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第十二話 威力偵察

「さて、空に上がってさっそくだが小隊編成を行う。この中で群れの階級や序列、あるいは戦闘能力が最も高いのはどいつだ?」


 教会から飛びたってすぐに俺は小隊編成に取り掛かった。組織的に重大なことを、即席という条件下でやるならこの小隊という単位は便利なのだ。忘れてなくてよかった。


「私です」

「……女性か?」

「そうですが……何か問題が?」

「いや、少し確認しただけだ。特に問題はない」


 そら女性というかメスというか、セツカ以外にも女性はいるのは分かるのだが……雌雄の見分けがつかない。カラスの雌雄の見分け方なんて知らないので仕方ないが、雌雄の見分けがつかないのは後々問題になりそうだ。ここは……


「我、火の上級精霊クロはシャルムを眷属とする」


 名付けして正式に眷属にしてしまおう。どうせいつかは全員名付けするつもりなのだ。いい機会だから小隊長二羽はこの場で名付けしよう。

 ふむ、セツカもゼンゲンも眷属化したときは燃えたのだが……今回は燃えないな。ある程度は眷属化しているからだろうか。


「あ……よ、よいのですか? 私を眷属にして」

「あぁ、言ってなかったがどうせいつかは全員眷属にするからな。それに君はこの中では一番腕がいいのだろう? ならば眷属にするのは当然だと思うが。されともなにか不都合でもあるのか?」

「い、いえ、ありがとうございます!」


 名付けするだけで好感度プラススタートとかマジちょろい。……のだが群れ全員分の名前はちょっと考えられない。そのあたりはライラに手伝ってもらうしかなさそうだな。……好感度マイナススタートとかにならないといいが。


「さて、君にはこの中から今回部下になる者を二羽選んでもらう」

「私が、ですか?」

「そうだ。仲がよかったり、力量が近い者を選ぶといい」

「では……」


 そこでシャルムは一旦言葉を切ると集団の中の二羽と目配せし、その二羽を近くに呼ぶ。


「この二羽でお願いします」

「ではシャルムはその二羽と小隊を組んで行動しろ」

「了解です」


 これで一小隊できた、と。


「シャルムの次に階級や序列、戦闘能力の高いのは誰だ?」

「あ、僕です」

「……女か?」

「いえ、男です」


 流石に僕っ娘ではなかったか。流石に異世界でも珍しいようだな。さて名前は……


「我、火の上級精霊クロはクラレを眷属とする」

「わぁ……ありがとうございます! クロ様!」

「気にするな。さっきも言ったがどうせ全員いつかは眷属化するつもりだったんだからな。……さてクラレ、シャルムと同じ様に二羽選べ。その二羽が今回お前の部下、小隊員になる」

「えっと、それじゃあ……」


 クラレはシャルムと同じ様に目配せで二羽を呼びよせる。……ん? あの二羽どっかで見たような気が……?


「この二羽でお願いします」

「それはいいが……おい、そこの二羽」

「はっ! なんでしょうか?」


 あ、こいつ教会で俺に報告してきた奴の片割れだ。ということはもう一羽もそうか。一応確認はしておこう。


「お前ら俺に報告しにきた奴らだよな?」

「はっ! その通りであります!」

「お前らとクラレはどういう関係なんだ?」


 苛めっこと苛められっ子か? もしそうなら燃やすぞ。


「クラレは自分の弟です。そしてこちらは自分の……悪友、ですかね」

「……お前らも帰ったら名付けするから、その、あまり気にするな」

「は、はぁ……?」

「クロ殿、こいつは弟を溺愛しているので気にしなくてもいいかと」

「そ、そうか。兄弟仲が良くてけっこうだな。うん」


 弟に追い越されたら兄としての面目丸潰れだと思うが……まぁ、本人気にしてなさそうだしいいか。

 さて、残る二羽は……


「残った二羽は俺の小隊に入れ」

「あ、はい……」

「了解です……」


 なんだ、この鬱々とした暗い野郎二羽は。うちの野郎どもは全員軍人気質な奴らばかりではないらしいな。

 えぇい、そのめんどくせーみたいな空気をやめろ。俺まで鬱々としてくる。いっそシャルムかクラレのとこに押し付けようか……


「シャルムの姉さんがよかった」

「俺もだよ」

「「……はぁ」」


 くそ、コイツらただの変態だ。これじゃシャルムやクラレに押し付けられない。

 仕方ない、再教育しつつ俺が面目みるしかないな。


「てめぇら再教育な」

「「そんなっ!?」」


 あたり前だろうが。なに考えてんだ。燃やすぞ。


「あの、クロ殿、もうすぐ怪しい人のような影を見たところですが……どうしますか?」

「もちろん着陸して調べる。誘導しろ」

「了解しました。……クラレ、あそこだ。いや、もう少し左」


 俺達はクラレ小隊を先頭に、クラレ兄とその悪友が人のような影を見たという場所に着陸する。

 俺は現場には何か異常が残っているだろうだろうと思っていたが、案内された場所はどう見ても何の変哲もない雪林だった。


「本当にここでその人のような影を見たのか?」

「はい、間違いありません」

「ふむ……」


 もう一度辺りを見回すが、やはり異常はない。魔力的な異常ならあるかも知れないが、そういう感覚が鋭いらしいセツカやライラならともかく俺には分からない。

 まいったな。来てみたはいいが存在の確認はおろか、手がかりすら見つからないとは。手がかりなしで山狩りは無意味に等しいのだが……


「クロ様! 危ないっ!」

「ん? ぬぉっ!?」


 シャルムがいきなり叫んだので何事かと思ったら、その次の瞬間にはシャルムの小隊が炎弾を放った。

 何気なしに炎弾の着弾地点を見てみると、昨日俺が仕留めた狼と同種だろう狼が頭を吹き飛ばされて絶命している。これは、助けられたらしいな。


「シャルム、助かった」

「ありがとうございます。ですがそれは少々早いようです」

「なに……?」


 そう言われて辺りに見をやれば、さっきまでいなかった狼が一匹二匹と現れる。その数は続々と増え続け、十秒経たないうちに二桁を超えていた。


「囲まれてるな」

「はい、囲まれてます」

「突破は?」

「容易です」

「ならよし」


 辺りには狼の唸り声が響いていて正直恐ろしいのだが、シャルムが余裕そうなので俺も心に余裕を持てる。そうやって落ち着いてよく考えれば、コイツら見てくれこそ恐ろしいが俺の炎弾一発で沈むし、案外弱いのかも知れない。

 うん、確かにこの包囲を突破するのは簡単だ。それどころか殲滅もできるな。


「……クロ様」

「なんだ?」

「さっきの言葉、訂正させてください」

「……は?」


 いきなり余裕を失ったらしいシャルムを見て、俺もシャルムに遅れて異変に気づいた。

 狼の唸り声の中に、別の獣の唸り声が混ざっているのだ。そのは鳴き声はキーキーとかん高い鳴き声で、それはまるで猿のような……


「ちっ、上もか。退路を塞がれたな」

「そんな、ど、どうすれば?」

「落ち着けクラレ。取り敢えず円陣を組むんだ」


 猿の魔獣に上を取られ、狼の魔獣にジリジリと追い詰められる俺達はひとまず円陣を組むことで襲撃に備える。

 だがこの状況には不思議なところがある。それはいくら異世界とはいえ猿と狼が手を組むだろうか、ということだ。普通なら肉食の狼が猿を食うだろうし、狼は犬科、つまり文字通り犬猿の仲だと思うのだが。


「狼に猿。確かにこれは突破は容易とは言えないな」

「はい……いえ、どうやらまだくるようです」

「今度はなんだ? ドラゴンでも来るのか?」

「流石にドラゴンはないかと。あれは……鹿、ですかね?」

「鹿、だよな?」

「ぼ、僕に聞かれても……」


 思わず疑問系になってしまったが、それも無理はない。狼と猿以上に狼と鹿が組むことがあり得ないからだ。

 だが俺達の混乱をよそに食われる側である鹿達は食う側である狼の戦列へと加わっていく。おいちょっと待てそこの狼、なんでいま鹿に場所を譲ったんだよ。食えよ。争えよ。内輪揉めしろよ。何で仲良くしてんだよ。サバンナでも同じことやれんのかよ。

 いや、待てよ……?


「そうか、分かったぞ」

「流石クロ殿ですね。何が分かったのですか?」

「この世界は食う側も食われる側もみんな仲良く過ごす。そんなやさしい世界だったんだよ」

「しっかりしてください! そんな訳ないですから! 誰か! 誰か回復魔法を!」


 シャルムが何やら騒いでいるがそれしかないだろう。なんか獣達が殺気だっているが気のせいだ。でなければごっこ遊びに違いない。

 そうでもないとこのシュールな状況に説明がつかないだろう?


「あの、シャルム姉さん?」

「なに!? クラレ!」

「ひぅ!? そ、その……セツカ様は居ないよ?」

「あぁぁぁ! そうだったわね! ゼンゲン様が腰をやったからね! 私達が一度もセツカに関心を持たなかったからね!」


 おっ、鹿のあとにもまだ来るな。……え、嘘だろ。なにあのスライムみたいな不定形の奴。あれだと生き物なのかも怪しいぞ。それにキモい。


「お、落ち着いてシャルム姉さん。ねぇ、兄さん何とかしてよぉ」

「すまんクラレ! このバカどもを抑えるので精一杯だ」

「こんなの無理に決まってるだろ! 俺は故郷に彼女が待ってるんだ! こんなところで死ねるか!」

「そうだ! 俺は帰ったら彼女と結婚するんだぞ! こんなところで死んでたまるか!」

「「いや、お前らに彼女いないだろ」」

「「自棄だよ文句あるか。このショタコンのホモ野郎」」

「クロ殿、コイツら殺しましょう」

「そうですよクロ殿、あの中にぶちこみましょう」


 うわ、しかもけっこういるな。キモい。あれどうやって倒すんだよ。燃やせばいいのか?

 …………そういえばあんな感じのキモいスライムの鳴き声なんだったけ?


「兄さん!」

「わーたよ。おいシャルム」

「なによ!」

「あんまりヒステリック出すとクロ殿に嫌われるぞ?」

「ぇ、ぁ、あぁ……」

「だからほら、闇属性の魔法を応用していいところ見せるんだよ。得意だろ?」

「え、えぇ。えぇ! やってやるわ!」


 えっと、ピキーは可愛いほうのスライムだから、正気を失うほうの鳴き声は……


「テケリリーテケリリー」

「ク、クロ様……?」

「テケリリーテケリリー」

「シャルム姉さん急いで! クロ様が壊れた!」


 ちょっと違うな。もう少し鈴の音がなるような感じで、句読点つけて……


「できたわ。クロ様、いきます。黒炎っ!」

「テケ……お、ぉう?」


 なんだ? この見てると落ち着く黒い炎は?


「よし、こついらも放り込むか」

「お、おい待て、待つんだ」

「そうだ待て、話せば分かる」

「「せーのっ!」」

「「ぎゃあぁああぁぁぁ!?」」


 なんかいま、変態カラスが二羽ほど黒い炎に放り込まれた気がする。


「熱い! 死ぬぅ!」

「燃える! 燃えてるぅ!」

「熱くないし燃えもしない。その黒炎で死ぬのは発狂したときだけだ」

「「この人でなし!」」

「「黙れ腰抜けども」」


 そうか、この黒い炎は黒炎というのか。しかし炎で発狂とはどういうことだ?


「大丈夫ですか? クロ様」

「あ、あぁ大丈夫そうだ」

「よかったです。闇属性魔法の精神干渉を応用してのものでしたからちゃんと効果があるか不安だったんです」

「なるほど、あの黒炎は闇属性魔法か」

「正確には火属性魔法と闇属性魔法の複合魔法ですが。……それとクロ様、この獣達がなぜお互いに争わず、こちらを威嚇するだけのかが分かりました」

「なに、本当か?」


 この奇妙な連合軍と攻撃してこない理由が分かったというなら、それは大金星だろう。ここに来たかいがあったというものだ。


「はい、間違いありません。私の部下の二人が察知したところ、この辺り一帯に精神干渉系の魔法が掛けられていたようです。貴女達、ご報告を」

「はい、報告します。私達が辺りをよく調べたところ、辺り一帯に精神干渉系の魔法、複数を無作為に錯乱させる魔法とこちら推測ですが、特定の相手、もしくは集団を洗脳するタイプの魔法を察知しました」

「これらの魔法の行使は先ほどまで断続的に続いていたのですが、今はもう精神干渉系の魔法は一切使われていません」

「……まさか、俺は?」

「その、言いづらいのですが……錯乱しておりました」

「…………」


 なんたる不覚。眷属を率いて出撃した先で錯乱するとか……マジない。


「そ、その元気だしてください。クロ様」

「そうですよ。けっこう強力な魔法でしたし、仕方ないですよ。ね、そうですよね、シャルム様」

「え? えぇ、仕方ないことです。直前に常識を逸する光景もありましたし」

「……そうだな」


 二つ程あったしな。常識破りの光景と発狂するような奴の大群という二つの光景が。

 うん、こんな状況なら錯乱するぐらい仕方ない。


「他には何か分かったことはあるか?」

「その、これは不確定なのですが……」

「構わん、言ってみろ」

「はい、なんとなくなのですが、錯乱と洗脳の魔法に同じ効果が含まれていたように思います」

「どこかに向かうように指示するような、そんな効果だと感じました」

「行き先の指示?」


 そんなことをして何になるんだ? 錯乱と洗脳した奴らを移動させて何をしようって……いや、待てよ。


 俺達は今ここで足止めをくらっているが、それは魔獣連合軍とでも言うべき存在のせいだけではない。錯乱の魔法によっても足止めされたのだ。しかも錯乱の度合いによってはゲームの混乱状態よろしく仲間や自分を傷つけ殺し会う可能性もあった。

 これらのことから相手の目的は時間稼ぎ、そして魔法を行使した相手は敵だと仮定できる。

 次に錯乱及び洗脳した奴らの移動先、これは十中八九教会だろう。アルカヌム山のほうに走らせて結界樹を伐採するというのもなくはないが、これが敵の攻撃なら? 間違いなく前者だ。

 そしていま教会にいる戦力はライラだけだ。セツカは典型的なヒーラーで回復は得意だが戦うのは苦手だし、ゼンゲンどもはギックリ腰で動けない。そして普段いる騎士団は出払っている。それとシスターも。これでは魔獣連合軍に勝ち目はない。あっという間に蹂躙されるだろう。

 ここまでの結論を言おう。ライラとルリ、子供達がピンチ。


 ではここで仮に敵にそんなことをするとして、そんな行動をして利益があるのか、動機はなんだという話をしよう。難しく考えるまでもない、すぐにでも思いつく話だ。まず貴族令嬢たるライラの暗殺、次に英雄の卵であるルリの暗殺、それと英雄の卵の可能性がある子供達の暗殺、胸くそ悪い話がぽんぽん思い浮かぶ。だがそこに俺達の暗殺は含まれない。

 そう、この話のうざいところは俺達だけなら逃げれるというところなのだ。セツカに念話をいれ、ゼンゲンどもには鞭を打ち、群れをまとめたあと悠々と空を飛んで逃げる。……ライラとルリ、子供達を見捨てて。それが、可能なのだ。俺だけならもっと簡単だ。

 結論を言おう。ライラとルリを始めとする子供達がピンチ。だけど俺達は、俺は逃げてもいい。さぁ、俺はどうする?


「……はっ、やることなんて決まってる」


 こんな状況でやることは一つだ。それ以外の選択肢なんてない。

 俺のたった一つの選択肢は━━


???「逃げるんだよォ!」

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