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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
一話 【異世界の中で】
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ホームタウン【エンマリオ】②

 パステルピンクに塗られた壁と囲いの様相。パラソル付きの丸テーブルが幾つも並ぶオープンデッキ仕様な甘味屋では、様々な客に混ざってメアが顔面に頬袋と白い泥棒ヒゲをこさえていた。

 

 「クリームに塗れてまぁ……、もうちょい女らしく食っても良いんじゃねえか?」

 「もぐひあぐ。もんぐぐもぐもーぐぐも」

 「食ってから喋れ、蛮族ハムスター」

 「むー! もぐごっくん。ちゅるるるるっ」

 

 優先順位をつけるどころか、喋る事を放棄したようだ。

 

 エンマリオの町はゲーム時代を何となく思い出させる程度には変化している。通りとかは変わらんが、店のラインナップとかがな。

 こう、家や店の形はしてても当時は単なる地形だった。そんな進入不可のオブジェクトでしかなかった部分まで、極々普通の家屋へと変わってんだから当然だろう。

 

 それでもメアが蹂躙してる甘味屋は、何となく記憶に残ってる印象がある。

 たぶん、ゲーム時代も何かの店として機能してたんだろう。

 

 男尊女卑のまかり通る世界なんだからなあ、女の客が主役となる甘味屋なんて、知名度最低だったろうと想像した。

 ならば俺の記憶が怪しいのも納得だからな。

 

 だが、この世界の甘味屋は案外繁盛しているようだ。

 

 客層は変わらん。

 いや、女性客が多いとかいう解釈じゃ無くて、女性の扱いがって意味でだ。

 エラフもドラフもその他少数系の亜人も、女は軒並み奴隷って扱いは、この店内でもされている。

 正直、目の保養となると同時に直視するには度胸が要る肌色占有率だ。

 

 だがそれ以上に、野郎の占有比率も、この空間に限っては異常に多かったりもするわけだ。

 

 「御主人様ぁ、はい、あーん」

 「あーむ。美味いな。ほらミアたんもお食べ、あーん」

 「あーーーん。んーっ、美味しー♡」

 

 そんな会話の光景が店内に充満していた。

 念のため言っとくが、野郎共はゴツい。ハゲやらモヒカンやら角刈り以外のヘアスタイルを探すのに苦労するような印象の連中ばかりだ。

 

 そんな奴らが、半裸やほぼ全裸で首輪のみな少女と同じテーブルを囲み、先のような甘ったるい無差別範囲精神攻撃を全方位に撒き散らしてるわけだ。

 何十組と!

 

 何、このハートフルな混純(カオス)!?

 

 俺が一瞬、マジで気を失ったとしても仕方ないと思うんだ。

 

 再起動した俺が、いつも通りの残念振りを披露していたメアを確認し、安堵してしまったのは本人に言えない秘密である。

 墓の中まで持ってくレベルで。

 

 ついでに言えば、頬袋最大展開中の常時変態を罵倒する言葉が普通に出たのにも安堵した。

 うん、俺は正常に作動している。

 

 周囲全てが異形のカップルなので、メアのテーブルのみソロ仕様。

 そこに相席し、注文を取りに来た店員へ【PoF♂】では定番にしている物を頼む。

 

 「『ギラギンΣ』で御座いますね、少々お待ちくださーい」

 

 店員は猫耳つきの獣人系亜人だった。

 そして店員としてなのか、奴隷ではあってもエプロンを着用していた。

 

 「ぐはあっ、こう来たか!?」

 

 いわゆる、裸エプロンだった。しかも頭には欠片ほどのメイド成分でかヘッドドレス付き。

 違和感半端ないがそれはそれでっ!

 

 しかも去るときの後ろ姿がまたポイント高し。

 猫耳があるなら尻尾もだろう。しかもユラユラ揺れるタイミングが絶妙で、背後からでもヤバいところが視界に入らん。

 

 何というチラリズム。何という高等技巧。

 不自然な露光や部分的暗転で視界を五月蠅くしない、全年齢に優しい健全処理だった。

 

 「主様、あれはさすがに、まだろくな男の経験もない未熟な我には高すぎるプレイヤースキルであるぞ」

 「いやお前に期待はしてないから。というか俺の思考を読んだような対応は何故に?」

 「主様の顔面が全てを吐露しておったぞ。これもこの世界が現実たる故よな」

 

 実に不愉快な確認理由だ。

 

 至極真面目な口調だが、メアの顔面、その口の回りは生クリームで白ヒゲ状態である。

 女子としての立場を、また俺のカテゴリからズレたのを自覚さしとらん残念振りが哀れで、テーブル付属のナプキンで拭ってやる。

 何故自分で拭うように言わないか。それはもう、メアの態度が全面拒否していたからだ。

 

 メアの義腕は、人用の義腕として機能するのは予備を含め、左右合わせて四本ある。

 右腕二本にはショートケーキとパフェを掬う先割れスプーンが。

 左腕二本にはあんみつとタルトを掬う先割れスプーンが。

 それぞれ緩急のタイミングで連携し、メアの口へと甘味の欠片を運んでいたわけだ。

 

 味、解ってんだよな? その喰い方で。

 

 「御注文のお品をお持ちしましたー。ごゆっくりどうぞー」

 

 店員の猫さんがやって来てさっきのリピート画面のように去っていく。

 俺の視線が二度の光景の差異を悩む脳トレ状態となったのは否定しない。

 

 「我を変態変態と言うが、主様も夜の体力作りを欠かさんから大概だ」

 「何を言いたいか解るが、これはその意味で注文したわけじゃねえ!」

 

 【ギラギンΣ】。

 【PoF♂】では定番の強化飲料で、一度服用すると身体ステータス全てが5%上昇する。ポーションでは無く食事アイテムなので、服用間隔の制限もないし、初心者でも手軽に店買いできる価格なので人気がある。

 俺も【PoF♂】をプレイし始めた頃から愛用していて、一番味の判別をしやすいと思ったから注文したのだ。

 

 「ん……、ゲーム時代と変わらん味だなあ」

 

 ちなみに、味は過労死しがちな社会人のドーピングドリンクとほぼ同じである。主成分のビタミンB系が紫外線に反応して発光状態となる部分も再現してあり、【PoF♂】ではサイリウムっぽい無熱ランタンの素材としても使われる。

 

 「でも身体ステータスへの強化効果は無いか。この辺は変化してるってとこなんだろうな」

 「食事アイテムは全てそんな感じと思うぞ。味は昔よりもハッキリしてるがな」

 「あ、味の確認してたんだ」

 「甘味の微妙な変化が夜の気力に直結するのだ。意外と重要なフレーバーなのだぞ」

 「うわ要らねー豆知識」

 

 誰かこの常態色魔を矯正してくれ。

 

 「ところで主様」

 「うん?」

 「支払いのシステムだが、一応はゲーム時代と同じらしい」

 「ほう、……あ、ついゲームと同じ気分で動いてたな。注文と同時にの自動支払いか」

 「む、ちょっと訂正だ。後払い可能のデータ支払いも可能。という意味だな」

 

 ゲーム時代の売買、特にシステム側とのものは、販売メニューから購入すると同時にこちらのアイテムストレージから必要金額が支払われていた。

 まあ、ゲームじゃ定番の売買方式だろう。だから現金という物を見る機会は、魔物からドロップする時のエフェクトか報酬オブジェクトの視覚情報くらいしかない。

 報酬として渡される金貨の山を見て大金だあ、という記憶はあるが、ではその金貨自体の感触があるかというと、実は無いのだ。

 

 で、メアの言う事を補足するとだ。

 この世界じゃゲームと同じようなステータス機能が存在する。所持金もそこに記録されており、現金として持ち歩く必要性はほぼ無い。

 だが売買行為をすれば、その場の二者間で即金額の移動があるかというと、それは無い。現実でのカード決済のように、専用の端末を通して支払いを済ませる必要はあるのだそうだ。

 

 早速実践と、支払いカウンターで試してみた。

 タッチ式のICカードリーダーっぽい物があり、そこに指で触れば支払いは完了。簡単なもんだった。

 ちゃんと視界に金額も表示された。これならボッタクり対応も簡単だろう。

 

 外に出ればメアからの注意点だ。

 

 「店員から聞いた事だがな。町の規模なら今の支払いで大抵済ませれるが、村や集落では端末が無い場合があるので注意、だそうだ」

 「ほうほう、そりゃ案外重要な事だな」

 

 カード払いができないのなら現金という事になる。

 しかし長いゲーム暦を持つ俺だが、その現金という存在が未知の物だ。

 恐ろしく身近なとこに難問があったもんだなあ。

 

 「と言うことでだ、主様。多少は所持金をアイテム化しておいた方が良いぞ」

 

 ところが、難問は既に解決済みだったらしい。

 

 「あれ?」

 「ぬふふ。知らなかったようだなあ、主様」

 

 むむ、変態のくせにこのヤロウ。

 

 要は売買を介さないで『幾ら使うか』と念じれば良いらしい。

 そうすれば出したい場所に出現するわけだった。

 

 ならば、現金が必要になったらその場で出せば良いとも思うんだが、メアのくせにその問題点を突いて来た。

 

 「主様、二桁程度なら手元に出しても収まるが、それが四桁となれば簡単に溢れるぞ」

 

 確かにその通りだ。

 試しに金貨一枚を出してみる。

 直径三センチ、厚さ四ミリの大ぶりな純金のコインだ。

 これを一万枚、現金で使おうと思ったらかなりの量と重さになる。

 

 「上位貨幣とか無いんだな」

 

 まあ、だからこそカード払いっぽいシステムがあるんだろうが。

 

 「端末払いもできん場所で四桁の現金が必要は言い過ぎだろうが、三桁あたりまでは可能性があるそうだ。だからこうして、『百フルン』単位でまとめるのが普通と聞いた」

 

 メアがアイテムストレージから取り出したのはソフトボールよりも大きいサイズの巾着袋だ。口を開けば金貨が出てくる。

 聞けばデータ状態の所持金はアイテムとは別枠の扱いで、出現させた金貨をアイテム扱いで収納すると、巾着袋は自然発生するそうだ。

 なるほど、地味に便利だ。

 

 ちなみに、『フルン』とは【PoF♂】がゲームだった頃からの通貨単位だ。ゲームの類だと『ゴールド』とか『ギル』とかが良く聞かれるんで違和感がないでもなんだが、開発者の拘りっぽいんで文句を言ってもしょうがない。

 と言うか、ゲーム時代は金額でしか言わなかったからなあ。特に気にしてなかったとも言える。

 

 そんな小ネタはともかくとして。

 ちょっと気になった部分がある。

 

 「四桁……、万単位のアイテムが無い?」

 「物価はかなり下がってるようだぞ、主様」

 

 先ほどの食事は、基本、一品が五フルンとなる。

 俺が飲んだギラギンΣは三フルン。ゲーム時代から安い物だったが、確か二十フルンくらいはしてたはずだった。

 

 「完成品アイテムが一桁って、それじゃ素材アイテムで自作したら完全に赤字だろ?」

 

 こういう生産対象は素材を買って自作して、経験値を得ると同時に販売して利益を得る流れが普通のもんだ。

 素材全部を自前で収集する『素敵生産』ならば高利益も出せるが、大概のプレイヤーは他のプレイヤーからや店売りで素材を購入しての二次生産で、僅かな利益を取ろうとする。

 つまり、現状ならば食事アイテムは素材六品を必要とした時点で、赤字確定というわけだ。何故なら素材一品に最低金額としても一フルンは使うのだから。

 

 「そこは売買感覚の違いだろうな、主様。ほらそこの屋台を見れ」

 

 メアが促す屋台は果物屋だ。カラフルな色彩の果実がリヤカーサイズの荷台に山と積まれていた。

 

 「ああ、納得だ」

 

 うん忘れてた。現実だとああいう売り方も有りだった。

 『リンゴ一山、一フルン』。

 その一山は軽く三十個近くある。つまり単価の安げな品物は単品売りが無い社会ってわけだ。

 と、なるとだ。

 

 「個人売買に金使う社会じゃなくなってるってか。何ともまあ、原始的な感じだなあ」

 「主様、この世界の人間がどの位、アイテムストレージを有してるか確認が必要だと思うぞ」

 「そりゃもう解りきってるっていうか、良くて最低ラインだろうよ」

 

 ゲーム定番の虚空に物を収める機能、【アイテムストレージ】。

 【PoF♂】プレイヤーなら持ってるのが普通だし、確かNPCだって使ってるイベント処理があったはずだ。だから極普通のもんだとは思う。

 が、収納量となると解釈が変わる。

 

 【PoF♂】じゃ、プレイヤー個人の収納量は徐々に増やして行く形となるからだ。

 

 基本は経験値のポイントを使いスキルとして強化する事。マギボーグだろうがリモッドキストだろうが、強力な武装であれば大きく重くなるのが普通だ。だから数と加重は可能な限り大きくするのが必須となる。

 まだ最大値まで上げてない俺だって、アイテムストレージの容量は巨大タンカー並みにある。と言うかそんくらいないと、ろくに装備の開発もできないんだよ。

 

 だがそんなアイテムストレージも、初期の初期なら容量はリュックサック程度のもんだ。

 

 しかしだ。この世界の住人の低レベルっぷりを見るに、その最低ラインが普通なんじゃないかとも思えるわけだ。

 

 「なるほど。だからあの屋台も移動式なわけだな」

 

 メアの言う果物屋の屋台は荷台が車輪つきだ。あのまま、どこかに運べる作りなのだろうと解る形態だった。当然、まともな規模のアイテムストレージがあれば不要の存在だ。

 

 「こりゃ、価格調査や流通規模も確認がいるなあ。仕方ないからこっからは歩きだ。いいな、メア」

 「さもありなん。主様の命のままに」

 

 路肩に止めた車両はアイテムストレージへと格納する。

 そん時に周囲から驚かれたんで、かなり状況に不安を覚えた俺だった。

 

 

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