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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
一話 【異世界の中で】
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ホームタウン【エンマリオ】①

 居住区画から商業区画へ。

 

 メインストリートを移動する中、特に商業区画に入ってからは、俺の中の疑問は確信になった。

 

 「確認できる人型の魔攻重機は、ほとんど既製品のまんまだな。カスタマイズの欠片も無い」

 「主様、確かそれって……」

 「そうだ。ぶっちゃけると作業用だな」

 

 人型魔攻重機。全高およそ五メートル。胴体内に搭乗し、意識と連動して手足を動かせる。

 人間プレイヤーなら自前の魔力を燃料にして稼動させるのがデフォルトのゲーム仕様で、後付けの魔力タンクとかが有れば、より長時間の稼動を可能とする。

 

 この基本仕様でできる事と言えば、まあ、人間以上の馬力を活用した土木作業だ。殴る蹴るで戦闘も可能っちゃ可能だが、ゲーム時代、それに大人しく殺られてくれる魔物がいなかったし。

 だから戦闘に使うならば、自分に合ったカスタマイズを施して、武装させるのが普通ってわけなんだ。

 

 それが街中で見る分には……皆無だった。

 

 魔力タンクなんか見間違えようの無いサイズだからな。解って探すなら確実に判別できる。それが無いってことは、ほぼ無改造で使ってんだと解るわけだ。

 カスタマイズ化すりゃ魔力消費も増加するからな。

 

 実際、使われている機体も幾つか確認はした。

 主には、馬かロバ代わりだな。荷車引いてるとことか普通にやってたよ。

 人力車のような絵面で移動してったが、正直、スピードは考えるなって感じだ。

 やや早足で歩くよう見えるが魔攻重機は五メートルサイズだ。それなりのスピードは結果的に出てはいる。

 それでも俺からしてみれば、とても戦闘機動とは言えないノロさだ。

 利点を考えるとすれば、まあせいぜい、馬のように馬糞を撒き散らして動かん分、周囲は衛生的で済むんだろうと思えるくらいだ。

 

 「主様、この路面状況でそう言う言葉は同意しかねうううっ、うっ、ひゃんっ!」


 エンマリオの町の通りは、ほぼ完全に舗装してある。

 大通りなら種別不明の白い石材製な石畳。路地や私道なら硬質の焼き煉瓦。

 ゲーム時代なら単なるデザインたが、現実と化した今は重量のある魔攻重機を支える頑健さを示す機能となる。

 ……だがその頑健さも、やや長期未来的には厳しかったようだ。

 現実でも馬車の轍跡が路面に刻まれるように、この世界の路面には人型魔攻重機の歩みの跡が、まるで海面の細波のように刻まれてたりしたわけだ。

 

 つまり、車両で走るにはまあ、揺れる揺れる。サス機能も追っ付かずにグワングワンと派手に揺れる。

 

 「むうう、帰ったらジャイロ機能を徹底的に弄ってやる!」

 

 しかも石畳の弊害だな。歪みで石材同士に隙間もできてんで、その段差でガクガクと煩い。

 ていうか、道路が未整備同然なんて行政が仕事してない代表案件ってやつだよな、これ。

 丁度今日の目的地だ。着いたら絶対、文句言ってやる。

 

 まだ義腕の操作に不慣れなメアは車内の揺れに対応できず、防盾代わりの義腕に囲まれてシェイキングされてる。可愛い悲鳴とか出してるが、聞こえる擬音はゴツガツゴツガツゴツガツと、人体が出すにはヤバい類のもんだったりする。

 

 「うーむ、ゲーム時代だとシートベルトとか要らんかったもんなあ。これも現実化の意外な盲点だなあ」

 「そそそそっ、そういう主様はっ、ピクリとも揺れないのが疑問なのだっ、がっ!?」

 

 間に合わせでな。自分の座席はフロート機能ぶっこんで浮かせた。

 リモッドキストとは、自分の空想や妄想を脳内で設計し、それを魔力で無理やり実現させる職能だ。

 咄嗟だったが、ゲームと同じように改造スキルが働いたのを確認できたのは嬉しい偶然だった。

 

 ま、反射行動なんでメアの方まで気が回らんかったけど。

 

 だが一人楽してるわけじゃねえぞ。意識操作じゃ路面状況に対応しきれんのでハンドル操作とかは手動だ。だから完全に揺れと隔絶しているわけじゃない。

 

 「それっ、でもぉ、ずるうううっ、いーーー!」

 

 キレて言葉遣いも素になったメアから飛びかかられ、ガッチリとしがみ着かれる。

 いやもうコレ、組み付き攻撃だろ。義腕の操作の余裕もねえから上は俺の襟首への噛みつきだし、下は両脚振り上げて俺の腰へのカニ鋏。

 首にキスマークならぬ歯形がつくのは確実だろうし、背骨からは嫌な音が身体の中を通して聞こえる始末だ。

 

 「わがっだ。解ったから絞め技解きやがれ。一端止めて調整すっから。折れる。メシメシとか鳴ってっから!」

 「む゛ーーーーーっ!」

 

 異世界最初の生命の危機がフレンドリーファイヤだとは思わんかった。

 

 場所が商業区画ということもあって一休み。

 メアを気分回復にと甘味屋に放り込み、俺は魔攻重機の改造だ。

 

 「普通、ここは腕の無い可哀想な我に『あーん』とかいう流れではないのか、主様」

 「装着後数分でどっかの物理的背後霊並みの超精密機動とオラオラ百烈拳かましてた奴が言うか? ていうかだ、食い物がちゃんと食えるのかって確認込みの役目だ。スキルは普通に発動するから、【毒無効】とか自動で発動したら食うの止めろよ」

 「むー……」

 

 俺が座席を改造させたスキルは【リモッドキスト・2】の職能となって覚えるスキル、【インスタント・ビルド】だ。

 このスキルは脳内に設計図を作成せず、求める形の結果のみを実現するため、システム側がコスト無視の自動レシピを立ち上げる。

 作れる物はその一品のみ。自動作成されたレシピは記録が残るが、それで再現できる事はほぼ無い。

 まあ、可能な限りまだ知らぬ既存レシピに近いので、地道に検証すれば類似性能の通常アイテムが作れたりもする。

 

 ただしこれは、あくまでもゲーム時代の仕様だ。

 この状態が現実をとなった今、どんな仕様に変わったのかは解らない。

 と言うか、ゲーム時代のままだったらマジ泣ける。

 コスト無視のレシピの理由。それは、スキル発動者が所有する総アイテムから適当な物を素材化して消費するからだ。

 正直、結果に見合わない損失を出すのが確実な事が、非っ常に多い。

 なので本来は、現状に行き詰まってとかの理由で未知の可能性を知るために、細心の注意を払ってローコストに抑えれる状況でのみ、使用するべきスキルなんだよな。

 

 過去、ちょっとしたイザコザで大規模PKパルティにリンチされそうになったのだが、その時にこのスキルで難を逃れれた。

 ただし、スキルの代償もトンデモナカッタ。

 

 巨大ロボット用のメイン素材。

 希少素材の塊だった上級魔物が二体分、まるまるっと使われたのだ。エルダードラゴンは外装素材として、サンダルフォンは骨格フレーム用として、どっちも当時、チマチマ稼いだリソースをほぼ全てぶっこんで討伐した代物だ。

 本来なら数パルティが共同戦線を組んで対する相手となる。

 ただしそれをやると、俺が必要とする素材の確保に何十戦せにゃならんのかと悩んだ末、単身討伐を選択したわけだ。

 

 ぶっちゃけ、一体に対して半年の準備期間を要した。

 

 先達の討伐記録で充分に予習し、最低限の死に戻りで実地練習もして漸く可能にした悪夢の歴史だ。

 あんな経験、もう二度としたくない。

 だがそれがパー。

 

 あの時、なんであんな想像とかしちゃったかなー。

 

 確かに三桁規模の相手だから『凪払えー!』とか考えちゃったさ。

 それで本当に凪払えたのは、さすが素材のお陰だろうさ。

 

 「でも何で『腐ってやがる』まで想像しちゃたかなー」

 

 まあ、元々巨大ロボット作成の素材として集めたのだ。

 スキル発動で出来上がった物が、それに似るのも当然だろう。

 腐ってさえなかったら、そのまま俺の考えた最強装備と鼻高々にドヤぁと披露もできたんだろうが、実に残念。

 PKパルティを道連れに、と言うか凪払った連中の残りの奴らを腐った身体の海に飲み込み、見事相討ちとなって某巨神兵っぽい一品物は溶け去った。

 

 結果的にだが、返り討ちにしたPKパルティ連中にゃ余計に怨みを買ったはずなのに、次に遭った時は異常に優しい応対をされた。

 どうやら、俺が過剰過ぎるコストを割いたのが知られてたらしい。

 

 いや、確かに半狂乱になって何か叫んでた気はするが。

 ウン。マジに記憶無いんでワカラナイヤ。

 

 あれ、何で手が震えてんだ?

 

 ……忘れよう。

 自分のためにはそれが最善。そんな気がする。理由を考えちゃダメだ。

 

 いや待て。途中から全部忘れたくなったが、今回の確認だけはせんとメアからまた噛まれる。

 必殺の武装も渡しちまってるしな。

 忘れたいから改造止めましたとか言ったら即殺られる。

 

 仕方ないので一品物となった座席のチェックだ。

 出来としては大人しいが、車両内に固定された振動吸収重力無視の浮く椅子だ。その矛盾極まりない状態にどんなコストを払ったのかがスゲー怖い。

 


 ────────────────────────────────



 【試作・フローティング・シート】

 スキル【インスタント・ビルド】で作成された浮遊式座席。

 搭乗者の感情ステータスとリンクし、ストレスを減らすよう機能する。

 

 【試作レシピ】

 ・M20用カスタムシート

 ・A級魔核(搭乗者リンク用)

 ・B級魔核×4(シート保持用)

 ・オリハルコンインゴット(魔法陣転写用)

 


 ────────────────────────────────


 

 ……おやあ?

 意外と普通だ。

 

 てっきり、反重力関連の素材が全滅とか覚悟してたんだが。

 

 【魔核】とは、中級魔物以上からドロップするアイテムだ。

 魔力を大量に含む樹脂質の結晶体で、魔法関連では必須となる代物だ。

 含有する魔力が電池代わりに使われるのを定番に、魔道具の構成素材としても重宝される。

 魔道具と同様の扱いである外装系武装が主役である俺にとっては、何にも増して重要なアイテムと言ってもいい。

 なので、大小様々と本気で腐るほど持っている。アイテムストレージの三割はコレだと言っても過言じゃない。

 

 まあ、A級となるとそう数は無いけどな。

 

 【オリハルコン】も、そうだ。

 現実じゃ空想金属な扱いのコレは、【PoF♂】じゃ電子基板のような意味合いで使われる。これに仕様構成を記載した魔法陣を刻む事で、それが回路となって機能するわけだ。

 魔法陣作成にはプレイヤーの個性が反映するんで、ここで職人プレイヤーの腕が試されると言ってもいい。

 

 素材が異色でないとすれば、後はアレか、魔法陣の術式か?

 

 浮遊の魔法はゲーム時代に存在したが、魔法陣であったかと言われると、無かったような記憶がある。

 それは浮遊が単に浮くではなく、意のままに空中を移動するタイプだったからだと、少々うろ覚えだが記憶していた。

 このタイプの魔法効果は使用する間に常時魔力を消費するんだよな。だから空中でも細かい姿勢制御ができるわけだ。

 で、逆に魔法陣だと、臨機応変な対応命令が記載できないんで、システム側から導入断念とかアナウンスがあったような……怪しい記憶があった。

 

 となるとだ。魔法陣として存在するのは確認してんだから、ゲーム時代に俺の知らぬ間に隠し導入されてたのか、もしくは現実となって可能な要因ができて発生したのか。

 その当たりが理由かとも考えれるわけだ。

 

 と言うことで、魔法陣を調べる。

 


 ────────────────────────────────


 

 【浮遊術式魔法陣】

 スキル【インスタント・ビルド】で作成された浮遊魔術式記載の魔法陣。

 当魔法陣端子と接触する事で搭乗者の身体管理脳機能とリンクし、付加された魔道具へと反映させる。

 魔道具に独立する魔力供給機能が無い場合、搭乗者から毎秒0.05%の魔力を使用する。

 

 【試作レシピ】

 ・オリハルコンインゴット(魔法陣転写用)

 ・作成者の髄液(4ml)

 ・作成者に必須となる魔力総量(10,240)

 ・魔法陣回路記憶(試作タイプ・キザオミ専用)

 


 ────────────────────────────────


 

 ちょっと気分的に引っかかるが、取りあえずこのレシピのまま再現ようと確認して、……できてしまった。

 おお、ゲーム時代より便利になってる。

 

 どうやら術式自体も俺の記憶にあるようで、作成の意思に対応して自動的に浮かんで来た。そして何とも言えない喪失感。これはまあ、一万越えの魔力を使った事と、骨髄液が消えたってのが理由なんだろう。

 何か地味に怖いな、このレシピ。

 

 そして実感。

 ゲーム時代は劇薬だったスキルだが、現在はかなり使えるかもしれない変化を遂げたと判断できる。

 て言うか、多分これ使わんとまともに生活できないのだとも思う。

 理想とする妄想に満ちないとって感じだ。リアル化したこの世界、ちょっと行動しただけで地味なトラブルが多すぎる。

 

 そのままメア用の座席もこさえて、他に必要性のありそうな物を考えて……も出てこないから、休憩がてらメアと合流する事にした。

 

 

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