カゴメあれこれ
ここはチェリーフォルン。鉱山都市を名乗る町、その宿屋の一室である。
つい先日、うっかり踏んでしまったクエスト発生フラグを回収と来てみれば、その報酬は魔物幼女でしたというオチで終わった。
で、能力というか性能というか、ミミックの能力を持つ幼女はカゴメと名付けて俺が面倒をみることになった。
一応外見は亜人枠となり、しかし種族は不明扱いなヤバい存在。正直、要らんとダンジョンマスターに返したいんだが、どうやってもダンジョン内に位置を確認できないので返しようがない。無限の食欲以外の能力も無いから、下手にダンジョンに置いてくこともイロイロと危険だし、他の女衆からの視線も痛いので捨てるのもダメ。結局、ステータス的にも保護者認定されたのが決定打で、義理の娘のような形に落ち着いたのだった。
「みくん、これうま!」
「そうかそうか、でもそれは食いもんじゃないからな」
ダンジョンから街中へと移動するには幼女と言えど裸はマズい。なのでアルファに乗せたんだが、どうも生まれたばかりのカゴメには目に写る物の殆どが食い物だったらしい。特に合成皮張りのシートはその弾力もあって動物の認識で、座らせるなりパクリと一口、綺麗な歯並びの痕を残して傷物にされた。
まあ、噛まれたのがメアのシートなので問題は無いが。
……これ、自動補修機能で直るんかな?
「とりあえず、最初に食っていい物といけない物を教えないと」
町のプレイヤーエリアだった辺りに着いた頃には、車内のアチコチが齧られた。そしてアルファの車内を俺との愛の巣だと妄言するメアが悲鳴をあげていた。そのままカゴメの教育係を買って出たので、やや不安だが任せることにした。予想しやすい方向への暴走対策にカルエもつけたが、正直心配の度合いは変わらない。
で、ようやく一人になれたので落ちついてステータスの確認ができる。
カルエの場合はクエスト報酬扱いだったせいか、その背景は自動で設定され、俺の奴隷という処理も自動で決まっていた。しかしカゴメは微妙に違う。クエスト完了はあくまでダンジョン攻略であり、報酬はあのダンジョンの管理権限を一部得るというものだった。権限内容はダンジョンで産出したアイテムの5%が配布されるというやつで、何が貰えるのかはランダムなので期待する価値はほぼ無い。
そして、肝心のカゴメは報酬ではなく、ダンジョン宝箱からのドロップ品という扱いだったのだ。その扱いを敢えて近い対象に充てると、俺限定の装備品な設定内容で、まずはその設定自体を決めないとという状態なのだった。
「ミミックの特性持ちなのは解ったが、それ以外サッパリだしな。早めに設定して被害減らさないと」
ステータスを展開し、装備設定モードを選択する。選ぶのは遠隔扱いのカテゴリーだ。
リモッドキストな俺は、他の職能と違って直接身に着ける装備品よりも遠隔扱いの装備品の方が多くなる。
遠隔扱いとは装備箇所の設定が無い物全てで、実体化させれば俺の思考に連動させて稼動させることができる。定番は据付型のセントリーポッドや誘導型のミサイルとなり、武装以外じゃドローンなんかが対象だな。だが身に着けない装備というのは戦闘関係に限った物じゃないので、極端な場合ペットボトルを登録して何時でも喉を潤せるなんてことも可能なわけだ。
カゴメの登録がそこにあるのは確認済みだ。そして一度ちゃんと装備設定して、初期起動の確認をしないと本来の性能が解らないんだよな。
「んじゃ、装備認定。装備確認。機能確認と……、なんだこりゃ?」
【擬人化魔力吸収器】。それがカゴメの正式名称らしい。
説明を読むと、ダンジョン内に設置され、補食したあらゆる物を魔力まで分解しダンジョンコアへと送る器官なのだとか。
俺達がミミックを倒して得るドロップ品は、未分解か一度は魔力まで分解された物がコアに未送信な状態から再構成された物で、普通は新品同様まで再構成された物。魔力の残量によっては高品質化して物質化した物ということらしい。装備品が多いのは生物の方が分解しやすい都合らしい。だから誰かがパクリとやられた瞬間にミミックを倒せば、半分くらい消化済みの誰かがドロップする可能性もあるってわけだ。
さてカゴメが食った物は、即アイテムストレージに近い亜空間へと送られ魔力へ分解後にコアと同期した空間へ再び送られる。分解時間はミミックの個体差に左右されるんでよく解らん。
問題は、本来はダンジョンコアが対象となる部分が俺のアイテムストレージに変わっているところ。そして俺は魔力を生で活用する能力が無いので、自動的に魔石か魔核に生成するところだ。
「これじゃ、まるで俺がダンジョンマスターになったみたいな、だよなあ」
チマチマ項目を確認すると分解の設定具合が変えれるようなので、魔力化よりもドロップ品寄りに変更する。どうやら自動解体らしき機能になって俺の素材カテゴリーに送られるっぽい。
ただ、単純に魔力化するよりも工程に手間取るようで、ドロップ品化まではタイムラグがかかるようだ。
まあ魔石の利用価値も高いが、地味素材だってこの世界じゃ貴重な感じだ。普通に倒しても魔石は得れるんだから、カゴメ経由なら素材多めの方が助かるだろう。
で、初期設定が終わってカゴメ自身のステータスを確認したあと、俺は無性に絶望感を味わった。
「まあなんだ。食うこと以外、ホントに見たまんまの幼児なんだなあ」
戦闘という言葉を使うこと自体が冒涜な、完璧に保護対象の育児だった。見た目は十歳前後、その実生後数時間。体力的にはせいぜい四歳ってとこだな。
「……まあ、俺の外部ストレージな扱いで済ますしかないなあ」
人間の子供同様に成長するのかも不確かなので、下手に連れ回すのも危険に思える。となると、早急に防護能力を追加するしかないだろう。なんせ俺達は荒事で生きてこうな方針を決めたばかりの根無し草だ。まだ、この世界の社会構造すらよく知らない無法者なんだからなあ。
「生活手段はゲームと変わらんけど、設定だけある貴族階級とか、ほぼ未確認だもんなあ」
カゴメが怪我しない頑丈な防護機能。俺のアルファに乗せるのを考えて、即、それは無いと諦める。俺はアルファでメアと同様の機動を取るわけで、その負荷はなるだけ軽減はしてるが皆無じゃない。
つまり俺とは別の機体に乗せて、ほぼ戦闘に参加させない場所に隔離するのが、今、俺が考えれる安全策なわけである。
「安全で、それでいて行動の自由度が高い機体か……。もう一体、作るかねえ」
後に【ブラボー】と名付ける重装甲人型魔攻重機。その雛型が生まれたのは、この日この時の、無自覚な父性のなせた結果であった。




