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チャペルにて。

花嫁姿の私が移動した先は、近くのガーデンレストラン。小さなチャペルもある。何度か前を通ったことはあるけど、中に入るのは初めての場所。

「まず、そちらに座ってください。」

言われるままにベンチに座ると、いきなりシャッターが切られる。

「リラックスしてくださいね。」

そうか。いきなり始めたのは、緊張させないためだったみたいね。

それからは「立って」「座って」「歩いて」「振り向いて」など、次々に指示が出され、あれよあれよという間に次のドレスに着替える。そして次はチャペルの中へ。歩いていく間もシャッター音が絶え間なく聞こえている。

明るいチャペルの中は参列席に花やチュールがあしらわていて、本当の結婚式がこれから始まるかのような感じ。ワクワクする~!

そして正面を見ると、神父さんだか牧師さんだかの前で誓いをする場所で、立っていたのはタキシード姿の青山さんだった。

伊藤さんの指示で、青山さんのところまで歩いていくと、腕を差し出される。あ。そうか。お嫁さんは、こうして腕に手を添えるのよね。

「おはようございます。お待ちしておりました。よくお似合いですよ。」

そっと耳元で青山さんが言う。

「アハハ。ありがとうございます。」

「もういらっしゃっていたんですね。」

「先に来て撮影の準備をしていたんです。ところで、先日のカットの後はいかがでしたか?」

「はい。気に入っています。次も青山さんにお願いしようかな。」

「よかったです。ありがとうございます。」

「青山~。見とれてないで指輪の交換のシーンだぞ。」

ヒソヒソと話していると、西嶋さんがリングピローを運んできた。

西嶋さんの言葉に青山さんもスタッフさんもどっと笑う。実際は見とれていたわけではなく、まさか先日の出来について会話しているとは思わなかったみたいね。

「左手を出してください。」

青山さんが指輪を手にしてまだ笑っていて、私もまだ笑いの残った表情のまま左手を差し出すとシャッター音が集中的に聞こえてきた。私の指にはぶかぶかのサイズの指輪がはめられた。そこで青山さんがそっと背をかがめた。

「次は僕の指に指輪をはめてください。」

「はい。」

リングピローから指輪を取り出して差し出されている青山さんの左手を取る。

「なつかしい。ずいぶん前に夫の手をこうして取ったことを思い出します。」

「ご主人の話は妬けますね。いいですか?今日は『僕の花嫁さん』なんですからね。」

ニヤリとする青山さんに思わず吹き出してしまった私。

「いいね、いいね。そこで誓いのキスを!」

遠くからカメラマンさんの声が飛んでくる。き、キス?

「キ…?」

カメラマンさんの言葉にギョッとしていると、頬に何かが触れた。な、ナニ?

見ると青山さんが真っ赤になって口元を手で覆っている。

「すみません。カメラマンが事情を知らないものですから。まさかそんな注文が来るとは思っていなくて、話していなかったんです。ご主人に申し訳ないです。」

「は、はぁ…。」

ちょっと役得かも。なんて言ってる場合じゃないわよね?このシーンの写真だけは、家族に見せられないわ。

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