歴史家と英雄
━━命を燃やすんだよ。そうすれば大概のことはできる。それこそ魔物の大群を火の海に沈めることも、神になることもできる。寿命はガリガリ減っていくけどな。
この言葉は火の精霊王クロが、友人の一人から強さの秘訣を聞かれたときに出たものだと言われている。
それを証明するかのように火の精霊王クロは非常に短命であった。数百、数千年を生きることができる精霊の身でありながら、人間とさして変わらない年月しか生きなかったと伝えられている。詳しい年月こそ諸説あるが、最も長い説でも二百年はないとしている程だ。
そして短命であった火の精霊王クロは、その生涯において一人としか契約しなかったと伝えられている。
火の精霊王の契約者、ライラ・ハイルング。
火の精霊王クロと契約した優れた精霊術師であり、現代にも残るハイルング流剛剣術の使い手。
要塞都市防衛戦での一騎当千ぶりや帝都に飛来したドラゴンとの一騎討ちは演劇にもなっており、知らぬ人などいない英雄である。
そんなライラ嬢は火の精霊王クロとの出会いをこう語っている。
━━あれは、私がまだアルカヌムの教会で修行をしながら契約精霊を探していた頃のことだ。いつも通り剣の修行をしようと教会の外に出たら、なんだか小さな黒いものが目に入ってな。辺り一面雪で真っ白なのに、そこだけ黒い点があって不思議に思ったものだ。近づいてみたらそれは今にも死にそうな黒い鳥で、まぁそいつがクロだったんだが……運命の出会いというものは突然やってくるのだと、今でもそう思うな。
激動の時代を生き、無数の闘争に打ち勝ち、様々な偉業を打ち立てた……精霊王とその契約者の出会い。
その始まりはライラ嬢の言葉にもあるように、突然のことであったらしい。
場所は霊峰アルカヌムの麓、魔力溜まりの監視所を兼ねた教会でのことだった━━
オブザー・エトランジュ・レイブン著
火の精霊王クロと契約者ライラ・ハイルングの生涯より抜粋




