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遅くなりました(>_<)下手っぴですがどうぞお目を拝借させてください…!!

「なっ何?私が何?!ちょっと、言いかけて止めるなんてやーめーてぇ!!」

 

 すごく気になるところで言葉を切られた。まさかこのままだと一生フラれつづけるとでも言うのだろうか。


 イヤまあ確かに、今回『青春ときめきスクールライフ☆☆』目的で絶賛彼氏募集中だった訳ではないが、出来ないとなると正直本当相当悲しい。


 そんなエイコの苦悩をよそに、ほんの一瞬考え込んだマキは首を縦に振った。


「分かった…じゃぁエイコ、キスしていい?」

「…………。何で。何でそゆ話になるのかさっっぱり意味不明根拠不在な上ダメに決まってんでしょ・ぉ・がっ!!も、からかうのは止めて!それよか私がどうなるのかちゃんと話して!!遠慮なく包み隠さず真っ正直に真剣に!!ふっ。大丈夫。覚悟は聞いた後するからどんとイカダに乗ったつもりでどうぞ…ってちょっとっ?!……な…ヤメっ…くぉのっ」


 訳の分からないマキの発言に一瞬怯んだが、エイコは必死に舌を回し臨戦態勢をとり、流されかけていたこの状況の主導権を自分の側に引き込もうとした。が、気付けば意識せずともマキの体温を感じる距離というか、ほぼ密着の状態に、嫌な汗とめまいのような感覚が襲う。


(―しまっ、たぁ…っ…)


――ダン!!!!



「マっ…!マキ君の浮気モノっっ!!!」


「………んへっ?ぇっ?!!えぇえっ浮気?!!」


 エイコが敗北を悟ったまさにその瞬間、襖を開け、イヤぶち倒し、黄金(こがね)の影が視界に飛び込んでくる。

 くちびるが重なるぎりぎりで押し留めていたマキの体が唐突に離れた。


 エイコから引っ張り離された刹那、マキは心から舌打ちした。惜しい。一度めがキスと呼ぶにはおこがましい、軽い事故程度のものだったから、今度は遠慮なく心のままあれやこれやしようと思ったのに。


 その恨みを顔には出さず、自分の前で涙目になりつつ睨んでくる少女に向かって笑顔で復讐することにする。

「浮気?ヤってるとこでも見たの?」

 さらににっこり。


 明らかにエイコより年下だろう少女は一瞬キョトンとし、ついで見る見る赤くなっていった。


 東洋人ではない面立ち。豊かなこがねの髪は少しウェーブのかかったセミロング。程よいクセは、櫛を入れるだけで流行りのスタイルになるような、超・うらやましい髪質だ。しかも可愛い。文句なしにエイコの知る女の子達の中でも群を抜いている。イヤ勿論ユキちゃんのが今のとこ断トツ美人さんですよと不在ながらも律義に感想に追加しておく。…何せ後が怖いし。


(ってそれより…)

「今浮気って…。あ。あーーっ!あぁ!!もしかしてマキの彼女にディズちゃんってコが…キミ?!」

 パズルが嵌まったように一人盛大に納得し問い掛けるエイコ。

 対して口を開きかけた少女は、肯定の言葉を喉まで上らせ、文字通り固まった。


 瞬く間に、春の暖かな午後の陽射しも跳ね返し、まとわりつく肌寒さと相反するような生暖かい風がないまぜになったような空気が流れ……いや、停滞し始める……。


 振り向きたくもないが発生場所は後ろの従兄弟に間違いない。

 はっ。『彼女に』っていうワードが「彼女が何人もいる」という解釈に繋がる感じがあるからかだろうか。細かい奴め…。


 大体そもそも何故、マキは彼女がいるクセに、自分にこうイロイロと仕掛けてくるのか訳が分からない。

 何か下社の神子の役目がどうのと言っていた気もするが―やっぱりサッパリ意味不明だ。

 しかもからかわれているのだろうその証拠に、マキの噂なんて歩けば山と拾える。

 何故か高校で。

 

 確かに顔は良い方だし、これといって苦手な分野も無いようだが、その噂の殆どが、内容が不自然に曖昧だけれども女の子関係ってどうだろう。


 …って、やっぱりからかって面白がっているんだろうな。どうせ乙女ですよーだ(泣)。すごく深刻そうにあんな話まで持ち出して!!!!片や、同じ家業でフラれまくっている私にそのテクを少しは教えてもらいたい…じゃなくて、お相手のコに対し不誠実すぎやしないだろうか。


 ―仕方無い。ここはやはり従姉妹として年上として……


 一つ咳ばらいをしたエイコは、(わたしの)浮気嫌疑を晴らすべく少女に笑顔で向かった。

 ふ。奥の手ならある…!!

「えぇ〜っと違うのよ?私全然関係無くってむしろ赤の他人で。しかも従姉妹だからアメリカじゃ結婚も出来ないし。だから大丈夫。あなたの彼氏は浮気してなんかないわ。…ほらマキ、あんたも心配かけてごめんなさいって謝って!まったく。彼女がいるってのに皆に良い顔してるからこうなるのよ!」

 ため息を付きつつ目を閉じて首を振るジェスチャをする。

  

 そう。アメリカじゃ結婚出来ない。なので必然的にこちらの立場を明かせばこの少女も少しは落ち着けるはずだ。ああ何て頭がいいの私!!


 微妙に言い訳として成立してないエイコの発言に、慰め対象の少女よりも浮気嫌疑をかけられたマキが反応した。そして更なる冷気が渦巻く。

 さらに居心地悪さを増す状況に固まる少女の手をマキは強引に剥がし、エイコにゆっくりと振り返った。


 え。―――な、ナゼ??怒って、イヤ、イカってらっしゃるのマキさん…!!?


「―ねぇエイコ。今かなり頭にキたから、今日は優しくしてあげられないけど別に悪いと思わないから覚悟してね。ふ……泣かせてやる」

「………え。…何、言って……」


 マキの艶やかな黒い瞳が細められる。笑ってはいるが長年の付き合いからの判断でいくとこれは―

(マ、ジで怒ってる…こ、怖いんですけど…!何で?!ああっやっぱり経験未熟な私が男女の修羅場に介入しようだなんて無謀だった??だ、誰か助けてぇぇ…)


 当て戸もない救援を求めつつ、エイコはじりじりと後退してみる。


 大丈夫自分。頑張って自分。多分もしかしてひょっとすると上手く…いけば逃げられるハズ………。どうひいき目に見ても奇跡に近い可能性だけれども。


 でもその限りなくゼロに近い可能性から目を逸らしたらオワリのような予感というか確信がエイコを襲う―――――――


「―ッコラ小娘!!そっちにマキは居ないって言ったでしょ!―全くアタシを走らせやがるとはイィ度胸ね!!………ってアンタら何で居んの?!」

 涙目の従姉妹と、弟の発する妙な空気を読まず気にせず袴をなびかせ男歩きで離れに舞い戻ってきたサキは、何があったのか息を切らしている。


 次いで自らの断言と異なる状況に、信じられないとでも言うようにエイコ達を交互に見て、オトメの恥じらいとかもっと大切にしようよ婦女子のハート☆も放り出し無視した上弟と同じセリフで突っ込んだ。

「―っまだヤってないの?!!!」

「うっわぁ兄弟…。―だってサキ、じゃぁ何でディズレイがいんの。二人にしてって言っただろ」


 サキの介入に助かったぁぁぁあ!と心底安堵していたエイコだが、聞き流せない発言に反応した。何?

「えっ言われたの?!何サキどゆことっ!!?」


 あ。バレた。

 心なしか潤んだ…というか、号泣寸前の従姉妹の様子にサキは状況をやっと認識した。

 しかも、協力(が、途中で横槍)した対象からも何やら電波を送られているような……。

(…何か、殺意な決意を感じたりする気がするのって…気のせいじゃなさそうね。)


 弟に激しく睨まれている。のはあえてスルーし、小娘ディズレイと従姉妹を確認しつつサキはため息をついた。知らずに飛び込んで来てしまったが。


 ――ナニこの修羅場ナニこの迷惑な状態ナニこの従姉妹の視線。

(――っめんどくさ!!だからとっとこ退散したのに!!)


 サキは不自然に視線をギギっとエイコからやや逸らし、儚げな微笑を湛え脳内作戦会議を開催した。


 流石にエイコから『マキに襲われました』とは言われていないが、最近明らかに露骨にギクシャクとマキを避けまくっていたのは紛らせようの無い事実だった。

 しかもそれが余計にマキを煽っているとも気付かずにやっちゃってたもんだから余計に痛い。

 今日だって上社に来るにあたり、サキはしつっこくマキの不在を確認されたのだ。

 ま、あとあとエイコに面倒な展開になること必至だから素直(と書いて大人しく)にマキの言う事聞いた方が身の為だなんて忠告してやる気は無かったが。


(あ〜睨んでる憤怒してる〜!!め、めんどくさ〜ぃ!)

 

 別にエイコくらい弟の腹黒サディストっぷりに比すれば些事だが、今は機嫌を損ねたくない。

 ――こうなったら。と、サキは瞬時に導き出した手段で応戦する。


「…あー。ぅえへんっ。えーぇー。エイコゴメン」

 秘儀、開き直り。


「って謝った?!ィヤちょっと待ってサキ!!目逸らさないでせつめ―…んぐっ」

「エイコの事は構わないでいいから。何で?」

 後ろから被さるようにしてマキはエイコを抱きすくめ、ついでに口も塞いだ。


「そりゃ助かるけど…何があったの。イェ、やっぱりイイデス。あ〜それが今日広間でお茶会があるの知らなくって…―ホラ、アタシとエイコは祠行ってたし。で、さっき社務所行ったらこの小娘に捕まって。アンタに会うって聞かなくて。家捜しされてさせられて。でー」

「マキ君の気配がしてここに来たの!!そしたらあたしを差し置いて楽しげにイチャついててっ…!」

 元・自分追跡者に援護射撃を要求するように状況を説明する少女・ディズは、次いでふと思い出す。


 おもむろにエイコに振り向くと疑問を口に出した。


「あらでも…お姉サンには彼氏―っていうかフィアンセがいるんでしょう?千鶴子先生がおっしゃってたわ。―やっぱり浮気?」


 …………………。


 ……あ〜…何かお姉サンって三つの歳の差が大分離れているように感じるな―…まあねぇそりゃ中学生からみたらもぅオバサンかもだけどさ〜……………………………………………………………………………………え。


「え」


「……マキ。何なのこのコムスメ」

「同級生。クラスメイト。千鶴子のお茶の弟子」

「が、何でそこまで知ってんのかって聞いてんのよ」

「え?!」

「知らないよ。本人にも知らされて無いのにディズが知ってるって事は、ま、ろくでもないんだろうけど」

「まあそりゃ間違いないけど、だからってあんた……」


「ちょっと!!」


 兄弟会議がつかの間途切れた所ですかさず割り込む。

「え?!何て?!私の何がなんてッ?!」


 初めて存在に気付いたように一瞬怯んだ二人は互いにそれぞれ舌打ちと溜め息を小さくつき、表情を改めてエイコに向かった。


「「何が?」」


 声を揃えて。しかもサービススマイルで。…いや、あんたらの笑顔なんて胡散くさすぎですから。


「えと…かかか、彼氏?私に?いたのかな〜とか…???私これから破談のご挨拶に菓子折り持って行かなきゃなのかな〜と、か…????」


 自分の事ながら身に覚えが全くない為たっぷりの疑問符。語尾もか細く消えてゆく。


「俺の事じゃなぃ?」

「……………え。イヤイヤイヤイヤどう考えても今の流れ的に違うでしょ!!ふぃ…フィ?婚約?誰が?!誰?!うっわちょっと待って?!あれ何だろう混乱してきたかも?!」


 イヤじゃあ何ですか?!!私のこの数週間何なんですか!!!?てか私が浮気!?これって私が浮気してたことになんない?!偉そうにマキの事言っといて私はなんて愚かな所業を…!!!


「いいよ。今回の事は。若気の至りだよね?許してあげなくも無いよ?―身体はキツいかもだけどね。ベッドでしっかり反省しようね」


 ――。あれか。眠いのに寝かせてもらえず、その上最も睡魔に襲われるベッドで不眠不休で『ごめんなさい』書き取りでもさせる気か(泣)。って何でサキはそんな哀れそうな目で私を見てるのーッ?!


 想像以上に狼狽する面々、特にマキの従姉妹の様子に、少女はひたすら首を傾げる。

 

「…?お姉サン何で知らないの?今度のお祭りでお披露目が…きゃ!」

「ディズ。黙って。ついでに今から忙しいから帰って。サキが送るから。」

少女の口に手の甲をあてつけ冷ややかに言い放つ。

 

 学校での普段と違い過ぎる態度に、ディズレイは瞬間息を呑んだ。だがすぐに、一つの事実にしがみつくように反論する。

「どうして!自分のフィアンセの事気にしちゃダメなの?!何でフィアンセの私よりお姉サンにばっかり構うのよ!!」

『――はぃっ?!』


い、今のは。


 確か、イヤ間違いなく聞こえた。この自分より三歳年下のチューボーに。

 にも。


『こんやく?!!』

塞がれているせいで声が出せない分、目をおもいっきり見開き、やはりつかの間呼吸不全に陥る。


(マっマキがこんにゃ…こんやく…!!!)


再び到来した修羅場・怒り対象私(泣)にも心を割く余裕が無い程驚く。文字通り口がパクパクしてしまう―



知られたくなかった事―しかもその最前に位置する事項をエイコに知られてしまったマキは、さらにその双眸を冷たく細めた。


 別に誰が何と言おうが決めようが関係はない。―逃がすつもりはない。エイコを取られるつもりも毛頭ない。自分だけのものにする自信だってある。

 だけど―たまに。


(―すごく不安になる)


 掌をくすぐる熱い感触。柔らかく触れるそれは、大切な、強引に奪うことを躊躇さえしたもの――


「ぷはっ…っちょっとマキ?」

 難く塞がれていた口があっけなく自由になる。

 奇妙に思うが、それよりもほんの一時の間にできた膨大な疑問を解消するべく、エイコは体に絡まる腕を剥がしマキに向こうとした。


「マキ……んっ!!?」


 くちびるに走る感触―を意識した時には既に、自分のモノではない熱が口のなかを蹂躙し始めていた。


 何が起きたか解らない内に呆気なくエイコの舌はマキに絡めとられてしまう。

 逃げるように体を反らせ、口を閉じようとするが、強い力で頭を支え―というか押さえ付ける手がそれを許さなかった。


「んんっ……はぁっ……っマキっ……はなっ…し…」

「黙って」

「んんんっ!!!!」

(イキ…できな…ぃイイ死ぬゥッ!!!) 

 

 さらに絡まってくる、エイコには刺激の強すぎる感覚に、知らず足の力は抜けきっていた。 立てない。つまり逃げられない――どころか。

(ちょっ…とコレ、はッ…)


 ―目眩にも似た、恍惚感。


(逃げ…なきゃ…捕まっちゃダ…メ…)


 囚われて、酸素飽和度も急降下。


(な、んで――)


 もう、だめ。


 



――カタン。







「―何の騒ぎなの」


 ふぁさ、と几帳の揺れる音。

 低く突き落とすかのような水琴の声とともに。


 歳はすでに70を過ぎたはずだが、未だに濁る事をしらない瞳は深く黒く。

 進める歩は滑るように軽やかに。

 放つ気は重く冷たく――…一切の隙を与えない現水途谷神社宗主。


「千鶴子…お祖母様」



 全ての感覚をマキに支配されたエイコの耳に、サキの声が聞こえてきた。


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