表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

第九話 湯の幻想郷

 烏の行水ということわざがある。

 カラスの水浴びの様に非常に短い時間で入浴をすませる、といった意味のあることわざだ。

 だが実際のカラスはかなりの綺麗好きで、危険がなければかなり念入りに身体を洗う。それに掛かる時間はとても短いとはいえない。

 何が言いたいか。


 ━━セツカの入浴はどれくらい長いのだろうか、ということだ。


 温泉に入る為に脱衣場まできた俺達だったが、流石に女性の着替えをまじまじと見るのもアレなので、俺はライラとセツカに一言断ってから一人寂しく温泉に浸かっていた。といっても汚いまま入るのはまずいので桶に湯を張ったもの━━カラスの身体では桶に湯を入れるのも一苦労だった━━ではあったが。


 そしてゆっくりと湯に浸かる中、ふと思ったのだ。二人はどれくらい入っているのだろう、と。

 特に烏の行水なんてことわざのあるカラスが元のセツカはどれくらい温泉に浸かるのだろう、と。

 それによって目の保養ができる時間が変わってくるな、と。


「……まぁ、どうでもいっかー」


 温泉に入る前も入ってるあいだも、うだうだと何かしら下らないことを考えていた俺だったが、温泉に浸かっているとだんだんでもよくなってくる。

 流石は日本の誇る堕落人間製造機械(こたつ)とタメを張る温泉だ。


「はふぅ……」


 あぁ疲れがとけていくんじゃぁ……


「ふわぁ……これが温泉かぁー」

「そうだ。さぁセツカ、まずはこっちで身体を洗うんだ」

「あ、はい」


 どうやら俺が脳みそをとかしているあいだに女性陣は着替えを終え、浴場の中へと入ってきたようだ。

 ふむ、二人はどこだろうな。……くそっ、湯気が邪魔で足しか見えない。だがやはりライラの脚線美はなかなかのものだな。スラッとしていて、美しい。モデルさんとか普通にできるんじゃなかろうか。まぁ、ズボンが様になっているあたり察していたけどね。いやー眼福眼福。


「……うん、やはりセツカは可愛いらしいな」

「え、そ、そうでしょうか?」

「そうだぞ。小さくて愛らしく、守りたくなる。恐らく妹というのがいたらこんな感じなのだろうな」


 ふふふ、そうだろうそうだろう。セツカは可愛いだろう。俺の妹だからな。

 しかしこの湯気邪魔だな。可愛いさエロさが融合したパーフェクトなセツカが見えないではないか。もしや、これはあれか、円盤を買わないといけないやつなのか。くそっ、世知辛い世の中だ。資本主義の闇を見た気がする。


「私は一人っ子でそれを気にすることもなかったが……うん、妹が欲しくなってきたな。お父様とお母様にお願いしてみようか」

「そ、それは……どうなのかな?」

「ふむ、そうだな。子供は無理にお願いするものではないな。縁があれば妹もできようし、楽しみに待つとしよう」

「そ、そうだねー」


 なんだかコウノトリとかキャベツ畑なんかを信じてる気配がしたが……流石に気のせいだろう。ライラが箱入りお嬢様だったとしてもそれはない、はずだ。


「ほら、この椅子に座るんだ。まずは髪を洗ってあげよう」

「あ、でもそんな」

「気にするな、私がやってみたいのだ。……駄目か?」

「い、いえ。その、お願いします」


 む、ライラとセツカは洗いっこをするのか。そうなるとかなり目麗しい光景が広がっているはずなのだが……いよいよこの湯気が邪魔だな。予約買いでも石割りでもなんでもやるから退いてくれないかな。


「うむ、任された。……ふむ」

「な、何か変でしたか?」

「そう緊張するな。綺麗な白髪(しろかみ)だと思っただけだ。しかし、うむ。私も幼なじみのメイドから注意されてからは、髪には気を使っているつもりだったが……セツカの髪には負けるな」


 湯気以外ろくに見えないのは忌々しいが、ライラの意見には同意だ。我が妹の白髪は新雪を思わせる美しいさがある。


「そんなことは……えっと、ライラも綺麗だよ?」


 そうだな。ライラの髪も綺麗だ。燃えているかのような赤髪は引き込まれる様な美しさがある。


「ふっ、そうか? 綺麗だと言われては悪い気はしないな。……ほら、終わったぞ。次は身体といこうか」


 なぬっ、いよいよ本格的に洗いっこをするのか!?

 ええい、どうやったらこの湯気は退いてくれるのだ!? 課金か! それとも円盤か!


「そ、それは流石にちょっと……そうだ。次はわたしがライラの髪を洗うね」

「そうか? では、よろしく頼む」


 どうやらまだのようだな。いまのうちに何か策を考えねば……


「うん。……やっぱりライラも綺麗だよ。それに、魔力が凄い」

「これでも辺境伯の娘だ。血の加護があるのに魔力が少ないです、では話にならんからな」


 血の加護? 血統で魔力に優劣がつくのか? それとも何かの比喩か?


「そうなんだ。…………これも、血の加護なのかな」

「ん? セツカ、どうしたんっ!?」


 ……何だ、今の絶妙に艶のある声は。


「……思ったよりも大きいし、やっぱり柔らかい。ふにゅふにゅしてる」


 大きい、柔らかい、ふにゅふにゅ……導き出される結論は━━まさか、まさかセツカ……アレなのか? アレなんだな!?

 なるほど、血の加護とは胸のことか。納得だ。アレの大小は遺伝するからな。それは強力な加護であろう。


「セツカ、ちょっと待って、あっ、んっ……」


 セツカ、けしかんらんぞ。もっとやれ。

 そして湯気! てめぇはさっさっと退け! 見れんではないか!


「むー……うー…………えいっ」

「あっ、ふぁあっ!?」


 艶のある、どころかなめまかしい声がしだぞ!?

 セツカ、いったいキミは湯気の向こうで何をしているんだ……?


「やっぱり、クロお兄ちゃんもこれがいいのかな……?」


 おっと、飛び火の予感。

 確かに俺はソレは好きだがね。男は皆好きだと思うのだよ。派閥抗争が日夜繰り広げられているぐらいだし。


「お、おいセツカ、そこは髪ではないぞ? 髪は洗い終わったのか?」

「あ、うん。洗い終わったよ」

「そうか、ならば身体を洗うとしよう。ここは私が洗ってやりたいところだが、あまりクロを待たせるものなんであるし、それぞれ自分でやるとしようか」

「え、あっ、そ、そうだね」


 思ったよりライラは冷静だな。やはり性知識がないのか……?

 そしてセツカ、まさかとは思うがお兄ちゃんの存在忘れてたのか? だとしたら流石に傷つくぞ?


「分からないところがあったら聞くといい」

「ありがとう。でも大丈夫みたい」

「そうか。そういえばクロが何度か入ったことがあると言っていたな。なんとも曖昧な言い方だったが……セツカは何か知っているか?」

「それは、分からない。わたしへの情報共有も曖昧で……信用されてないのかな、て思っちゃったし……」


 スミマセン全部俺の責任です……

 しかし情報共有まで曖昧になっちゃったのか。セツカが不安に思うのも無理ないな。


「それはないだろう。クロはセツカに全幅の信頼を置いているように見えた。そうだろう? クロ」


 おっと、ここで俺に話を振るか。まぁ答えは決まっているけどな。


「もちろんだ。セツカのことは信頼している」

「だ、そうだ」

「うん。ありがとう。大丈夫、今は安心してるから」

「……ふむ。まぁ、その曖昧なのも理由があるのだろう?」

「あー、そんなところだ」


 理由らしい理由はない……というかそれも忘れてるんだよな。何があったら記憶虫食い状態で異世界に来るのやら。


「やはり言いにくいことか。ならば無理には聞きますまい。……あぁセツカ、洗い終わったらこの湯着(ゆぎ)を着るといい」


 言いにくいというか言えないというか。間違ってはないけど。

 しかし湯着があるとは。温泉だけならまだしも今や旅館くらいしか使われていない湯着が出てくるあたり、俺以外の日本人がいそうだな。おいおい探してみるのも面白そうだ。


「なんだか、着物みたいですね」

「そうだな。元はそうであったらしい。大丈夫か? 一人で着れるか?」

「……うん、大丈夫みたい。どうかな? ライラ」

「うむ、いいと思うぞ。では湯に入ろうか」


 そう言うとライラはセツカを伴って湯へと向かう。そして俺の近くまで来ると、俺が桶から動く気がないことを見て取ったのか。


「ほら、クロも来るといい。それでは狭いだろう」


 そう声を掛けていきた。

 確かに桶は狭いし、汚れもある程度は落ちたと思うのでこのままというのはいくらかバカらしい。


「ではお言葉に甘えて」

「それがいい。せっかくの温泉なのだからな」

「ふわぁ……ふにゅぅ……」

「……気持ちよさそうだな、セツカ」

「ふぅ……やはり温泉はよいな。家にも欲しいところだ」

「それは厳しいでしょうね……っと」


 歩幅の差から二人が先に温泉へ浸かり、気持ちよさそうな声をあげている。セツカに至っては溶けてるんじゃないかという感じだ。

 そんなことを思いながら俺も温泉へと入る。


「くはぁ……」


 やはり温泉を楽しむには桶では駄目だな。気持ちよさが段違いだし、解放感も違う。

 流石に露天風呂とはいかなかったが、ここの温泉は軽く泳げる程度には広い。……ってセツカ、地味に泳いでるし。気持ちは分かるけどね。


「どうだクロ、気持ちいいか?」

「あぁそりゃ……っ!」


 話し掛けられて何気なくライラを見た俺は固まることになった。

 その衝撃を言葉にするのは非常に難しいが……あえて一言で言えば、エロい。

 薄い布でできている湯着は温泉の湯を吸った結果、ピッタリとライラの身体に張り付き、スタイルのいいライラの身体をくっきりと映し出している。更にうっすらと布の向こう側が透けており、わずかに開けた胸元と合わせてかなり扇情的だ。


「そ、そそういえば、契約に風呂は必要なのか?」


 内心の動揺を悟られてはまずいと真面目な話題を提供する。

 上手く隠せたかは全く自信がなかったが、ライラは俺の話に乗ってくれるようで、うむと小さく頷いたあと。


「契約という儀式を行う以上は清潔であるのは必須だ。それに技研の連中が言うには温泉に入ることで、火の精霊との契約条件のほとんどを満たせるらしい」

「清潔なのは分かるが……技研と契約条件てなんだ?」

「そうだな。まず技研や帝精技研等と言われるあの組織だが、その正式名称は帝国精霊技術研究所といってな。精霊と人間の共存を目標に様々な研究を行っているところだ。……変な奴らではあるが、悪い奴らではないよ」


 帝国精霊技術研究所か、なんか凄そうな組織だな。

 しかし……


「……変な奴らなのか」

「決して悪い連中ではないのだ。この教会にいる孤児達の中にも技研を目指している子がいるしな」


 孤児、という言葉にご機嫌に鼻歌まで歌っていたセツカが反応する。


「捨て子……?」

「正しくは捨て子もいる、と言ったほうがいいな。望んでここにいる者もいる。なにせアルカヌムは特別な場所だからな」

「そう、なんだ」

「……ふむ、あとでセツカも会ってみるといい。子供達も喜ぶ。特にルリは喜ぶだろうな」

「うん。会ってみる」


 会ってみる、か。セツカは捨て子だったから孤児達と自分と重ねてしまい、辛い過去を思い出してしまう可能性もあるのだが……それでも孤児と会ってみると言ったのはセツカなりの努力なのだろう。

 お兄ちゃんとしては、その出会いがよいものになればと願うばかりだ。


「さて、もう一つは知っていると思うが……もしやその辺りも曖昧なのか?」

「あー、そんなとこだな」

「分かった。では説明しよう。契約条件とは正式に契約を結ぶ為に必要な事柄だ。例えば精霊と契約者は親密である必要があるとかだな」


 親密、か。ライラと俺が親密かと聞かれれば微妙だが……お互いに嫌いではないのだがら、特に問題は無いはずだ。


「それらの条件の中でも属性ごとに大きく異なるものがあってな、例えば火の精霊の契約条件でいえば契約を結ぶ前に精霊と契約者が戦うことだ」

「ちょっと待ってくれ、そうなると俺とライラは戦わないといけないのか? いや、というかそれだと温泉じゃ契約条件満たせないんじゃないよな?」

「私もそう思っていた。だが技研の連中が言うには火の精霊との契約で必要なのは闘争ではなくその結果、つまり体温の上昇だとのことだ」

「体温の、上昇?」

「うむ。同じ行為して一定以上体温が上がること、それが火の精霊との契約条件らしい。だから温泉に入って温まるだけでもいいそうだ。もちろんクロが望むなら私は戦うぞ?」

「いや、できれば穏便なのがいいな」


 ドラゴンと戦い一撃入れてみせた俺だが、それでもライラとは戦いたくない。

 ライラからは常に強さに裏打ちされた自信を感じるし、なにより教会の裏手でみた大剣を使った素振りを見てしまっては開始数秒でミンチになる未来しか見えないのだ。


「そうか、残念だ。クロとは一度戦ってみたかったからな」


 やめてください死んでしまいます。

 てか本当に残念そうだし……ライラってまさかバトルジャンキーなんじゃ?


「まぁ、契約が終わってからでもいいか。どうだ、クロ? やっぱり戦ってみないか?」


 バトルジャンキーだ! バトルジャンキーがいる! クールなお嬢様かと思ったら戦闘狂だったよ! これ日ごとに戦いをせがまれるやつじゃん!

 でも、嫌いにはなれないんだよなぁ……命の恩人ってのが大きいのかな? だが例え命の恩人のお願いでも、敗北が目に見えてるのに戦うのはごめんだ。


「え、遠慮しておくよ。うん」

「むぅ……いや、クロはかの黒騎士と同じ、鞘に入った剣という訳か。ならば強制はしますまい」


 おや、思ったよりあっさり引いたな。戦闘狂という訳ではないのか。一安心だな。


「さて……身体も温まったし、そろそろ上がろうか」

「そうだな。セツカ、行くぞ」

「あ、はい」


 俺はライラとセツカのほうを見ないようにしながら浴場を出て、脱衣場で水気を拭き取ってもらったあと、二人が着替え始める前に廊下に出る。


「ふぅ……」


 教会の温泉は実にいい湯であった。リラックスできたかどうかは答えの出せない問いだが。


「やっ……ライ……の大き━━」

「セ━━あっ……なにを……っ!」

「なん……ず━━よね」

「待っ……れ━━っ!」


 うん、リラックスはできなかったな。

 俺はそう結論つけて、脱衣場前で無我の境地に至るべく瞑想を始めるのだった。

(清 ゜Д゜)R-15ってどこまでなのだろうか……

(清 ゜Д゜)…………

( ゜Д ゜)コレガワカラナイ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ