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不老不死

「……お前は、誰に向かって意見しておるのだ!?この愚か者め!」

それまでずっと穏健な様子であった道元だが、不意に豹変する。

「その眼は何だ!?その挑むような目つきは何だと聞いておるのだ!?忌々しい!お前の父親とまったく同じではないか。あの男もそうだった、最期の最期まで、わしを愚弄するような顔をしておった。血は争えんということか、まったくもって度し難い」

「当主様……いったい何のことですか?父は、交通事故で亡くなったはずでは……」

咲夜に与えられたのは、道元の嘲るような笑みであった。

「……そうか、お前は、何も知らなかったのだな。確かあの男は、こんな顔をしていただろうか……」

80を超える老人(道元)の顔が、テープの巻き戻しを見ているかのように、急速に若返っていく。そして、精悍な顔立ちをした30歳ぐらいの男の顔が現れる。

 「そんな……お父様……!?これはいったいどういうことですか!?」

 それは、咲夜の記憶の中にある父の顔そのものであった。7年の月日が間にあるといっても、決して見紛うことはない。

 「……幻覚を見せる魔術ですよね?」

 姿形を偽る魔術は別に珍しいものではない。

 「そんなこと聞かなくてもわかるだろう」

 そして、大して強力な魔術でもない。疑いを持てばすぐに解けてしまう、文字通り、幻覚のような魔術なのである。

 「……この顔は、正真正銘、本物のお前の父の顔だ。ほかでもない、この身体が、お前の父のものであるからの」

 咲夜は崩れ落ちる。

 「お前は見たのか?父の遺体を?」

 見ていない。損傷があまりにひどく、見てはいけないと言われたからだ。

 「お前は知っているのか?わしがいかにして生き永らえているかを?」

 知らない。考えたこともなかった。当主道元が不死身に近い存在であることの理由なんて。

 「……魔術の深淵を覗くには、あまりに人の生は短すぎる。1世紀にも満たない命で、第7位階魔術に至ることなど、到底叶うわけもない。ゆえに、わしは、考えたのだ。問題は時間であると。悠久に近い時間を魔術の研究に費やすことができれば、魔術の真理、神の領域へと足を踏み入れることができると……。『不老不死』こそ、我が多武峰家の悲願ではある。だが、それは、あくまで手段であって、目的ではないのだ。……研究の末、わしはある事実に気づいた。魂が不滅であるということにな。問題は人間の脆弱な肉体であったわけだ。いくら中身が優れていても、器がすぐにダメになってしまうことが問題であったのだ。ならば、答えは簡単だった。肉体に寿命があるのならば、寿命が尽きる前に、より新しい肉体へと乗り換えればよい。150年、150年だ。わしは、150年にわたって、自らの子孫の肉体を渡り歩き、今日まで生をつないできた。不完全とはいえ『不老不死』に限りなく近い存在となったのだ」

 「……それでは、お父様が亡くなった後、『お前が次期当主だ、魔術に励め』とおっしゃったのも……」

 父亡き後、咲夜を今日まで支えていたその言葉の意味すらまったく別のものであったのだ。

 「お前は、次期当主になる。もっとも、それは、わしの肉体としてだが」

 父の顔をしたこの老人(多武峰道元)は、父の仇であり、義兄飛鳥の人生を弄んで使い捨てにした。咲夜はその真実を受け入れるしかなかった。畏敬の念すら覚えていた多武峰家の当主は、もはや人間らしさを失った化物であると言えた。

 「当主様、あなたは間違っています!お父様は私に教えてくれました。『魔術は正しいことのために使いなさい』と。あなたは、自分自身の私欲のために、人の大切なものを平然と奪って否定する……、当主様、あなたは、化物です。人の血を啜る吸血鬼なんかよりも、ずっとあなたの方が化物です!ですから、お願いです。お父様の顔をして、もうこれ以上、当主様の好きにはさせません!」

 咲夜の頭上に、炎、水、氷、雷、4種類の魔術で練られた槍が出現する。

 「小娘め、わしに歯向かうというのか!?」

 「お父様と義兄さんの仇を取らせていただきます!」

 咲夜の4属性魔術での同時攻撃が、道元めがけて放たれた。炎の槍は右肩を、水の槍は左足を、氷の槍は下腹部を、そして、雷の槍は、心臓付近を確かに貫いた。全属性魔術の使い手である咲夜にしかできない芸当であった。

 道元は、大きく血を吐くと、そのまま目を見開いて動かなくなった。

 「やった?……お父様、飛鳥義兄さん……私はやったよ」

 150年以上生きてきた魔術師にしては、随分とあっけのない最期であったと咲夜は思う。咲夜は、せめて、眼を閉じてやろうと、道元の亡骸に近づく。中身はどうであれ、少なくとも姿形は、彼女の父親なのだ。

 「……わしを倒したとでも思ったのか、この愚か者め!」

 目を見開き、道元が立ち上がる。身体に突き刺さる4本の槍を、引き抜いた。まるで、歯に挟まった魚の骨でも取るように、あっさりと槍は抜けた。そして、たちまちに、傷口は塞がってしまう。怪我の治りを早送りで見せられているかのようだった。

 道元は、引き抜いた雷の槍を、咲夜に突きつける。

 「言っただろう。わしは、『不老不死』に限りなく近い存在だと。わしの再生魔術があれば、お前如きの魔術でいくら攻撃されようとも、造作もない。……さてと、お前のような愚か者には、躾が必要だな。二度とわしに逆らおうという気すら起こらないようにな……」

 「お父様、義兄さん……」

 咲夜は目を瞑った。

 

「咲夜に手を出すな、この外道め!」

 

 炎の槍、咲夜が生み出したそれよりも遥かに強く輝く炎槍が、雷槍を弾き飛ばした。これほどまでに強力な炎槍を生み出せる魔術師を、咲夜は一人しか知らない。

 「義兄さん!」

 「無事か、咲夜!」

 咲夜の身体を庇うようにして、彼女の義兄がそこにいた。


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