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第十五話 ライラ出陣

「クロ、戻ったか」

「なんとかな」


 教会へ戻った俺をライラは玄関で迎えてくれた。こんな状況でもなければ嬉しい場面だっただろうが、今は状況が状況だ。それはストレートの赤髪をポニーテールにしている目の前のライラの服装からも見てとれる。


「それは……ドレス、か?」


 ライラが着ていたのはドレス、のようなものだった。

 分類上はドレスなのだろうそれには胸当てや肩当てがついており、戦いの場で使う物なのが分かる。だが本来足を覆い隠すはずのスカート部分にスリットが入っており、更に前のスカート部分は大きくカットされているせいで、かろうじてふとももを隠す程度の長さしかない。恐らく動きやすさと見栄えを重視したのだろうが、色々大丈夫なのか不安になってくる。


「これか? これは私の為に作られた物でな。ドレスといえばドレスなのだが、その本質は鎧に近い。技研が特殊な素材を特殊な製法で加工したものらしくてな。魔力障壁を張れたり、防寒機能がついていたりする優れものだ」

「そ、そうなのか」


 しかも無駄に高機能。障壁とか防寒はスカート部分をカットしたせいで必要になったんじゃなかろうか。見栄えがいいからいいけどさ。

 そしてまた技研か。温泉といい今回の微エロ……見栄え重視のドレスといい、そこはいったい何を研究してるんだ。技術の正式名称は帝国精霊技術研究所だろ? 精霊要素はどこにいったんだよ。


「その、技研ってのはドレスも作っているのか?」

「あそこは色々と作っているからな。例えばこの教会に備え付けられている防衛設備のほとんどは技研製だ。どれもこれも凄まじいものばかりなのだが、ほとんど一点物なのが難点だな」


 あの魔獣どもを押し留めた結界も技研がつくったのか。凄いけど精霊あんまり関係ないよな? あとほとんど一点物という辺りに地雷臭を感じる。量産してるのがゴミとかそういう話な気がするぞ。


「量産してる物ではなにがあるんだ?」

「一点物ではないものでは……回転しながら敵陣に突っ込んで爆発するという代物があるな。なぜか狙った通りに転がらないことで有名なんだ。名前は、なんだったかな……」

「……パンジャンドラム?」

「あぁ、そんな感じの名前だったな」


 分かった、よーく分かった。技研の連中は紅茶の飲み過ぎだ。あと技研の関係者に異世界人がいるな。それもとびきり頭のおかしい奴か、思いっきりふざけてる奴が。


「クロお兄ちゃん!」


 同郷人の盛大な悪ふざけに頭を痛めていると、聞き覚えのある声に慣れ始めた呼び方で呼ばれた。

 この声と呼び方は……


「おう、セツカか」

「大丈夫? 怪我してない?」

「大丈夫だけど怪我はしてる」

「見せて!」

「お、おう」


 セツカは真剣な様子で羽や足などの傷ついた部分を見ていく。

 しかしこうして改めて確認してみるとけっこう酷いな。穴だらけとまではいかないが、かなりボロボロだ。痛々しさすらあるだろう。


「……けっこう無茶したよね?」

「……した」

「はぁ、もう……なるべく無茶はしないで。治せない傷だってあるんだから」

「分かったよ」

「約束だからね? ……癒しの光をここに」


 セツカがそう言うと同時にセツカの手からやわらかい光が溢れだし、俺の傷が塞がっていく。

 なるほど、これが回復魔法か。


「はい、おしまい。……その、気をつけてね。クロお兄ちゃん」

「分かってるよ」

「うん、そうだよね。……わたしも戦えればよかったんだけど」

「いや、セツカはそのままでいいよ」

「でも……」

「セツカがいたからゼンゲン達は前線に出れてる。それにたぶん、シャルムとクラレ達も回復してくれたんだろう?」


 セツカがいなかったらこんなのんきに会話してる余裕なんてなかっただろう。ゼンゲン達が動けないせいで戦線は崩壊、俺とライラは支援が全くない状況で戦うことになったはずだ。

 うん、こうやって考えるとセツカは本当に縁の下の力持ちだな。ルリ達の手伝いとかしてそうだし。


「うむ、そうだな。それにセツカは結界を展開するのも手伝ってくれたのだ。セツカが手伝ってくれなかったら結界は間に合わず、地下施設を利用しての死闘になるところだったからな。胸を張るといい」


 セツカって縁の下の力持ちどころじゃなくて今回のMVPじゃね?

 あれ、俺ってばもしかして妹に戦果で負けてる……?


「そ、そう、かな?」

「そうだとも。誇っていい。それに今もルリの補佐をしているのだろう?」

「なに、そうなのか?」

「あぁ、そうなのだ。ルリが作業が楽になったとついさっき言っていたから間違いない」

「え、えっと、わたしルリに魔石持ってくるように言われてるから。もう行くね」


 頬に朱が入りだしたセツカは慌てた様子で足早に俺達の元から離れる。だがその途中で一旦立ち止まり。


「……クロお兄ちゃん、ライラ、無事に帰って来てね」


 そう言って今度こそ立ち去っていった。

 ふむ、誉め殺しにするとセツカは逃げるのか。今度逃げられない状況で誉め殺しにしてみるのも面白そうだ。


「可愛いな」

「俺の妹だからな」

「無事に、それこそ無傷で帰って来なければな」

「当然だ」

「では、行くか」

「そうだな」


 お互いの意見を一致させたあと、俺はライラの肩へ飛び乗る。今回は肩当てがあるので引っかいたりしないか心配しなくていい分、いくらか気持ち的に楽だ。

 ライラは俺が飛び乗ったのを確認してから、玄関の一角に置かれているやたら長いトランクケースの様なものを手に取った。


「ライラ、それは?」

「これか? これはまぁ、見れば分かるよ」


 そう言ってライラはケースを開ける。

 その中に入っていたのは昨日ライラが素振りに使っていた大剣だった。

 その大剣はよくよく見ると確りと装飾が施され、柄の部分には拳大の赤い宝石が埋まっており、儀礼剣の様な印象を受ける。だがこの大剣から感じる威圧感は儀礼剣のそれではない。幾度となく実戦を繰り広げた剣のそれだ。

 それに装飾にしても宝石にしても、恐らく魔術的な意味合いがあるのだろう。宝石のほうは十中八九火の魔石だろうし。


「改めて見たが凄いな。この大剣」

「そうだろう? 我が家に伝わる宝剣のレプリカなのだがな。技研が手掛けただけあって凄まじい力を発揮するのだ」

「そ、そうか」


 ま た 技 研 か。技研の紅茶中毒者どもなんでもありだな。宝剣のレプリカってなんだよ。お前らはどこを目指してるんだよ。


「強いて欠点を上げてるとすれば、一度でも全力を出してしまうと修理が必要ということだな」

「……それは剣としてどうなんだ?」

「渡してきた者は兵器として作ったとか言っていたぞ? それに一応予備として普通の大剣も持ってきている」


 そういう問題じゃないと思う。

 というか兵器として作ったとかバカだろ。誰だよ責任者。そいつ絶対、紅茶の飲み過ぎとロマンの追い求め過ぎだろ。


「さて、クロ。準備はいいな?」

「あ、あぁ、問題ない」

「よし、では出陣と行こう」


 そう言うとライラは俺を肩に乗せたまま、大剣片手に意気揚々と教会の外へと出る。そのまま迷いのない足取りで結界の手前まで歩いていき、そこでようやく立ち止まると。


「……くるぞ」


 そうポツリと呟いた。

 いったい何が来るのか。そんな俺の疑問は次の瞬間には解決することになる。教会の尖塔の一つ、その先端が強烈な光を発し始めたのだ。

 そしてその輝きが頂点に達したとき、光が放たれた。


 放たれた光は結界をすり抜け、諦め悪く体当たりをしている魔獣達に直撃、爆発を起こし、数多くの魔獣を吹き飛ばす。

 爆風こそ結界に遮られたのか感じられなかったが、光が着弾した場所にはちょっとしたクレーターが出来上がり、その威力は誰が見ても明らかだった。

 恐らくこれが……


「魔導砲……」

「そうだ。さぁクロ、次はようやく私達の番だぞ」

「……了解」


 一瞬魔導砲だけ撃ってればいいんじゃないかと考えたが、あれだけの砲が連射できるはずがない。それにライラも戦いたがっている様だし、楽ができるはずがないか。


「では……参る!」


 ビュッと風を切って加速するライラ。あっという間に結界の外に出た俺の契約者は、今まさに体当たりをしようとしている狼に向かって大剣を降り下ろす。

 降り下ろされた刃は狼の身体を両断し、なお余りある力を大地に叩きつける。


 ドゴォ━━


 凄まじい破砕音が響き、雪が舞い上がり、地面が抉れる。その余波に巻き込まれて体勢を崩した魔獣達に、ライラは横薙ぎの一撃を振るう。


 ゴォ━━


 再び魔獣が両断され、赤と白で彩られた風が吹き荒れる。

 剣の届く範囲にいた魔獣を僅か二降りで片付けたライラは次の獲物へと向かう為、迷いなく一気に踏み込んで加速する。

 飛び込んだ先は敵陣のど真ん中。


「はぁっ!」


 気合い一閃。再びの横薙ぎはやはり魔獣を両断し、余波で魔獣を吹き飛ばす。

 だが一度の横薙ぎだけでは背後にいる魔獣までは手が回らない。ここは恐らく、俺の出番だ。


「炎散弾!」


 ライラを背後から攻撃しようとした連中は、俺の炎散弾で穴だらけになってもらった。

 ついでとばかりに、吹き飛ばされて体勢を崩している魔獣達にも炎弾を撃ち込んでおく。そしてどうやら俺の行動は正しかったらしく、ライラは嬉しそうに笑みを浮かべながら更に一歩、また一歩と踏み込んでいく。


「はーっ! はぁ! 甘いぞ獣ども!」

「炎弾! 炎弾! 更に炎弾!」

「はっはっはっ! 吹き飛ぶがいいわ!」


 ライラが地上で無双し、それを俺が援護する。そうやっているうちにもゼンゲン達による空からの攻撃は当然行われている。

 地上ではライラが、空ではゼンゲン達が、それぞれ無双しているのだ。


「グルガァァァ!」


 流石にこのまま殺られるまま、されるがままという訳にはいかないようで、狼達が隊列を組んで突撃してくる。

 だがそれをみすみす見逃すゼンゲン達ではなかった。


「総員撃ち方用意! ……撃て!」


 タイミングを合わせた炎弾の一斉射。それによって狼達は燃やされ、吹き飛ばされ、突撃を止められることになった。だが突っ込んで来ていたのはどうやら狼達だけではなかったらしい。


「ちっ、炎弾!」


 狼達の後ろにいたのは鹿だった。散々燃やしてきた鹿といえど、その大きな角を使った突撃は脅威だ。油断はできないし、できるならライラの元へたどり着く前に殲滅したい。


「炎弾! 炎弾! くそっ! 炎散弾!」


 だがいかんせん数が多すぎる。ついに炎散弾の有効射程まで近づかれてしまった。

 安全マージンを確保する為にも、ライラには少し下がってほしいのだが……


「雪鹿の群れでの突撃か、悪くない」


 ですよねー、ライラはバトルジャンキーなところがあるからなぁ。こうゆうのは絶対に正面からねじ伏せると思ったよ。

 自信満々のようだけど、一応減らせるだけは減らしておくか。炎弾、炎弾、炎散弾っと。


「せぇあぁっ!」


 予想通りというべきか、ライラは鹿達の突撃を大剣の横薙ぎで粉砕してみせた。剣が当たったものは両断され、当たらなかったものも風圧で吹き飛ばされていく。そして少しでも体勢が崩れようものなら俺の炎弾が炸裂する。

 数を持ってしても近づくことがやっと。そこには圧倒的な力の差があった。


「ふむ。やはり契約精霊がいると違うな」

「そうなのか?」

「あぁ、いつもより剣が軽く、切れ味が増している。これがこの剣の本来の力なのだろうな」

「なるほど」


 技研の紅茶中毒者ども精霊と関係ないのも作ってるが、ちゃんと精霊と関わりのある技術を使ったものも作ってるんだな。契約精霊がいると威力が上がる剣か。悪くない。


「それにクロがいると後ろや追撃を気にしなくていいからな。一撃一撃に集中できる」

「そ、そうか。役に立ってているようで何よりだよ」


 やってることは固定砲台となんら変わりないことだが、確りと役に立てていたようだ。

 だが固定砲台で満足してもしょうがない。できればそれ以外のことをしたいが……無理だな。ライラの一撃は完成されていて、俺みたいな素人では手の出しようがない。


「む……」

「どうしたんだ? ライラ?」

「くるぞ、構えろ」


 何が来るのかと一瞬だけ疑問に思ったが、この状況では敵以外にあり得ないと思い直す。

 いつでも炎弾を撃てるようにイメージを固めて待つこと数秒。そいつらは現れた。


「……雪鹿とスノースライムの大型種か」


 猛然とこちらに向かってくるのは鹿とスライムのボス格だ。どちらもやはり三メートル近くはあり、非常に大きい。特にスライムのほうはキモさが三倍以上は増加しており、見てるだけで気持ち悪くなってくるほどだ。


「なかなか悪くない相手だ。精霊剣を試すにはちょうどいい」

「精霊剣……?」


 なんで楽しそうなんだと言いたいところだが、どうせ戦闘狂染みた答えが返ってくるのは分かりきっているので、謎の剣について聞いてみる。するとライラはやたらと嬉しそうな表情で。


「さぁクロ、精霊剣だ。やるぞ」

「え、ちょっ!?」


 そう言ってボス格二匹に突撃していくのだった。


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