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1.音、恋、空 2


音楽堂の南側は庭に面している。小さな池や花壇を備えたそこは、茶会の会場ともなる。こうした場所はこの敷地内にいくつかあるが、オリビエが奏でるチェンバロ*の曲を聞きながらの茶会はここでだけ開かれる。

それも、必ず三十人以下の小規模なものだ。

(*チェンバロ=ピアノの元となった鍵盤楽器。弦を叩くのではなく、弦を引っ掛けることで音を響かせる)

以前、侯爵は友人のロントーニ男爵に「大広間でもオリビエの曲を」とせがまれたらしいが、侯爵は首を縦に振らなかった。貴族はそれぞれにお気に入りの楽士を抱え、その自慢のためにわざわざ他家のパーティーに同伴させるものもいるという。楽士が著名になるほど、抱える貴族は「芸術のよき理解者」との誉れを受け、鼻を高くするのだ。

オリビエの雇い人、リツァルト侯爵のその対応には、出し惜しみしているとか、変わり者だとか。

そんな噂が囁かれるのも当然だった。


オリビエは侯爵の対応は自分が未熟だからだと感じ取っていた。

悔しいが、オリビエ自身、まだ亡き父親に追いついていないと思っている。

今年十八になるが、楽士の世界では子ども扱いだ。

新しい楽器の発表会などに連れて行かれると、どうしても周囲の目は冷たく感じた。

「お父上譲りの腕前とか。ぜひ拝聴したいものですな」

そんなことを言われても、その場での演奏を侯爵は許さなかった。



オリビエはギシと小さく鳴かせて音楽堂の扉を開く。


音に気付いた。


白く彩色されたオリビエの、いや侯爵家のチェンバロの前に派手な赤がたたずんでいた。

「アンナさま」

振り向いた侯爵夫人の表情を見て、オリビエは足を止めた。

常なら彼に向けられる侯爵夫人の表情は笑顔だ。それが今は違う。

バン、と乱暴に鍵盤を手のひらで叩いて、夫人は靴音を響かせながら青年に歩み寄った。

今年三十五になる夫人は真綿のように真っ白な肌をした美女で、王家の血を少しだけ引く。その由緒正しき生まれの美しい外見を見事に裏切り、厚めの唇に塗りたくった紅がつやつやと青年に迫る。



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