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第十四話 教会防衛戦

 この辺りのボス格の一匹らしいデカブツゴリラをえげつない方法で焼死させた俺達は、一路教会へ向かって飛んでいた。


『魔獣は見つかったか?』

『こちらシャルム小隊、魔獣は影も形もありません』

『こちらクラレ小隊、こっちもぜんぜん見あたりません』

『了解した。引き続き探してくれ』

『『了解』』


 シャルムとクラレとの念話を切り、一人小さくため息をつく。というのも魔獣が全く見あたらないのだ。

 最初は全員集まって魔獣の群れを探していたのだが全く見つからず、捜索範囲を広げる為に小隊ごとに分かれて探したのだがそれでも発見できなかった。

 今では魔獣の群れではなく魔獣単体を探しているのだが、シャルム、クラレ小隊の報告の通り全く見つかっていない。


「だけど、これで魔獣の群れが教会を襲撃するのはほぼ確定だ」


 魔獣の群れがいないのは別にいい。俺の思い過ごし、考え過ぎでしたーで済むのだ。

 だが魔獣が一匹もいないのは異常だ。どこかに集結していると見てまず間違いないだろう。


「……まさかもう教会を襲撃してる、なんてことはないよな」


 それは最悪の可能性だ。俺が足止め部隊の殲滅なんてやってたせいで救援が遅れたという可能性。

 だがもしそうなら先行させたアホカラス二羽から念話が入るだろうし、ライラからも戻ってくるように念話がくるだろう。

 しかし、それでも一度湧いた不安は簡単には消えてくれない。


「頼むから無事でいてくれよ……!」


 今の俺にはライラ達の無事を祈ることしかできない。

 魔獣どもさえ見つけれればこの不安と一緒に燃やし、ライラ達の安全を確保することができるというのに……もどかしい。


『クロ、聞こえるか? 私だ』

「ライラ!」


 もどかしさから辺り一面を焼き払ってやろうかとも考えだした俺に、突然ライラから念話が入ってきた。落ち着いた声音から襲撃を受けている訳ではなさそうだ。


『どうしたんだ? そんなに大きな声を出して。今のは頭に響いたぞ』

『あ、いやすまない。無事だったのが嬉しくてな』

『それなのだがこのクロの眷属らしい二羽のカラスは何なのだ? 私のところに来てからというもの要領の得ないことばかりでな。何か私に伝えることがあるのか?』


 あのアホカラスども使えないな……まぁいい。俺がこの場で直接伝えればいい話だ。


『時間がないから手短に言うが、教会が魔獣の大群に襲撃される可能性がある。逃げるなり迎撃の準備をするなりしてくれ』

『魔獣の大群とはどの程度なのだ?』

『分からない。色々な魔獣が錯乱したり洗脳されてるらしくてな。種類も数も予測がつかない』

『錯乱、洗脳? それは……』

『信じられないのも分かる。だが実際にこの辺りから魔獣が消えてるんだ。……信じて欲しい』


 俺自身始めて見たときには混乱したのだ。話を聞いただけでは信じれないだろう。そう思って言った言葉だったのだが。


『もちろんクロの言うことだから信じるさ。ただこのやり口に覚えがあってな。あれはどこで聞いた話だったか……クロ? 聞いているのか?』

『あ、いや、すまない。ボーとしていた』


 まさかあっさり信じられるとは思わなかった。信頼されているのは嬉しいが、簡単に詐欺に引っ掛かりそうで俺は心配になってきたよ。


『ふむ、とにかく私達は迎撃の準備をしておこう。クロ達も一度戻ってくるといい』

『いや、俺達はもう少し辺りを偵察してから戻る。……一応聞くが逃げるという選択肢はないんだな?』

『当たり前だ。魔獣の群れなど私が蹴散らしてみせる。それに、教会と子供達の守護をシスターから頼まれているのだ。逃げることなどできまいよ』

『そうか……』


 うすうす分かってはいたが、ライラには逃げる気はないらしい。

 こうなっては是が非でも魔獣を見つけ、少しでも数を減らす為に先制攻撃を仕掛けなければな。


『なんだ、心配しているか? ならば安心するといい。クロにはまだ見せたことはないが、私はハイルング流剛剣術の使い手なのだ。腕前をお父様から褒められたこともあるのだぞ』


 うん、ライラが強いのはなんとなく分かるんだけどね? でも数が多いと無理があると思うんだよ。


『それに教会には防衛用の設備があるのだ。私では動かせないが、ルリならば結界を張ることができる。子供達も手伝ってくれるだろうし、魔導砲も使えるはずだ』


 ルリちゃんスゲー、子供達スゲー、あとやっぱりあの教会ただの教会じゃなかった。防衛設備と結界はまだ分かるが、魔導砲とはなんだ。教会なのに砲台があるのか。


『それにセツカとゼンゲンら、お前の眷属達もいる。何も心配はない』


 すんません、セツカ以外は戦力にならないんです。

 仮にセツカがゼンゲンを治せていたとしても、子供と遊んでギックリ腰になるようなジジイが戦力になるかどうか。他も似たり寄ったりだしな……


『クロ様、失礼します。魔獣の群れを見つけました』


 ライラとの念話に突然割り込んできたシャルムが伝えてきたのは俺が待ち望んだものだった。


『なに? 教会から見て、魔獣の群れがいる方角と距離は?』

『北東方向、教会から十数分の距離、かなり近いです』

『……間に合うか?』

『急げば間に合うかと』

『よし、シャルム小隊は一度俺と合流しろ。それとクラレ小隊にも合流するように伝えてくれ。ライラ、聞いての通りだ。迎撃準備を急いでくれ』

『了解です』

『分かった』


 ライラとシャルムとの念話を切り、魔獣の大群がいるであろう方向を睨んで一、二分が経った頃、シャルム、クラレ小隊が俺と合流を果たす。


「……全員揃ったな。準備はできているか?」

「はい、シャルム小隊準備完了しています」

「クラレ小隊も準備できてます」

「よし、これより我々は教会に向かっている魔獣どもに空爆を行う。敵の数は多く、殲滅は不可能だ。だがここで充分な打撃を与えなければ教会の防衛は困難になる。非常に難しい、というよりも無茶な作戦だが……やれるな?」

「はい、任せてください」

「やれます。大丈夫です」


 改めて厳しい状況を説明したのだが、俺の眷属達の士気は下がるどころか上がったようだ。全く頼もしいことである。

 ……だからこそ、こんな無茶な作戦を実行できるというものであるが。


「……あれか」


 そしてそれはついに俺の視界に入った。雪煙を上げながら移動する魔獣の集団。間違いない。あれが敵の用意した教会を襲撃する魔獣達だ。

 教会との距離は……あと数分といったところだろう。間に合ってよかったが安心はできない。さっさとこいつらに攻撃を仕掛け、戦力を削り、最低でも足止めはしないといけない。


「行くぞ、攻撃開始だ!」

「「了解!」」


 眷属達に指示を出し、俺自身も敵集団の最前列から一列下がったところ目掛けて急行下する。


「取り敢えずくらっとけ魔獣ども。炎散弾!」


 これだけ的が多く、それも密集していれば狙いをつける必要もない。集団の頭上を飛行しながら、デタラメに炎散弾をばらまいて魔獣を撃破していく。

 いくら倒しても切りがないが、ここにいるのは俺だけではない。


「敵の足を止めるわよ。いいわね?」

「了解です」

「任せてください」

「いくわよ……炎弾、放て!」


 俺よりも高い場所に陣取るシャルム小隊は、正確な射撃で魔獣の集団の最前列を攻撃している。

 倒している数はさほど多くなく、倒された魔獣の死骸がそのまま障害物となっているので、足止めには成功していた。


「僕らは大きいのを狙うよ。……今だ、突撃!」

「「おうっ!」」


 敵陣中央部付近に陣取るクラレ小隊は、突撃による接近戦で大物狩りを行っている。

 足止め効果こそ微妙だが、大物が確実に始末されているので魔獣どもの戦力は低下していた。


「負けてられないな。ん? あれは……」


 炎散弾をばらまきながら眷属達の奮戦ぶりを見ていたが、魔獣の中にひときわ大きく、威圧感のある個体を見つけた。

 そいつは見てくれこそ狼なのだが、大きさが三メートルはあり、先ほど戦ったデカブツゴリラと似た雰囲気を持っていた。恐らくあのデカブツ狼は……


「デカブツゴリラと同格、つまりこの辺りのボス格の一匹ってことか……上等!」


 あの狼の戦闘能力はかなり高いだろう。ただの体当たりでもあんな巨体でやられては、教会なんぞ一撃で瓦礫になってしまうのは目に見えているのだ。

 それにあのデカブツゴリラの謎の防御力の様に、なにか妙な力を持っている可能性もある。あいつは何としてもここで撃破しておかねばならないだろう。


「取り敢えず、炎弾!」


 五発同時発射された炎弾は狙い通りデカブツ狼に着弾する。

 だが確かに炎弾が着弾したはずのデカブツ狼は全くの無傷で、燃えるどころか体毛すら焦げていなかった。これはデカブツゴリラと同じ、ということだろう。


「接近戦で傷つけて、そこから炎を流し込むしかないか」


 遠距離からチマチマやってる時間などないので、さっさと仕留めるべく接近戦を挑もうと狼のほうへと飛行する。

 だがその途中でいきなり地面から先の尖った氷柱が迫り上がってきた。なんとか横に体を捻ることで回避するが、氷柱は魔獣達を巻き込みながら次から次へと迫り上がってくる。

 全て回避するのは不可能と判断し、左右ではなく上へ、つまり高度を取ることで氷柱の殺戮から逃れることはできた。


「何んなんだ……? あれは?」


 どう考えても自然現象ではないだろう。それにあの氷柱は先が尖っていたし、最後のほうはともかく最初の一本は明らかに俺を狙っていた。

 だとすれば……


「魔法、か。そりゃ使えてもおかしくないわな」


 魔法なんてオカルト扱いしていた元日本人の俺が、異世界でカラスになっただけで使えるようになるのだ。ならばこの世界で生まれ、育ち、ボス格にまで上り詰めたあのデカブツ狼なら魔法ぐらい使ってくるだろう。

 だがそうなると接近戦は難しいな。……俺一人なら。


『シャルム! 援護を頼む! 一瞬でいいからあのデカブツ狼の気をそらしてくれ!』

『デカブツ狼……? あぁ分かりました。ではいきますよ』


 シャルムの放った黒い炎弾は狙い違わず、デカブツ狼の顔面にきれいに入った。

 予想外の方向から攻撃されて動揺したのだろう。デカブツ狼は明らかに俺から注意をそらす。


「隙あり━━レイブンキック!」


 そして上空からの勢いのついた俺の蹴りは、隙だらけのデカブツ狼の頭に直撃する。

 デカブツ狼の頭に深々と突き刺さる足にはデカブツゴリラのときとは違う、何かしら硬い物を砕いたような衝撃が伝わってきた。間違いなく頭蓋骨を粉砕したのだろう。ならばあとは━━


「燃えろぉ!」


 デカブツ狼に蹴りを放った体勢のまま、足の先から炎を出すイメージで魔法を発動する。

 外部からの炎弾を無傷ですませるデカブツ狼でも中から燃やされるのはやはり耐えられないらしく、燃やされること僅か数秒で地に倒れ伏すことになった。


『お見事です』

『シャルムの援護のおかげだ。助かった』


 本当に助かった。俺一人ではいったいどれだけ時間がかかったことか分かったものではないし、彼らがいなければこの攻撃は意味を為さなかっただろからな。


『いえ、当然のことです。……クロ様、まもなく先頭集団が教会にぶつかってしまいます』

『ライラの言っていた、結界とやらは確認できるか?』

『それが……いえ、たったいま確認しました』


 たったいま確認したというシャルムの声につられて上昇しつつ教会のほうを見てみると、確かにそこには半透明の壁の様なものが教会を覆っていた。なるほど、これは確かに……


「結界だな」


 結界樹のような攻撃的なものとは違う、守ることに特化した結界だ。

 半透明の壁は頼りなさげに見えるが、確りと魔獣の侵入を防いでおり、あの結界があるあいだは教会は安全だろうと確信できる。


『クロ様、敵の足が止まって……』

『あぁそうだ。クラレ小隊はそのまま大物狩りを、シャルム小隊はその援護を頼む』

『クラレ小隊了解です!』

『シャルム小隊了解です。……ですが私の小隊はそろそろ魔力がつきてしまいます』

『あ、えっと、僕の小隊もそろそろ厳しいと思います』


 なに? 魔力切れだと? ……いや、彼らは俺の様に誰かと契約している訳でもなければ、上級精霊という訳でもない。魔力切れもやむ無しだろう。

 むしろ包囲突撃戦、デカブツゴリラ戦、そしてこの魔獣の大群への攻撃と三連戦できたのが凄いのだ。文句や愚痴を言うのは筋違いだな。


『ならばお前達は一旦教会に戻ってゼンゲンどもを引きずり出してこい。動けなくても固定砲台にはなるだろ』

『『了解です』』


 結界をすり抜けて教会へと戻っていくシャルム、クラレ小隊の面々を見送りつつ、俺は単独で魔獣の集団に突撃する。

 結界に張り付いて体当たりしている連中に炎散弾を撃ち込むと結界にダメージが入りそうなので、届きもしないのに俺目掛けてジャンプしてくる奴らに炎散弾を叩き込んでいく。

 噛み付こうとした狼を穴だらけにし、その流れ弾が猿を吹き飛ばす。鹿は通りすがりに燃やし、僅かにいるスライムは攻撃が飛んで来る前に炎弾で確実に始末する。

 そんなことを何度か繰り返したとき。


『クロ、聞こえるか?』


 ライラから念話が入った。


『あぁ聞こえるぞ。どうした?』

『一旦戻ってきてくれ。私も出るからな』


 ライラが出るのは分かったが、それでなんで俺まで戻らないと……いや、恐らく今の俺の様に精霊単体で戦うのは本来の戦い方ではないのだろう。となれば精霊と精霊術師が揃って戦うのが本来の戦い方のはずだ。


『分かった。すぐに教会に戻る』

『うむ。クロの抜けた分としてゼンゲン達を出すから、彼らと入れ替わるようにして戻ってくれ』

『了解』


 それから暫くのあいだは魔獣どもに安全な位置からの空爆を行っていたが、それもゼンゲン達が出て来たのですぐに止めることになった。


「じゃあゼンゲン、あとは任せるぞ」

「お任せを。この程度の魔獣、わしらで殲滅してやりますわ!」


 ジジイ無理すんなと言いたいが、今回のこれは子供達まで引っ張り出した総力戦だ。年寄りだから、怪我人だからといって労ってやる余力はない。


「突撃ぃー!」

「くたばれ犬っころぉ!」

「ライラ様の為に!」

「なに言ってやがる! セツカちゃんこそ正義!」

「黙れ! さっさと撃つんだよ! そしてルリちゃんこそ至高に決まってるだろ!」


 俺はジジイと変態どもの奮戦を背後に、何とも複雑な気持ちで教会へと戻るのだった。



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