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「ああッ!!!アンタくま吉に何てことーーーッ?!!」
胸に本州生息の証である天下御免の向こう傷、もとい、月の模様が無い赤茶色のクマは、飼い主の心配もよそに見事に着地した。顔面から。
日頃干したり洗ったりされている為、飾られているだけの物より色々扱いが要注意なのに!!
「投げただけ。大丈夫。また作ってあげるから」
「え、これお前が作ったの?!」
「あほーー!!そゆ問題じゃないでしょ?!痛いでしょ?!泣くでしょくま吉が!!しかも何破壊予言してんのよ?!!」
「はいはい痛かった痛かった。エイコ、その特殊能力についてあんまり公言しないほうがいいよ?網持った研究所の人間が押し寄せるよ?」
「マジで?!なに何エイコスーパーナチュラリーな力あんの?!」
「研究所って何ですか網って私野生の珍獣ですかーー?!!って、人を痛いヒトみたいに言って!!!違うから!!普通にそのコとは何となく心が通うから!!!」
「さみしかったんだよね。ゴメンね、いつも一緒にいられなくて。ま、これから毎晩そんなコト思う暇無いけどね」
「キャー!!って何中学生がイカガワシイ発言してんだよ俺より手慣れたその言動ってどうなんだよ?!おいエイコ!!発言ストップ!!」
「ぐ…………!!」
このままマキの作っていた妖しい雰囲気を打ち消して逃走しようそうしよう!!と、ただその遂行にのみ集中していたエイコは突然の命令に思わず従った。
従兄弟のお願い口調でありながら押し付ける、というかほぼ脅迫と言って間違いないものに抵抗する癖が付いている反面、逆に単純な命令のほうが反応しやすい。
「ってそんな私いつから下僕体質に!?しかもマキに反抗的とかオプション付いたら世間様から見ればアレでしょ?!アレなんでしょ?!!」
「ねぇ?客観的に見ても間違いないんだよ、二人のカンケイ。おねだり出来たらご褒美もあげるよ?」
「そのストーリーユキちゃんが持ってた!!弱味を握られ逆らえずに心神耗弱状態まで追い詰められ最後は身も心もヒーロー2に尽くすんだよ嫌だって下僕ーー!!」
「うん、エイコに期待した俺が間違いだったよね。ちゃんと正規の関係を教え込んであげるからね?」
「うわ。こいつマジ卑猥中学生――じゃなくて!!海部の趣味もこっち置いて!!無視す・ん・な!!」
「脇がそのセリフ吐くと悲しいよね――エイコ」
くすくすと嘲笑するように小さく笑い、マキはエイコの耳元で同意を求める。
「ひィーーーーー?!!」
「誰が毒づけと言った誰が脇役三下だ歩く公序良俗違反物!!ってだからイチャこ・く・な!!エイコ!!いい加減俺を認識してクダサイ?!じゃないときっとこのまま名前呼ばれる事無くハケさせられそうだから頼むから!!!」
出て来た時からクマを投げつけられ、目前ではR指定な中学生に幼馴染とイチャつかれ。挙句、多分存在感は少なくない自分が脇役呼ばわりってどうなのか。
登場した時と立ち位置は変わらずそのままで、ほぼ成長期の後半に差し掛かった少年は嘆息した。……もうイヤだ帰りたい(泣)。
「あー何ですかーケンスケ、先・輩?」
ドアに手を付き明後日の方向を向くケンスケに、マキは迷惑そうに声をかけた。
いい加減無視していても、大人しくギャラリーに徹するようなネガティブ人でも無いし。虫なら早々に除去。というマキの内心がバッチリ通じた少年――ケンスケは顔をひきつらせた。
「何そのナゲヤリな言い方取って付けた敬称!!この前と大分態度違わねえ?!イヤこの前が気持ち悪かったんだよなどう考えても!!」
「えッ!!ケンスケ、マキと会ってたの!!?」
「違う!!何か意味が違う!!」
「……妬いた?」
「話を引っ張るなーー!!もうホンット嫌だ俺こんな役目……!!」
いいながらへたりと片膝を立て、ケンスケは座りこんだ。
程よく日に焼けた――といってもシーズン程ではないが、美味しそうな焦げ具合の肌には悲壮感が漂う。
いつもツンツンと自慢げに立てている色素の薄い髪も、たった今の応酬によりうなだれ気味だ。
黙っていれば爽やかスポーツイケメン、口を開けばイジられつつもバカなイケメン、と言うのがユキちゃんの批評。辛いのか甘いのか超・微妙。
「誰だ今バカ野郎って罵ったのは?!」
「イヤ野郎はつけて無いからしかも私じゃないし!!でもありがとう私よりイジられ系で!!で!!?選手交代!!?ああもちろん譲る譲るベンチに喜んで戻っちゃう!!」
「嫌だよ先・輩なんか。趣味じゃない」
「オマエそれいい加減言いづらくないか?!普通に言えよ敬意を込めて!!しかも趣味って何だよって違う。あ〜違う。エイコ、交代はしない。が、帰りもしない。イヤ、荷物とか要るから一旦は帰るけど」
「はい?!イヤイヤ当方と致しましては即刻この位置と交代して頂きつつ逃亡までの時間を稼いじゃえよ的な、ぅわ?!」
身体を起こして足元に居たマキに、エイコは腕を引っ張られ、起こされた。
次いでエイコが逃げる体勢を整えるよりも先に、マキはその背後を取り腹部に腕を絡めた。
「何、先・輩そーゆーご趣味だったんですか?でも参加させる気は毛頭無いんでツライと思いますよ」
言いながらぎゅっと腕に力を込める。
「い〜〜や〜〜ぜひ参加頂く方向で!!何といっても魔王に一派市民一人の勇気って儚すぎるし!!ってなにこの手ナニこの位置ィィィィィッ!!!!!?」
「だってエイコがそんな事言うから。ハジメテなのに二人相手って、しかもいきなり浮気発言だし。そんな余裕出されるほど俺って」
「待て!!!言うな守って信義則!!?てかエイコ!!お前なに全面放棄してんだよ手伝えよパーティなんだろ攻撃補助しろよ」
「え、交代交代!!私ゲームオーバー早いんだよね!!ハイタッチーー!!」
エイコはベッドから上半身を乗り出し、その反動で脱走しようとした。が、ノリでも流れでも従兄弟の拘束はゆるまない。
「ダメだって。少なくとも今夜エイコに自由は無いよ?て事で、いい加減ホントお引き取りいただけませんか、先・輩?」
「ケケケケケケケケっケケケ、ケンスケーーーーッ?!」
「気味悪ィ呼び方すんな落ち着け!!逃げ、じゃなかった帰らねーから!!てか祭りまでは泊まるし!!」
絶妙なノリツッコミの割り当てにより途切れなかった会話がプッツリ断絶。
もともと混乱してボケまくったエイコが黙ればケンスケの苦労は激減したはずだが、そこは何といっても貞操の危機。譲れるわけがない。
って、え。
「え。…………家出??」
「うーーーーーーん?家出され??かな、うんどっちかって言えば?」
ケンスケはそう言うが、エイコは疑った。
一人息子で両親の愛情、特に父親から注ぎ込まれたものは凄まじい。
いつだったか川で溺水した際(主にケンスケのせいで)、誰にもこの事を黙ってようと一致団結したの理由の半分でもある。ちなみにあとの半分はエイコの母親に帰依する。
加えて地元名士の跡取りという肩書も付くものだから、周囲からもチヤホヤ遠巻きに生暖かく見守られてきた。
行き過ぎたケンスケ父の目に留まりたく無いが為にあくまで遠巻きに。
それほどの環境に置かれている彼が家を追い出されたなど、素直に納得できる事では無かった。
「ほれ。将来のお嫁の為に家事育児伴侶のお世話も出来ない男ではイケないよケンちゃん!!!て、父さんにいわれてんじゃん?それで」
「へぇぇぇぇぇ?」
肝心な会話の中身を聞いてか理解拒否か、間延びた返事をするエイコを抱きしめたまま、マキは舌打った。
(千鶴子……)
目前に不在の祖母に、最愛であるかのような微笑を贈る。
善良な一般民であれば疑うことなく見惚れるその顔に、エイコは戦慄した。何かまたしちゃったかな、私ィィィ(泣)!!
そしてもう一名。
意外にもマキに耐性があるのか、笑顔の真意を知りつつもケンスケは真っ直ぐにマキを見据えた。
口元には挑戦的な笑みさえ浮かべて。
「改めてどうも?俺の婚約者サン?」
普段見ない類の笑顔をケンスケから向けられたことに、エイコは気付けずに。
ただその言葉だけが、耳に響いた。
お読み頂いてありがとうございます輝ける読者の皆様!!<(_ _)>
どうもノロノロのまないでございます☆★
今回イジラレな彼登場★
ここから少し(やっと?)祭とかなんとか(←誤魔化した)に近づいて欲しいです(泣)←オイ
でもなんか……マキ、可哀想になってきたかも(笑)