてバルコニーに出た。

夜風の向こうに遠くファリの街の灯が揺れていた。



翌朝、オリビエが目覚めた時には陽が高く昇っていた。

結局あの後、体を拭いてすぐに眠くなってしまったのだ。旅の疲れもあったし、慣れない乗馬や街の雰囲気に酔っていたのだろう。けだるい目覚めに、朝食を運んできたメイドが心配そうに何度も大丈夫かと尋ねた。

朝からにぎやかな声が響く中庭を眺めてみたが、普段経験のない窓の高さにめまいがした。なにやらこの城の主、ロスレアン公が出かけるようだ。二頭立ての馬車が門に向かって進みだした。夜には分からなかったが、オリビエに与えられた部屋は五階だった。


「この辺は夜になると川風が吹きますからね。夜風に吹かれると、思っている以上に体が冷やされるんですよ。オリビエ様、そのように薄着ではお風邪を召されますよ」

心配そうなメイドがふっくらした手をオリビエの額に当てた。

オリビエが朝食をほとんど食べていなかったからだ。

結局、熱があると言われ、オリビエはそのままベッドに横になるように言われた。


侯爵が狙っていた通りじゃないか。


医師が呼ばれた頃には、悪寒に身を震わせていたが、内心オリビエはホッとしていた。いくら侯爵でも、国王陛下のお召しに仮病はまずいだろう。これなら誰にも疑義を挟む余地がないはずだった。



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