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「ぃゃぁぁぁぁぁあ!!!!!!………ぁ………れ?」
手を振り上げた勢いそのままに、それは地面に叩きつけられた。
感触はナマモノ、もとい生物ではない、もっとさらっとひんやりまとわりつくような―
「き…もの?」
それも、どこかで見た気がする。しかも記憶に残る程度の頻度で。
思い出すべく、エイコは記憶の引き出しの取っ手に触れかけて、けれど次の瞬間、そのチャンスを放棄した。
だって。
「うそ…なんで、マキ…?」
目の前に、いつもと違う年下の従兄弟がいた。
病弱なこの従兄弟を見舞ったのは今朝のこと。
いつも熱をだすわ寝込むわであんまり外で遊ばないマキに、三つ年上のエイコは姉風を吹かせてよく構っていた。
つもりだが、実際は最近始めたゲームで未だ一勝も出来ていないため、体調が少しでも優れた時を見計らい勝負を挑みにいく為だ。
けれど、今日はとても起き上がれる様子ではなかった。
話しかける事さえ躊躇われるほどに、ぐったりと横たわり、額に汗を結ぶ姿が鮮明に呼び起こされる。
それが。
過去見た事がない程元気そうで。
しかも。
しかもだってこれって。
(姿―…が…えぇぇぇえーーーっとぉぉぉ??!!)
「ちゅ、中途半端に玉手箱でも開けちゃった…っ?!」
――成長している気がする。なんて紛らわしいレベルでなく、成長しちゃってる。
固まるエイコを、いつもとかわらぬ読めない笑顔で眺めていた少年は一瞬呼吸を乱すと、次いで咳込むように笑いだした。
「っ…ふっ!!そんなに似てる??」
「はっ?ぇイャだってあんたおっきくなっただけでしょ…まんまじゃん………な、何の魔法?あたしにもできる?」
その問い掛けに再びマキ(大)は笑い崩れる。
「かっ、可愛いねエイコは。…っふふっ。これは枝梨が隠す訳だ。けど、残念だったね。ハズレて。」
何がと問い掛ける前に、彼はまた、色めかしい笑みでエイコを見つめた。
その目線を合わせる為、少し腰を折ってエイコに応える。
「俺はマキじゃないよ」
「………………は。」
「亜玖璃」
…あぐり?
あぁ…
「……図書館の名前………最近できたんだよねあそこ。パソコンあるからこの前サトリたちが大人のサイトのぞこうとかで集まって…」
予測不能な展開に困惑しつつもエイコは自分の知る単語にまつわる情報を披露してみせた。 会話の基本は雑談だ、が。
ぁぁでもこれは違う。
このひとは図書館の名前を言ったんじゃ、――ない。
「…マ、マキじゃぁなぃ?!!!だだだだだだだ…でぇ?!!じゃぁ隠し子!!?えっ誰の?!ま、マキの?!!えぇぇぇ!?」
激しく混乱の渦に巻き込まれるエイコを、尚も観察していた少年は不意に動きを止めた……のでは無く。
「……ッしっ死にそぅ………ッくっ!!」
手の平が白くなるほどにぎりしめて腹を抱えて悶えていた。
え…何だろうこの状況。
目の前でアイドル並の美形が涙ぐみ呼吸困難に陥っているこの不快感やるせなさ。
確かに意識しちゃうくらいに美少年だけど、流石にこんな爆笑しかも涙目で痙攣紛いな動きをされたらかなり冷静になれる自分に気付く。
けれどどうしようもなく、エイコは仕方なしにイトコモドキをまじまじと観察してみた。
――やっぱり美少年。
あ〜そぅいやユキちゃん最近美少年図鑑作ってたっけ。1年の…誰だったか…何かこの子は渡さない〜とか何とか言ってたな…。あ、美形だしあぐり?の事言ったら喜ぶかも…ってコトはそうかマキが大きくなったらカッコイイのか……あ、でも病弱だしどっちかっていうと可愛い系になりそうかも…?
――――――ちゅ。
「……ちゅ?」
触れたものが離れ、思わず似た音をそこから表現してみる。
――――え。
いつの間にか絡み合うほど近くにあったあぐりの瞳。と、くちびる。
―――え。
「気に入った」
「は」
少し首を傾けて優しげに微笑むその様子は、小学生でさえ思わず赤面してしまうほど綺麗で破壊的。
しかもくちびるを指で撫でられている。
だから何この状況…。
そりゃ小4で既に愛読書は中高生向けのFのつく雑誌だけどそれはあくまでユキちゃんが勧めるから読んでみたらオモシロっくて刺激的で胸がキュンとなる感じで、ってしまったもう自分から読んでるじゃん…イヤイヤだから知識と実地は違うわけであたしは胸をはって全身乙女宣言できちゃうわけで手だって保育園の時と従兄弟以外とハイタッチ以外では滅多に男子と触れ合ったりしないわけ、で……ぇ。
段々と紅潮していくエイコの頬を、その熱を冷ますようにしてあぐりの白い手が包んだ。
エイコの混乱を楽しんでいるだろうその証拠に、離させてくれない目が爆笑寸前だ。
身体の緊張と比例して数を増すエイコの眉間の皺が限界になったのを見て、少年はクスと笑みを零した。
長かったのか31秒くらい(微妙)か、頬を固定していた手がふいにゆるみ、輪郭をゆっくりとなぞる。
最後の一撫でに愛しさを込めるようにして、触れていた手は頬を離れた。次いで。
―――グイッ
「ぅきゃッ」
「いいよ。千鶴子、合格。この子は俺がもらう。そのかわり―――」
何故か登場した祖母の名前と、そのあとの言葉の意味を消化するその瞬間に痛くはない痛みを首筋に覚えた。
「マキは消えちゃうけどね」
耳に慣れ過ぎた単語に、思考よりも先に身体が反応する。
その意味を質すべく口を開こうとして、再び走る首の違和感。
「痛ッ!?」
脈動と同調して疼く首筋に、身体が弛緩していく。
溺れた時のように、うまく思考がまとまらない――。
(――なに。なんで?マキが何?)
口にしようとした疑問はしかし。
熱をはらみ始めた痛覚によって、あぐりの言葉と共に砕けていった。
エイコのトラウマ暴露(笑)編です。
更新遅い上短くてごめんなさい(>_<)
また遊びにいらしてくだサイね☆
ぽちっとrankuriしてやってください_(>u<)_
気力が大幅UPします!!