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 身体の自由を奪われたまま、魔王の微笑みに戦慄していたエイコはそのまま呆然とした。


 何を、聞いてしまったのだろう。婚約者?ケンスケと、……え、誰が?

 

「そりゃ驚くのも分かるけどな〜?」

「え、何故に普通?なんだよお前落ち着き無いなそんな反応されてもこっちが困るんだけど的なこの空気は何?むしろ何で落ち着いてんのケンスケ驚くよ驚愕だよいっそゴメン?!わ、私まだ理解出来ないってかある理由のもと断固反対する意思満載な為いくらアンタ達のことでも祝福出来ないってかむしろ二人だから心から大反対でホントゴメン!?」


「「………は?」」


 先程まで、いや昔からこの組み合わせで物事が上手く進んだ記憶がエイコには無かったが、ピッタリなタイミングで問い返される。

 ああもしかしてそれさえも二人の作戦だったのだろうか。

 仲が良くなさそうに見せて、その裏意外性の元に二人はソーユー愛を育んできたと?私を騙して?!


「ってそんな水くさい!!もちろん反対だけどサキ姉のこともあるし反対だけどでも何で?!反対だけど!!!」

「そんな反対反対言われまくって相談するってある意味スゲェか変態だよなと俺は思う。し、エイコ。もしかして勘ちが……」

「うん、黙っててゴメン。でも、昔のことだから、今はもう――」

「も、オマエ何がしたいわけーー?!!」


 肯定と取れるマキの発言にケンスケはすかさず反論する。


「何ってもちろんセ」

「だから言うなって!!エイコ違う!そんな目でこっち見んな!!大体常識で考えて何でそっちに行くんだよ!俺が言ったのは――」


 言いかけて、何か信じられないモノでも見るかのような表情で動きを停止した友人に、エイコも不安を煽られる。

 もうケンスケが何を言いたいのか全く見当もつかないが、ちょっとその驚愕ぶりは無視出来ない。

 

「ケ、ケンスケ何?何不自然に固まっちゃってんの!?口元ヒクついてんだけど?!ごめん言い過ぎた?!」


 エイコは焦った。

 内心反対だろうが何だろうが、今は黙って味方に徹するべきだったか。今ケンスケを失うのは痛いどころの話で済まない。

 

「ああ先輩?俺、この日都合が悪くて――……いかがです?」


 エイコの混乱などお構いなしに言って、マキはその耳元で何やらカサカサとひらつかせた。

 それが何なのかすごく気になるが、ガッチリとホールドされているせいで確認出来ない。


 だがその攻撃力は凄いらしく、先ほどまで健気に魔王と対峙していた勇者の瞳は揺れに揺れまくっていた。

 え、ちょ……ホント何で?!


「オマエ、その日付って……しかもその席……」

「モチロン、偶然ですよ?わざわざこの日に会場押さえてチーム招待してなんてそんな面倒なコト、普通しませんよ?普通は」


 クックと愉快気に腹部を揺らしてマキは笑う。どっから見ても黒さがにじみ出ている。


 やたらと強調される『普通』に、ケンスケは急遽開催されることになったサッカーゲームの裏事情を悟った。

 本当に急で、チケット発売も表沙汰にはされないファンクラブ限定のような扱い。

 開催も都心ではなく、この街の競技場。

 にも係わらず即日完売というこのゲームはもちろん、ファンでなくても興味を引くような内容で、ケンスケにとっては例え当日考査試験だろうがすっぽかしても行きたいゲームだった。


 運悪く情報入手が遅れた為、既に完売だったが、そこはそれ。

 名士の息子という肩書のお陰で持っていたコネクションをフル活用。

 会場側、主催、関係者漏れることなく手を回してチケット入手は成就する予定だった。

 

 が。

 

 そこそこイロの良い返答だった上記コネクション様方からの一斉連絡。

 一言、『無理』『ごめん』『メンゴ★』の他、とうとうと現在の経済状況からローンの返済についてまで語られ結局入手できず。

 

 そして現在まで、諦めたくはないけれど絶望的だった、そのゲームチケットが。


「――ッ、いくらだ」

「ってホント何の話?!」


 目に異様な光を宿し、ケンスケはマキに凄むように問いかける。

 落ちた獲物にマキは満足そうに微笑みかけた。


「言ったでしょう先輩、用事があると。俺の都合に、そんなもの発生しませんが?」

「ああもう分かったって!!いいよそれで!!それとあの件とついでに当日までの口実で良いんだな?!」

「意外と使えますね」

「ってオマエな!!エイコ泣かしたら、」

「無理。今から鳴かすんで。あと、ひとつ―――……っ」

 

 ヤラレ仲間が良いように買収される様を呆然と受動していたエイコの肩に、マキの体重が掛かる。

 急に前のめりにされたエイコは、小さく声を上げ、次いで覚醒した生存本能の元、抗議しようとして。



――ぽたっ



 右肩に押し付けられた、マキの口もと。

 やけにダイレクトに伝わる、熱。


 ソレが布越しにゆっくりと肌に馴染んでいくのと、エイコが視界に捉えたのは同時で。

 その鮮やかな朱と、ゆがめられたマキの表情に目が奪われて。



「――ちょ、マキッ!!!?」



 数瞬遅れてエイコが叫んだと同時に。



 あれだけ強固だったマキの腕から、意志が無くなっていった。



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