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第十三話 包囲突破戦

「お前ら、戦闘準備だ」


 命の恩人を見捨てれる程、俺は腐ってない。

 だったら戦うまでだ。後顧の憂いを消す為にもまずは目の前の獣どもを焼き尽くし、教会へ向かっているであろう獣どもも焼き尽くす。燃やして燃やして燃やし尽くして、敵は全て灰にする。


「戦うんですね?」

「あぁそうだ。まずはコイツらをぶちのめす。シャルムとクラレは小隊を率いて戦え。連携して確実に潰すんだ」

「了解しました」

「了解です」

「そこのアホ二羽は俺の援護だ。サボったら……分かってるな?」

「「サー! イエッサー!」」


 よし……殺るか。


「総員っ! 炎弾用意! 目標は任せる!」


 まずは全員で一斉射してつけ入る隙を作る。奴ら目の前で攻撃魔法の準備がされても動かないが、飛び掛かれば流石に動くだろうからな。……全員用意はできたかな? お、炎弾は速射だけでなく同時展開もできるのか。そのアイデア貰うぞ。


「撃てっ!」


 俺の号令で一斉に放たれた炎弾は次々と魔獣達に着弾していく。

 狼が燃え、猿が爆散し、鹿が吹き飛ぶ。そして俺の放った五つの炎弾は全て狙い通りスライムに当たり、スライム達を蒸発させていた。


「突撃だ! 相手の上を取りつつ乱戦に持ち込め!」

「「了解!」」


 やはり小隊ごとに分かれて突撃させたのは正解だった。コイツら錯乱してたり洗脳されてるせいか動きが鈍い。これなら乱戦でより戦いを有利に進められる。


「吹き飛べ、炎弾!」


 獣どもの上を飛びながら、スライムを優先的に撃破する。獣達はまだしも不定形なこいつらは何をしてくるか分からないからなっ!?


「ってぇなぁ! 蒸発しろくそスライムどもが! 炎弾!」


 翼の先っちょを持っていかれたが、このくらいならすぐ治る。

 それよりもこのスライムども、どうやってか遠距離攻撃してきやがった。やっぱり油断ならない。

 ん? あそこのスライム、やたら表面がトゲトゲしてんだがぁっ!?


「くそがっ! 散弾かよ!?」


 今度は足先を持っていかれたが、これで分かった。やつら自分の一部を飛ばしてきてる。

 ところで、俺は殺られたら殺り返す主義なんだ。


「そら、お返しだっ! 炎散弾!」


 おっ、この炎の散弾はなかなかいいな。途中で炎が弾けるから、相手が弱い今回なら炎弾を一発ずつ撃つより遥かに効率的だ。


「く、来るなっ! 来るなー! ク、クロ殿ー! ヘルプミィー!」

「ひぃぃぃ!? クロ殿ー! 助けてくださーいっ! てか置いてかないでぇー!?」


 アホ二羽もギャアギャアいいながも炎弾をバカスカ撃ちまくって戦果出してるし、これは負けてられないなぁ?


「蒸発しろキモスライム! 炎散弾っ!」


 くはっ、スライムの奴ら炎散弾一発で穴だらけになりやがった。しかも弾けた炎が獣どもにも着弾して一石二鳥どころか一石五鳥くらいの効果が出てる。こりゃ最高だ!


「足りねぇ……足りねぇぞゴミども! 燃えろ! もっと燃えろぉ!」


 やっぱり炎はいい。見てるだけでテンションが上がる。しかも燃えてるのは俺の邪魔をする敵だ。その事実で更に気分が高揚してくる。


「あははは、最っ高だいっ!? 誰だ! 木の実投げやがったのはぁ!?」


 あいつかこのクソザル。俺の羽が痛むだろうが! 炎弾くれてやるから燃えて詫びろ! はっ! 燃えることもできずに爆発四散しやがった。ざまぁねぇ!


「っと、包囲を突破しちまったな」


 振り返って見ればそこに包囲は存在せず、敵がそこらじゅうで燃え上がってる光景が広がっていた。

 これならこのまま教会へ向かっても良さそうだが……せっかく燃やしてもいいものが残っているのに、ここを離れるという選択肢はあり得ない。


「まだ燃えてないのはどいつだ! てめぇか! お前か! それとも貴様か! どいつもこいつも、皆まとめて━━燃えろぉぉぉ!」


 威勢よく飛び掛かってきた狼に炎弾をくれてやり、木の実を投げてきた猿には炎散弾をお返しし、鹿は通りすがりに燃やした。優先的に燃やしたせいかスライムは見あたらなくなっていたが、見つけたら即穴だらけにしておいた。

 右を見れば炎が一面に広がり、左を見れば黒焦げになった獣どもの死体が転がる。その光景はどう控え目に言っても、地獄だった。


「……んあ?」


 気づけばいつの間にか燃やすべき敵は全て炭か灰と化し、俺を包囲していた獣どもはどこにもいなくなっていた。


「…………」


 燃やすべき敵がいない。燃やすものがない。そこまで考えたとき、ヒュゥと冷たい一陣の風が吹き抜けた。

 その風で熱が冷めたのか、俺の頭のネジはゆっくりと締め直されていった。

 そして。


「うわぁ……」


 放火衝動が収まり、正気に戻る。だが自分が何をやったのか、何を言ったのかは当然のごとく残っているので。


「うわぁぁぁ……」


 端的に言って死にたくなった。

 確かに魔獣達はどのみち殲滅するつもりだったが、炎の赤と焼死体の黒しかない地獄絵図を生み出す必要は微塵もない。

 それになんだ、あの左頬を殴られたから顔面を殴り返すと言わんばかりの戦い方は。別に右頬を殴られたら左頬を差し出せとはまでは言わないが、あんな戦い方ではまるで狂人のそれじゃないか。これでは何の為に小隊を組んだのか分からない。


「もうやだ、これぇ……」

「クロ様、凄まじい戦いぶりでした! ……クロ様?」

「あ、あぁ、シャルムか。残存敵勢力は?」

「はい、私達を包囲した魔獣達は全滅しています。これからどうしますか?」

「これから……そうだな。次の行動に移らないとな」


 異世界に来てから黒歴史しか生産してない気がするが、それは取り敢えず置いておく。

 今は次の行動、つまり教会へ向かう魔獣の殲滅に移らないといけない。


「よし、まずは全員集合だ。まさかさっきので殺られるような奴はいないだろう?」

「はい、おりません。……二羽程バテてている者がいますが」

「あのアホ二羽か……取り敢えずそいつら含めた全員を呼んできてくれ」

「了解です」


 この放火衝動はそのうちどうにかしよう。最初よりはマシになった気もするしな。

 俺がそんなことを考えているうちにシャルム小隊三羽、クラレ小隊三羽、アホ二羽とここに来た全員が集合した。

 頭数で確認したが、シャルムの報告通り一羽も欠けていない。いくら敵が雑魚同然だったとはいえ、あの包囲を殲滅して被害なしというのはなかなかのものではなかろうか。これなら次の魔獣の殲滅も楽に終わりそうだな。


「よし、全員揃ったな」

「はい、シャルム小隊全員揃っています」

「クラレ小隊も全員揃ってます」

「もう無理死ぬぅ……」

「帰る、おうち帰るぅ……」


 二羽程ヘタレているが、残りの六羽はやる気充分といったところだ。

 だが体調は万全とは言えない。俺も含めて皆どこかに傷を負っており、特にクラレ小隊の面々は接近戦でもしたのか魔力が漏れ出す傷口が痛々しい。

 しかし、ここで逃げ出す訳にはいかない。多少無理をしてでももう一度戦わなければならないのだ。


「よし、総員━━」


 教会へ飛ぶぞ、そう言おうとした瞬間だった。


「━━グオォォォオオォォオオオ!」

「っ!? 何だ!?」


 俺の言葉を遮るようにして、空恐ろしい獣の雄叫びが辺り一帯に響き渡る。

 いったい何事か、そう思った俺の図上に影が差した。


「っ!」


 ほとんど無意識で俺は前に飛び出す様にして飛び立つ。その直後、凄まじい衝撃が背後で起こり、俺は巻き上げられた雪に吹き飛ばされる。


「キャアッ!?」

「ひゃあ!?」


 そしてどうやらそれは他の者も同じであったらしく、悲鳴を上げながら吹き飛ばされていく。

 そうやって眷属が吹き飛ばされていく中、俺はこの衝撃を発生させた犯人を見上げていた。


「……さしずめボス猿ってとこか」

「グォォォ」


 そいつは猿というよりもゴリラだった。迷彩色である白い体毛こそ子分であろう猿達と同じだったが、大きさは三メートル程と全く別物。そしてそのデカイ二本の腕は並大抵の物は粉砕してしまうであろうと容易く予想できる力強さ持っていた。


「グォッ」

「総員飛べぇ!」


 そいつが腕を振り上げたとき、俺には眷属達を気遣うような余裕など残っていなかった。ただ一言、回避するように言葉を飛ばすのが精一杯だったのだ。


「…………」


 一気に空高くまで上昇した俺はその場で旋回しつつ、そこからゴリラがいるであろう場所を見下ろしていた。

 今ので殺られた者がいるのではないか。そんなことを考えながら。


「……っ!」


 だがそんな心配は杞憂だった。数秒後には八羽のカラスが空に上がって来たのだ。

 それは間違いなく俺の眷属達であった。


「お前ら、無事だったか」

「えぇ、何とか。しかしかなりの大物が出て来てしまいました」

「あれはこの辺りのボス格の一匹です。どうしましょうか?」

「そうだな……」


 全員空に上がれたのだからこのまま教会へ向かってもいいが、戦いの最中にあのデカブツに背後を突かれるのはかなりまずい。

 ここは戦って撃破するのが望ましい。だが奴はあの通りのデカブツ。予想以上に時間がかかり、教会への救援が間に合わない可能性もある。そうなってしまっては本末転倒だ。しかし始末して置かないと後々がめんどうだしな……


「よし、アホ二羽は帰ってよし」

「「マジで!?」」

「ただしライラに伝言を頼む」

「へいへいなんでしょう?」

「何でもやりますよ。こんなとこから帰れるんならね!」


 ほう、何でもやるのか。ならばハードルを上げておこう。


「教会に魔獣の大群が接近中の可能性あり。これを確実に伝えるんだ。分かったな?」

「え、それマジなんですか?」

「それだと帰っても危険な気が……」

「さっき何でもやると言ったろうが」

「あ、あれはほんの冗談でして、えぇ。なぁ? そうだよな?」

「あ、俺はそんなこと言ってないんで残りますね」

「て、てめぇ裏切ったな!?」

「うるせぇ、裏切るもなにもねぇだろうが!」


 こいつら見苦しいな……急ぎだし脅すか。


「ガタガタ言ってると燃やすぞアホカラスが! さっさと行かねぇか! パシりもできねぇのか!」

「「いえ出来ますやります」」

「だったらさっさと行け!」

「「サー! イエッサー!」」


 これで教会へいるライラに警告はできる。直接の支援は出来ないが、事前に警告があれば逃げるなり迎撃の準備をするなり出来るだろう。

 まぁ、子供の足では逃げきれないだろうし、ライラが子供達を見捨てる訳もないから迎撃一択なんだろうけど。


「さて、と……」


 俺達はあのゴリラを始末するとしようかなっと、危ないな。木がいきなり飛んで来たぞ? 結界樹は葉っぱを飛ばすから結界樹ではないと思うが……


「あのくそゴリラ、木を引っこ抜いて投げてきたのか」

「そのようですね。どうしますか?」

「決まってる。攻撃だ。シャルム小隊は上空から援護、クラレ小隊は俺に続け。……行くぞ!」


 シャルムとクラレに指示を出し、ゴリラに向かって急行下しつつ、出せるだけの炎弾を全てゴリラに向けて撃ち込む。

 更にそこにシャルム小隊の援護射撃が加わり、クラレ小隊の面々も炎弾を撃ちまくる。

 そして━━


「グォォオオォ!?」


 無数の炎弾は木を投げようとしていたせいで全く防御を取れなかったゴリラに次々と着弾していく。俺達を包囲していたような魔獣ならこれだけで爆発四散したあと蒸発するだろうが、あれだけのデカブツがこれで沈む訳がない。

 俺は急行下しつつ更に炎弾を追加し、接近戦の準備も行う。クラレ小隊も俺に続くようにして突撃するようだ。


「急行下爆撃からの━━」


 シャルム小隊の援護射撃が降りそそぐ中、どういう仕掛けかゴリラは未だ原形を保っていた。

 だが、それもこれで仕舞いだ。


「━━レイブンキック!」


 カラス必殺の蹴りがゴリラの頭部に直撃する。

 速度がついているおかげでかなりの威力がある蹴りだったが、流石に頭蓋骨を粉砕することは出来なかった。後に続いたクラレ小隊員の二羽の蹴りも頭部に直撃するものの、やはり致命傷には至らないらしい。

 だが最後に蹴りを放ったクラレの爪は頭の柔らかい部分、つまり眼球に深々と突き刺さり、ゴリラに大きなダメージを与えていた。


「グォ! グォオオォォ!」

「っと、危ね」


 デカブツでも痛いものは痛いらしく、目を押さえてのたうち回っていた。それに巻き込まれてはかなわんと俺達は一旦距離を取る。

 それにしても……


「クラレ、お前えげつないな」

「そうですか? シャルム姉さんも敵には容赦なくやれって言ってましたよ?」

「お、おう、そうだな」


 確かにその通りなのだが、実際にやれる奴は少ないと思う。

 それにクラレはもっと穏やかなやつだと思っていただけに衝撃も大きい。


「流石はお前の弟、やっぱり蹴りの鋭さは群れ一番だな」

「そうだろう? ここのところはまた早くなったようでなぁ……」


 さいですか。

 ならば俺もそんな群れ一番のキックファイターを見習って容赦なくいくとしよう。


「頭に穴が七、八個は空いてる今なら謎の防御力も発揮できまい。くたばれ、炎弾!」


 痛むから回復しつつあったゴリラの頭部に炎弾が直撃する。

 そして俺の炎弾が合図であったかの様にシャルム、クラレ小隊も頭部目掛けて撃ち始めた。


「ォォォ……」


 黒いのやら弾けるのやら様々な炎弾が降りそそぐ事、数秒。

 その中に致命傷になるものがあったらしく、デカブツゴリラはゆっくりと地面に倒れる。

 魔獣達の包囲を完全に殲滅した瞬間だった。


「ふぅ……全員動けるな?」

「はい、動けます」

「僕達も大丈夫です。……教会に向かうんですよね?」

「正解には教会に向かっている魔獣どもを殲滅しに向かう。よし、全員俺に続け!」


 威勢のいい返答を受けて、俺は空へ上がる。そしてそのすぐあとを眷属達が編隊を組ながらついて来ていた。

 向かうは教会へ向かっている魔獣達。

 目的は、敵の殲滅だ。


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