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4.新たなるトキ

意見には個人差があります。

…という札が、今夜(姫路)は少なめでした。

次回は網走、なんと100回目です。

「ドシマシタ?」

 若い女性の声に顔を上げた。

 東南アジア系の女性スタッフがしゃがんでこちらを覗き込んでいた。目が合うと、彼女はにこっと笑った。大きな黒い瞳と、可愛らしい笑窪をしていた。

「ナニカしんぱい? ゴハンたべるとゲンキでるヨ」

 片言の雑じる年若い彼女は、この施設に来てまだ日の浅い研修生だ。弟妹が多く、彼女の仕送りで学校に通っているという。試験を通って正規職員になれば給料も上がり、故郷の家族はもっと楽に生活できる。彼女はそのために日本に来た。彼女が成功すれば、弟妹も彼女のように中学や高校に通うことができる。彼女のように仕事を選ぶこともできる。

 彼女達は、疲弊した日本人の代わりに働いている。

 そうか。

 彼女はトキだ。

 なんの脈絡もなく、そう閃いた。

 あまりにも突飛(とっぴ)。だがその突飛な思考が、なぜか一番しっくりくるような気がした。

 彼女達はトキだ。滅びた野生のトキの代わりに、遠い異国からやってきた。日本の空を飛ぶために迎え入れられた新しいトキなのだ。

 いずれ彼女達も、ニッポニア・ニッポンと呼ばれるのだろう。日本の地で、日本の空で、生きていくことになるのだろう。その日、かつてのニッポニア・ニッポンのことなど忘れ去られているだろう。

 これは自然の成り行きなのか。

 それとも誰かの思惑なのか。

 わからない。

 受け入れるしかないことは理解していた。受け入れる心もあった。彼女達はそのために来て、そのための努力をしている。それは評価に値するし、実際感服していた。

 そこには(ねた)みもない、(そね)みもない。

 ただ。

 寂しいだけだ。

 哀しいだけだ。

 私達は、遠くない未来に滅ぶだろう。子々孫々という言葉は、そのとき意味をなくすだろう。かつて誰もが描いた夢は、夢と消えてしまうだろう。

 かつてのニッポニア・ニッポンも、同じ悲しみを抱いていたのだろうか。

 過ぎ去るものに、ではなく。過ぎ去ることに。

 だが。

 狭いケージの中であっても。

 彼らは生きていた。最後の一羽まで。最期の一瞬まで。広がる空にあこがれながら。

 そして、私達も。

 まだ生きている。自らの意思で生きようともがいている。自らの足で立とうとしている。

 歳を取って、体が満足に動かなくなっても。家や家族を失っても。未来が見えず迷っていても。

 最期の日まで孤独に耐え続けた、あの美しい鳥のように。

 私達はニッポニア・ニッポンだ。日本に生まれ、日本に育った、野生のトキの最後の子孫だ。滅びていく最後の残照だ。

 圭太よ、おまえも。

 おまえはまだ若い。逃げてもいい、休んでもいい。けれど諦めるな、手放すな。この年寄りより先にいなくなるな。

 かよちゃんたちのように。居場所も身内も失ったと思っても。世間から、世界から見捨てられたと思っても。誰かがきっと見てくれている。

 そうだ、私達はきっとまだ頑張れる。

 だから。

 負けるな、圭太。

 おまえもニッポニア・ニッポンだ。日本に生まれ、日本に育った、野生のトキの最後の子孫だ。

 ただ違うのは。

 新たなトキと手を携えて生きることも、新たなトキを受け入れて消えていくことも。おまえたちが選ぶことだ。おまえたちが選べることだ。

 たとえ滅びることを選んでも。

 それまでは生きろ。最期のときまで。

 最後の日まで。


 テレビ画面の向こうで。

 新たなトキ、ニッポニア・ニッポンの血を引かないトキの子孫たちが、いま悠々と日本の空を飛翔する。


                       <Fin.> 


この作品には時事ネタが含まれております。時代遅れな場合は笑って許して(古!)

時代遅れにならなかった場合は…逆にマズイ世の中ですね。

なおびみょ~な表現が多々ありますが、政治的、国際的に他意はありません。

でも特定健診には、科学的にヒトコトありですから!

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