アルファ改造の顛末 ③
さて、どピンクに汚染された脳持ち共は置いといて、一人真面目にアルファの構成を考えようとしていた俺だが、実に残念。意外と早く現実に復帰したメアにより、あのアホな構成がごり押しされることになって……しまった。
「さすがは知謀に長ける主様。うっかり至高の園の幻へと囚われる寸前であったな」
「妄想が一段落して我に帰れただけなんですけどね」
「うん。おまえ等、顔面真っ赤過ぎ。後、床の掃除しとけよ」
汚嬢さん達のバカっぷりにもいい加減慣れた俺である。
さすがに、時と場合の合致しない状況では釣られて仲間入りということにはならないくらい、理性が本能を抑えられるようになった。
まだ俺二十歳前なんだがなあ、なんか自分でも感心する感じで達観してるわ。
で、それはおいといて。
「カルエよ、あれがリア充なる男の子の貌であるから覚えておくように。欲望など貯まる暇ない者の貌。我等が努めが十全に発揮できている証の貌である」
「はい、師婦。と言うか毎回枯れる寸前まで搾っちゃて賢者モードになってるだけですよね、あれ」
その話題は封印しておくとっ、して!
ピラーニャ車体にKV-2砲塔。完全なトップヘビー構成なんで、形にはできたものの純正構成にもかかわらず様々な負荷てんこ盛りで動かない機体と化している。
データシミュレートで組める以上実物でも可能なはずなんだが、そこはやはり、ゲームと現実という環境の違いが出てるんだと思う。
ま、このくらいの齟齬なら問題ないだろうし。そもそも負荷という情報が出るだけデータ確認はしてるって事で安心できると思った方が建設的だし。
「……すげーなぁ。前のアルファよりまともに動かねぇ……」
で、データとして出るために検証結果も解るわけで。うん、形になるだけで完全なオブジェだというのも解ったわけだ。
「サス全滅。魔動炉も完全に出力不足。ぶっちゃけ中身はまるっきり新造するか、もしくは【インスタント・ビルド】スキル使って、原理も摂理も無視した完璧なる魔改造品にでっち上げるか、だ。勿論、スキルは使わんけどな」
インスタント・ビルドはかなり無茶な代物でも作れるけど、それに消費する素材のランダム消費が非常に怖い。【Paradise of Fauve ♂】が現実化してからの実例ではそんなに致命的な結果は出てないが、元々の仕様が何時ひょっこりと表に出るのかも解らない今、なるだけ使いたくないってのが正直な感想なんだな。
「ま、このメニュー項目、ゲームの頃より詳細化してるから魔改造も楽そうだし」
ゲーム時代は既製品の流用は流用のまま。改ざん不可能のパーツ交換な感じで終わってた。リモッドキストのレベルを上げればその既製品を元にしたオリジナルパーツを作成登録し、個人的なバリエーションを増やせるから改造の幅を結果的に増やせてはいたが、ゲーム上に表現するモデルデータからそう無限に部分的な変更をされたモデルとかは無かったんだよな。
見た目は同じ。でもデータは別物。そんな感じの、大人の事情てんこ盛りなゲーム仕様だ。
それがまあ、現実化した【PoF♂】ではかなり現実的な改造も可能となったらしい。
「砲塔部の外装を引っ剥がしてフレーム化。それに軽量化装甲を貼り直して、とかの項目があるもんな」
現物の作られた時代が時代だから十センチ超えの鋼鉄装甲とかだけど、百年も過ぎれば同じ性能で極薄装甲も可能なわけだ。
しかもプレス鍛鉄鋼板に単分子繊維フィルム、緩衝セラミックなんかの旧世界の素材に加えて、異世界化後の魔力利用な不思議装甲もあるわけで、KV-2の砲塔部はその形のまま、最大厚二センチまでの装甲に収まるようになった。重量では五分の一まで軽量化できたんで、オリジナルにあった重量絡みの動作不良は無くなったと考えていいだろう。
「ほうら、何事もやればできるのだ。最初から駄目そうだからダメだという思考は文化衰退を招くのだぞ」
「やかましい!」
結果的にメアの主張が成立しそうだが、そもそも可能不可能とか無視した要望だったのだから偉ぶられる筋合いは無い。言葉に説得力を持たせるために、何時もの三点バーストも加えて物理的にも黙らせた。
「軽くはなったが全高によるサイズ過剰からの慣性は残る。走行時の直進性は良いとして、カーブの時の接地性の不安は残るな」
なんせ狭めの道路を通れるように、わざわざ車幅が広くないから選んだ車体だし。そうなると通常の六輪駆動の機構だけじゃ対応できるかが、怪しい。
……別の駆動系を入れた方がいいか。
機械式による状況対応型の姿勢制御はどうしても状況が起きてからの反応になる。つまりバランスを崩しかけないと、戻そうという動作に繋がらないわけだ。ではバランスを崩しかねないと解る前の動作で対応する方式ならば、無茶な慣性自体を潰せる動きになる。
「要は電子制御なんだろうなあ。それ用の駆動系なんか登録してあるかな?」
現物があるのは把握している。人型魔攻重機の関節、ステッピングモーターの機構がそれそのものなのだから。
ただ車両型の、それも戦闘車両用でとなると、その機構の現物があるかはやや怪しいんだよな。
「ま、勿論実物はあるんだが、問題はそれが【PoF♂】に登録してあるか……」
無ければ自作となる。たぶん人型のパーツ流用で作れるから悩むことも無いんだが、六輪分の関節の調達とかその制御魔法陣の構築とか、非常に面倒なのは確実だ。
だから流用にしても、その現物でできたら楽なんだよな。
「と、あったあった」
半自立行動型ロボット装甲車【ミュール】。
同じ呼び名で【M274】の形式番号持ちの機体もあるが、それとは違う。
本来は歩兵に随行する荷物持ち役として開発された小型車両で、外観は鋼鉄の箱な車体にタイヤ付きの六脚という簡単な物。だがその多脚型の車軸での移動機能は不整地を登攀レベルで行動可能。加えて単なる荷物持ちと馬鹿にするなかれ、移動中は兵士を敵から守る鋼鉄の防壁代わりに。負傷兵が出たならば自立走行する担架として。箱に蓋して専用武装を搭載すれば、死を恐れないロボット兵士にもなる。
そして開発途中、その汎用的過ぎる多機能さからバリエーション化しまくり、基本形状もゴーカートなサイズから中型戦車なみのサイズまでいろいろと作られた。
で、その最大サイズならば足まわりをそっくりピラーニャに移植できんじゃね? と考えたわけだ。
「プロペラシャフトは使わんから全てオミット。駆体両側面に直接車軸を取り付けて魔法陣制御の電磁サスにすれば良い。底面ががら空きになるから装甲被せて埋めるとして、一応は対地雷形状に整形だな」
装甲車という括りには、戦車並みの装甲を使わないという区別があった。あったのだが、時代が過ぎればその認識は悪戯に兵士の生存率を下げる要因でしかなかった。なので、俺の生きた現代じゃ装甲車といっても対戦車攻撃に耐えれる防御性を持つのが普通だった。
しかしピラーニャ系のその区切りのギリギリ前の世代の機体で、『紙のような装甲』で構成された機体だったりした。特に底面はなあ、水陸両用なら船底デザイン出良かったろうに、普通に駆動系剥き出しだったりするし。そこを地雷で狙われたら駆動系やコクピットがピンポイントで破壊される弱点でしかない。
てことで、俺の説明した対地雷の内容は既に現用装甲車両では普通の機構となっていて、正に船底といった感じに装甲が当てられているんだな。だから、それは追加パーツとして普通にあるから利用できる。
「ま、魔物の攻撃は現代砲撃戦とは違うから、そこに【PoF♂】オリジナルな処置がいるんだが」
戦車が想定しているダメージは、高火力の爆発や同じ戦車からの砲弾による被害なんかだが【PoF♂】で受けるダメージは魔物からのものが主になる。
徹甲弾に近い攻撃を放つ魔物も居るには居るが、圧倒的に多いのは近接攻撃カテゴリーな打撃だ。獣型なら噛みつきや引っかき。人型なら殴る蹴る。不定形は想定不可能としても、それら全てが大概は巨大な体躯による体当たりもして来る。
いわば貫通を狙う『点』の攻撃よりも、機体全てが攻撃範囲の入る『面』の攻撃が主流なわけだ。
「ま、シミュレート結果だと粘りがある装甲になるから、ダメージで即、裂けるとかの破壊にはならないな」
ついでに言えば上側が軽くなれば横からの衝撃で倒れるとかもし難くなる。こんな形で倒れやすいとかネタ扱いにしかなんねーし。
「起き上がりとなると、やはり腕の一本でも生やせば良かろう?」
「それこそ、さっきご主人様が言われた『くれーん』でも良いような?」
「おーとぼっつ? よーじょー、みくん」
「車から人型への変形には非情に誘われる。が、今回はパスだ。【PoF♂】の基本情報だとトレーラー型しか無いからデカ過ぎて使えん。普通の車両は自分で設計せんとならんし。あとカゴメ、そのかけ声は作品が違うからな」
「こーぶらあ? みくん」
「それも違う。てか誰が教えた、この地味にヤバいネタ」
目を背けたのはカルエ。うーむ、NPC出身なのに何故このネタを知ってんだか……。【PoF♂】、業が深いなあ。
「ま、横倒し対策は別にするから良いとして、車体側の紙装甲は逆に強化せんとだし、魔動炉で小型化するエンジンルームや魔砲系武装の設置変更なんかも考えんとか。副武装は今の機体から載せ換えりゃいいかな……。あー、ダメージ軽減塗装の選定も色含めて……。各センサーの配置は……」
「あわわ、ご主人様の周囲に変な結界が展開してます!?」
「いわゆる、【ニート空間】というやつだ。主様が何か作ろうとすると自動で展開されるプレイヤースキルだな。ああなると一段落するまで我等から緩衝するのは不可能だ。なので、終わるまで放っておくぞ」
脳内設計に集中してるだけなんだが、なにやら失礼な扱いを受けていた。せっかくメアの無茶ぶりを実現してやろうというのに。
あ、サス対応してもタイヤが潰れた。むう、チューブレスでも弱いか、確か防弾仕様の形状維持タイヤとか登録してあったような……。
「さて、そろそろ飯時だし我が家の主婦があの状況だ。今日は久々に、我が腕を振るっての食事としよう」
「えっ、えっ、いえメア姉様、私が作りますよ」
あー、メアはなあ。例え料理系の生産スキルを持ってたとしても、それを尽くマイナス補正するプレイヤースキルの保有者だ。そして戦闘バカのメアである。料理スキルなんか当然持ってるわけがない。ほんの数回とはいえ、カルエはその成果の餌食になってるから速攻で阻止行動しているな。
「カルエの作る物は美味しいのだが、やや趣向が特殊なのだ。せっかくの自宅飯だし、家庭的な物が欲しい。ふむ、グラタンでも作るかな、まだカゴメは食した事が無いであろう?」
「ぐらたん? 【グラヴィ・アイズ】の舌? びみ? びみ? みくん!」
「はっはっはっ、そんな物騒な素材の料理ではないぞ」
森林アマゾネスなエルフ料理は、意外と旧人間社会での普通なレパートリーだったりする。しかし環境が原因か主婦的料理感覚の影響か、メインと言える料理のラインナップが結構偏っていたりする、らしい。
カルエに聞いただけなんで確証無しだがな。なんでも三食野草サラダは定番。それに加えて森の野獣や魔物を素材にした、バーベキュー風味の焼き物が普通らしい。
なので、試しにカルエが作った物は全てが串焼きだった。念押しで言うが、味は良かった。素材の風味を生かしたスパイスの使い方など絶品である。
ただし、飽きるがな。
ついでに言うと【グラヴィ・アイズ】とは魔物の名前な。【PoF♂】独自の名称で、別のゲームじゃ【イービルアイ】とか【バグベア】とか呼ばれる外観だ。
基本的に巨大な目玉だけな感じなので、当然ながら舌は無い。
マグロの兜煮よろしく料理すれば、そのデカい目玉からはタップリDHAが採れそうだが、正直絵面的に食う気がでない。
ちょっと気が反れた間にメア達はキッチンへと移動したようだ。
時たまカルエが悲鳴をあげてるようだが、まあメアだし。
それより今は設計をまとめるのが大事だ。
……あ、鋼材の在庫どんくらいあったかなあ?




