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幕間

 「ねえ、シルヴィ、昔のことを思い出していたよ。そう、ちょうど、君と出会った7年前のことをね」

 「私もよ、飛鳥。嬉しいわ、貴方と同じ夢を見ていたなんて」

 飛鳥とシルヴィアは、二人ならんで、郊外の森で寝転がっていた。

 「まさか、多武峰め、あんなことをするなんて!」

 まさに、不死鳥が、飛鳥とシルヴィアを飲み込もうとした瞬間、多武峰家は、ホテルを丸ごと魔術で破壊して、二人を抹殺しようとしたのだ。敵であるシルヴィアだけでなく、味方であるはずの飛鳥まで巻き込んだのだ。

 「道元の考えそうなことだ。俺は、かつて君のために多武峰家を裏切り、道元の子飼いの部下たち、死神部隊を壊滅させたんだ。いくら『忠誠の誓約』があるからといって、安心できなかったんだろうな。……だとしたら、安くみられたものだ」

 ホテルが倒壊するそのわずか前に、飛鳥は不死鳥に命じて、自身とシルヴィアを抱きかかえさせて、この場所まで運ばせたのだった。

 「私は、結局、貴方には勝てなかったわけか……。惜しいところまでいったのにな」

 あの瞬間、シルヴィアには、飛鳥の不死鳥を防ぐ手立てはなかった。そればかりか、飛鳥に助けられなければ、今頃は、シルヴィアといえども、瓦礫の下敷きになっていただろう。

 「……そんなことはないよ。結局、俺は、君を殺せなかった」

 あの瞬間、確かに、飛鳥は、シルヴィアを焼き尽くすように不死鳥に命じた。ただし、それは、至近距離で彼女の影を捉えていた飛鳥自身も巻き込んだ攻撃を意味した。

 「……俺は、君を殺してしまうことが怖かった。君を殺した後、きっと自分で自分を許せなくなることが分かっていた。いや、そうじゃないか。俺は、怖かったんだ。『忠誠の誓約』を言い訳にして、俺自身がのうのうと生き長らえることが……。それは、俺自身にとっても、君に対してもどうしようもない裏切り行為になるのだから」

 飛鳥が、やろうとしたことは、端的にいえば、自殺であった。少し感傷的な言い方をするならば、心中といったところか。

 「……でも、よかった。君を殺さなくて済んで、本当によかった。……だから、死ぬのは、俺だけでいい」

 飛鳥は、不意に吐血して倒れる。

 「あ、飛鳥!」

 シルヴィアは、倒れた彼に元に駆け寄る。

 「しっかりして、飛鳥、飛鳥!」

 飛鳥は、また血を吐く。顔色はすでに土気色だ。急に寿命が尽きた、いや、尽きさせられたような、そんな感じだ。

 「……『忠誠の誓約』を誓った者が、主の命令を逆らえないのは、こういうわけだよ。命令に背けば、逃れられない死が訪れる。たとえ、第7位階の魔術が行使できたって、この運命には抗えない」

 「まさか、私を助けたせいで……!?」

 飛鳥は頷く。彼に命じられたのは、シルヴィア・フォン・ヴァイサリアスの抹殺であった。にも関わらず、飛鳥は、シルヴィアを死地から救い出した。これを命令違反だと『忠誠の誓約』の術式が判断したとしても、何ら不思議はない。

 「……こんな結末、私は認めない。認めないわ!7年前も、貴方は私を助けて、自分だけ犠牲になった。そして、今も、私だけ助けておいて、こんな、こんなのって……」

 シルヴィアの眼から溢れる涙を、初めて血を吸われたときと同じように拭いながら、飛鳥は言う。

 「これは報いなのかもしれないな。俺は、7年前君を救いたいっていう自分の我が儘で、多武峰家の人間を大勢傷つけて殺した。そのあとの7年間も、君との約束を守るためって言い訳をして、自分が死にたくないから、ただそれだけの理由で、命じられるままに人をたくさん殺してきた。……シルヴィ、最期に言わせてくれ。俺は、君に会えて本当によかったよ。俺は、君……のこ……とを……ず……っと……あ……い……」

 そして、人間、如月飛鳥の眼は永遠に閉ざされた。


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