初めてのパーティー戦闘?……あれ、目から汗が……
※気分的にほったらかして忘れてましたが、参加してた投稿企画に落ちてたようなので、タグ編集シトキマスw
さて、エンマリオに帰って来た。
道中は特に戦闘もなく、というか脇目も振らずの最速移動で来たので、例え魔物が出てたとしてもブッチしたのだと思う。
移動手段も魔攻重機だからな、チェリーフォルンからエンマリオまで、数時間もかけずに着いたので、夕方に夜逃げ……いや移動開始したものの、ホームに到着したのはまだ日付が変わる前だった。
で、この高性能な身体には疲れの欠片もなかったのだが、精神的にはかなり疲れたので、簡単な飯で腹を満たしたら即、ベッドになだれ込んでのご就寝、というわけだ。
……まあ、あまり寝れた感は無いんだが。そのあたりの原因は、やたらにご機嫌となった女衆の感じから察してほしい。
明確に言っちゃうと、イロイロとメタな感じで怖いことになるし。
そして数日、隣町の惨状の噂とかに微妙にビクビクしつつも、俺は急ぎ関係の用事を済ませ、取りあえず、カルエとカゴメの乗機を完成させた。
埃防止の布でくるんだ以外は骨格のみだったカルエの機体には、補充した鉄鋼素材から軽合金系とグラファイ系繊維装甲で軽く強靭な外装を施した。追加で護身用格闘行動などの自動プログラム組んだ魔法陣をセットし、支援砲撃兼、隠密行動用の軽量型として完成した。名称コードは三番機を意味する【チャーリー】、俺の機体であるアルファと背景的な語呂をあわせる形で揃えた。
で、失敗続きだったカゴメの超重量級機体も、ちゃんと設計し直して補充した豊富な資材を投入し、今度こそ完成した。
名称コードは二番機の意味な【ブラボー】。とにかく頑丈の一点に絞った、現状、人型魔攻重機枠では最大級の巨大さを誇る。
さて本来ならば、このコードの割り振りはカルエの方が先となるのが当然なのだが、これは完成品として登録した順番が入れ代わってしまったという凡ミスだ。ちょっとカルエ用にとスキル付加無しでの頑丈で軽い装甲材をと試作してたら、装甲板が単純精製で済んだカゴメ用の機体の方が先に形になっちまったのだ。で、完成が前後して、カゴメの方が先に完成したってわけである。
逆に、多分永遠に装備が完成しないのがメアの武装義腕系な魔攻重機で、俺の都合優先でコードも最後尾となる四番目の【デルタ】と登録した。
今後、俺の視界にはこの順番で全員のステータスが並び、表示される。簡易表示だと耐久値とかスキルのクールタイム適度だが、一番その表示が派手に変化するメアが最後なのは地味に助かるのだ。なんせ、表示は横書き縦並びだし。それの頭の方が数値の増減でコロコロ改行したりすると、結果的に全体がガクガクとして気が散るからなあ。
「……てわけでだ。ちょっと部隊っぽくなったから、パーティー戦闘の練習でもしようと思うんだが」
「なるほど、演習であるな、主様」
俺が装備開発に籠もってる間、女衆は女衆でチーム的な行動練習をしていたらしい。当初はカゴメを戦闘から外す算段だったのだが、超重量級が災いしてか、カゴメが下手に動くとメア達の配置の段取りが手間取ると解った。そして、ブラボーの防御力は場合によってはメアの攻撃すら弾くのも解り、ならば戦闘区域外に逃がすよりも、むしろトーチカ代わりにしたならばとの結果になったそうなのだ。
「カゴメもお荷物扱いは不本意らしいのでな、なら簡単な手伝いから鍛えることにしたのだ」
「んー、まあ。確かにハブらん方がカゴメにも良いか」
「みくん!」
ただし、そう決めたらからといって即実戦で通用するとは限らない。まあ、そもそも今のこの総低レベル世界でメアと対峙した魔物が無事に戦闘をできるのかって事実もあるんだが、そこは無視しての実戦の大事さだ。
なので、練習代にすらならない状況で、一度ちゃんとフォーメーションの確認をも思ったわけだ。
けっして、ゲーム時代、二人パーティーと言うよりもソロ二人が連んでただけなんじゃねーか? と定評のあった自分の戦闘スタイルに不安を感じたせいではない。
無いったら無い。
で、練習の舞台としたのは。旧世界なら新宿から中央線沿いに西へと進んだ、かつては大久保と呼ばれたあたりの原野地帯である。
【Paradise of Fauve ♂】日本鯖においては、旧世界の主要道路は異世界化した後も比較的原形を留めているという設定だ。大体六車線以上の道路はそのまま残っており、四車線なら所々崩壊しつつも存在している感じ。それ以下の場合は森の木々に浸食されていて通行は難しく、一車線相当だと完全に消えてしまっている。
建物の大半も同じような感じだな。新宿都心部の高層ビル群は倒壊してなければそのまま現存してるし、崩れてるかそれ以外の小さい物は木に浸食された岩山か築山のようになっている。当然、木造の一軒家などは影も形も無くなってる。
そして森の中は総じて魔物のテリトリーだ。人家と言えそうな物は道路と森の境辺りに無理やり建てた小屋のようなもんがあったりするんだが、森の近い分、大半ははぐれ出た魔物によって廃墟化している。
つまり、実質的に防衛能力の持った町を名乗る拠点以外には、この世界には人が安心して住めれる場所は無いってわけだわな。
「主様、目的地はハングリンドンの町といったところか?」
「そうだ。が、ダンジョンには潜らんぞ。あの町の周辺部にはコボルドの集落が多いからな、その内の幾つかを巡回して戦闘スタイルを確認する」
「うむ、了解だ」
形を残す中央線高架架線。その南側には元、青梅街道だった街道が併走していて、俺達は今そこを走っている。目的地であるハングリンドンの町は大久保の先の、東中野の駅あたりに在る。ついでに言えば、ハングリンドンはその辺りの防衛能力を有する唯一の町となる。元中央線の高架線はその高さもあって、北側に点在する人のテリトリーを護るための防壁となっているのだ高架線と一体化した地域の東中野駅跡は、そのままハングリンドンの基幹として使われているのである。
一応言っとくと、高架線北側にも森はあるし魔物の生息領域もある。が、南側一帯の辺りには中堅レベルのダンジョンが幾つもの点在し、フィールドとは比べものにならない強さの魔物を何万匹と内包しているのだ。そしてゲーム時代はその魔物が一定期間毎に地上へと溢れるイベントがあり、高架線防壁がそれを押し止める機能を担っていたのだった。
まあ、あれだ。ぶっちゃけると、パーティーや大規模レイド戦闘よりも大人数を対象とした、月に一度のペースで行われた全プレイヤー参加のイベント戦闘の舞台だったんだよな。無限に湧く魔物相手の戦闘もあったが、主役はフィールドに飛び出したS級評価のAランクボス級な魔物。確か登場する魔物は種別関係無しに総じて全長一キロメートルぐらいの巨大さで、現場にいるやつには絶対全容が確認できない代物だった。動きは緩慢で止まってるようなもんだったが、時たまそれが宙返りやら寝返りやらで派手に動けば、それだけで何百人か何千人かのプレイヤーが即死するっていう、実に非道いイベントだった。
俺も、うっかり顔面の真ん前に陣取ってゲップ相当なブレスを食らって即死したことがある。被ダメージは三兆ポイント。もう何をどう言ったらいいかすら困るダメージ量だった。
ちなみに、その時の魔物はコロコロした肥満風味の豆柴だった。サイズはキロメートル規模だがな。
で、一応うろ覚えの設定によると、この辺りに点在する集落持ちの魔物は、その巨大な魔物の餌という役割なのだとか。
意味としては逆なのだが、そういう餌場がある故に、ここに定期的にイベント用の魔物が出るってわけだ。
「……主様、今聞いて思ったのだが。コボルド目当てに来たものの、何故かその巨大魔物に遭遇。というオチにはならんのだろうか?」
「そこは抜かりねーぞ。この予定組む時に集会所で確認した。ゲーム時代なら一ヶ月毎だったが、ここじゃ大体百年周期で起こる災害らしい。前回は約四十年前で後六十年は余裕がある。これだけの期間があれば、そう番狂わせも無いだろ」
「というフラグを立てるわけであるな」
言ってて俺も思ったが、それでもまだ回避する手段はある。
なんせ相手が巨大なのだ。当然、戦闘エリアに入る前から視認はできる。もし変なフラグ踏んでてたとしても、確認したら即撤退ってことで無かったことにするつもり満々なのである。
そして既に、俺達のいる場所はギリギリ戦闘エリアの縁辺り。ここで確認できない以上、もう大丈夫とも思えるわけだ。
「……えーと、ご主人様?」
「ん、何だカルエ」
これから戦闘マラソンとなるが、今はまだ長閑に道を進むだけ。
ただ道路を走るなら人型よりも車両の方が適しているわけで、カルエとカゴメもアルファに乗せての移動だった。俺は風防を上げた状態で運転席に。メアが後ろの座席でその隣には菓子に埋もれた満足顔のカゴメ。カルエは一人、砲塔上部のキューポラを解放して、外気に顔を曝して乗っていた。
そのカルエからの、やや訝しげな呼びかけだった。
「確かにご主人様の言われる魔物はいないみたいですけどー……」
「ふむ、やはりフラグは立っていたか」
「ええい、まだカルエが断言してねーじゃねーか」
「いえ~、メア姉様の言うとおりっぽいです~」
ステータスメニュー経由でカルエの視界を自分に重ねる。エラフ独特の何キロ先の映像を接写で見る感覚にちょい目眩を感じつつ、それを観た。
「……は?」
観たがちょっと、正直意味が解らんかった。
「これアレですよねー。ご主人様のお国のスポーツっぽいやつ」
観たままを語ろう。
カルエの視界には魔物の集団が写っている。種別はコボルドだろう。一見、ワーウルフ系の獣人にも思えるが、その瞳が三眼ある時点で魔物確定だ。
数は大体、総数で三千といったところか。大半はノーマルな個体で、身長二メートル程度の雑魚に見える。だがそれらの中にはポツポツと頭一つ抜きん出た大型の個体が点在していた。いわゆる亜種枠の存在で、中ボス相当の物だと思える。これがまあ、約百体くらいか。
最後に、ラスボス相当というか特殊個体というか、かなり巨大なコボルドがいた。数は二体、遠目だが周囲の個体と比較するに、身長は七メートル程。片方は燃えるような赤い毛色で、風に揺れる様から火達磨になっているようにも見える。もう片方は短い青毛で、一本一本がピンと立った様から全身にツララを纏っているようにも見える。
現状はその二体が向かい合って力比べでもしている状況で、雑魚のコボルド等は二体を囲むサークル状の人垣を築いて観戦していた。
雑魚の毛色も大まかに赤と青に区別できるところから、どうにも二つの集落のコボルドが何かを理由に対決しているといった雰囲気だった。
で、問題は。
その対決をボス同士のタイマンでやってて、しかもそのタイマンが、互いに巻いた銀ラメ眩しいマワシを掴みあった、『がっぷりよつ』と見える形に。まあ言わば、相撲をしているようにしか見えない点であった。
そんなゲーム時代は見たこともない、しかし如何にもゲームっぽい展開な光景がイベント戦闘用の舞台で繰り広げられてたんだから、こんな悪運強い状況には変な声を出すしかなかったってわけだった。
「まあ主様であるし。この状況も、さもありなんであるな」
「ご主人様ですものねー」
「んー、みくん?」
なんだろう、……地味に俺のカーストが下がってんじゃねえかと思う瞬間てあった。




