予約。
あの衝撃のLINEから一ヵ月後、私は美容院にいた。少し早めの予約を入れて、西嶋さんに会いに来た。今日のメニューは、リタッチと毛先の切りそろえ、ヘッドスパ。
「こんにちは。よろしくお願いします。」
「こんにちは。あの…。」
「実は地元に帰って店を開くことにしましてね。マンションの更新やら、あちらで土地が見つかったタイミングが合ったので、急だったんですけど。」
私が言い終わらないうちに西嶋さんが言った。近くならそちらの店に行きたいところだけど、確か九州のほうだったわよね。担当さん、変わっちゃうのかあ。新しいスタイリストさんに慣れるまでのこともあるけど、なかなか合うスタイリストさんに出会えるまで時間がかかるのよね。
「西嶋さんだったら、お客さんもたくさんついているし、もったいないんじゃないの?」
「アハハ。みんなに言われます。」
「せっかく西嶋さんに慣れてきたところだったのに。寂しいなあ。」
「あ。おススメのスタイリスト、ご紹介しておきますね。紹介カード、後でお渡ししますので。」
西嶋さんの前に担当してもらっていたのは前の店長さんで、その人が独立で辞めるときも、そうやっておススメがあったけど、どのスタイリストさんも満足できなくて、やっと西嶋さんに落ち着いたところだったのよね。技術は問題なくても、やたら時間がかかったり、会話がしづらかったり、根本的に技術面で満足できなかったりね。
西嶋さんの門出だものね。喜んで送り出してあげるのが、ファンとしての礼儀ってものよね。
また『ジュエリー』を見つけないとね。あ。『ジュエリー』はスタイリストさんに固執する必要はないんだけどね。でもせっかくキレイにしてもらうなら、お気に入りの人がいいじゃない?技術ヨシ、ルックスもヨシ、の人、早く見つけられるといいなあ。
ルックス面では、ワイルドすぎる人は苦手。髪がモサモサしている人とか、肌がギトギトな人とか。ヒゲを整えていない人とか。あと、この店にはいないけど、服が極端にヨレヨレな人も遠慮したいな。