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――頭が重い。首と、何だか腕まで痺れたような…いやほんとに痺れてイタ…タタタタ!!って。
「え、家?ね、寝てた?な、なんつー神経の図太さ……」
しかもベッドで行儀よく布団まで被っている。ため息さえ出てしまう自分の行動。
本家の離れから逃げるように自宅に走り戻った(実質逃げた)のは覚えている。
帰路何度奇声を上げ、急にうずくまって道行く観光客にちらっと視線を寄こされ敢えて見て見ぬふりをされたかも、掃除がてらお客の相手をしていた氏子のおじさん(確か親戚)が、可哀想そうな顔で見ていたかもエイコには数える余裕は無かったが。
うん、きっと頭がイタイ子だと再認識されたに違いない(泣)。
部屋に着いて、不整脈かと思う程のうるさい自分の動悸にめまいも加わり、ヘタヘタとテーブルの前で座り込んで。
しなきゃイイのに今日の出来事の反すうなんかしちゃったものだから、更に心臓はうるさくなった。
その後眠くなって、気が付けば今。
どれ位寝ていたのかとエイコが時計に顔を巡らすと6時を回っていた。
時間と感覚のバランスが微妙に合ってない気がする。もっと時間が経っていた感じがするのは夢を見ていたせいだろうか。
「あ」
――ゆめ。
「ちょっとまって…なん」
――ちく。
「か?!!痛った首!なんかイタぃって、あ、れ?夢?」
触れたくも無い、罪悪感でできた記憶。
周囲の状況と、失踪というか家出した叔母の置手紙によって知ってしまった、自分の過ち。
今見ていた夢は、まさにそれで。
「おばさん、いやユウちゃんって、昔は呼んでて」
そう、昔。
柚子に祠まで連れていかれた時。
目を覚ますと、柚子はすでに意識を取り戻していた。
何で寝ていたのかエイコが理解できずに辺りを見回すと、特に異変は無く。
ただ目を細めて懐かしむような、悲しそうな様子で水田を見つめる柚子だけがそこにいた。
黒絹がなびき、ちょうど射した月光と風に舞う水滴が、キラキラと輝く。
―――きれい。―――黙ってれば。
そう思ったのがいけなかったのかエスパーだったのか。
振り向いた柚子は不適なブラック女王ご降臨笑顔で、幼い日からこっちのエイコの心に滲みこんで脱色不可能な思い出を刻んでいった。
言われるがまま水を汲み、物凄い勢いで下山し、またまた追い立てられるように自宅に強制送還。
その後の記憶が無いから、たぶん疲れて寝たのだろう。ていうか今やっても疲労困憊する荒行、鬼かアンタと思う。
翌日エイコが知ったのは、その彼女の失踪で。
マキにそっくりな少年の事も、思い出す余裕さえ無かった。
残されたのは、エイコが水を汲んだ事実と、マキ達から柚子を奪ったという現実。
水の力の事も、その時母から知らされた。
そして、誰もエイコを責めなかった。
だからそれは、余計に自分のせいだと思えて。
「たのに、ちょ待てぇ!!?え、なにこの夢ちゃんとした記憶?!私利用された被害者じゃん?!私のせいじゃないって皆言うけど納得出来なくって!うわなんかコレすごい巧妙な罠じゃ?!」
回りに気をつかわれるほどに益々そう思い込んでしまう、何て姑息な!!
『そんなに似てる?』
ふいによみがえる、あの声。
ああ、そうだ。忘れていた。
妖しい笑みで近付いてきた少年。
美人で、どきどきして。
マキにすごくそっくりで。
…………あれ。そう。確か。
「キ…スされ…た……?」
ハイ、ファーストキスは小学生な事実判明。野山を駆け巡った記憶がほとんどの私にとってかなりの衝撃。
『いいよ。エイコはもらう――そのかわり』
衝撃のはずなのに、もっと何かあった気がする。
もらうって……イヤ、それじゃなくて。もっと。
「首、痛くて……で、」
そう、首が痛かった。始めより、どんどん痛くなってきて。
それで、そう、それで?
『マキは消えちゃうけどね』
それ。
「マキが消えるって」
どうゆう、事?
なんで、なにが?
「っ!――くび、ホントに何か痛い…寝違えた…んじゃなさそう…」
不思議なくらい鮮明によみがえる記憶と共に、同時に強くなる、首の痛み。
夢と同じ部分が疼くせいだろうか、頚部の脈がだんだんと音量を上げてくる。
思い出した一言が、エイコの不安を煽る。
でもまさか。
そうまさか。
(人生には三つの坂が――ってこれは違う落ち着け私。夢かもしれないし――――なんて事はなく、あれは間違いなく現実で。)
「え、なんで忘れてたの私?!てか、マキ無事?!」
言ってエイコは自室を飛び出した。
お目を拝借できて光栄です☆
勢いで次も書いちゃいました(>∨<)
読んでいただければ嬉しいです☆☆